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第二章 59  美しきヴァンパイア

 ナコスルは僕の時同様に、凄まじい速さで移動してツボミさんの面前に現れた。ほとんど週間移動かと思うほどの感覚でだ。ヤツの存在に気が付いた瞬間には、すでに振り上げられた剣はツボミさんをなぶるかのように、鷹揚に振り下ろされていた。

 だが、僕と時とは違う。ツボミさんはそのずっしりと量感のある一撃を、陽光を鈍く放ちながら刀身で受け止めた。

 予定調和だったのか、ナコルスは不敵に笑いツボミさんの腹部に激越な蹴りを見舞った。ツボミさんは数メートル飛ばされて悶絶した。もはや人外のものとかした魔人の攻撃だ、無事ではすむまい。

 僕はすぐにシノハラさんに彼女の元へ向かってもらった。


 「きっと、今からまた無茶な事するんですよね……。」


 と言うシノハラさんに「ごめん。」としか言えなかった。シノハラさんは僕の頬にキスしてそのままツボミさんの元へと向かった。


 ナコルスの次の標的はマリウスさんだった。

 マリウスさんの戦いは酷烈だった。高速の剣戟がナコルスを襲った。さすがのナコルスもすべては避けきれず上半身に無数の裂傷を負った。血しぶきが上がる中、マリウスさんは拳銃を取り出してナコルスの胸を打ち抜いた。この世界に拳銃があったのには驚いたが、ハナマキ商会の事を考えれば入手ルートは様々あるのだろう。

 しかし、それでも魔人と化したナコルスには通じなかった。無数の裂傷も、打ち抜かれた傷もすぐに塞がり致命傷には程遠かった。ナコルスは再び冷たい笑みを浮かべ、鋭い剣先を中空で翻してから胸部を一突きにした。


 「マリウス!」


 レベルさんが叫び、駆け寄った。

 ナコルスは再び高速で移動し、背後からレベルさんの胸部を血に煙った剣で貫いた。


 その瞬間、まるでこのフィールド全体を覆っているのではないかとすら思わせる、禍つ気配が洪水のように一気に流れ込んでその場を圧倒した。

 魔人と化したナコルスでさえ、その空気に一瞬緊張したように見えた。その空気、いや、瘴気を発していたのは、ユラリと立ち上がりナコルスを視線で殺そうかと言う瞳で睨み付ける、セイラ・デコラティブの姿があった。

 セイラさんは先ほどナコルスに負わされたダメージのせいか、足元もおぼつかない程フラフラと立っているのがやっとという状態だった。それにもかかわらず、その体から発せられていたのは、明らかに「闇」のオーラだった。

 「芽」属性のセイラさんがなぜ?

 そんな疑問を感じている間もなく、セイラさんは徐に魔導書を頭上に振り上げて呪文を唱えた。その魔導書からは、骸骨のように痩せ細った男の顔に見える黒い霧が現れて、ナコスル目がけて襲い掛かっていった。

 ナコルスはその霧を剣で切り裂いたがその姿は明らかに「恐怖」を感じ、動揺を隠しきれていない。ナコルスという闇の権化のような男が「闇」に恐怖していたのだ。

 「闇」にもし「濃度」と言うものが存在するとするならば、圧倒的にその「濃度」は今現在、セイラさんから発せられているものの方がナコルスを上回っていた。

 霧に包まれたナコルスは何度か声を上げた、それは悲鳴にも似た似つかわしくない奇声だった。だが、そのまま黒い霧は晴れ、セイラさんはその場に倒れ伏した。


 「なっ、なんだ、何もねえじゃねえか。クソ魔導士が脅かしやがって!ふん、まあいい、今息の根を止めてやる。」


 ナコルスはそう言い放ちセイラさんの方へ向かった。その時、ナコルスは完全に動揺していたのだろう。頭上より降りかかる最強の剣士の存在に気が付いていなかった。

 ナガイ君の振り下ろした一撃はナコルスの頭部を砕き、その衝撃でナコルスの首は折れ、ありえない方角に曲がった。ほとんど360度回転してしまった。ナガイ君は思わず「ごめん!やり過ぎた?」なんて口にしてしまったくらいだ。


 「ああ、やり過ぎだ!この屑が!」


 ナコルスの剣はナガイ君の右肩を貫き、そのまま剣を振るい地面へと叩きつけた。

 ナコルスは両手でゴキゴキと不快な音をたてながら自分の首を元に戻し、恐怖で硬直したナガイ君を蹴り飛ばした。数十メートル飛ばされてナガイ君は意識を失った。すぐにナガイ君の元にアウネーテさんが駆け寄ってくれた。


 最悪の状況が再び。ここまで圧倒的だとは。

 

 さすがにこんなバカみたいな死んだふりを続けている場合ではない。そう思い立ち上がろうとした時、マリウスさんとレベルさんの傍らに信じられない光景を見た。


 2人の傷を治癒魔法で癒すシャロンさんの姿をだ。魔法?シャロンさんにそんな能力が?瀕死の重傷だったハズ2人は意識を取り戻し、シャロンさんを見つめていた。


 「シャロン……、ごめん、やっぱ僕は戦闘向きじゃあないね。ぜんぜん歯がたたなかったよ。」

 

 レベルさんが力なく笑った。


 「そうね、やっぱりあなたは私が守ってあげなくちゃダメね。」


 シャロンさんは満面の笑顔でレベルさんの額を撫でた。それを見ていたマリウスさんが2人をとても慈しむように眺めていたのが印象的だった。だが、その一瞬の和やかさにもナコルスは辟易したかのように、彼らの傍らに悪魔の喜色で立ちはだかった。


 「お前、レベルの女か……。治癒魔法とはな……死にぞこないを回復させたところで、再び死の恐怖を味合わせるだけだぞ。くくく。にしても、いい女だ、来い。」


 ナコルスは下卑た笑いを吐きながら、シャロンさんの腕を強引引っ張った。驚くべきことにシャロンさんは強烈な手刀をナコルスの首筋に見舞った。ナコルスの挙動が止まり、かすれたうめき声をあげのけ反った。


 「ぐはっ!なっ、女、貴様!」


 ナコルスは驚愕の表情を浮かべ彼らから距離を取った。シャロンさんが手刀を当てた部分は赤く陥没してその衝撃の度合いが伺えた。


 「シャロンは僕のsource originだ。お前のような輩が気安く触れていい存在じゃない。」


 レベルさんはフラつきながらもシャロンさんをかばい、彼女の前に出る。


 「ドゥオ種のレベルの『感染源』だと……。では、ウーヌス種のヴァンパイアなのか……、真祖だというのか……。」


 やべ、びっくり過ぎて派手に動いてしまった。にしてもシャロンさんがヴァンパイア?しかもレベルさんをヴァンパイア化させたのがシャロンさんという事か……。まじか!ってかもう何がなんだか。


 「ふははは!いい機会だ!この魔人と化した俺の力、ヴァンパイアのオリジナル種をも凌駕する事を今証明してやる。女!貴様を引き裂いて、このフィールドの王とやらの手土産にしてやるわ!」


 ナコルスの血走った赤い双眸が鈍く光った瞬間、既に魔人の手の中で、多くの血を吸いどす黒く染まった剣が彼らの頭上に振り上げられていた。シャロンさんは自分をかばうレベルさんを押しのけてナコルスの両腕を抑えた。


 「少し離れていて。」


 シャロンさんの言葉にレベルさんは反論しようとした、


 「マリウスさん、お願い。」


 そう言われたマリウスさんは、シャロンさんの傍らの地面に自らの剣を刺しこんでから、レベルさんを促しシャロンさん達から離れた。

 そこからの攻防はまさに人ならざる者達の戦いだった。その互いの跳躍力、周辺の地形を変えんばかりの破壊力。ハリウッドのヒーロー映画のような光景だった。正直CGの戦闘シーンを肉眼で見ているような感覚だ。

 シャロンさんは2人が離れるのを確認すると、抑え込んでいたナコルスの両腕を離し、マリウスさんの剣を握った。その隙を見逃さずナコルスは豪放に剣を振り落とした。シャロンさんは振り下ろされる剣の柄頭に突きを当て、剣の軌道を歪ませた。がら空きとなったナコルスの胴回りに、さらに炎系統の魔法を放出させた。ナコルスはのけ反りながらそれを避け、呼応するように電撃系の魔法をシャロンさんの放った。シャロンさんは魔法の防壁を展開して完全に防ぐと、跳躍してナコルスの頭上へ舞った。ナコルスも飛ぶ。自重に任せて落下しながら数度の剣戟を交わし、着地と共に再びそれぞれが爆裂系の魔法を放った。爆炎が頭上高くまで火柱を上げるとそこにはすでに2人の姿はなく、気が付けば少し離れた場所で再び対峙していた。


 その攻防は互角、もしくはシャロンさんが若干押し気味なのではないかと感じられた。ナコルスは信じられないと言った表情を浮かべていた。恐らく長引けば自分が不利だと直感的に感じていたのではないだろうか。そして僕はその戦闘を見てようやく核心を持って動き出せる事を知った。

 あいつは今、魔法を使用した。つまり、あいつを覆っていた耐魔法の防御はないくなっているのだ。二コラ・フランメルを辱めた時点でその確率は高かったのだが、どうしても確約が欲しかったのだ。なぜなら僕に与えられるチャンスは1回だけだろうから。

 無様に死んだふりしていたのはこの瞬間のためなのだから。

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