第二章 58 エロモード
そんな状況の中、しばらくするとクスケは迅速に仕事を果たしてくれたようだった。ライカンスロープと冒険者の戦闘はすぐには終了させることは出来ないようだったが、徐々に落ち着くように軍団の長であるガルカイクさんが対応してくれるそうだ。その情報をもたらしてくれたのはフクスケと、そしてここへ来て頂くように依頼したアウネーテさんだった。
「アウネーテさん、折り入って……、しかもかなり勝手なお願いをするのですが、どうか聞いて頂けると助かります。」
僕はアウネーテさんにそう言ってある願い事をした。シノハラさんは死人で動けない僕の額にデコピンして頬を膨らませた。アウネーテさんは「そんな事はたやすい。」とさりげなく引き受けてくれた。
後は再びフクスケに先ほどの続きの仕事をしてもらった。ツボミさん、ナガイ君、マリウスさん、レベルさんへの言付けだ。フクスケは各戦場を走り回り彼らに僕の指示を伝えてくれた。みんなそれを聞いた途端、「あっ」と何かに気が付いたような感じでバツの悪そうな表情をした。まぁ、ナガイ君だけは当然そんな余裕はなかったようだけれど。
僕の言付けの内容はこれだけだった。
「パーティーで倒す用のモンスターなので、協力して1匹づつ倒してみよう!」
何もそれぞれが武士道、騎士道よろしく一対一で戦う事はない訳だ。ただ、問題は四聖獣を魔導士のニコル・フランメルが操っているって線も捨てきれない。そうするといささか厄介だ。とりあえず、僕は彼女を動揺させる方法も考えていた。
ツボミさん、マリウスさん、レベルさんは、どう見ても余裕のないナガイ君が対応している、白虎の周りに息を合わせるように集まって来た。そして、そこにはもう一人集まる影が。それはライカンスロープのアウネーテさんだ。彼女は獣人特有の少しくぐもるような声でナガイ君の名前を呼んだ。
ナガイ君はそれが、自分が「狼男」だと呼んでしまった「狼女」のアウネーテさんだと気が付くと、自分を噛み殺しに来たのだと思ったのだそうだ。ひたすら「すみません、誤解なんです。」とよく分からない謝罪をした。アウネーテさんはそんなナガイ君に近づくとナガイ君の両手を取った。ナガイ君は恐怖に引きつった表情で今にも卒倒しそうだった。その瞬間アウネーテさんは獣人から人間の姿へと変化した。狼女なのだから当然人間の姿にもなる事が可能なのだ。
当たり前だが彼女は獣人の時に衣服などは纏っていない。だから人間の姿になっても衣服は来ていない。要するに全裸だ。一糸まとわぬすっぽんぽん。しかも、人間の姿のアウネーテさんは相当綺麗な容姿をしていた。引き締まった体は人間になっても変わらない。但し、女性特有のふくよかな胸、流線型の腰つきはしっかりと搭載している。
ナガイ君はその姿をスーパーコンピューター並みの演算能力で脳にインプットしているようだった。小刻みに動く眼球は余す所なくアウネーテさんの美しい肢体をスキャンしている。そして、僕がアウネーテさんに頼んだとどめの一言を囁いてもらう。
「ナガイのカッコいいトコ見てみたいなぁ。」
一応、小首をかしげて言って頂くようお願いしたが、アウネーテさんはさらにウインクを独自の判断で追加してくれた。そして……、
「な~っはっはっは~!お任せください!アウネーテさん!あなたの美しさにかけて、この超絶弩級天才剣士ナガイ・ヤスユキ全力を持って、あの猫、亀、鳥、トカゲを退治してご覧にいれます!」
今回もまたエロバーサーカーに頼る事になってしまったが、結局ナガイ君の使い道はそん感じしかないんだろうと納得するしかないようだ。恐ろしい事にエロバーサーカーはツボミさん、マリウスさん、レベルさんに攻撃に指示を出していた。当惑する彼らも仕方なくその指示に従い、3方向から白虎に攻撃を仕掛けた。多方向からの攻撃に白虎の注意は散漫となり、その視界からナガイ君が消えた。わざわざ、おいいところを持って行くためだけに周りを利用したのだ、その一瞬を見逃すエロ坊主ではない。確実だが不誠実な強烈な一撃が木刀「気のせい」から放たれた。その打撃は白虎の頭部を粉砕し、気高き白い虎のモンスターは絶命して地に伏せた。
その一振りにはマリウスさんもレベルさんも舌を巻いていた。当然と言ってはなんだが、ツボミさんは不機嫌だ。そんな気持ちも汲み取る素振りすらなく、エロ坊主は全裸の美女に手を振ってアピールしていた。アウネーテさんも、仕方なく手を振ってくれた。
「ちっ、冷静に考えれば冒険者のパーティー用のシミュレーター的な存在だったなコイツらは。複数で攻撃する事で『虚』を突くってのがコンセプトだった。」
マリウスさんが苦々しく言った。レベルさんが「まあまあ」とマリウスさんの肩を叩いていた。どう見てもその光景は親友みたいな感じだ。
彼ら四人は次の標的を玄武に定めたらしい。再び中央に立って止めを刺すポジションにつくナガイ君を、その脇から剣を構えたまま体でツボミさんが押し、その位置をキープした。2人は譲らずに中央で押し合っている。バカかこいつらは。思わず叫びそうになった。
2人がしょうもない小競り合いをしている間に、思った通りニコル・フランメルは四聖獣を操り始めた。召喚した本人な訳だから、そんな芸当もそりゃ、お手のものなのだろう。ツボミさん達のクラスになれば、共闘すれば決して倒すのはそれほど困難な相手ではないハズだったが、くだらない仲たがいに加えて、四聖獣たちも共闘を始めたのだ。
ニコル・フランメルという魔導士はやはり相当に優秀なのだろう、四聖獣たちを手足のように操り隙を作らせないよう、よくコントロールしていた。
ならば。
ならば、操作しているニコル・フランメル自身に隙を作りだせばいい。僕は再び気づかれないように細心の注意を払いエレガント・チェンジを試みた。案の定、ニコル・フランメルがナコルスに施していた耐魔法壁は彼女を覆ってはいなかった。それはそうだろう、それをやってしまえば、確かに魔法は彼女を襲わないが、彼女自身の魔法もまた、外部に干渉できなくなるのだから。
僕のエレガントチェンジで明らかにニコル・フランメルが揺らいだ。動揺を誘ったと言うのが正しいだろうか。彼女はお尻に触れてハッとした。それでも集中力を切らさないように四聖獣の操作に集中した。僕は再びエレガント・チェンジを行う。彼女は今度は胸のあたりを抑える。そして、僕の方を睨み付けた。当然僕は死んだふりのまま微動だにしない。僕は合図してシノハラさんが「わぁ~ん!ソメヤさん~!」と泣く。なんと下手な演技だシノハラさんと突っ込みたくなる衝動を抑えるのが大変だ。
完全に動揺し始めたクールな魔導士はそれでも職務である四聖獣を必死に操った。
相変わらずナガイ君とツボミさんの馬鹿な張り合いが、マリウスさんと、レベルさんの足を引っ張っていた。が、明らかにニコル・フランメルが動揺した瞬間を見逃すほど、ツボミさんは甘くなかった。自分の前方にせり出したナガイ君を踏み台にして上空に舞い上がり、強烈な衝撃波を玄武の頭部目がけて放った。玄武は咆哮して口を全開にした。外部と比べて明らかに強度のない口内に、ツボミさんのエアソニックの斬撃が降り注いだ。玄武は体の内部から破壊されて口から大量の血を吐き出して絶命した。
残り2匹。
さらに魔導士を動揺させる必要がある。僕が何をエレガント・チェンジしてニコル・フランメルの気を散らしたのか。それは僕の傍らに落ちているものをだった。初めの交換で彼女のパンツを、そして2度目はブラだ。彼女の足元には2枚のコインが落ちているハズだ。それに気が付かないほど彼女は動揺していたのだろう。なかなかウブい女の子じゃあないか。
さて、ここまで来たら後は仕上げだ。当然行くでしょ。そりゃ行くよ。だって、僕、男の子だもん。
僕はニコル・フランメルの服をエレガント・チェンジてやった。その瞬間そこには全裸の(もといブーツとマフラーに全裸の)魔導士が立っていた。
「なっ!なんでや!なんで、ウチこないなことになっているんや~!」
ニコル・フランメルがその場にうずくまってしまった。一瞬だが彼女の控えめな、だがしかし、きめの細かそうな白い裸体を確実に網膜に納めたのは僕と、ナガイ君だけだったろう。
「やりすぎ!」
シノハラさんが本気のグーを僕のこめかみにお見舞いした。いや、そこは人間の急所……、また死ぬかと思った。だが、その甲斐と言っては何だが、青龍はレベルさんが首を斬り落とし、朱雀はマリウスさんが真っ二つに切り裂いた。
だが、浮かれている場合ではない、セイラさんは?僕はすぐに視線を移した。その瞬間目に入ったのはセイラさんを蹴り倒すナコルスの姿だった。
「ふん、つまらん、お前のウジウジした態度を見ていると気分が悪い。お前は最後に殺してやる。そこで仲間が死んでいくところを眺めていろ。」




