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第二章 53  時限式の狂人


 「タカキ君!あれは!」


 「ああ、恐らくヴァンパイアナイトを取り込んだ冒険者なんだろう。あんなの自殺行為なのに……。」


 僕は目を凝らし利欲 (りよく)のグリーズの存在を探した。彼がこの狂人とも言える冒険者を作りあげているハズだ。あの皿を使って。

 だが、乱戦の中、彼の姿は見る事が出来なかった。

 ヴァンパイアナイトを取り込んだと思われる冒険者達は、単独で数体の獣人達を屠り、尚も強欲に血の滴りを求めるように、周囲の獣人達に襲いかかった。

 ライカンスロープ達を統べる司令官のような存在だろうか、直接戦闘に参加せずに石巌の上から戦況を見守っていた獣人が、怒声を上げて獣人達に指示を与えた。それは手ぶりからも退却の合図のように見えた。意外にも感じられたが、冒険者達の異様な戦いを目の当たりにして、また被害の状況を見ての判断だろと僕は感じた。実際、僕も今が潮時のように感じられた。機動力に秀でたライカンスロープならば、襲撃をメインに戦闘をすればいいのだから。何もここで持久戦に持ち込む必要は皆無だろう。


 ライカンスロープ達が引き気味に戦闘を変化させると、臆したと感じたのか狂人と化した冒険者達がそれを執拗に追撃した。だが、既にタイムリミットのようだった。タナカさんの元パーティーのリーダー同様、冒険者達は正気を完全に失い、ある者はたち尽くしたまま、ある者は斜面を転げ落ちながら絶命していった。彼らもまた「石の力」に器が耐えきれなかったのだ。彼らの亡骸はあの時と同様に青白い炎に包まれて塵とかした。

 それを目の当たりにした、一部の冒険者達はざわつき始めたが、それはライカンスロープの攻撃によるものだと号令が出された。そして、その内容をがなっていたのはジャンクスだった。

 

 戦闘が終了して数分。

 驚いた事に冒険者達は仲間の亡骸に目もくれずに、ヴァンパイアナイトの発掘作業を開始したのだ。それが目的であり、それにより多額の報酬を得るであろう事を考えれば当然の事かもしれなかったが、それはあまりにも異様であり義憤に耐えない光景であった。

 

 「ひどいものだな。 吐き気を催すような光景だ。彼らを冒険者などとは呼びたくもない。」


 ツボミさんが静かに怒りの表情を湛えた。


 「しばらく、デルさん達の到着を待とう。何とかしてグリーズの持つ皿を奪いたいんだ。」


 「ああ、彼らに同情はせぬが、あの皿の力であのような末路辿るのはな……。エレガントチェンジでささっと、って訳にはいかないのか?」


 「距離と、後は彼に付き従っている魔法使いのニコル・フランメル。彼女は防御魔法に長けているようだからね、結界みたいのがあってもおかしくない。そう簡単にはいきそうもないよ。」


 「まぁ、それはそうだろうな。」


 と言いつつツボミさんは振り返って剣を構えた。その身のこなしは先ほど甘えたかわいい女の子の片鱗は微塵もまく、ただただ頼もしい。僕には全く感じられないが、彼女の優れた感覚は何者かの接近を捉えていたようだった。ザザザっと樫に似た葉が音をたて、その葉影を踏みしめるように接近者の足が見えた。そして葉の隙間から除いた顔を見て僕達はひとまず安堵した。


 「なんだ、お前か。ソメヤ。」


 先ほどの狼煙の正体を確かめるべくここへ来たと言うのは、ヴァンパイアハンターンのマリウスさんだった。


 「ってか、お前、何してんだこんなトコロで。」


 僕は視線を崖下へ向けて視線で答えた。マリウスさんは凄惨な戦場痕を見て、何があったのか説明するよう僕に促した。簡潔に状況を説明し、グリーズの皿の件に対する僕の見解も告げた。マリウスさんは皿に関しては存在すら知らなかったようだが、状況から考えて僕の話した内容が妥当だろうと言った。


 「マリウスさんはどうしてここへ?」


 「俺は当然ヴァンパイアを追ってんだろ。」


 「えっ?じゃあ、レベルさんもこのフィールドにいるんですか?」


 「あいつの通り名知ってるだろう?あんな気まぐれなヤツの動向なんて知るか。お前ら含め大挙してこのフィールドに集まってんのを知ってな、恐らく『彼』も動くだろうと思ったんだ。ああ、『彼』ってのは……。」


 「ヴラド・ドラグール、ヴァンパイアの『王』ですか?」


 マリウスさんは意外そうな顔をしてから「ああ、そうだ。」とだけ言った。


 「その……、ヴラド・ドラグールを倒すんですか?」


 マリウスさんはさらに意外という表情をしてから、「くくっ」と静かに笑った。


 「ヴラド・ドラグールを倒すなんてのは、この世界で思いつく奴はそうはいないだろうよ。こんな辺ぴな所に住んじゃあいるが、あの男は伝説のヴァンパイアだ。俺なんかがどうこう出来る存在じゃない。俺はただこのフィールドを荒らした者達を、あの男がどうするつもりなのか興味があっただけだ。」


 マリウスさんの話を聞いてますます嫌な予感がして来た。そんな強大な存在が動くかもしれない。事は単純に僕達とブラッシェッド・バンブーの争いって事じゃ終われない。僕らもこのフィールドを荒らした者という認定がされたら……。セイラさん、どうもサインどころじゃないかもだよ、とミニスカ魔導士の事を思った。


 「ソ、ソメヤさん……。」


 そこへコソコソと現れたのはナガイ君だった。どうやら後続のみんなも僕達に追いつてくれたらしい。ナガイ君は先行して僕を呼びに来たのだった。戦場特有の匂いに彼はすでに随分及び腰だった。


 「とりあえず、もう少し広い場所で合流しようか。マリウスさんもご一緒にどうですか?」


 「いや、俺はここで待つ。いつ何が起こるか分からんしな。」


 僕は鋭い眼光で岩の下を見つめる、ヴァンパイアハンターの横顔に頷いて、一旦その場を離れた。


 

  僕達の話を聞いて、皆一様に言葉を詰まらせた。デルさんですらその凄惨な内容に眉をしかめていた。ライカンスロープに、石の力を得た「時限式の狂人」の存在。あまりにも想像を超える状況に当然の反応だったかもしれない。

 僕はデルさんと相談をしてゲルフ・バンブーの人達にはここを離れてもらう事にした。一つに命の保証が出来ない状況である事、また大人数での行動は、目立ちやすく小回りが利かない、それだけで危険である事が理由だ。さすがに仁義を重んじる彼らは反発したが、デルさんの説得でそれが結果的にデルさんのためでもあると諭され、後方待機にしたがってくれた。

 彼らを見送ってから、僕達は僕達のパーティープラス、デルさん、タナカさんという布陣で、再び先ほどマリウスさんと話していた崖の上へと向かった。

 

 「ソメヤさん、それでこれからの動きはどうするつもりですか?」


 デルさんは先頭を歩いていた僕に並列して言った。


 「まずはグリースの『皿』を奪う事を最優先にしたいと思います。あれがあの奇妙な狂人を生み出しているのはほぼ間違いないと思いますから。」


 「確かに。あの皿についてはギンジ様は何もおっしゃりませんでしたが、彼らの手から奪い、再び封印する事を望んでいるでしょうから。」


 デルさんと僕の会話を聞いて、シノハラさんのバッグに収まっていたフクスケが、飛び出して僕の肩に乗りながら、


 「まずは、現状、主要な敵の確認をしておきましょうか。それによって皿の奪い方を決めましょう。」


 「ああ、そうだね。まずは、ジャンクス。そしてグリースと魔法使いのニコル・フランメル。基本的にはこの3人ってトコかな?」


 僕の言葉にすっごく嫌な表情で呟いたのはツボミさんだった。


 「タカキ君、不本意ながらあいつはここにいるだろうか?」


 この表情で誰の事かはすぐに分かる。確かに、僕も気になっていた。ナルコス・ヴァーデンバーグの存在に。正直、僕的にもナルコスは最も苦手で、警戒すべき相手と感じていたのだから、それについては考慮していた。恐らくこのヴァンパイアナイトの発掘隊の黒幕は、ナルコスであろうとも考えていたので、当然冒険者の隊の中にいるのだろう。しかし、ここまで随分とナリを潜めている事に、僕はなんとも言えない不安を抱えていた。単に相性が最悪だからと言えってしまえばそれまでだが。

 

 「出来ればいて欲しくないんだけれどね。まぁ……、いるよね。そう考えれば主要な敵は4人ってトコロだね。戦力的にはなんとかなりそうだけれど。」


 「でも、冒険者がまだたくさんいるじゃないですか?あの人達はどうするんです?」


 ナガイ君が眉尻を下げて言った。


 「彼らの相手は他力本願だけれど、ライカンスロープに任せる。彼らはおそらく、再び襲撃を仕掛けてくる。つまり、その時がチャンスという訳だよ。」

 

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