第二章 49 最高に最低な奴
僕はデルさん達の部隊の治療をするために、スキップ魔導士をしぶしぶ留まらせてこの地で一息いれる事にした。
デルさんの話ではグリーズ、ジャンクス達はかなりの数の人間をこのフィールドに送り込んでいるのだと言う。その結果として今のような戦闘を数回繰り返しながら、なんとかここまで進んできたそうだ。
近づいているとは思っていたとはいえ、これほど早く遭遇出来たのは、デルさん達がそのような戦闘を行いつつ進まざるを得なかったからであろう。
しかも、彼らの中にはジャンクス派、ブラッシェッド・バンブーだけではなく、普段管理フィールドで活動しているような冒険者達の姿もあったのだと言う。彼らは金で雇われてこのフィールドでヴァンパイアナイトを発掘しているのだろうが、現前とデルさん達を「敵」と定めて武力を行使して来たのだそうだ。
「一般的な冒険者も敵………という訳だな。」
ツボミさんが苦々しく言った。彼女には彼女なりの冒険者としての「矜持」というものがある。今回のように金で雇われ、犯罪集団に加担するなど,彼女からしたらもっとも許せない行為の一つなのかもしれない。とはいえ、僕も相当に姑息な事を散々やって来たのだが、それほど彼女に愛想を尽かされないのは、単に僕が冒険者として認められていないからか。などと自虐的に思ってしまった。
「や、やぁ、ソメヤ君…はは、すごいね、セイラちゃんの魔法って。」
タナカさんは明らかにバツが悪そうに僕に話しかけてきた。僕に黙ってデルさん達に同行したのを後ろめたく思っての事だろう。
「せめて声をかけてくれればいいのに、水臭いじゃないですかタナカさん。」
「いや、だって、言ったら止められるんじゃないかと思ってさ……。」
「そりゃ、まぁ、止めたでしょうけどね。」
とは言ったものの、僕はきっと一緒に行こうと声をかけたかもしれない。タナカさんがここまで来たのはジャンクスに対する義憤からだろう。孤児院の少年少女、そしてガイガーさんの顔が浮かぶ。僕がタナカさんでも同じ事をしたのは確かだ。それを知っていて止める事はおそらく出来なかっただろう。
「じゃあ、やっぱこうして正解だったよ。ははは。」
タナカさんはお道化て言った。まったくこの人は、初めに会った頃にはない正義感みたいなものを最近は随所に見せる。これも、ある種の成長と呼んでいいのだろうか。
「まぁ、来てしまったものは仕方がないですから、ここからは無茶せず僕の言う事聞いてくださいよ。」
「まぁ、確かに始まりの街の英雄の言葉だからね。真摯に受け止めますっ!」
どこまで本気なんだか。ともあれ僕達パーティーは無事にデルさん、タナカさん達との合流を果たしたのだった。
それから3日後。
デルさん達が言うようにフィールド上には、ブラッシェッド・バンブーに雇われた冒険者達が相当数いるようで、散発的ではあったが何度か彼らとの小競り合いがあった。これらのほとんどをセイラさんの萌魔法により撃退したのだが、一部女性が多数を占める部隊もありセイラさんの萌魔法が無効化されるという事態があった。
そこで大活躍したのはナガイ君だった。彼はその女性達を躊躇なくボコボコにしたのだった。正直、女戦士なんて呼ばれる彼女達は厳つく、言葉を選ばず言えば「ブサイク」という事になる。普通どんなに「ブサイク」でも女性相手に木刀とはいえ剣を振るうのは憚れるものだろう。事実、デルさんを始めゲルフ・バンブーの人々は実に戦いにくそうにしていた。だが、ナガイ君は一切の迷いがなく女性達をフルボッコだった。
僕はこの時の彼に新たな可能性を見出していた。つまり彼はこの時「色気」は発動していない。当然彼のエロバーサク状態はキレイな女性の力を借りなくてはならない。この時「気のせい」に「気」を供給したのは彼の「ブサイク」に対する「嫌気」ではないかと僕は仮説を立てている。事実彼が「ブサイク」な女性をボコる時の表情はムスっとして傍から見ても機嫌が悪そうだった。
ただ、敵を撃退してくれた彼の功績は認めるものの、少なくとも女性陣の彼の印象はさらに地に落ちたのは言うまでもない。だが、僕はナガイ君の気持ちは十分に分かると心の中で同情した。まぁ、そう思ったとしても普通しないよね、という補足も忘れずにつぶやくのだが。
なんにせよ、ナガイ君、君は最高に最低な奴だ。
そんなナガイ君の最低な行為があってから数時間後、再び僕達は戦闘に巻き込まれる事となった。やはり、形はどうであれ、このフィールではこのように散発的な戦闘は避けられないようだった。
今度、僕らの前に立ちはだかったのは「ゾウチョーエンジニアリング」所属の冒険者達のようだった。なぜそれがすぐに分かったのか。それは、その十数人の男達を率いていたのが、以前タナカさんの所属していたパーティーのリーダーその人だったからだ。タナカさんはその姿を見てうんざりした様な表情を浮かべていた。
「タナカ!ソメヤ!久しぶりだな!お前らをギタギタにするために、はるばるこんな所まで来てやったぜ!」
リーダーは得意満面に叫んだ。僕はいつものようにセイラさんを目で促して、敬礼ポーズをとって処理をお願いした。しかし、セイラさんは気が乗らないようだった。彼女は徐に上着の袖をまくり、か細く白い腕を僕に見せた。何の行為か分からなかったが、よく見ると彼女のその腕の肌には無数の鳥肌が立っていた。
「あの始まりの街で戦った忌避のアンジェの部下の、変態オカマ兄弟と同じ属性のようです。あの先頭の方はゲイなのです。私の萌魔法は効かないのです。」
あのリーダーの男がゲイ?あんなに厳つい、ゴリゴリの男くさい男が?と、思わず絶句していると。
「あっ!そうか!そういう事か…。」
タナカさんが何かしら得心したようにつぶやいた。タナカさんは僕の促しの視線に気が付き、言葉を続けた。
「彼のパーティーに入った直後はリーダー、すっげえ俺に優しかったんだよ。確かにボディータッチが多くて、随分スキンシップが過剰な暑苦しい人だと思ったわ。何度か部屋に遊びに来るように誘われたんだけど、正直ちょいウザかったん何気に断り続けてたら、そのうち俺に厳しくなり始めたような……。今考えるとあいつ、俺の事狙ってたんじゃ………。おえっ~。」
タナカさんは分かりやすくトンデモなく気持ち悪そうな表情をした。コチラのそんなやり取りを眺めていた、リーダー側のパーティーはザワザワとし始めた。
「えっ…ゲイ?」「マジ……、タナカ狙ってたの?」
小声でザワつくメンバーをリーダーが恐ろしい形相で睨み付けた。
「てめら、さわぐんじゃねぇ。掘るぞ……。」
心底恐ろしい発言だった。メンバー達は思わずお尻を抑えながら沈黙した。なぜか隣にいたナガイ君もお尻を抑えていた。
「タナカ……、そうだ、俺はお前が欲しくて欲しくて溜まらなかった。もっと早くに腕ずくで奪っておくんだった。だから、今日この場で今からお前をギタギタにして、心行くまで凌辱してやる。」
リーダーは狂気に満ちた表情で舌なめずりをしてタナカさんを見据えた。タナカさんは悪寒で蒼白となり再びえづいた。
「ああいう力任せの輩は御しやすい。私が相手をしよう。」
颯爽とマントを翻して剣を抜き放ったのはツボミさんだった。すでに街で一度リーダーと剣を交えている(一方的過ぎたが)だけに、再度埋める事の出来ない圧倒的な力量を示そうとしているのだろう。だが、僕はどこかで胸騒ぎがしていた。あのリーダーがいかに筋肉でモノを考えるタイプだとしても、全くの無策で僕やタナカさんをギタギタにするなどという口上を垂れるだろうか?
戦場での武将同士の一騎打ちよろしく、ツボミさんとリーダーはパーティーから離れ両集団の中央に進んだ。




