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第二章 48  魔力充実!

 翌日、僕はいつになくハイテンションだった。正直昨日の「みずいろ庵」での出来事は、現実だったのだろうかと疑うほどに、あまりにも非現実的な事だった。それにしても、その記憶はキャラクターにないような笑顔をしてしまうほど、僕の心を幸甚とさせるものだった。


 「珍しいですね、ソメヤさんが朝からテンションが高いだなんて。」


 的を射た発言は案の定フクスケだった。このクフスケの言葉で、浮かれた自分に気がつき自重する事を心掛けた。確かに冒険初日に浮かれていたら命に係わるかもしれないしな。なんて思いながら咳ばらいをして、フクスケにそんな事ないだろうと言うと、恐ろしく勘の鋭いシノハラさんが上目づかいでじっと僕を見つめていた。その上目遣いはいつものかわいらしいタイプのものではなく、明らかに何かいかがわしいモノを見つめる視線だった。本当に恐ろしいのはこういうタイプなんだろうな、なんて改めて襟を正した。


 「いやいや、いい事ではないか、冒険初日、誰だってウキウキワクワクするものだ!なぁ、タカキくん!」


 などと、頓珍漢な事を言ってツボミさんは僕の肩をバンと叩いた。とりあえずそれに乗っかって柄にもないテンションの高さを偽装したのだった。そんなくだらないやり取りの中、随分おめかしをしたセイラさんが現れた。もともと造詣がかわいいのだ、きっちりとお化粧なんかするとそれはもう、こちらが照れるほどかわいい姿に変身するのだ。


 「ソメヤさん……、なんでセイラさんはミニスカートなんてはいているんですか?」


 と、ナガイ君が素朴な質問をした。僕はあれは「闇ガール」というファッションで、この冒険中は彼女はあのスタイルで過ごすハズだと告げた。くれぐれもエロい目で見ないようにナガイ君に釘を刺したが、いつものセイラさんの変態性を知っているだけに、さすがのエロ坊主もそれはないと全否定した。彼の表情を見る限りそれは嘘偽りのない、心からの完全否定のようだった。それでは、少しドキっとしている僕の立場がないじゃあないかと思うのだが……。

 朝からドギマギと前途多難な暗示だったが、何はともあれ、僕達ツボミパーティーは、それぞれの思いを抱きながらいよいよ冒険に出かけるのだった。




 ヴァンパイアフィールドは今日も砂塵が舞い、太陽の輪郭をぼんやりと薄暗い天空に滲ませていた。レベルさんの話では、物語にあるように太陽は決してヴァンパイアの苦手アイテムではないそうだが、この陰鬱とした頼りない日光はいかにもヴァンパイアの「住処」としてふさわしいと感じさせた。

 僕達は先日の山岳ルートではなく、平地を進み、まずはデルさん達との合流を目指していた。荒涼とした原野は行けども行けども同じような風景が続き、その道程は決して軽易なものではなかった。


 「これは、我々も走竜などの移動手段に頼るべきだったかもしれないな……。」


 口元をマントで塞ぎながらツボミさんがボソッとつぶやいた。正直、それは誰よりも「ものぐさ」な僕も考えないでもなかったのだが、あれは少々移動に際して目立ちすぎるのではないかと懸念したのだった。走竜での移動は音と砂煙の二つの問題があった。おそらく周辺に住まうワーウルフ達はその音や砂煙に反応して冒険者の存在を知るのだと考えていた。事実、ここへ来るまでに何頭かの走竜の死骸を発見した。すでに白骨化したものから、まだ殺されて間もない感じのものまで、その数8頭ほど。

 その比較的新しい死骸には爪痕や、見るからに巨大な顎で噛み砕かれたような傷跡が生々しく残っていた。明らかにワーウルフの襲撃を受けた冒険者の走竜だと思われた。

 冒険者達の死体などを見かけなかったのは幸いであったが、先行しているデルさんや、タナカさんは大丈夫であろうかと心配になる。一応僕は彼らにもその危険性については進言していたのだが、いずれにしても彼らは食料品なのどの物資の輸送に関しては荷を引くための走竜を使わない訳にはいかないだろう。また、彼らは僕達よりも大所帯で移動しているハズなのだから、移動速度はもしかしたらこちらのほうが上かもしれない。そう考えると僕の予想ではかなり彼らの近くにまで来ていると考えていた。

 それからもしばらく進んだ頃、みんなの表情に疲労が見え始めたのを鑑みて、僕はしばらく休みを取ろうと考えた。

 

 「とりあえず、この辺りで休憩しようか。」


 だが、そんな事を言った瞬間、ツボミさんの表情が険しくなり、ナガイ君の表情が情けないほど怯えた表情になった。当然フクスケも何かしら感づいたようで、小さな鼻をヒクヒクとさせていた。


 「え~っと……、で、何?」


 僕はフクスケに尋ねる。


 「ワーウルフなどの臭いは感じません。恐らく人間同士が争っているようです。ここからそう遠くはありません。この臭いは……、ええ、たぶんその中にタナカさんがいるようです。」


 フクスケの言葉にツボミさんが僕を見て頷いた。恐らくデルさん、タナカさん達がジャンクス達とやりあっているのだろう。心配していたワーウルフとの交戦ではないのは幸いだが、いずれにしろ合流を急がなくてはならなくなった。誰からともなく僕らはフクスケが指示する方向へと走り出した。

 

 フクスケが言う通り、ほんの数百メートル先で数十人の男達が激しい戦闘を繰り広げていた。やはりその中にデルさんやタナカさんの姿を見つけた。意外な事にパーティーの中で誰より先頭に立ったのがセイラさんだった。セイラさんは萌魔法の詠唱を唱え始めた。僕はこの乱戦ではやはり敵味方の区別がつかない事を懸念してセイラさんを止めた。


 「大丈夫なのです。今日の私は魔力充実!ギンギンのビンビンですから~!」


 そんなかわいい顔で、そんなオノマトペ使わないで欲しい。赤面するじゃあないか。そんな僕を尻目に彼女は魔法をかけた対象者を使役する萌魔法を完成させた。


 「我が盾、我が剣となりて闇と共に討ち晴らすべし。エモスっ!」


 なんとセイラさんはその場にいたすべての人間を同時に使役し、戦闘を完全に止めてしまった。それは凄まじい魔力だった。しかもセイラさんの号令で彼らはキレイに整列を始めた。セイラさんの指示通りに所属を口にしながら完全に敵味方に整列したのだ。デルさんやタナカさんもキレイに並んでいる。さらに前に習えをさせられている。2人には申し訳ないが、それはなかなか滑稽な光景だった。それだけに「萌魔法エモス」、改めて恐ろしい魔法だ。

 余談ではあるが、2つの組織の間にたった一人並んでいたのはナガイ君だ。一人で前に習えの先頭のポーズをしている。なんでこいつにもかかっているのかは疑問だが。彼と前に習えポーズの親和性の高さに僕は感心すらした。


 「さて、まずはブラッシェッド・バンブー所属の人、あなた達は街までジョギングで帰るのです。休憩は5回まで。おトイレか水分補給の時だけですよ。ちゃんと街まで帰らないとお仕置きなのです。はい、では足踏み初め!」


 ブラッシェッド・バンブーの人達は萌魔法の影響で、一様にセイラさんを憧憬の眼差しで見ている。今日は彼女はミススカートなのでその眼差しはさらに如何わしく見えた。まぁ、揺れるミニスカートの裾を気にしない男がこの世界にいるのなら、僕はその人とは友達にはなれないだろう。


 「前進はじめ!ふり返らずに進むのです!」


 セイラさんの命令に萌奴隷たちは一斉にジョギングでこの場所を後にした。僕はなぜか前進しようよするナガイ君の襟首を引っ張って彼を留めた。セイラさんはブラッシェッド・バンブー達がその場を離れるのを確認すると、それ以外の人間の萌魔法を解いた。すべての男達がセイラさんの萌魔法に恐怖した。これだけの人間を一斉に操る強大な魔力を使ったはずの、当のセイラさんはまだまだ気力十分で、


 「さぁ!急ぐのです!一刻も早くヴァンパイア様の下へ!」


 などと言いながらスキップで意気揚々と前進を始めた。

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