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第一章 10  気弱な剣士

 「今日も間違いなくツイていないのです。こんなリア充な光景を見せつけられるとか、私はリア充の神を呪います。」


 微妙な雰囲気の中、一番相手にしたくないヤツに絡まれてしまった。このタイミングでリア充とか言うなよ。寄宿舎につくと僕はシノハラさんを部屋へと案内した。まさに部屋に入ろうとする瞬間、このネガティブな魔導士に見つかったという訳だ。ここは、定型通りの行動を取るのが吉だろう。


 「あっ、そうだ、紹介をしておくよ、今日から越してきた、修道士のシノハラ・リサさん。」


 「あっ、どうも今日からお世話になります、シノハラ・リサと申します。よろしくお願いします。」


 魔導士は会釈をして返した。僕は紹介を続ける。


 「えっと、それからこちらは魔導士の……。あれ?君は誰だ?」


 そう言えばこの子の名前も知らなかった。


 「……。猛烈にツイていない日なのです。隣人が私の名前を知らなかったという事実を、初めて会う人の前で露呈されたのです。私は名前の神を呪います。」


 「いや、ごめん、でもそう言えば自己紹介もしてなかったじゃん。君だって僕の名前知らないはずだろ?」


 「私は私の名前を知らない隣人の名前を知っている事を、初めて会う人の前で宣言しなければならない屈辱を味わったのです。私は『ソメヤ・タカキ』を呪います!」


 バタン!

 扉は強く閉ざされ、怒れる魔導士は部屋へと消えて行った。


 「荷物ありがとうございました。」


 バタン!

 もうひとつの扉も強く閉ざされた。機嫌の悪い修道士も部屋へと消えて行った。


 「あっ、結局名前分からず終いかよ……。」


 ネガティブな魔導士はともかく、シノハラさんが怒る理由がいまいち掴めなかったが、僕はまたとりあえずバイトに出かけた。そう言えばあの魔導士はなんで僕の名前を知っていたんだろう。


 「物憂げな猫亭」は今日も常連さんでにぎわっていた。今日も忙しく過ごした僕だが、閉店後皿洗いをしながら、帰ったらシノハラさんに謝っておくかなんて考えていた。いずれにしても一緒にフィールドに出るのだから、早めに仲直りはした方がいいだろう。ただ、まぁ、何を謝るのかよく分からないのだが。

 そんな時、店の扉が激しく開かれ、そして再び閉じられた。そこには見るからに脆弱そうな剣士が立っていた。おそらく僕と同じくらいの年だろうか。ガリガリの身体に坊主頭で色白。見るからに弱そうだ。


 「おっと、悪いな、今日はもう閉店なんだよ。」


 床掃除をしていたシモンズが言う。


 「あの……、そうじゃなくて……。すみません。」


 消え入るような声で剣士は言った。シモンズが理解できず改めて閉店だと伝えると、剣士は震えながら、


 「あの…、食事がしたい訳ではなくて……、実は…人に追われていまして……、少し隠れさせて欲しいんです……。」


 正直、僕もシモンズも何やら厄介な事を持ち込まれたと感じ、うんざりしてしまったのだが、目の前でガタガタと震える虚弱な剣士を見て、放っても置けないと諦めた。


 「とりあえず……君は誰?そんで誰に追われてるんだい?」


 シモンズは暖かい紅茶をすすめながら、剣士を落ち着かせるようにやさしく尋ねた。


 「ぼ、僕はナガイ・ヤスユキと言います。2か月前にこの世界に召喚された者です。職業は剣士です。ぼ、僕めちゃくちゃビビりなので、フェイールドで全然役に立てなくて、初めにいたパーティーから解雇されたんですが、それがすべての始まりで……。」


 ナガイ・ヤスユキと名乗る剣士は目に涙をためながら語り始めた。彼は最初にいたパーティーを解雇され、フィールドに出れないまま初期費用も乏しくなっていったという。それ故に早く新たなパーティーに入らなければと焦っていたそうだ。彼はその奥手な性格からなかなか新たな仲間を見つけることが出来ずにいたようだが、1週間ほど前に街で魔導士のジュリアと名乗る女性が声をかけてきて、ナガイ・ヤスユキは新たなパーティーへ加入したという。


 「魔導士のジュリア……。なんかどこかで似たような名前を聞いたような……。」


 僕は軽いノリの勇者3人を思いうかべていた。

 そのパーティーではナガイ・ヤスユキに対して装備をもっと整えるべきだと進めてきたという。ナガイ・ヤスユキは現状そんな資金もないのでおいおい揃えていきたいと言ったそうだ。そうすると新パーティーのメンバーは融資するのですぐに買いに行こうと誘ったらしい。ナガイ・ヤスユキはのらりくらりとなんとかその誘いを断っていたが、ついにメンバーのリーダーで勇者の男が怒り出し、強弁に金を借りて装備を買えと迫ってきたという。ナガイ・ヤスユキはメンバーを止めさせて欲しいと伝えたが、止めるのに100万ゴールドを支払えと言ってきたらしい。彼は恐ろしくなり隙を見てパーティーから離れ、そのまま現在の逃亡に至っていると言う。


 「そう言えばミシマ・タクマも新しい装備を買ったって自慢してましたよね。」


 「ああ、こりゃ出所は同じかもしれないなぁ。」


 僕とシモンズの会話を聞きナガイ・ヤスユキはさらに不安そうな表情を浮かべた。


 「あ、あの…出所と言うのは……。」


 「君の関わってしまったパーティーは、初心者を騙して食い物にしている犯罪ギルドで、ダスク・バンブーっていう組織の一員だと思われるって話だよ。」


 「はっ、犯罪ギルドっ!」


 気の弱いナガイ・ヤスユキは僕の言葉に、今にも卒倒しそうなほど真っ白な顔色をしていた。お人よしのシモンズはとりあえずしばらく「物憂げな猫亭」でかくまってやると、人目もはばからずに涙する剣士を慰めた。いずれにしても、このままという訳にいかず、僕とシモンズは改めて対策を練る事を決め、その日は寄宿舎へと戻って行った。


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