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食べる

「...カツ丼?なんだそれは?」

 青年はバルトに聞く

「豚肉を揚げて、卵でとじる。それをご飯にのせる丼ものらしい。ん?あと、豚肉を揚げたものにソースをかけるものもあるらしい」

 バルトは青年はレシピを簡単に伝える。

「?揚げるってなんだ?しかも豚肉なんて美味しくないぞ」

 青年は眉をひそめる。

 青年の反応は正しい。この世界の豚は硬くて食べられたものではない。食べる機会があるとすれば、飢饉の時の農村ぐらいだ。

「揚げるっていうのはあとで見せてやる。あとお前が食べている豚肉とはちょっと違うんだよなー」

 バルトはそう言って牧場で立ち止まる。

「?料理をご馳走してくれるのではなかったのか?何で牧場なんかに」

「卵と豚肉を買うためだ」

 青年は首をかしげる。卵は市場で売っているが牧場で買うこともあるからわかる。しかし豚は森で育つものであり、食べるとなると森で狩りをするというのが、この世界の常識だった。

「おぉ!!バルト!!久しぶりだな。今日はどのような用件で?うん?誰だそいつ?」

 牧場に建つ大きな牧草庫からバルトとは筋肉の付きかたはちがうが、いずれにせよ屈強な男が現れた。

「豚肉と卵を買いたくてな。こいつは今回の依頼で共闘した仲間だ」

 そう言ってバルトは笑った。

「おぉ、豚肉か。部位は?」

「ロース100グラムを五枚、卵8つ頼む」

「わかった...そう言えばこの豚肉も貴族の間で流行るようになったぜ。ゼクという名前でだがな。」

 そう言って牧場の男はニヤリと笑った。するとバルトもニヤリと笑う。

「まぁ、お前が裕福になるのはいいことだ。それに部位買いもできるようになるしな。」

「ほんっとうに、最初お前に依頼されたときは、どうしたもんかと迷ったけど、乗ってよかったぜ。」

 そう言って、男は倉庫に入り、ロース肉と卵を取り出した。

「ほらよ。豚肉ロース5枚と卵8つだ。銀貨5枚だ」

「高っ!!」

 青年は驚きのあまり声を上げる。

「なーに、貴族相手には金貨3枚で売ってるぜ」

 男は悪そうな笑みを浮かべる。その悪そうな笑みをみて、青年は少しだけ引きずった笑みを浮かべる。

「まぁ、貴族って言う生き物は旨いものには金をかけるのさ」

 そう言って男は銀貨五枚を男に渡す。そして腰かけていた椅子から立ち上がった。

「それじゃ、また来るよ」

「おぉ、また頼むぜ」

 二人は握手を交わす。バルトは笑みを浮かべていた。


「ここが俺の家だ」

「おぉ...流石にデカいな」

 青年はバルトの家の豪華さに驚きの表情が隠せない。バルトが家のなかに入っていくのを青年はついていく。家の奥にまで進んでいくと、見たこともない道具が並んでいた。

「なんだ?この道具は」

「料理道具だ。職人に全部作られせた」

「てことは、オーダーメイドかよ」

 そう青年がいうと、バルトはニヤリと笑ってうなずいた。ここにあるものほとんどがオーダーメイドで、どれくらいこの道具らに金をかけているのか想像もできなかった

「よし、手を洗って、着替えろ。そして、料理の手伝いしろ」

「はいはい、分かったよ」

 そう言ってバルトと青年は手を洗って、血の匂いに顔をしかめながら鎧を脱ぐ。濡らしたタオルで体全体を拭いてから私服に着替える。

「よし、じゃあカツ丼作っていきますか」

「俺は何をすればいい?」

「そうだなー、豚肉の筋切りをしてくれるか?」

「あー肉を柔らかくするためのやつだな、了解」

「そうそう。じゃあこれが包丁だ」

「うおっ!!良いもの使ってんな!!」

 青年は興奮した声をあげる。

「本当にお前は刃のつくもの大好きだな」

 バルトは米を研ぎながら、苦笑する。

「いやいや、好きなのは、いい仕事をしている刃物だけだよ...っとやるか」

 青年も肉の筋切りをし始める。

 バルトも研いだ米と水を鉄釜にいれて、火にかける。

「よし、米はこれでよし。次は...」

 バルトは3つの皿を用意して、それぞれ卵、小麦粉、パン粉入れていく。

「おーい筋切り終わったぞ、って米か。珍しいもの持ってるな。次は?」

「お前米、知っているのか?」

「そりゃー俺の家では主食だったし、それより次なにする?」

「おぉそうだな、肉の両面に小麦粉を薄くつけて、溶き卵の上に置いてくれ」

 バルトはレシピを見ながら指示する。

「小麦粉をそんな使い方をするとは...わかった」

 青年は肉の両面に小麦粉をつけて、はたいて余分な小麦粉を落とす。そして隣の溶き卵が入っている皿に乗せる。それをバルトは肉を溶き卵に潜らせ、パン粉をつける。

「なんだ?それは?」

 青年はパン粉を見てバルトに質問した。

「あぁ、これはパン粉って言って、パンをカリカリになるまで焼いて、粉々にしたものだ」

「へぇ...案外その粉を作るのもめんどくさいんだなっと終わり!!」

「こっちもパン粉までつけ終わったぞ。じゃあ揚げていくか」

 そう言って、バルトは棚から油を取りだし、大きめのフライパンに油を注ぐ

「はっ!?油をそんなにつかうのか!?」

「うーん、まぁ見てみればわかるさ。俺も前テンプラって言う揚げ物料理を作ったことがあるだけなんだけどな」

 そう言ってバルトは不敵な笑みを浮かべた。


 バルトは油の温度を確かめ頷いた。

「...うん。いけるかな。よし揚げていくぞ」

 豚肉を油の海に放り込む。油の海からパチパチと音が鳴る。

「うおぉ!!!こわっ!!」

 その音に驚いたのか青年は離れていく。それを見たバルトは笑う。

「大丈夫だよ。別に焼き殺されねぇーよ」

 そう言ってバルトは油の温度を再び確かめ二枚目の豚肉を放り込む。二人は油の中の豚肉を見つめて黙る。油のパチパチという音だけが、キッチンの部屋に響き渡る。

「おぉ...」

 青年は声を漏らす。パン粉で白だった豚肉がきつね色になった。バルトも少し驚いた顔をしながらもニヤニヤ笑っていた。

「よし、もういいだろう」

 そうバルトが言うときつね色になった、カツを柔らかいペーパーに乗せる。

「なぁなぁもう我慢できないんだが...」

 青年はカツを見つめてそう言った。

「まぁまぁ我慢だ、ここからは早く終わると思うぜ」

 そう言ってバルトは見たこともない野菜を取りだし、皮を剥いてスライスしていく。

「なんだこれ!!目が!!目が!!」

 青年は涙目になり、バルトに問いかける。

「うん?これか、タマネギっていうらしい。」

 バルトはそういって笑いながら切っていく。タマネギ、水 、ショウユ、酒、砂糖が入った鍋を火にかけ、煮つめる。しばらく煮詰めていた出汁をバルトは舐める。

「うん、旨い」

 バルトは満足そうに頷いて、トンカツを出汁のなかにいれて、溶いた卵でとじる。

「よし!!」

 そう言ってバルトは大きめの茶碗にご飯を盛って卵でとじたトンカツをのせる。

「つぎ、自分の分っと...」

 バルトは軽く鍋をあらって拭いた後に自分の分のカツ丼も作り始めた




「では、食べるとするか」

「おぉ!!旨そうだ!!」

 そういって青年はまずは肉だと、肉にかぶりつく。その瞬間、青年の目を真ん丸にする。こんなに旨い肉を食べたのは彼は初体験だった。そして疑問に思う。

「俺が食べているのは、本当にあの豚肉か?」

「おお。そうだぜ。でもその豚肉は特別だ。なんせアイツが十年かけたからな」

「そうなのか」

 青年は改めて肉を口のなかに放り込む。確かに調理法は斬新だった。しかし、それだけではこれだけの旨味を出せないと感じた。そこには、肉を作り出したあの牧場の男、そしてオーダーメイドで調理器具を作った職人、その他の人たちの協力無しではこの料理を作ることは出来なかっただろう

「旨いものを作るのにも時間がかかる...か」

「うん?」

「いや、なんでもない。それより、ゴブリンの群れが持っていた紙は何だったんだ?見たところ、このカツ丼のレシピだったが」

「あーこれか」

 そう言ってバルトは紙を取り出した。

「これは勇者が残した食に関するレポートだ。今回はレシピだったが、他にも様々なものがある。」

 そう言ってバルトは机から種子を取り出した。

「これが今回使ったタマネギの種だ。これは王オークを倒した後に手にいれた。豚肉があんなに美味しくなったのも紙でヒンシュカイリョウのやり方という紙を見つけたからだ」

「なるほど...」

「よっぽどその勇者様は食い意地が張っていたのだろうな」

 バルトはそう言って、外を見て、考えた。

(こんなに美味しい料理を食べられた世界からこの世界に連れてかれた勇者はどんなに絶望しただろうか。)

 思考に沈んでいるバルトを横目に青年は残っていたカツ丼食べきる。青年は少しだけ物悲しげな表情を覗かせる

 それを見たバルトは苦笑していった

「...ソースカツ丼って言うのもあるらしいから食うか」

「っ!すまない、頼む!!」

「あっ、そうだ。まだお前の名前聞いてなかった」

「そうだった。俺の名前は【凛・サルベージ】という。よろしく頼む」

「...なるほどサルベージか」

 バルトはそう呟いてニヤリと笑った。

 なるほど、ならば彼が尋常ではない剣の腕をもつのも、米のことを知っていることも、そしてなにより食い意地が張っているのも納得がいく。

「なるほど、この世界の暮らしも悪くなかったのかもな」

「何の話だ?」

「いや、何でもねぇーよ。それよりトンカツ揚げるぞ」

「わかった!!」

 そう言ってバルトとサルベージの一日は過ぎていった。





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