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中編です

 王ゴブリンを倒した後、男と青年は王都に戻ってきた。そしてまず冒険者ギルドに向かう。

「こんにちわ!!バルトさん!!今度は何を討伐してきたんですか?」

 冒険者ギルドの受付嬢が笑顔で男に話しかける。すると冒険者ギルド中にいる者たちがざわめく。

「まじかよ...超級冒険者のバルトだと」

 バルトの戦歴を知るものは恐れおののく。

「あんなやつが超級か!!冒険者ギルドも墜ちたものだな!!」

 自分の力を過信する男はその風貌をみて嘲笑する。

「「きゃぁー!!!超級のバルト様よ!!」」

 その場にいた女たちの約半分が黄色い歓声をあげる。

「あぁ今日は王ゴブリンの買い取りだ。」

 そう言ってバルトと呼ばれる男は周りの声など聞こえないかのように、無造作に魔物の死体を買い取り箱に乗せる。

「おぉ...ゴブリンとは言え、王級の魔物ですか。さすがバルトさんですね」

 受付嬢は王ゴブリンの死体を鑑定しながらバルトに話しかける。

「まぁ、いつも通り死体の状態はよくないから、買い取り価格は半分で構わない」

 バルトはそう言いながら受付嬢の向かい側の席に座る。

「わかりました...えっと金貨5枚でどうでしょう?」

 その買い取り価格に青年は耳を疑った。報酬が高いのではない、安すぎるのだ。青年は受付嬢に食い付く。

「すいません、金貨5枚とは安すぎではありませんか?」

 金貨5枚、それは一人暮らしで5ヶ月楽に生活ができる金額である。しかし、半年に一度出現するかどうかの王ゴブリンを倒したにしてはいささか安すぎる。

「あら?そちらのかたはバルトさんのお連れですか?」

「うん?あーこいつは一時的に共闘した奴だ。腕は確かだと思う」

「おぉ...バルトさんが誉めるとは中々の逸材ですね...」

 受付嬢は青年の顔をまじまじと見る。青年は美人に見つめられ赤面する。

「い、いやだから何故報酬が金貨5枚なのかを教えてください...」

 青年はごまかすように質問を繰り返す。

「あーそれは魔物が増えているからです」

「え?そうなんですか」

「ここ一ヶ月で王級の魔物が9体出現、だから今まで通り報酬を出しているとギルドがやっていけなくなってしまいます」

 受付嬢は申し訳なさそうに言う。

「し、しかし王級の魔物が金貨5枚とは...」

 青年がさらに食い下がろうとするとバルトが言った。

「しょうがないぜ兄ちゃん。なんせ超級冒険者は金持ちだからな。」

「だが、それはそれに身に合った魔物を倒しているからであって...」

「もし仮に俺たち超級冒険者全員が正当な報酬を得ることになったら、どこかにしわ寄せがくる。冒険者ギルドに無限の財源がある訳じゃないからな。そのしわ寄せがくるのはどこか、わかるか?」

 青年は少し考え、そして目を見開いた。

「ギルド職員の給料...そして金級以下の冒険者の報酬か」

 青年がそう言うと、バルトは言った。

「金級、銀級冒険者はともかく銅級以下の冒険者の生活は厳しい。そんなやつらの報酬を下げたら、間違いなく飢え死するぞ」

 そう言うと青年は押し黙る。

「俺たち超級冒険者は自分の報酬ほしさに他の奴らを飢え死にさせるほど腐ってはないんだよ」

 バルトは腕を組ながら言う。

「あんたがそれで納得しているんならいいけど」

 青年はそう言って報酬に口出すことをやめた。




「報酬の金貨五枚となります」

 そう言って受付嬢はバルトに報酬を渡す。バルトはそれを無造作にポケットに突っ込んだ。

「よし、受け取った。あと、こいつに金級のシンボルを渡してやってくれ。」

「はっ!?」

 青年は驚きのあまり大声で反応する。金級のシンボルとは、その名の通り金級の冒険者に与えられるシンボルである。

「バルトさんからの推薦とは...わかりました。明日までに用意しておきます。」

 その瞬間、一度落ち着いたギルド内がざわめきを取り戻す。

「嘘だろ...一瞬で金級かよ...」

「でもまぁ、あいつ確か、剣の大会とかで優勝とかしているやつだったはず」

 冒険者の男たちは青年をじろじろ見ながら話す。

「あぁ、頼む。ではまた」

 そう言って軽く会釈した後、バルトは周りの声が聞こえないかのようにギルドから出ていく。青年はあまりの衝撃的出来事に放心していると、見知らぬ女が近づいてくる。

「ねぇねぇ、そこのお兄さん。私に狩りを教えてくれない?」

 青年が振り向くとそこには、化粧はしているだろうが、それを込みにしても十分に可愛らしい女が立っていた。

「あっいや...」

 青年は女と触れあう機会がなかったため、あわてふためく。

「ねぇー?あなた金級なんでしょ?弱い私を指導してもバチは当たらないと思うけどー?」

 そう言って女は青年の腕を絡ませる。青年の鼻に人工の香水の匂いが絡めつく。彼女の表情は笑みを浮かべ、ほんのり頬に赤みを帯びている。殆どの男だったら、そこで堕ちてしまっていただろう。しかし青年は、女慣れこそしていないが、剣豪であり剣マニアでもあるのだ。

「そ、お前は暗殺者か?」

 青年は一呼吸おいて問いかける。

 その瞬間、女の笑みを引きずる。しかし女は誰にも悟られまいと少しだけ頬を膨らませる。青年はそれを見逃さない。青年の疑念は確信に変わる。

「暗殺者ってどういうことかなー?」

 女は青年に質問する。

「その(つか)はドレッド家の暗殺者シリーズの柄だ。それに加えて服の中には短刀がいくつも隠されているな。それでお前が暗殺者ではないは合理的ではない」

彼女の表情は笑顔から途端に冷めたものになる

「...ちっ、やっぱり金級には手を出すんじゃなかった!!!」

 女は、そう言って、仕込んで合った短刀で男に斬りかかる。

「死ねっ!!!」

「甘い!!」

 青年は女の短刀を弾き落とし、刀を首に向ける。その瞬間、ギルド内が静寂に包まれる。

「衛兵を呼んで来てくれ」

 数分後女が衛兵に連れてかれて、この事件は幕切れとなった。



「よぉ、遅かったじゃねぇーか」

 バルトはギルドの扉の近くでそこら辺で買ったであろう屋台の食べ物を食べていた。

「あんた、わかっていて、放っておいたな?」

「まぁな、金級冒険者になればそれこそ金も名誉も手に入る。しかし、さっきみたい暗殺者や色仕掛けでお前の財産を貪り喰うやつもいる。今回はそれを勉強するいい機会だと思ったのさ」

 そう言ってバルトは笑った。その笑顔に青年はため息をつく。

「お前、もし引っ掛かったらどうするつもりだったんだよ?」

「引っ掛かかったら、それはそれで勉強になる。なんだ?あんなやつに不意討ちをくらったところで死ぬのか?」

「あの程度のやつに不覚をとることはねぇーよ」

「だろ。じゃあよく引っ掛からなかったご褒美として、料理をご馳走してやるよ」

 そう言ってバルトは歩き出した。

「あぁ...さっき言ってた日本の料理ってやつか」

「そうだ、今回は...」

 そう言ってバルトはレシピを見て、笑った。


「カツ丼だ」



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