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1-B

1―B


 ルーク・スタインベルグは見知らぬ浜辺で目を覚ました。顔の横たわっている白い砂浜が陽の光を反射し、開いたばかりの瞳を刺激する。重たい体、水を吸った服のせいだけではなく疲労もある自分の体をゆっくりと押し上げる。周りには先程まで眼前にあったのと同じ白い砂浜と、どこまでも続くかのような蒼い、蒼い海と空が広がっていた。それは、今まで見たこともないような澄んだ海水と、雲ひとつない蒼天が生み出すひとつのハーモニー。


「……ここは?というより、俺は何故こんなところに?」


 霞がかった頭をフル稼働させ、過去の出来事を検索する。すると、元々は優秀な頭が徐々に明晰さを取り戻し、原因となったであろう事象が思い起こされてきた。


「そうだ、俺は魅華と……!」


 そう、事の発端はあの洋上での事故。いや、超常現象か?魔法が世に認知されているこの世界においても、訳のわからない事象というのは起こりうるのだということを、彼は改めて認識させられたのだ。その出来事とは……。


 十数名の学生たちを乗せた船は、洋上を順調に突き進んでいた。その日のミッションは“A~Cランク合同”で行われる予定。その任に当たる学生たちを目下輸送中、という訳である。普段は一緒になることのない各ランクの学生たちが混ざっていることもあり、侮蔑の眼で見るもの、嫉妬に駆られているもの、更なる努力を誓うもの、様々な思考が混在し、微妙な雰囲気をつくりだしている。そんななか、Cランクの落ちこぼれである神前魅華は、一人船の縁にもたれながら、海を眺めていた。上位にいくことなどとうの昔にあきらめている彼女にとっては、一緒にいる上位ランクの学生たちのことなど興味の外である。当然、任務自体にも殆ど興味はない。自分以外の人間がうまくやってくれるだろう。自分は邪魔にならないよう、脇で見ていよう。そんなことを漠然と考えながら、遠くにある雲を眼で追っている。


「どうした?こんなところで。気分が悪いなら、医務室までおくっていくぞ?」


 そこに声をかけてきた一人の青年。彼の名前はルーク・スタインベルグ。魅華と同期生でありながら、エレノアと同様に、既にAランクに所属する逸材である。本来であれば、こんな気安く話しかけられるような近しい関係にあるはずもない二人であるが、何の因果か“幼馴染”の関係であるため、今でも親しい関係……、いや、親しげに話しかけてこられる関係にある。


「……いや。別に調子は悪くない。寧ろいいくらいかも?」


 同期生たちが切磋琢磨し、ある意味戦場のようなあの学園とは違い、ここには何もない。ただ、風の流れに身を任せ、潮の流れを聞いていればいいだけだ。それは魅華にとってとても楽な、平和的な空間と言っていい。


「そうか。ならいいのだが。

 ……こうして話しをするのも久しぶりだな。横いいか?」


「どうぞ。」


 別に拒否する理由はない。どの道、その位置が自分の領地という訳ではない。学園、この船に自分の“いるべき場所”なんかないかもしれないが。そんなどうでもいいことが頭をよぎる。


「どうだ?最近の調子は?……少しはやる気をとり戻せたか?」


「ううん。変わりないかな。今も落第ぎりぎり、半歩手前ってところ。このまま卒業までぎりぎりで行きそうな感じかな。今から皆に追いつくのも難しいだろうしね。」


 そんな気も起きないが。そう心の中で付け加える。あえて言う必要もないし、ルークもそんなことは十分承知だろう。それでも、少しだけ落胆の表情が浮かぶ。しかし、それも一瞬のことで、すぐにいつもの笑顔に戻る。


「そう、か。まあ、仕方がないな。何にせよ、落第はするなよ?折角の“自由な時間”だ。青春を早めに失うのは勿体ないだろ?」


「わかっているわ。私も家に戻され、この歳で見知らぬ人間のところへと嫁がされるなんて御免だもの。時代錯誤もいいところだけど、他に使い道もないでしょうから、本当にそうされそう。」


 そこで一旦会話が途切れる。そして、二人並んで海を漠然と眺めていたが、数分もたたないところで、ルークが突然洋上を指差し驚きの声をあげた。


「……!魅華!見てみろ!あれはなんだ?」


 指差す方向に眼をやると、そこには小さな“穴”があった。何もない洋上に、異物のような黒い円。そして、それは徐々に広がっているようにも見える。


「……何?えっ、え?」


 唐突に船が大きく揺れる。見ると周囲の波立ちが大きくなっている。そして、再度、海に眼を向けると先ほどは拳大にしか見えなかった黒い穴が、船よりも大きく膨らんでいた。


「おい!見てみろ!何だあの穴は!!」


 周囲にいた学生たちも異変に気付き、皆船縁へと集まっていた。そして、その間にも穴は更に拡大していき……。


「……あれは島、なの?」


 誰とはなく、そんな呟きが漏れる。穴の底には、驚くことにもう一つ海が見えた。そして、森に囲まれたひとつの島が見える。嵐のような様相になりつつある船の周囲とは対照的に、その島は悠然と、平穏にたたずんでいた。穴の周囲は大きく波立っているのにも関わらず、そこだけはあたかも他から隔離され、別の空間にある、そのような様相である。


「……!」


 更に大きく船が揺れる。学生たちは一様に縁を力強くつかみ、振り落とされないように懸命な状況である。


「何をしている!早く船内に避難しろ!」


 そこに来てようやく、教師が甲板へと躍り出てきて、学生たち避難を命じる。その声に弾かれ、皆移動を開始する。あるものは慎重に床を張って。あるものは一機に駆け抜けて。皆それぞれに船内への入口と向かう。魅華も教師に従い、船内へと避難しようする。そして彼女が縁にかけていた手を離したその瞬間。


「……え?」


 かつてない程に、大きく船体が揺らぐ。調度手を離した瞬間であった魅華は、踏ん張りきれず足が床から離れ、そのまま空中、海の方へと投げ出される。


「魅華!!」


 虚空に伸ばしていた魅華の手を、彼女より少し大きな手がつかむ。間一髪でその動きに反応したルークの手であった。固く繋がれ手はそう簡単にほどけそうにない。このまま引き上げられてどうにか転落は免れるかと安心したその瞬間。


「……くっ!!」


 その固く繋がれた手に意識を集中していたのが災いしたか、更なる振動により、ルークまでもが空中へと投げ出されてしまう。そして、二人はそのまま海中へと没し、ほどなくして、揃って意識を失うこととなる。


「ここは……、あの島なのか?」


 全くもって見覚えない島。データ上でも、あの海域、自分たちが落ちたあたりにはこれほど大きな島というのはなかったはずだ。だとすると、俄かに信じがたいことではあるが、あの海に、いや、空間に?だろうか、空いていた穴は現実であったということになる。


「……いや、そんなことよりも、魅華を見つけなければ。」


 ここがどこだか知る、というのも当然重要なことではあるが、今はそれよりも一緒に海に落ちたはずの魅華を探す方が先決。そう考えなおし、改めて周りを見渡す。砂浜に散在する木と海、そして島の陸側へと少し言ったところには森が見える。当然人の姿はない。変わりに、見たこともないような動物たちの姿が点在していた。それらは、あたかも彼のことを窺っている、観察しているようにも見える。


「魅華!お~~い!!魅華、いるか!!?」


 ひとまず声を大にして名前を呼んでみる。突然の騒音に、周りの動物たちはちょっと驚いた様相を見せたが、直ぐに何も危険はなさそうだと悟ると、さらに訝しげに、興味深そうにルークへと視線を送る。


「お~~!!」


「呼んだ?」


 再度、ルークが大声を張り上げようとしたが、後ろから突然かけられた声に中断させられる。後ろを振りかえると、視線の数センチ先に魅華の顔があった。


「……!お、驚かすなよ……。」


 そう文句をいいながらルークは数歩下がる。そして、改めて魅華の全身を眺めたあと、視線をそらす。


「あ、あのさ?魅華。そ、その、なんだ……、服が透けているんだが……。」


 見ると、魅華の制服は大分水を吸っており、その下、下着まで透けてみえていた。そして、湿り気を帯び、重さを増した服は体に張り付いて、彼女の体の線を強調していた。その姿は普段とは違い、大分艶かしい。魅華は、そのルークの言葉で初めて気づいたかのように、自分の体に視線を移す。そして、数瞬眺めた後、またルークの方へと視線を戻す。


「……別に、見てもいいけど?減るものでもないし。」


 一瞬、誘っているのかという考えがルークの脳裏をよぎったが、直ぐにそれを振り払うかのように大きな声で答える。


「い、いや。今は遠慮しておく、よ。とりあえず……、そうだな。」


 と、そこで自分のジャケットを脱ぎ、魅華へと差し出す。


「これを羽織っておけよ。そのままじゃ冷たいだろうし。」


 当然、彼の服も水は吸っているが、ある程度高級、丈夫な制服を着ていたこともあり透けてはいない。魅華は、差し出された上着を、数瞬考えを巡らせるように見つめた後、それを受け取る。


「……そう。残念。ありがとう。とりあえず使わせて貰うわ。」


 全く持って残念そうでない声で礼を言った魅華は、そのまま上着を羽織る。ほっとしたような、それでいつつ少し残念そうな表情をみせつつルークは視線を魅華へと戻す。


「先に目を覚ましていたのか?」


「そう。ちょっと前に。少し周りをみていた。」


 魅華とルークは同じ場所、つまりこの島の浜辺に二人並んで打ち上げられていた。手を固く握っていたのが幸いしたのか、二人離れ離れに遭難、という事態にはならずにすんだということになる。ルークが目を覚ます十数分前に、先に目を覚ましていた魅華は、直ぐ近辺に危険がないのを確認した後、周りを見回りにいっていた。


「……ここは、やはりあの島なのか?俄かに信じられはしないが、こうして見知らぬ島にいて、周りは海ばかり、となると本当あの穴の底へと落ちたとしか思えないな……。」


「分からない。でも、その可能性は高いと思う。あの海域に島があったという話は聞いたこともないし、データ上もなかったはず。それに……。」


 そこで、魅華は周りを、付近にいる動物たちへと視線を這わせる。


「ここにいる動物たちには、遥か昔に絶滅したはずの種族が混じっている。それと、見たことも聞いたこともないようなものたちも。」


「とするとなんだ?俺たちは過去の世界に飛ばされただとか、異世界に飛ばされたとか、そんなおとぎ話のような状況にある、っていうことか?」


 最も、人間がこの世界の全てを把握している、という訳ではない。未発見の秘境に流れ着いたという風に考えられなくもない。それがどうやって“人の目”から逃れていたのか、どうやって自分たちがそこまで移動してきたのかという疑問は残るのであるが。


「ここがどこか、あの現象が何だったのかという考察はさておき、ひとまずは身の安全の確保、から、 

 か。」


 その言葉に魅華も頷く。


「そうね。まずは身の安全、食糧・飲み水の確保から始めないと。探索や帰る手段を考えるのはその後か

 ら。」


 まずは生き延びるのが重要。それから現在地の確認、そして帰着方法の模索。優先順位を間違えてはいけない。最悪、帰れなくともここで魅華とともに“アダムとイヴ”にでも、という考えがルークの脳裏によぎる。だが直ぐにその考えを振り払うように、ルークは力強く告げる。


「そうだな。幸いなことに魔導具もある。動植物がいるなら食糧確保はどうにかなりそうだ。」


 魔導具というのは、学園の学生たちに貸与されている、魔物たちに対抗する術となる道具、武器のことである。侵略者たる魔物たちに対抗するためにもたらされた“魔法”という技術の粋を集め、個々人の資質に合わせた武具を顕現させる装置が開発された。それが魔道具である。これは学園の学生となった時点で一人につき一つ貸し与えられる。学生たちはこれを操る術を鍛錬し、そして実際に赴く任務においてはこれを活用することで、その職務を遂行することになる。当然、今回の任においても、二人は魔導具を携行していた。


「私じゃ、魔導具があってもさほど役には立たないと思うけど。特に戦いだとか、狩りだとかに関しては。」


 Cランクの落ちこぼれである魅華でも、魔導具そのものは扱える。しかしながら、その威力、技術に関しては、Aランク、その中でも上位に位置するルークとでは天と地ほどの差が存在する。


「その辺りはこっちでフォローするさ。そのかわりと言っては何だが、調理その他は期待しているよ。料理とかは結構得意だったろ?なんせこのちっぽけな世界に“二人きり”だからな。お互い協力し合っていこうぜ?」


「わかった。努力する。」


 魔導具は、基本的には各学生の資質に応じたある一つの形状、剣だとか、弓矢だとか、槍だとか、をとるのが一般的である。その例にもれず、ルークの魔導具は剣、両刃の長剣の姿をとる。彼自身もその魔導具の形状、つまり剣を上手く扱えるように、剣技に関しては鍛錬を積んでいる。それに対し魅華は、その一般論の例外、何でもなく、何にでもなれるという“無形”の魔導具を有している。それは剣、槍、斧等の一般的に“武器”と呼ばれる形状から、投網、ワイヤーというような道具、はたまた包丁やフライパンなど、武器ですらない調理器具の形状もとれる。ある意味万能ともいえる魔導具であるが、それ故に使いこなすのにはセンスが、状況状況に応じて最適の形状を選び取り、かつそれを使いこなすだけの技術が必要となる。よって、魅華のように殆ど戦闘技術を学ばない人間にとっては単なる宝の持ち腐れである。


「さて、とりあえずは森の方に行ってみるか?なんか食べられそうな果物なんかが見つかるかもしれないし。しかし、それにしても……。」


 体は未だ湿っており、衣服も乾いておらず重たいままなのではあるが、冷たくはない。それは、海水もそうだが、周囲の環境、温度湿度も“調度良く”、快適ともよべる状態にあるからだ。それは墜落した時に感じて水の冷たさとは大きく異なり、とても同じ海、同じ区域にいるとは思えない。


「本当に、どこなんだろうな?ここは。」


 どうしても漏れ出てしまう疑問。当然それにこたえられる程の情報はどちらも持ち合わせていない。それでも魅華は律義にその言葉に答える。


「さあ?現状じゃわかりようがないわね。でも……。」


 そこで、言葉を切り、再度周りを見回す。


「楽園……。」


「え?」


 魅華の口から自然と零れおちたその言葉に、ルークは思わず聞き返す。魅華は思わず漏れ出たその言葉に、戸惑いながらも、何故かそれが納得できる名称のような気がしていた。


「なんとなく、そんな言葉が思い浮かんだ。なんでかしらね?

 ……まあいいわ。とりあえず行ってみましょう。」


 そういい、森の方へと歩き始める。ルークもその後を追い、魅華まで追いつくと、横に並んで歩き始めた。


 結果から言うと、森に入ってほどなくした時点で食べ物にありつくことが出来た。二人の知っている果実そのものではないが、似通った形状で、かつよく熟れたものを発見することが出来たのである。当然、毒或いはその類の物質の懸念は残っていたが、幸いなことに、魅華は回復に属する魔法を使用することが出来る。その中には解毒、身体状態を“正常”へと導くというものもあった。そのため、ひとまず、ルークが口にし、状況をみて魅華が処置するというやり方で試し食いをしてみたのであるが、心配されたような異状は見られず、問題なしとの結論に至る。寧ろ、今までに味わったことのない程良い甘味、芳醇な味わいに二人は思わず食が進んでしまった程である。何はともあれ、これで直ぐに飢えに苦しむ、といった事態には直面せずに済んだことになる。


「とりあえず、直ぐに飢え死に、という未来は回避できそうだな。後は飲み水だが……。」


 流石に透き通るような、きれいな水とはいえ、海水をそのまま飲む訳にもいかない。最悪蒸留をすればよいということになるが、それではかなり動ける範囲が制限されるし、時間もかかる。まだ、学園への帰着を諦めた訳ではないので、出来ればそういう事態は避けたいと考えていた。


「どこかに泉でもあればいいのだが……。ちょっと都合がよすぎるか?」


「あれは……?」


 魅華が指差す方にルークが視線を向けると、そこには“角”をはやした美しい白馬が一頭佇んでいた。それは彼らのいる“世界”には存在しないはずの生き物に見える。


「お、おい!あれは、まさか……?」


「ユニコーン!」


 魅華は思わずその名を口にしていた。そう、彼らのいる世界には存在しないはずの生き物。治癒の力を宿す一本角を持つという馬。それが二人の目の前に存在していた。魔法により異界より“召喚”可能ということは二人も知っていたが、見るのはこれが初めてである。魅華は好奇心に引きずられるように、その白馬へと近寄っていく。


「そんな不用意に近づいて大丈夫か?」


 ルークが心配そうに声をかけるが、魅華は意に介さずそのまま進む。ユニコーンの方も、二人に気付いたようで、円らな瞳を近寄ってくる魅華へと向ける。警戒の色を浮かべてはいるが、逃げはしない。寧ろ、何か面白そうなものを見つけたかのような、そんな表情もまた同時に窺える。そのまま、遮られることも逃げ出されることもなくユニコーンの傍へと辿りついた魅華は、何を思ったか両手を胴体へ回しつつ背中の毛へと顔を埋める。そして普段は見られないような至福に満ちた顔を見せている。ユニコーンの方も、若干くすぐったそうではあるが、拒絶はせず、魅華の好きにさせている。もふもふ。もふもふ。


「……平気そうだな。いや、寧ろ、普段よりいい表情をしている?」


 逸話に従えば、ユニコーンに触れられるのは“清らかな乙女”だけであるらしい。その説に従うのであれば、彼女はまだ“穢れて”いないことになる。それは自身の怠慢、或いは甲斐性の無さを表すものでもあるが、それでも安堵を覚えるルークであった。

 魅華は心ゆくまで“もふもふ”した後、手を離し、ユニコーンに向かって身振り手振りで何かを伝えようとし始める。ユニコーンの方も困惑気味ではあるが、その仕草を注視し、何かを読み取ろうと努力しているようにも見える。


「魅華は一体何を……。まさか、泉の場所を聞いているのか?」


 実際、その“まさか”であった。しばしの間、魅華の仕草を見ていたユニコーンは、唐突に歩き始めた。そして、暫く歩いて離れたところで一旦立ち止り、振り返り魅華を見つめる。その姿は、あたかも“自分についてこい”と言っているかのようである。


「……行ってみましょう。」


 とりあえず、現状でユニコーンがこちらに敵意を持っていなさそうであるので、ついていくことに対してルークは異論を持たなかった。黙って頷き、魅華ともにユニコーンの後を追う。そして、暫くの間二人がユニコーンとの距離を近づ離れずに維持していると、木々に阻まれていた視界が開け、大きな泉が眼前に現れた。水は美しく透き通っており、魚の姿も散見出来る。少なくとも、飲めないような水では無さそうに見える。


「……意外となるようになるものだな?流石は“楽園”ということか?」


 ご都合主義にも程がある、とルークが考えたのも無理はない話である。それ以上に、あの魅華の仕草でユニコーンに自分たちの意図が通じたこと、それが彼にとって最も大きな謎ではあった。そんなことをルークが漠然と考えている間に、再度魅華はユニコーンの傍へと駆け寄っていた。そして、再びユニコーンの胴体へと抱きつき、伝わるかも分からないお礼を言っていた。暫くして、魅華が手を離したところで、ユニコーンは二人を一瞥し、悠然と二人の前から去っていった。心なしか、ルークを見る目には多少の敵意が籠っていたが。その姿を見送ったところで、ルークは口を開く。


「これでどうにか生き延びることだけは出来そうだな。次はここがどこか、ということだが・・・…。さて、どの辺りに行ってみるか?」


「森に入る手前で、山の上の方に建物らしきものが見え、た。上手くいけば生きた人間に出会えるかも?」


 二人が森に入る前、浜辺の終わりの所から山を見上げた際、おぼろげではあるが、山の頂上付近に人工の建物らしき構造物が視界に映っていた。そこに人が住んでいるかどうかまでは定かではないが、少なくとも自分たちのいる場所がどこであるのか、そのヒント位は得られるのではないかと魅華は考えていた。


「そうだな……。ひとまず上まで登ってみるか。反対側の様子も窺えるだろうし、もしかしたら近くの島なんかの姿も捉えられるかもな。」


 ルークも魅華の意見に賛同する。そうして、二人は暫くの間、山登りに勤しむこととなる。

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