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1-A

~プロローグ~


 塔。それは天へと向かって聳え立つもの。人の望みと、力と、そして驕りを乗せて天を突き刺ささんとするもの。いつか、何者かに砕かれるその時まで。彼女が最初にそれを見たときにはただ、漠然とした高揚感を感じただけであった。ただ、確かに、彼女はあの上へ、蒼天の頂きに立ってみたいとそう思ったはず。それを実現するためには犠牲を厭わない。そう思っていた。だがいつからだろうか?その気持ちを忘れ、ただ地を這いずり、天を見上げるだけで満足するようになったのは?いや、違う。満足したふりをするようになったのは、だ。確かにあったものを失うのは一瞬、或いは除々に、だったのだろうか?失うことは、引力に惹かれ落ちるのは簡単であった。しかし、塔を創りあげるのと同様に、積み重ねるということは、着実に天へと昇るというのは容易なことではないのだ。積み重ねる、という行為を維持し続けるのにはたゆまない努力が必要。抗うのには覚悟が必要。ただ積み上げた汗と意志だけが蒼天へと導く。長い怠惰の日々を費やし、遠回りをしたが、こうして再び昇る意志を取り戻すことができた。今度こそはあの高みへと到達しよう。今度こそは折れることのない意志を支え続けよう。彼女はもう一度積み始める。いつか至れるはずと信じる高みへと向かって、ただひたすらに。


1―A


 エレノア・ジアークの朝は早い。人より早く起き、人より長く訓練をする。それがもはや習慣化しているためだ。勿論、早起きが訓練にとって有意である、ということも理由の一つである。理論と実践、そして地道な努力と生まれ持つことが出来た才能のお蔭で他の人間より優秀だという評価を得ている。そして、風貌にも恵まれており、実家も裕福だ。整った顔立ちに、アクセントをつける朱金の瞳。銀に輝くつややかな髪。身長も平均以上で、メリハリのついた体つき。正に“天に2物、3物を与えられた”人間である。

 対して相部屋の少女は起きるのが遅い。大体は朝食をとることができるぎりぎりの時間に起きてくる。いや、彼女が起こしている。早朝の自主トレーニングを終えた後に、だ。しかし、その日は何か違和感を覚えた。外に人の気配がしないのはいつも通りだが、部屋の中にも気配がない。ふと隣のベッドに目をやると、既に掛け布団が畳まれ、上には誰もいない状態となっていた。畳まれた布団の下、シーツに触れてみると、温さが残っておらず、冷たい感触があるのみである。どうやら、ベッドの主が大分前に抜け出したらしい。


「……どういうことかしら?」


 思わず声が漏れる。珍しい。というより異常とってもいいくらいだ。怠惰なベッドの主……神前魅華がこんな時間に起きだしているということは。何といっても、魅華は、自分が幸福なのは寝ている時だけだと公言するような人間なのだ。そんな人間が何故こんな早朝に?エレノアはそう疑問に思ったが、このままベッドとにらみ合いをしていても時間の無駄だと思いなおし、思索を中断して、数えきれない程袖を通したトレーニングウェアに着替え始める。ひとまず訓練に行き、朝食前のタイミングで魅華が戻っていればそこできいてみればいい。そう考え、部屋を出る。だが、彼女のその疑問への解はもう少し早く示されることになる……。


 長年寄り添った慣習を捨て、早朝に神前魅華は走っていた。誰もいないトレーニング場のトラックを一人黙々と。今まさに、サボっていたツケが回ってきているため、全身が重い。思うようには動かない。直ぐに息が切れて苦しくなってくる。だが、それでも彼女は走り続けていた。ただひたむきに。普段は乾いているのが当たり前だったトレーニングウェアが汗に濡れて体に張り付く。足や腕の動きは鈍重、振り上げもばらばらな状況である。さぞかし、落ちこぼれの自分に相応しい惨めな、見すぼらしい格好にみえることだろう。彼女自身もそう思う。だが同時に、それでいい、とも思う。全ては自業自得。思い通りには動かないが、なるべく動きに意思を反映させるよう努力する。姿勢は正しい前傾、腕や脚の力に頼らず、重心移動によって全身を上手く使うように。実現できなくても、挑戦し続ける。意思が現実を制御できるその日まで。体が上下するたびに揺れる、このペンダントがその日まで導いてくれると信じて。暫く走れば陽光がベッドへ帰還したい気持ちを少しは抑えてくれるだろう。そして、苦しさを越えて走り続ければ脳内麻薬2つによるランナーズハイ。脳内物質が麻薬に似ているではなく、麻薬が脳内物質に似た構造をしているのだ。ごまかしでもいいから、継続することが成功へ導くこともある。

 まず、何よりも基礎体力。今までの遅れを取り戻すには、人一倍訓練を積まなければならない。それには、まず耐えうるだけの体力が必要だ。厳しい訓練をするのはいいが、そのたびに倒れていては意味がない。体力がつき、ある程度余裕が出てくれば、訓練の幅も広げられる。そう彼女は考えていた。また、充実した訓練を行うためには時間の管理が必要だ。早寝・早起きで充実した休息すると同時に、脳内物質も有効利用する。ありとあらゆる理論を駆使しなければ、落ちこぼれの自分が頂きに至ることは無いだろう。早寝の前に早起きをして今までの狂った体内時計をリセット。早朝のトレーニングで意識を活性化させ、朝時間を有意義なものへ転換する。そのための第一歩である。


「まずは、あの高みに。そして……。」


 ようやく見つけた目標。そのためにはまず、この上に。より自分を高められる場所へとたどりつかなくてはならない。まだ、旅は始まったばかり。先は果てしなく遠く、困難に満ちているであろう。それでも進む。ようやくこの怠惰から抜け出す理由を得られたのだから。どんなことがあってもそれを見失わないように。ただ、それだけを考え、彼女は一心に走り続ける……。


 エレノアは、誰もいない第一層グラウンドを一人走る魅華を、第二層へと向かうエレベーターの中から見ていた。いつも、誰よりも怠惰だった彼女が、一心不乱に走る様を。


「何かあったのかしら……?」


 彼女の姿を見て、まず最初に感じたのは喜びだ。親友がやる気を出してくれた。そして、今の彼女はとても良い顔をしている。彼女と初めて出会った頃のような。それはとても喜ばしいことだ。だが、同時に、何故?と疑問に思う。真っ先に思いつく理由は、つい最近あった遭難事故のことだ。あの、行方不明であった時期に、彼女の心情を変化させるような何かあったのだろうか?


「まさか、あの男!私の魅華に何かしたというの……!」


 魅華は、同じくこの学園の生徒であるルーク・スタインベルクとともに救助された。当然、救助された時だけ一緒だったわけではないだろうから、行方不明であった時中の幾分か、或いは大半を一緒に行動していたと考えられる。その時に、彼が何かをしたのだろうか?何といっても、魅華の幼馴染だということをいいことに、何かとちょっかいを掛けてくる彼のことだ。二人きりなのをいいことに、好き放題やった可能性も否めない。そんな勇気があれば、もう既に2人の関係は違ったものになっていた気もするが、特殊な環境というのは、人を大胆にもする。あのケダモノめ!というより、そんなに長い間魅華と二人きりだったこと自体が許し難いことだ。何てうらやましい……、けしからん。


「でも、それだけではあんな風には……ならないわね。それにあの娘が簡単にあの男に気を許すとは思えないし。」


 本当にそうならば、あの男はタダでは済まさない。どんなことをしてでも魅華をこの手に取り戻す。どんなことをしてでも、だ。そう心に誓う。でも、やはりまずは……。


「喜ばなければいけないわね。」


 本気になった彼女ならば、遠からず私と同じところに来るだろう。根拠はないが、何故かそう確信が持てる。そうしたら、もっと彼女と一緒に、親密かつ濃密に、この学園生活を送れることになる。それは、願ってもないことだ。その光景を思い浮かべるだけでも、至福の心地となる。

とはいえ、彼女が上へと上がれるのは最短でも来年度から。今年度末の“試験”までは、いくら頑張ったとしてもできない話だ。


「気長に待ちましょうか。今までも、十分待ったのだから。大した時間ではないわね。」


 まずは、自分も上に居続けるための努力をしよう。そう、誓いを新たに、エレノアは第二階層へと昇っていく。


 統合的人材育成機関、学園“エコール”。それが神前魅華たちの通う学園の名前だ。どこの国にも属さない、ひとつの島に設置された学校法人。いつから存在していたのか、百年前からか、或いは千年前からか。それすら定かではないほど歴史をたたえているが、そこにある建造物は古ぼけた印象を全く与えていない。中央には天を貫く訓練塔。その中央部にはエレベーターが設置され、三層に分かれた訓練場を繋いでいる。その東西には宿舎、厚生施設。千を超える学生たちの生活を支えるに足るだけの設備を詰め込んである。そして北側には教室棟。常に最新の学習設備が取り揃えられ、最高の教師から最高の教育を受けることができる。当然自習用のスペース、図書館等も完備されている。

 この学園の基本方針は自学自習である。最低限の講義と、“試験”をパスすれば、残りの時間は何をしていても咎められない。というのも、それ以前に選別された学生しかいない、ということが前提にある。才能(知能・運動能力)は遺伝的要素の強い部分であるため、学園の教育はまず優秀と認められる父母の子供たちを幼少期に集めるところから始まる。それも世界各地に専門機関を置いて、である。そして、教育資源の投入効果は幼少期に最も高いという理論の基、まずは徹底的に非認知能力の向上を図る。同時に、選抜し教育を施した子供たちを集めることにより、将来に渡り影響する子供コミュニティもある程度制御することが出来る。その上で、進学時更に振るいをかけ、小・中学と基礎・高度教育を施した後、本校である学園へと送られてくることになる。そんなシステムであることから、全国各地から優秀な学生が集まってきており、正に人種の坩堝という形容がふさわしい状態になっている。

 そもそも何のために存在する学園なのか?法人らしく、利益を創出するのが目的か?いや、そうではない。この学園はもう一つ、役割がある。それは、“魔物たち”と戦える人材を育成する、というものだ。過去に、もはや伝承でしか残されていないほど昔の話であるが、突如として各地に出没するようになった“異形の魔物たち”。当時、発達していた“科学”では魔物たちには太刀打ち出来ず、自らの生息場所を減らすことを甘受してようやく侵攻を食い止めていた。そこにもたらされた唯一の対抗手段たる技術。人々はそれを“魔法”とよんだ。その技術をもたらした、或いは開発した者たちが、この学園の創始者たちだと言われている。その、魔物たちに対抗する技術を研究し、人材を育て、また各国の要請にこたえて実際に魔物たちの駆逐業務に従事する機関。それがこの学園であり、本来の役割である。

 中央の訓練塔が三層に分かれているといったが、これは学生たちのランクに応じて、階層がわけられていることを意味する。実際に魔物と戦う以上は、学生の質、戦闘能力は重要なポイントとなる。この学園では、年一回の“学年末試験”を通じて、学生をA、B、Cの三ランクに分配する。そして、そのランクにより、実際に駆り出される戦場が分けられることとなる。むろん、上のランクになるほど、より困難な、より危険な任務に就かされることになるのは言うまでもない。そして、当然リスクに見合った恩恵もある。受けられる講義、訓練、そして福利厚生はランクにより異なっている。特に最上位であるAランクの生徒たちは、訓練塔の第二層に上がり、最新鋭の訓練設備を優先して使用することが許され、またB、Cランクの学生たちには許されない“個室”を与えられる。BとCランクでも待遇に差はあるが、それは設備の使用制限回数差異といったレベルであり、BとAランクの差に比べれば微細な程度にとどまっている。当然、その分、Aランクに上がる学生は厳しく選別される。それは、トーナメント形式で行われるB・Cクラス合同の“学年末試験”、学生同士が実際に戦い、勝ち抜いていくその試験で上位4名に入ったものたちだけがAランクへと昇格できるようになっている。全ランク合計の学生総数は1200名程。その中で、60名がAランクとして存在する。勿論、正規でないルートも存在するため、実際にはそれより若干多くいるのではあるが、それでも狭き門であることには変わりがない。ちなみに、Aランクから下のランクへの降格はない。危険な任務に見合った努力を続けない限りは、そもそも生き延びることが出来ないからだ。そして、Aランクのみは全学年合同となっている。エレノア・ジアークは2回生(この学園は6回生制、つまり計6年間学園に所属し卒業となる)にしてAランクに属し、しかもそのAランクの中でも優秀な成績を修めている。対して神前魅華はCランク、しかも退学寸前のぎりぎりの成績、要するに落ちこぼれというのが妥当である。それが神前魅華の現状であり、彼女の今までの結果、そして塗り替えるべき現実である。


 どうにか、早朝のメニューを終えて戻ってきた魅華を出迎えたのは、エレノアの不気味な位の笑顔であった。見ると、美しい銀の髪が若干湿り気をおびている。彼女も早朝トレーニングをしていたのだろうから、先に戻ってきて、既にシャワーを浴びた後、といったところだろうか。同性ながら、自分と違って色っぽいな、と魅華は思う。


「お帰りなさい、魅華。食事までの余裕は少しあるみたいだから、貴女もシャワーを浴びてくるといいわ。そうしたら、一緒に食堂へ行きましょう?」


 普段と変わらぬ口調。だが、若干だが、言葉に圧力を感じる。ありしいて言えば、「今は逆らうなよ?」といった感じだ。


「……う、うん。じゃあちょっと待って、てね……。」


 そう、気押されながらも、答え、荷物を置くと浴室に向かおうとする魅華。その途中でつい、漠然とした罪悪感にかられ、藪蛇をつつく。


「あ、あの、エレノア?これは、ね……。」


「後でちゃんと聞くから、早く浴びていらっしゃい。ちゃんと、遭難時のことから、きっちり子細漏らさず、ね?」


 自分の言葉を遮ったその有無を言わさぬ口調に、これは全部話さないと解放してもらえないな、ということを魅華は悟る。そして、もはや何も言わず、大人しく浴室へとむかうのであった。


「なる程、ね。そういうこと。なんとなく得心がいったわ。」


 食堂まで連行され、強制的にペアテーブルへと座らされた魅華は、エレノアに根ほり葉ほり、それこそ一挙一動に至るまで報告させられた。話を聞き終わったエレノアは、それなりに納得のいく話を聞けた、ということで満足そうである。


「ほんと、よかったわ。貴女が無事で。心配で心配で、心配で食事ものどを通らなかった位。何といって

も、あの男が一緒だったのだもの。」


 そっちの心配かよ、と心の中で突っ込んだ魅華であったが、口に出すと話しが余計な方向へ飛びそうであったので黙っておいた。それは三回言う必要がある程、重要な事だろうか。


「でも確かに、なる程、と言えるわね。当事者であるが故に、自分もどうにかしようと考えた。当事者に

ならなければ本気でとらえない、問題に向き合おうとしない。人間なんて、そういう生き物だしね。それに、それだけリアルに見ることが出来たのであれば、いやでも何かしたくなるわ。うん。

 そういう話であれば、私も協力するわ。つきっきりで、というわけにもいかないけど、出来る限りね。それに、私も当事者、だものね。私自身もなお一層努力が必要だわ。貴女との薔薇色の未来を潰されたくはないもの。」


 何故自分と彼女、“二人”の薔薇色の未来なのかがこの上なく気になったが、これもやはり藪蛇な予感がしたので、今回も魅華は質問を差し控える。


「エレノアは十分努力しているわ。何もしていなかったのは私。私だけ。でも、今度こそは上を目指そうと思う。」


「そうね。まずは上、というよりAランクに上がるところから始めるのが妥当ね。その方が、将来的にもより充実した訓練ができ、実力を磨ける。……私も、魅華と一緒の時間が増えて嬉しいしね。」


 出来る訓練の質が違う、任務のレベルが違う。然して、実力の上がり幅が違う。より力を得るには、まず尚一層の努力によりそこまで辿りつく「力」が必要。よりよい環境は、才能が才能を練磨し更に伸ばすが故、上位と下位の差は広がる一方となる。それが今も昔も変わらぬ世界の構造だ。


「それでひとまずは基礎体力から、ということかしら?」


 そのエレノアの言葉にうなずく魅華。


「そう。今期も、もう既に第一クォーターが終わっている。今から挽回するのであれば過密な訓練が必要。休んでいる暇がない以上、それに訓練についていけるだけの体力が最も重要。」


「その様子だと、自分で訓練のプログラム、期末試験までのスケジュールも考えてあるみたいね。今から、貴女が上がってくる日がとても楽しみだわ。でも、本当に倒れたりはしないように、ね?」


 エレノアは楽しげに、それでいて優しげに声をかける。その声色からは親友への愛情と、そして抑えきれない心の弾みを感じ取れる。魅華もそれを感じ取り、何故そこまで、と怪訝に思いつつも礼を述べる。


「ありがとう。でも、大丈夫。今度こそは……。」


「わかったわ。……あら?もうこんな時間?さっさと食べて教室に向かわないと講義が始まってしまうわね。急ぎましょう。」


 気づけば、既に講義開始まで20分たらずとなっていた。別に遅刻をしたからといって、単位に響く、或いは教室から締め出される等の制裁が科せられることもないのではあるが、あえて遅参する必要もない。二人は遅れを取り戻すに足るスピードで食事を済ませ、それぞれの教室に向かった。


 当然と言うべきか、やはり、久しぶりに、“まともに”聞いた講義の内容は、魅華には殆ど理解が出来なかった。一限目の講義は魔法学の概論。座学に関しては、全くできないという訳ではなかったが、今までは魔法、そして戦闘技術などとは関係ない分野だけを主に学習していた。 そのため、こと魔法関連に関してはからきり、ほぼ全滅で落第寸前といったレベルである(というより、トータルでも落第寸前なのだが)。珍しくまともに講義を聞いているのを見て、何か感じ入るものがあったのか、教師から質問、問題に対する答えを問われた魅華であったが、数瞬考えた後……。


「すみません。分からない、です。」


 と答え、周囲の学生の失笑を買った。教師からもちょっと普段と違うように思えても結局その程度か、という失望の顔をされる。そんな周囲の嘲りをよそに、魅華は一心に講義を聴き続けた。当然、その科目、一限目だけがそうであった訳ではない。魔法の実践、或いは体術、戦術理論など、全てが散々な結果であった。昼休み、昼食で再会したエレノアにも、あきれ顔で優しい言葉をかけられた。


「まあ、しかたない……わね。でも、体術とかは兎も角、魔法や戦術なんかの座学なら、すぐに追いつけるのではないかしら?魅華は、一般教養は得意でしょう?」


 神前魅華にも落第しないだけの得点源が存在する。それは所謂“一般教養”と呼ばれる分野だ。それには、過去発展していた“科学”の分野なども含まれる。エコールに集まる学生たちは、従来の教育制度における“高校”から“大学”にあたる年代の若者たちである。そのため、通常の各国が採用しているその年代の人間たちが身につけているのが望ましい“教養”に関しても身につける必要がある。いくら戦闘能力、魔物たちとの戦いを主題に挙げているとはいえ、卒業した後には各国に戻り、それぞれの進路を進むことになる。当然その際に戦いしか知らないような人材では活かせる分野も限られるし、日常生活を送るのに弊害も出てくることになるだろう。そのため、全ランクに共通して、一般教養の単位を一定以上取得することが必須となっているのである。

 魅華もその分野だけはそれなりに学習、といっても一夜づけ程度のものもあるのであるが、している、という訳である。そのため、一般教養だけは落第寸前という訳ではない、ある程度上位に入る成績を修めている。


「そうだったらいいな、と思っている。ひとまずは、基礎の基礎から確実にやっていくつもり。」


 魅華は、その言葉通り、放課後は図書館にこもり今までの遅れを取り戻さんと学習を続ける。基礎体力作り、バランス感覚、魔法基礎、そして座学全般。第2クォーターの大半を費やし、それらを身につけておき、後半は戦闘技術、“学年末試験”での上位入賞を狙った対策へとシフトするという方針。結果としては、その目論見は一応の成功をおさめ、短時間で急激に成績が上がることはなかったが、徐々にではあるが順位を上げていき、第2クォーター終盤にはCランク中でも真ん中に値するような順位へとたどりつくことが出来た。

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