第十六話 魔力
「ねぇ、ゼノン、テーノ。わたしでも魔法つかえるようになれるかな?」
メイは今まで疑問に感じていたことを聞いてみた。目を期待いっぱいにきらきらと輝かせて二人を見つめている。すごくわくわくしているのが傍目からでもおかしいくらいよくわかった。彼女は物語の中で怖い魔法使いや魔女、それに妖精が魔法を使うのは知ってる。いつも本を読みながら自分もいつか魔法がつかえたらいいなっと夢見ていたのだ。
「うーん。私の目から見てもメイには十分魔力を感じるからね。訓練さえすれば魔法は使えるようになると思うよ」
テーノが少し複雑そうな様子でそういった。ドワーフ族のテーノにしてみれば魔法自体は珍しいものではないが、便利な道具のような感覚で使用する人間のようには魔法を考えることはできない。必要に応じて魔法を使用するのと、日常生活で便利に使用するでは魔法のありがたみがまったく違う。そういう感覚の彼女からしてみれば魔法が使えるからといってそれほどわくわくとするほどのこととは思えなかった。
「メイ、私たちは魔力は高いが魔法を普段から使うことはないのは知っているね。火の魔法と土の魔法に関しては訓練しだいで使えるようになるものも多いんだ。だけどね、私らはあえて日常生活には魔法を使わないようにしている」
「どうして?」
メイが小首を傾げてそう聞いた。
「魔法は私たちの生活を少し楽にしてくれるありがたい力だけど、それに頼りきってしまうと今度は自分たちの本来の生活が大きく変わってしまうのさ。エルフや人間なんかは簡単に魔法を使って料理なんかしてるくらいさ。でも、料理が好きなお前ならわかるだろうけど、面倒がらずにひと手間かけたほうがおいしいものができるだろう?」
――うん確かにそうかな。例えば……洗い炊きじゃなくて、きちんとお米を砥いだ後に水に十分つからせたほうがご飯がおいしいっていうように
「それに便利に慣れちゃ、味も素っ気もないもんしかそのうち作れなくなるようなもんさね。怠け者のやることさ」
――便利か。現代の日本なんか便利なものばっかりなんだけどな。まぁ、電子レンジでご飯を炊くより、炊飯器で炊いたほうがおいしいし、それよりもさらにおばあちゃんとこにあったかまどを使って炊いた古いお釜のご飯はさらにおいしいっていうみたいな感覚かなぁ?
半年ほど前に母について海外にしばらくすんでいたとき炊飯器の代わりに電子レンジ用の容器でご飯を炊いていたときのことを思い出していた。きちんと炊けることは炊けるけど、味がなんか物足りなかったし、父方の祖母の田舎で昔ながらの釜で炊いたご飯は驚くほど大変だったけどすばらしく美味しかったことも。とはいえ、確かに美味しかったけど、メイはかまどをあえて用意して昔ながらのやり方で炊くのはさすがにやらないかななどとぼんやり考えていた。圧力釜とかでおいしいのできるし。
じっとそのやり取りを聞いていたゼノンがメイが自分なりの経験で理解をしただろうことを感じて言葉を挟んだ。
「ともかく、魔法は使えるようになるだろうけど、その使い方はよく考えることだ。それよりも前にまずお前は魔力を制御する方法を学ばないといけないな」
「魔力の制御?どうして?わたし別に魔力が暴走してるとかっていうわけでもないんだよね?」
「お前の魔力は安定しているよ。それ自体は別段かまわないんだが、お前が『精霊の愛し子』であることが問題なんだ。精霊の力が近くにあるということはきちんと制御できていないとおまえ自身が外からの魔力の影響でひどい被害を受けてしまう恐れがあるんだ。外から受ける魔力もおまえがきちんと制御することで自分への影響を小さくすることができる」
「メイ、それからもうひとつ。精霊の名付け親になったことを人に知られないようにするんだよ。できたら、精霊を人目につかないようにしといたほうがいいね」
テーノが真顔でメイにそう言った。
「どうして?」
「そうだね……。さっき、精霊の名付け親となることは普通は魔力の消費が激しくてなるものはほとんどいないといったがね、それなのに名付け親として精霊を回りにおいているものを他人が見たら普通はどう思うと思うかい?」
「うーん。それなら『精霊の愛し子』なのかもって思うかな?」
メイはスカーレットを手のひらの上に乗せてじっと見つめながらそう答えた。
「そうだ。実は『精霊の愛し子』は最近ずいぶんと危険な目にあっているらしいんだよ。」
「あぁ。『精霊の愛し子』は人間族にはかなり低い確率でしか生まれることはないんだが、そのことを不思議に思う『魔法使い』が、なにやらずいぶんと愛し子を多種族からさらっているといううわさがあるんだよ。特にエルフ族には『精霊の愛し子』が多いからエルフの者がほとんどとは聞くがね。幸いと言っていいのか、我等ドワーフ族にはあまり『精霊の愛し子』は生まれることはないのでな、あまり問題視をしていなかったのだが……」
テーノに補足するようにゼノンがそうため息をつくように言った。
「お前のことが心配だよ。うっかり魔法使いどもに見つかってさらわれてしまったら……、お前みたいに可愛らしいのは何をされるかわかったもんじゃない。いつも私たちがお前をみてやれるわけじゃない。そんなぼうっきれみたいに細っこい腕でどうやって立ち向かえるのか……おや、二の月があんなところにきてるよ。もうずいぶん夜も更けてしまったね。さぁ、そろそろベッドに入ったほうがいいね。メイは名付け親になってしまったからには魔力制御を学ばないといけないということだよ。明日は早起きだ」
ゼノンに言われ、メイは眠そうにうなずくとスカーレットを左肩に載せて、右手にはテディを持ってテーノに抱えられるように部屋に連れて行ってもらった。
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