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メイの冒険  作者: かんが
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第十五話 火の精霊

 本来、メイが精霊の愛し子であることは、この世界にやってきたときに精霊の力で守られていただろうことからもわかるように、もちろん良い面もある。

 しかしメイ自身が自分の魔力をコントロールできない為に周りには低級の精霊しか近寄れない。その為、基本的に少し運がいい程度にしかメイに作用ができていない。これでは逆にメイへの危険が増えてしまっただけのようだ。

 メイ本人に、彼女が精霊の愛し子であることを伝えることは大変重要であるとはゼノンにもテーノにも良くわかっていた。

 言わないでいてもいいことは何もない。本人が魔力をうまく制御し、精霊をきちんと使役できるようにしないとこのままでは身の危険に繋がる。


 日はとっぷりと暮れ、長歩きして疲れたのだろう、メイはちょっと眠たそうに目をこすっていたが、今日は大事な話がある。我慢して起きていてもらわないといけない。

 三人は家に入り、キッチンにある木の年輪がそのまま意匠となっている分厚くがっしりしたテーブルに座っていた。表面はゼノンとテーノが結婚したころからもうずっと使われてきたので綺麗な飴色にいくつも細かな傷がついているがそれも味わいになっている。壁にかけられた ランプに灯された火がゆらゆらと影を作る。

 テーノが淹れてくれたハーブティーを一口飲んでゼノンは何から切り出すか考えた。


 この3ヶ月ほどの間に、言葉を教えると同時にこの世界で生活していくうえで必要とゼノンが判断したものはテーノと協力して殆ど教えてきた。

 しかしそれらはドワーフ族の習慣をもとにしたもの。

 テーノが中心に教えていたのは食べられる種類の植物の見分け方。初めてみた食物を毒がないかテストする方法、飲み水を確保するために水が安全かテストする方法、獣や鳥をわなにかけるやり方。食べ物の調理法、衣服の縫い方、修繕の仕方も教え込んだ。体がどう考えても同じ年頃であろう一族の子供たちよりも弱弱しいメイをつれて森を歩いて、体力もつけさせてきた。

 ゼノンも、文字の読み書きができるようになったメイに、この世界の地理を、どのような民族がどうやって暮らしているのかを教えたり、星や日、そして月の位置から距離、方角を読む方法などを教えてあげていた。メイは自分でもゼノンの秘蔵の書物を許可をもらって読んだりできるまでになっていた。

 さらには一般のドワーフ族は特に細かくは知ることはないのだが、ゼノンは賢者として、暦を読むことも仕事のひとつであった。

 本来、メイにも教えるつもりはなかったのだが、彼女が月を毎日数えていたことから、彼女の世界では当たり前に暦を読むことを知り、メイにならば理解できるであろうと教えることにしたのだ。

 比べてみて面白かったのは一年の長さ。メイの世界地球では12ヶ月、365日で一年が巡るとか。ここでは地球と違い、一年が448日に及ぶこと、一年は16ヶ月。月は28日で一月とすること。季節は4つ。春夏秋冬それぞれ4ヶ月ごとに季節が変わること。ドワーフ族には時計の感覚がなく、一日を人間のように細かく分けていない。日が昇り、それから中天に昇るまでが午前中で日が落ちるまでを午後。日が昇ると起き、日が落ちると眠る。ドワーフ族は何千年もの間そういう暮らしをしていた。

 また、村での買い物の仕方、通貨について。これらはまだ実際に村に連れて行ったことがないので、メイは実践では経験していないが、硬貨の見分け方と、ドワーフ族として最も大事なことだが宝石であるそれぞれの輝石の価値の見分け方などを教えてあげた。

まだまだ教えたりないことはあるとは思っていたが、魔法については特に必要性を感じず、後回しにしていたことがここにきて問題となってしまった。


 メイの癒しの魔法を受けたときの反応、また普段から精霊の干渉を少なからず受けているにも関わらず、まったく気にした様子がないこと、それに魔法に関しての質問を今まで一切ゼノンたちに聞いてきたことがないことから推察されることがある。


 「メイ、お前はおそらく魔法が普通に存在していない世界からやってきたのではないかな。」


 この世界では魔法は一般的に云うと良く使われている。エルフ族はいまだに精霊の愛し子がもっとも多く、精霊使いもそれに伴い多い。とはいえ、最近はなぜか新たな精霊のいとし子の数が随分減っていると聞く。これも最近の退廃ぶりが悪く影響しているのだろうか?


 「もしも魔法が普通に意識に上るような生活環境からここに来ていたのならば、お前ならばおそらく魔法に関しても早いうちに質問をしていただろうね。」


 「そうね。それにこれが私たち誉れあるドワーフ族でなければメイももうすでに魔法には触れることが生活の中であったでしょうね。わたしらの中にいて普通に生活をしていたら魔法に触れることはまずないからね。」


――メイは驚いて目をぱちくりさせた。『マホウ』?しらない単語。


 「マホウ?」


 「おや、魔法のことも話していなかったのかい?まったくゼノンときたら。魔法は人間族にとっては基本だろ?きちんと教えておいてあげないとこの子が困るよ。」


 メイが魔法についても知らないことを聞いてテーノは片眉をあげて感心しないといわんばかりにために大きくため息をついた。


 「魔法は簡単に言うと、手足を使わずに頭と体内にある魔力を使って事象を起こすことをそういうんだよ。大きく分けて、精霊魔法、詠唱魔法、そして身体強化の3つの魔法が主なものだね」


 ゼノンは苦笑すると、メイに魔法について説明することにした。


 人間族は精霊の愛し子が出ることは大変少ない。その代わり呪文を使用する詠唱魔法は日常的に使わないもののほうが少ない。

 たとえば料理に火の魔法や、水の魔法を使ったりといった程度の低レベルの物ではあるが。

そして、なんといっても「魔法使い」と呼ばれる輩たちはこの人間族のうちの魔法を得意とするものが特にそう呼ばれている。

 魔法使いはその他の簡易魔法のみを使用できる一般の人間族と違い、攻撃的で、最近とみに中原に増えている魔物達との交戦時などに特に魔法を好んで使用する。


 四足歩行の獣族は遺伝的に呪文を使う魔法を使えるものはいない。この種族は特殊で個体毎に差はあるとはいえ、自分ではコントロールできない身体能力強化の魔法がほぼ生まれたときからかかっていることが殆どだ。訓練をつめばこの強化魔法もコントロールが利くようになるが、他者に対してかけることはできない。

 因みに人間族との混血である二足歩行の人型の獣族は人間族と同程度に詠唱魔法を使えるものも多いが、純粋な獣族と比べると身体強化が劣る。


――またすこし横道にそれるが、獣族と似て非なるものとして、聖獣、魔獣がある。

 聖獣は、その名のとおり、聖なるものであり、聖なる力を持っているとされる伝説の獣。

 魔獣は、その名のとおり、魔なるものであり、魔の力を持っているこれは伝説ではない獣。 魔獣は魔物の一種で、獣の形態をしているものが魔獣と呼ばれている。最近はちらほらと発見例が報告されており、近いうちにドワーフ族たちのすむこの森にも出てくることも考えられるので警戒が必要と言われている。


 話は戻るが、人間族、エルフ族、獣族と違いドワーフ族は本来、魔法を使える種族ではあるのだが、普段の生活に魔法を使うことはほぼない。使うのは魔力を秘めた石である魔石を加工するときと、鉱山での採掘時に地の魔法で空間を安全に確保することに一部のドワーフ族が魔法を使用する。


 テーノは自分ではコントロールできない獣族は良いとして、たとえば料理等日常生活の為に、詠唱魔法を使用している人間族や精霊を使役しているエルフ族などを思い出していやそうに首を振った。

 ドワーフからみたら、簡単に魔法を使用することは便利さに慣れすぎてしまいそうでおそろしい。魔法が万が一使えなくなったときなどに頼り切っていた反動がくるのではないかと考えできるだけ魔法を使わなくてもできることは自分でするようにしているのだ。



 「『魔法』か。うん。そういう言葉はあるけれど、わたしの周りには普通になかった言葉だわ。聞いたことがあるのはお話しの中と、『ゲーム』の中。わたしは使えないし、使える人も知らなかった。」


 『マホウ』を魔法だと認識したメイは今ゼノンとテーノに言われたことを頭の中で反芻してみたが、なぜ突然、ドワーフの中ではあまり必要とされないその『魔法』について、こんな時間に聞かせようとしているのか不思議に思った。


 「実は、お前にきちんと話しておかないといけないと思ってね。」


 ゼノンは、メイの考えを読んでいたかのようにそう言った。


 「今日は、遠くまで歩いていったけど、あの大木のもとで、不思議な体験をしただろう?あれは魔法の力なんだよ。」


 ゼノンはあの場ではまだ考えがまとまっていなかったので、伝えていなかった事実をメイに伝えた。


 「実はテーノとも話していたんだが、お前の周りには沢山の精霊が集まっていることに気づいたんだよ。お前は気がついていたかな?」


――『セイレイ』?また知らない単語。


 「精霊は、そうだね、この世界の中で実体を持っていないけれど、どこにでもいるものだよ。ただ、その姿を見ることは稀なんだ。メイが感じた癒しの魔法は大木に宿っていた木の精霊の力だよ。」


 「そうだよ、メイ。お前が来てから森の恵みを特に感じていたんだよ。あれもおそらく森の沢山の精霊の力だよ。それに庭に生えている草も、花々もどれも元気一杯だろう?あれも精霊の力である魔法が作用してると思うよ。」


 ゼノンとテーノは、メイに今まで見てきたそれぞれの精霊の力を説明した。

 メイははじめは目を見開いて聞いていたが、そのうち思い当たることをいくつも聞いてなるほどと納得した。

 メイにしてみれば異世界であるここでおきることは何もかもがそういうものだと思ってしまいがちだったため、もとの世界ならば不思議なことも子供らしい順応性の高さですっかり慣れてしまっていたことがいくつもあったので特にもう気にしていなかったのだ。


 「ほら、見てごらん。あのランプの光、ゆらゆら揺れてるね。でもちょっと面白いゆれ方だろう?じっと目を凝らしてごらん?お前にはきっと見えるさ」

 

 テーノが少し嬉しそうにランプのほうを指差しながら言った。


――なんだろう?メイはテーノが見てごらん、というからには何かが見えないといけないのだろうし、その前に「セイレイ」がどうとかって言ってたので、話の流れ的にこれは「セイレイ」をさしてるんだろうなぁ。


 メイはそのままがんばってじっと見ていたらなんだか目が痛くなってきた。メイがぱちぱちと目を瞬かせるとちょうど目をつぶる一瞬前に何かが見えた。


 「あれ?」

 

 目を開けるとまた消えていた。


 「むむ?」


気になる。すっごく気になる。


 「なんかいるみたいだけど、目を瞑る直前しか見えないよ。目また開けたら消えちゃった。これがセイレイなんだよね?」


 ゼノンはそれを聞いてにっこりと笑った。


 「ああ。それでいいんだよ。見ようとすると見えない。見ていないときに見える。それが精霊なんだよ。私やテーノが見れるのは幼いときから訓練をしているから。われらドワーフ族は火の精霊と地の精霊と触れ合って、今の採掘技術や石の加工技術を磨いてきたからね。とはいっても多種族ほど彼ら精霊に依存はしてはいないのだよ。必要なこと以外には魔法は使わず、技術を磨く。それがドワーフ族のやり方だからね。」


 「あの小さいのは私たちドワーフ族とは特に仲がいいやつらだから私も時々目にするけど、あんなに楽しそうにしてるのは初めて見るよ。」


 「精霊を見るためには、まずそこに精霊がいると自分で感じて認識することが大事だよ。」


メイは言われたとおりじっとランプのほうを目を凝らしながら見ていると何か動いたような気がした。それでもよくわからない。


――ずーっと見つめているのにちっともわからない。


 テーノはそこに精霊がいるって言った。だからきっとそこに精霊はいるのに。

 メイには見えない。何でだ?


――何で見えないんだろう?わたしには無理なのかな?っと残念に思いながらそれでも鼻がくっつきそうな位近寄ってじっと見ていたら突然火が大きくはぜ。

 メイは思わずしりもちをついてしまった。


 「びっくりした!あ!見える!なんだか見えるよ。小さい子がいるのが見える!」


 驚いたことが良かったのか、突然精霊を目にすることができてメイが大喜びした。


 「ハハハ。そのこは随分短気なようだね。メイがなかなか見てくれないからこっちを見てくれと自分からサインを送ったんだよ。見ようとしても見えなかったのに、精霊が見てくれって言って見えるようになるなんてなかなか珍しいね。」


 メイはあまり褒められた気がせずなんだかちぇっと唇を尖らしてみたがそれでも精霊を見れるようになった喜びには勝てなかった。


 「一度精霊を認識したならばこれからはいつでも見れるようになるよ。特に精霊の存在を信じて見ることが一番大事だからね。」


 ゼノンはそう言ってメイの頭をなでた。

 メイはゼノンに頭をなでてもらうのが好きだ。パパを思い出す。ゼノンを見上げてうれしそうにメイは微笑んだ。


 それにしても、本来、精霊を目にすることはかなり珍しい。

 魔力が高くとも精霊が見えるかどうかは相性があり、ドワーフやエルフなどの妖精でも一部のものしか精霊を見ることは出来ない。

 ゼノンたちはメイが精霊を見れるようになるだろうことは彼女が精霊の愛し子であることから特に問題はないだろうとは思っていたが、また同時に彼女は違う世界から来たこともあり、 もしや見えないこともあるかもしれないとも思っていた。


 メイは初めてみたその精霊に興味を持ってもう一度ランプのほうまで近寄ってみた。

 ランプの火の中に真っ赤な服を着た小さな小指の先ほどの女の子がくるくる踊っている。

 彼女は火の精霊にふさわしい燃え立つような赤い火でできた髪の毛をうねらせている。顔立ちは、白目がなく真っ赤な目をしていてちょっと勝気そうに釣り目をしている。しかし目以外はあまり大きな特徴がない。そして体全体がぼんやりと光っている。


 「その子は火の下級精霊だね。体も小さいし、あまりはっきりと姿が見えないね。」


 テーノが興味深そうに精霊を見ているメイにそういった。


 「なんだか精霊ってかわいいのね。あなたお名前は?」


 メイがそう話しかけると火の精霊は不思議そうにメイを見つめ返してその後くるりと体を翻した。


 「メイ、その子は下級精霊でもかなり下のほうだから思念波はつかえないし、精霊には個体としての意識はあまりないんだよ。だから彼らには名前はないんだ。」


 ゼノンがそう説明した。


 「名前ないの?それじゃ、英語だけど、私の世界の言葉でその服の色、スカーレットはどうかな?」


 「だめだ!メイ!」

 「メイ!だめだよ!おまえ名付け親になっちまうよ!」


 メイが名前をつけようとしていることに気づいて二人はあわてて止めようとしたが遅かった。

 メイは二人のあわてぶりにきょとんとしていたが、あまりに二人があわてているので困ってしまった。


 (『すかーれっと』?ナマエ?)


 頭の中に響くように聞こえてきた声にメイが火の精霊のほうを振り向くと小指の先ほどの小ささだった彼女が今は手を広げた位の大きさにまで背が伸びている。


 「え?大きくなったの?」


 メイは驚いてゼノンたちに振り返った。

 ゼノンとテーノも驚いてしまった。


 「もう、あんなに成長してしまったわ!」


 テーノが驚いてそうつぶやいた。


 「困ったな。」


 ゼノンはそういうと深く考え込んでしまった。


 「わたし、悪いことしてしまったの?」


 メイは二人の様子に困ったようにそういうと、火の精霊スカーレットを見た。


 (ゴシュジンサマ、めい。ワルクナイ。すかーれっと、めいダイスキ)


 スカーレットはそう思念で伝えるとメイの肩の上に飛び乗った。スカーレットの真っ赤なドレスは先ほど布切れをただ巻いていたようなものだったの今はワンピースといっていいつくりになっており、顔立ちも大分はっきりとしていて表情もわかるようになっていた。その上、すでに思念波まで使えるようになっている。


 「メイ!やけどしちまうよ!」

 テーノは驚いてスカーレットを追い払おうとしたらスカーレットが怒って火の力を増して今にもテーノに襲い掛かろうとしていた。


 「スカーレット、やめて!テーノはわたしの心配してくれただけだよ。テーノも、わたしは大丈夫だから。スカーレットはちっとも熱くないよ。」


 実際スカーレットはメイにはまったく熱を感じさせなかった。テーノは疑わしそうにスカーレットを一瞥すると、恐る恐る手を近づけてみた。


 「あつ!」


 思わずテーノは大声を上げてしまった。少し手を近づけただけで、やけどしそうにあつかった。


 「テーノ!」

 「大丈夫か?」


 ゼノンとメイはあわてて声をかけると片手を抑えながらもテーノはにっこりと安心させるように微笑んだ。


 「どうやら、ご主人様にのみ熱を感じさせないようだね。それにしてもこんな森の中でうっかりあちこちを焼いてしまわないように気をつけておくれよ」


 メイがやはり大丈夫そうなのでそういった。


 「ごめんね、テーノ。でもどうして名前をつけるのそんなにいけないことなの?」

 

 まだ子供のメイにしてみれば小さな精霊はかわいらしい人形のようなもの。自分の人形に名前をつける感覚で簡単につけたのだが。


 精霊はゼノンが言ったようにそのままでは個としての意識はない。全体の中の一部。火の精霊は火の精霊としての意識しかなく、特に目的も何も感じていない。

ところが、名前を持ったとたん、精霊は個として独立しまう。

 個となった精霊はもう全体の一部としての精霊には戻ることは出来ず、常に名付け親と共に行動をしなければ今度は個としての存在意義を失い、もう全体の一部に戻ることも出来ないまま消えてしまう。

 名前をつけられてから、精霊は新たな生活を余儀なくされてしまうのだ。

 また魔力を全体の一部として受け取ることが出来ないため、個となった精霊はそれからは常に主人となった名付け親から魔力を供給してもらわないとこれまた消えてしまうことになるのだ。

 つまり、メイはこれからこの小さな下級精霊を養うために魔力を常にあげないといけないことになる。


 「だから、簡単に名付け親にはなってはいけないのだよ。お前は幸い『精霊の愛し子』と呼ばれる、精霊に好まれるものであったためにそれほど負担はかからないとは思うけど、無理に名付け親になったりすると、自分の魔力を大半以上奪われて、日常生活に支障が出るものが殆どなんだよ。それ位、名付け親になることは自分の魔力を常に消費してしまうことになるのだからね。これから他に精霊を見ても簡単に名前をつけるのではないよ。」


 メイは素直にうなずいた。下級とはいえ、精霊を養うための魔力の消耗は本来随分と激しいのだが、幸い精霊の愛し子であるメイは車とガソリンで言うところの燃費がよい器であり、このちっちゃな精霊を一人養う位実はなんともなかったが、メイには魔力をきちんとコントロールする力がない。このままでは上手にスカーレットに魔力を渡すことが出来ないかもしれない。ゼノンたちにしても前例を知らないので、慎重に越したことはない、と思っていたのだ。


 「お前がきちんと自分の中の魔力を制御できるようになればいくらでもお前が世話が出来る範囲で名付け親になればよいが。今のままではおまえ自身にとっても危険だが、精霊たちにとっても危険になってしまうのだからね。」


 ゼノンは内心、かなり驚いていた。

――それにしても、精霊の愛し子とはすごい力だ。下級とはいえ、すっかり火の精霊を使役してしまったんだから。そのうえ、下級精霊を名づけだけで思念波が使えるほどに成長させてしまった。

 それにあの小さなスカーレットはもうすでにメイを守るためにいつでも魔法を使おうとしている。あの子の周りの危険を考えたらこれは良かったのだろうか……。

 下級とはいえ精霊は本来かなりの力を秘めているはずではあるが……。


 メイが魔力を制御できるように急がなければ。


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