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メイの冒険  作者: かんが
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第十話 精霊の愛し子(前)

テーノはメイが思ったよりも元気そうなのでほっとしていた。

メイは背中にテディを背負ってゼノンと仲良く手をつなぎ、楽しそうにおしゃべりをしながら森の奥から帰ってきている様子を見てくすりと笑った。


あの、ゼノンが小さな人間の娘の手を引いて森を歩いているなんてあの子達が見たらなんていうだろうねぇ。

テーノはもうひとり立ちしてしまった子供達が帰ってきたらどれほど驚くかと思ってくすりと笑った。


ゼノンとテーノの子供は男ばかり3人。

もう、所帯を持っているのは一番上の息子のアルツだけだった。アルツが独り立ちしたのは彼が10歳になった年だったので、もう30年にもなる。それから結婚して可愛らしい嫁のバーダをもらってからも10年ほどしか経っていない。二人に子供が出来るのはまだまだ先になることだろう。というのも長寿なドワーフ族はあまり子供がすぐにできない。まだほんの40歳になったばかりのアルツはまだまだ父親になるには早すぎるだろう。そのアルツは大多数のドワーフの若者同様鉱山で働いているが、賢者である父に一番似たのか賢く、その上地の魔法も使えるとあって、鉱山でも頼りになる技術者として働いていた。


次男のべルノはドワーフとしては珍しく、森で木こりとして働いている。彼も独立してもう20年は経っているが所帯はまだ持っていない。兄弟でも一番腕っ節の強いベルノはてっきり鉱山で働くものだとばかり思っていたのに、集団で働くのが嫌だときこりになる道を選んだときはゼノンもテーノも随分驚いたものだった。とはいえ、なり手の少ない森のきこりは周囲には喜ばれて、結果的にはもちろん体力の要るきこりの仕事は彼にぴったりといえた。


 三男のマルスはまだ独り立ちしてから数年しかたっていない少年だ。高名な細工師の下で修行中の細工師見習いとして頑張っている。マルスはまだもっと幼いころから工作が得意で綺麗なものが特別好きな少年だったので、細工師の道を選んだことはベルノのときと違って両親共に納得のいく選択だった。しかし、なんといってもドワーフ族にとどまらず、世界でももっとも高名な細工師として有名なガドルの下で細工の道を学べるようになったと本人から聞いたときはさすがに驚いたものだった。ガドルは弟子を取らないことでも有名だったので。


 三人の息子たちは、実家に帰ってくることはもう独り立ちしてしまったので殆どないが、いつか彼らにこのかわいい人間の娘を見せにいってあげたいな、などとテーノは幸せに考えていた。

_________________________________________


メイはゼノンに帰る道すがら、ドワーフ族に伝わる伝承をいくつか話してもらっている間にいつの間にかもう赤い屋根のお家に近づいてきたことに気が付いた。

テーノが庭の手入れをしながらこちらを見て微笑んでいる。


 「テーノ、ただいま!」


大きな声でテーノに声を掛け思いっきり抱きついた。テーノは小柄ながらもふくよかで暖かくてメイはテーノに抱きしめてもらうのが大好きだった。

テーノが何か楽しそうに笑っているのを見て芽衣はなんだか分からないが嬉しくなったのだ。


「おかえり。メイ、ゼノンと一緒に森のお散歩は楽しかったかい?」


テーノはそんなメイをぎゅっと抱きしめ返した。彼女はもちろん二人がゼノンがメイを見つけた場所まで行っていたことを知っていたが、楽しそうな二人の様子にそのことには特に触れなかった。ゼノンは妻が自分達が手をつないで歩いていたのを見て微笑んでいたのに気付いていたが、なにを思っておかしそうにしているのかは気付いていなかった。彼自身は妻がであって3ヶ月ほどの小さな人間の娘に注ぐ惜しみない愛情を感じて同じよう暖かな気持ちになりながら、普段は物静かで奥ゆかしい彼女が自分達の子供等が小さかった頃にもあのようにストレートに愛情表現をしていたなとほほえましく見ていた。


 「うん。森の奥の綺麗な泉のところには見たことないお花が沢山咲いてたよ。カノの実はなんかあっちの方がもっと赤くて大きいし、大きなウサギや、鳥もたくさんいたよ。それから…」


メイは一度大きく瞬きをした後、テーノの目を見た。


「すっごく大きな木を見たの。その綺麗な泉のそば。こーんなに大きいの。てっぺんまでは首が痛くなるまでぐっと見上げても見えないくらいすっごく高くて、枝がたくさんあってきらきらした綺麗な緑色の葉ぱがたーくさんついてたの。」


テーノも行った事がある森の一番大きな木のことを思い描いていると、ゼノンがゆっくりとテーノに近づいてくる。


「ゼノンがわたしを見つけたのはそこなんだって。あんまり綺麗な場所でびっくりしちゃった。でも、たくさん枝も折れて葉っぱも落ちちゃったんだって。わたしが落ちてきたから。わたしの事守ってくれたみたいだって、ゼノンが言ってたわ。たくさんたくさん枝も、葉も落としてしまっただろうけど……」


 メイはそのことに罪悪感を覚えているのか、少し肩を落とした。

 「だから、ありがとうってお礼を言ったらすっごく優しい気持ちをくれたの。なんだかふわふわする暖かくてくすぐったいものがぶわってきたの。そしたらちょっと勇気が出た気がしてなんだか頑張ろうって気持ちになったわ」


 メイはその後、思い切るように一気にそう言って、興奮したように頬を紅潮させていた。『 暖かくてくすぐったいものがぶわっと?』なんとも子供らしい表現だが、それならテーノにも似たような経験があったので、気が付いた。

 少し伺うようにゼノンに目線を送って見るとそうだというようにテーノにうなずく。

 まだエルフ族とも仲が良かった子供のころに一度……。その感覚は『癒しの魔法』ではないだろうか、とテーノは思ったのだ。癒しの魔法といっても、今メイが話していたのは精神的なものを癒すというか慰めるごくごく初級の魔法ではないだろうか?ドワーフ族は癒しの魔法は苦手でほとんど使えない。とはいえ、この初級の癒しの魔法ならば少しは使えるものもいる。大体、ドワーフ族で魔法が使えるものは鉱山で採掘時に使われる地系の魔法か、採れる石を加工する火系の魔法を得意とするのがほとんどだ。

ドワーフ族では怪我をしたときも癒しの魔法を使えるものはほぼいないので、薬草を使った治療が通常だ。そして賢者と呼ばれていたがゼノンも魔法の行使に関してはあまり得意ではなかった。

 では誰が初級とは言え、癒しの魔法を?


「大木だよ。」



九話が随分と短かったので、十話を少し早めにアップしました。

何か、おかしな部分お気づきの方がいらっしゃったらどうぞお気軽にお知らせください。

ありがとうございます。

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