シュールウェルダン☆〜〜駝鳥〜〜☆
焼きました。
「大丈夫だ、お前なら焼ける」
「でも……先輩、俺……」
「いいんだ。焼いてみたいと言ってただろう? 今、遂にその時が来たんだ」
「っ! でも、で、も……おれ……無理です、俺なんかが……」
「勇気をもて! お前には良く焼ける!! 焼くんだ! 今だ、焼けー!!」
ジュぅうぅわぁぁあん
「焼けるじゃないか、よし、もっとだ! 焼けーー!!」
ごぉおおおぉおん ぼぉぉああぁァぁ
「あ、あ、あ……こんな……俺、こんな……」
「……立派だったよ、お前。こんなに焼けてる。こんなにこんがりと沢山、な。……あぁ、もう、いい。十分だ。……ありがとうな」
「ほんとに……これで良かったんですか……先輩、オスミ先輩……、俺、俺、こんな焼き方……」
「お前のおかげで俺の魂には火が点いた。俺が望んだことだ。お前は良くやったよ。あーあ、楽しいなぁ。焼き終わっちまうのがもったいねぇや」
竹林の中の拓けた休憩所。
辺りには、一面の七輪とその上で煙をたてるダチョウのウェルダンの肉が広がっていた。
飢えた人魚と河童がやきにくのニオイにつられて川からザバザバと現れ出ては、よくやきにくーーウェルダンのダチョウ肉ーー、を、かっさらっていく。
どの七輪の上からもどんどんとその質量が失われていった。
肉に齧り付く河童と人魚、燃える七輪、焼け焦げた臭い、ザッぶんと派手な音をたて波立つ川面。
「オスミ先輩……」
「お前は初めてだもんな、少しキツイよな。……でも、仕方ねぇ。いいか、あのダチョウは高速を走ってた。ここは日本だ。だがどこに問い合わせても脱走先の牧場なんかは分からなかった。研究機関なんかで飼われてるのも、動物園でも判らねぇダチョウだったんだよ。……いいか、こんなことは、1年に何回も有るんだ。自然なんだ。天からの恵みってヤツなんだよ」
七輪の中のオスミ先輩は言う。
「お前、ダチョウが高速走り始めた頃に『あの鳥はすごい、料理にしたらどんな風になるんだろう、僕やってみたい……』って言ったじゃねぇか……俺の尻を掴みながら。だから良いんだよ、それに見付けたヤツが焼く決まりもあるだろ。な。ほら、しかもみーんな、旨そうだぜ、見ろよ、アイツラあんなにがっついてやがる」
「……でも! でも、オスミ先輩が……!!」
七輪の中でオスミ先輩は笑う。
「あぁ、俺も満足だぜ……磨られるのにはもう、コリゴリしてたんだ。実際、いーい気持ちだよ、今……」
墨の付喪神となり、炭へと変化したオスミ先輩のたてる煙は沈香のにおいも微かに漂わせていた。
香と煙は竹林の遥か上、ダチョウが降ってくる空に向かって上っていく。
地上には臭気が溜まって、七輪の中のオスミ先輩の欠片たちは少し縮こまっていっていた。
「……なげぇ墨生だったけどよ、さんざん磨られて来たけどよ……そん中でもお前さんは格段に丁寧な扱いをしてくれたお人だったよ……大事に磨ってくれてありがとうな、坊っちゃん。でもよ、俺は……まだ蔵にある分も相当あるし……いっぺん、こういうのやらして貰いたかったんだ」
「……先祖代々伝わる家宝の墨を割らされて、磨る以外の使い方させられる俺の身にもなってみてくださいよ……」
坊っちゃんは遂に泣き出した。
「悪かったなぁ……でも、もう、俺は墨じゃねぇ……長く大事にされて、化性になったばかりか、炭にまでなっちまってるんだ。なぁ、泣きながらで良いからよ、坊っちゃん、ほら、お前もお食べな。俺らがやってのけた大仕事のやきにくをよぉ」
坊っちゃんは泣きながら河童と人魚が避けていた一番香木臭い小さ目のやきにくを選び、口に含んだ。
ーーー坊っちゃんの家の私有地である、広大な山林の中の一画にある、神仙や幻獣や妖怪、絶滅されたとされる生き物たちを匿う為に造られた、格式高い秘密の竹の御庭で、シャワシャワとした葉擦れの音を耳に聴きながら、育ちの良さを丸出しにして、お上品に銀のナイフで肉を恭しく切り取って洒落極まった小皿に乗せてからーーー
ぱくり、と。
「はん……。どうだい、坊っちゃん……俺と焼いた至高のニクはよぉ……」
河童と人魚は食べ終わり川に帰っていた。
辺りには竹の葉擦れがシャワシャワと翠に涼やかな音を奏でるばかりだ。
坊っちゃんは俯いて長いこと黙って、しみじみと肉を咀嚼し味わっていた。
食事の最中にはお喋りなんかは出来ない。イイトコの出が思い切り悪く対話の邪魔をして、少しだけ陽が傾きかけている。
なぁ、感想を聞かしてくれよ。俺たちはいい仕事が出来たんだろう? と、したり顔をしている共同作業炭に応えにくそうに坊っちゃんは俯きを深くしている。
「……坊っちゃん、まだかい……?」
じれたオスミさんは少しだけ坊っちゃんを急かしてみた。
ーー竹の葉はシャワシャワとみどりいろに辺りを流すーー
「……、……」
ーー空は蒼穹一色の晴天ーー
「…………これ…………」
「あぁ、やっと喰い終わったか、坊っちゃん。……さ、どうだい? どうだったんだい……」
「……。と」
「は、はは、そうか、うんっと美味いのかい!」
「あ、ええっと……、違っ……、て? うん、あの……、こ、これって……、と、と、ととり……! や、やき……やき、と、……り?」
「?……うん??」
西日が茜を差し掛けてきた。シャワシャワシャワと竹は囁やく。
もう、万象が坊っちゃんの細面の中の柳の眉の微細な動きにまで釘付となっていた。
嘘偽りのある言葉は一言も許されない、神域のような雰囲気が張りつめている。
ーーねぇオスミさん。これ、やきにく、じゃなくって『焼き鳥』って言うんじゃないかなーー
悩み果てた末に、坊っちゃんは決心してムグムグと噛み切りにくい『よくやきダチョウ肉』を嚥下してから、気不味そうにそう呟いた。
オスミさんのチカラ
↓作ってる時の作者の気持ち↓
やきにく……、ダチョウ……。
焼き……スミ……、河童はぜったいに実在する……みず……、人魚……。 やき……、やき、やきに……、ん? あれ? ダチョウ?!
……まあ……、いいか……。




