採用面接
「では、あなたが大切にしているものを教えてください」
心の中で、私の中の悪魔が舌打ちした。
『は? それ面接に必要な質問なのかよ?』
慌てて私の中の天使が悪魔をなだめる。
『人間性を見てるんでしょ、怒らないの』
「私が大切にしているのは、飼い犬です。シュンという名前のハスキーの男の子で、三歳になります」
私は事前に用意していたかのように淀みなく答えた。面接官はニコリともせずに机の上の紙をめくった。
「では、犬が亡くなったときには仕事を休む可能性があるということですね」
それを見て、天使も悪魔も激昂した。
『はああああ? アイツ血も涙もねえぞ!』
『大切な存在がいなくなったときの話なんてするもんじゃないよ!』
私は心の中での叫び声を全く表に出さず、顔色も変えずに答えた。
「そうですね、ありえないとは申し上げられません」
「犬ごときで休まれるのはこちらとしては困ります」
心の中で静かに悪魔が言った。
『もうここに火を放とうぜ、こんなとここっちから願い下げだろ』
天使がやんわりたしなめる。
『机蹴飛ばすくらいにしておこうよ、どうせ落ちるのはわかったじゃない』
私は言った。
「あなたのご家族は何人ですか? 健康ですか?」
「三人家族です」
面接官は顔色を変えない。
「家族が死んでも、お仕事は休まれないんですよね。素晴らしいなあ。ご住所教えていただいても?」
私は鞄からハサミを取り出して手の内で弄び始めた。
「そのハサミをしまいなさい」
面接官は若干引き攣った顔で私を見つめている。
悪魔が拳を突き出した。
『いいぞ、やったれ!』
『やりすぎだよ……でもスッキリするまでやろう』
天使も賛同する。
私は満面の笑みで言った。
「忌引きもない会社でうまくやれる気はしません。こっちから願い下げです」
面接官は言葉もない。
「面接ありがとうございました」
鞄を引っ掴んで大股で部屋を出た。パンプスがカツカツと鳴る。扉を思い切り閉めて、やっとスッキリした。
「ふざけんなよ、殺すぞ」
思わず独りごちる。
『殺しちゃえばよかったのに』
悪魔が笑った。
『あんなののために刑務所に入る必要はないよ』
天使も苦笑いする。
「あーあ、ゲーセンでも行くか」
私はひとつ伸びをして歩き出した。




