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東京都蠱毒区  作者: 結城 からく


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前編

 けたたましい銃声で俺は目覚める。

 窓の外からは、誰かの怒声や悲鳴、笑い声が絶えず聞こえてくる。


「朝から元気だな……」


 既に慣れているとはいえ、不快に感じないわけではない。

 ベッドから起き上がった俺は、眠い目をこすりながらカーテンを開ける。

 そこには地獄絵図が広がっていた。


 刃物を持った男が空を飛び、逃げ惑う者を斬り殺していた。

 その男を別の誰かが撃ち殺す。

 激しく回転するトラックが軌道上の人間を轢き潰した。

 蛇の形をした炎が這い進んで近くの建物を無差別に焼き尽くす。

 体長数十メートルの怪獣が口から光線を放って地面に大穴あを開けていた。

 空中浮遊するビル群は、バラバラに解体されながら彼方へ飛んでいく。


 冗談みたいな光景が延々と繰り広げられている。

 まるで映画だが紛れもなく現実であり、東京都蠱毒区の日常だった。


 東京が二十四区になったのは、十数年前のことである。

 突如として落下してきた隕石を中心に、付近一帯の物理法則が歪んでしまった。

 簡単に述べると、人間が妄想や願望、精神力で異常進化を遂げるようになったのだ。

 しかも他者を殺せば殺すほど、その力はどんどん増していく。

 ここが蠱毒区と呼ばれる所以だった。


 以来、日本の構造は変わってしまった。

 殺戮の嵐が吹き荒れる東京から国民は避難し、首都も京都になった。

 当初は政府が鎮圧を試みたそうだが、作戦はすべて失敗したのである。

 結果として東京は放棄され、常に殺し合いが勃発する世界一の危険地帯と化した。


「今日も滅茶苦茶だな……」


 観戦しながらぼやいていると、遠くから迫る飛来物に気付く。

 それがミサイルだと認識した瞬間、凄まじい爆発が部屋を襲った。

 熱と光、衝撃波に吹っ飛ばされた俺は一瞬だけ意識を失う。


 目を開けると部屋はボロボロで廃墟みたいになっていた。

 俺自身も全身に火傷を負っており、左腕に至っては丸ごと無くなっている。

 爆発で千切れ飛んだのだろう。

 俺は大量の血を吐きながら嘆息する。


「まったく……」


 傷口から肉が盛り上がり、高速で再生を始めた。

 火傷も新しい皮膚が覆って瞬く間に消える。

 死なないことに特化した俺の肉体は、優れた回復能力を持っているのだ。

 この程度のダメージは掠り傷にも満たない。


 再生が完了したタイミングで、壊れたベランダに誰かが着地する。

 それは黒い軍服を着た赤髪の女だった。

 女は俺を指差して叫ぶ。


「宍戸ォっ! おはよう! 良い朝だなッ!」


 悪意のない笑顔を浮かべる彼女の名前は、薬木贄子。

 区内でも五本の指に入る実力者だった。

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