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第3話「動物はなんでも知っている」

第3話「動物はなんでも知っている」



――私たちは依頼者の館にやってきました。


 寒気が勢いを増し、初雪がパラパラと落ちている。前庭には白い物も見えました。


 荘厳な屋敷の玄関前。重そうな扉のノッカーをたたきました。しばらくして、扉が開き、青白い顔をした薄毛の老人が現れました。


「どうも、依頼で参りました、探偵のウマシカと申します。ご主人は」


「わたしが館のあるじ、ジャーマン=オーダイです」

「これは失礼」これだけの屋敷だと執事あたりが応対にあたると思いました。


「なかへ」

 言葉少なく、私たちは玄関わきにある談話室へ通せられました。品のいいテーブルセットの長椅子に腰を下ろす。壁には値が張りそうな絵画が飾っておりインテリアも悪くない。


「お茶をいれてきます」館の主は部屋を出て行った。

 私と助手くんは顔を向き合わせた。「変ですね。人の気配がしません」助手くんの直感。「そうですね」


 ふいに談話室の窓カーテンの隙間から猫が現れました。猫は私たちの姿をみとめると、すばやくカーテンの裏に隠れてどこかへ行きました。


「お待たせしました」テーブルの上に紅茶がおかれる。「いただきます」私と助手くんはティーカップに口につけた。

「紅茶はあまり、飲んだことがありません。おいしいです」助手くんは味わうように紅茶をすすっている。

「おかわりもありますよ」主の声。助手くんに柔らかな声をかける。


「それでは、依頼の詳しい内容を聞きましょう」私はティーカップをそっとソーサーに置いた。


「書面でお伝えしましたが、最近、使用人たちがつぎつぎと消えていきます」「思い当たるところは」

「賃金の問題でしょうか、はたまた労働環境が悪かったのか」一見して悲痛な表情だ。

 私は(消えて)という表現に違和感を覚えました。


「調査のために、使用人たちが使っていた部屋を見せてもらえますか」

「分かりました」私たちは、談話室から廊下へ出た。


 廊下はずいぶん薄暗かった。常夜灯もまばらにしか点いていない。


「えっ」ふいに助手くんが立ち止まった。「せ、せんせい! あれ」

 なんと廊下の向こうからライオンがこちらに歩いてきます。口には人間と思わしき手首をくわえている。

「ぎゃあああ」助手くんの声。


「・・・慌てないで下さい。アレは我が館のペットです。人に危害は加えません。くわえているのはおもちゃですよ」


「なるほど、異国には猛獣をペットとして飼っている富豪がいるとか」

「さすが探偵さんだ。博識でいらっしゃる」「さすがせんせい!」

 実際、ライオンは少しうなると、廊下の反対側へと走り去っていった。


「ここです」私たちは使用人の部屋の前に立った。

 館の主が扉を開ける。


「何も見えません」助手くんの声。「そうですね」部屋は暗闇だった。

「すこしお待ちを」主が入り口近くの備え付けてあったランプに火を付けた。薄明かり中、部屋の様相が浮かび上がる。

 部屋には家具が一切無く閑散としていた。目をこらすとカーペットの上に白い斑点が見受けられた。その時。


「ギエエェ!」明かり取りの窓から奇声が響き、何かが飛んできた。

「ぎゃあああ」助手くんの声。それは主の肩へ舞い降りた。


「あ、あ、ワシだ! 目玉をくわえている!」

 助手くん、説明ありがとう。「くわえているのはガラス玉ですよ。これも我が館のペットです」主の目が怪しく光る。「びっくりしたぁ」助手くんはまだ、夢の中ですね。


「調べる箇所もないようですね。館の奥を見せてもらいましょう」「え・・・ええ構いませんが」


 私たちは廊下を奥に進みました。行き止まりにある扉が開かれる。厨房らしきところに出ました。


 ティーポットと鉄瓶がある以外、なにもないガランとした厨房。「人間の死体でもあるかと思いました」助手くんもだいぶ、夢から覚めてきたらしい。


「悪い冗談を」主の顔がひきつる。改めて見わたすと、奥になにやら扉がありました。倉庫かな。手垢のついたドアノブに手をかける。ガッ。開かない。「そこはだめだ!」主は叫びましたが無視しました。錠前がかけてある。「ペルシア式か」私はポケットから針金を取り出しました。「やめろ!」「ああ、ルーフくん、主を止めて」「はい、せんせい」助手くんは主を羽交い締めにした。「簡単な錠です」扉を開け放ちました。そこには・・・。


「なにもないですね」主を抱えたまま床を見る助手くん。「そうでもないですよ、よく見て下さい」

 薄明かりが差す倉庫の棚には大量の缶詰が置いてありました。

「なんですか、これ」主を解放した助手くんが缶詰を手に取る。

「『愛猫のすこやかな健康と栄養の補給に』・・・猫のねこかんですね!」そのとき、遠くから小さな足音、羽ばたきの音、ドタドタとした足音、雑多な音が聞こえてくる。


「困りましたね。エサの時間と勘違いされたようです」

 厨房に猫や、犬や、カラスの群れが飛び込んできました。


「あっ」主は膝をついてうつむいている。


「逃げますか、それともエサをあげますか?」助手くんに問う。

「冗談じゃないですよ! せんせい」


「じゃ、逃げますか」私たちは廊下に躍り出た。

 玄関へ向かう。動物たちが私と助手くんの脇をすり抜けていく。


 バタンっ! 玄関の扉を閉めました。屋敷の中からは何も聞こえてきません。


「はぁはぁ、何だったんでしょう」

「まあ、夢のかけらでも見たのでしょう」

「? せんせいには何でもお見通し・・・じゃ、ないですよ。誤魔化されませんよ。ライオンと鷲がいましたよね」

「いましたよ。いや、居たんでしょうね」

 助手くんはあきらかに不満げな表情を見せている。

「あ! せんせい、依頼料は?」

「私は何の事件も解決してませんよ」


 街道につづく雪に覆われた縁石を踏みしめる。

 ふと、前庭を見わたしました。そこにはかつて猛獣だったモノの眼窩が私たちを見ている気がしました。



第4話「すいません考え中です」へ


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