表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/8

龍の秘薬

相変わらず、太郎は庭で雑草を抜いていた。

女神たち神々が「好意」で用意した、恐ろしく生命力の強い、しぶとい雑草を。

そこへ、空を覆い尽くすほどの巨大な影が差した。

シュナイハだった。

「おお、我が主!」

シュナイハは、太郎の家より遥かに巨大なその古龍の巨体でありながら、目にも止まらぬほどの俊敏な身のこなしで翼を畳み、太郎の眼前で、巨大な犬がするように「伏せ」の体勢をとった。

その鼻先だけで、家屋が隠れてしまうほどだった。

「シュナイハか。大きくなったな」

太郎は、目の前に迫る巨大な龍の顔にも動じず、そう言うと、土のついた手で、そのゴツゴツした鼻先を優しく撫でた。

「主ッ!」

シュナイハは、歓喜にその巨体を震わせ、その溶岩のような瞳から、ダイヤのように輝く大粒の涙を流した。

その様子を横目で見ていたミハドは、即座に家からバケツや鍋を持ち出してきた。

そして、スキル「サバイバル」に導かれるまま、シュナイハが流す歓喜の涙を、一滴残らず集め始めた。

古龍の涙。

それは、この世界において「龍の秘薬」と呼ばれ、たちどころにどんな傷や病も治し、死者さえ蘇らせると言われる、伝説の霊薬であった。

わたくしが来たからには、ご安心ください!」

シュナイハは、太郎に撫でられながら、その地響きのような声に歓喜を滲ませた。

「いかなる者も、主の邪魔はさせません。主は、気の済むまで、この草を抜き、茶を飲んでくださればいいのです!」

(……それで、本当にいいのだろうか)

ミハドは、バケツに溜まっていく霊薬を眺めながら思った。

だが、もちろん、彼はそれを口には出さない。

口に出せば、目の前の古龍によって、即座に命が危ないと、スキルが警告し続けていた。

「ありがとう、シュナイハ」

太郎はそう言うと、巨大な龍が目の前で伏せているという異常な光景にも関わらず、再び目の前の、まるで大樹の根のようにしぶとい「神の雑草」との格闘を再開した。

世界の均衡が、また一つ、明らかに崩れ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ