古龍の叱責
巨龍は、その巨体をゆっくりとミハドの前に移動させ、樹上のミハドを、溶岩のような瞳で見下ろした。
ミハドは、その圧倒的な存在感と、どこか懐かしい気配に、一つの名を口にした。
「……貴方は、もしや、シュナイハか?」
「その通りだ」
古龍と化した長老は、その地響きのような声に、隠しきれない怒りを滲ませた。
「主の危機に、居ても立ってもいられず。主を守る龍として、この世界に参ったのだ」
それは、先程、「風の導き」のシーカーであるミシャラのサーチが、女神の張った「家」の結界に触れた、まさにその瞬間だった。
彼もまた、あの女神によって、主の平穏を守るという「役割」を与えられ、この異世界に転生させられていたのだ。
勇者や魔王にさえ匹敵すると言われる、最強の守護者たる「古龍」として。
万能の世話役ミハドが生活を支え、最強の古龍シュナイハが外敵から守る。
そこまでして、太郎に草を抜かせていたいのか。
まさに、神々の必死さが窺える陣容であった。
「……申し訳ありません」
ミハドは、樹上から音もなく地に降り立つと、古龍の前に膝をつき、しおらしく謝罪した。
「申し訳ありません、だと!?」
シュナイハの怒りが爆発した。大地と大気が、その声だけで震えた。
「主の平穏を守るべき立場の者が、侵入者を許したばかりか! 主の身に危険が迫っているというのに、手をこまねいておるとは!」
古龍の巨体が、怒りで身じろぎする。
「そんなに己の命が惜しければ、貴様はこの世界から去れ! あの女神とやらが、代わりの者をすぐに連れて来るだろう!」
シュナイハの怒りは、心頭に達していた。
その、山をも砕くかのような怒声に、あのミハドが、たじろいだ。
彼は、自らの不甲斐なさよりも、この状況を作り出した女神を、心の底から憎んだ。
(もし、今の貴方が、この古龍と戦えば。生存確率は、0%です)
ミハドのスキル「サバイバル」が、無情にも、絶対的な絶望を彼に囁いていた。
「……申し訳ありません」
ミハドは、そう言って、深く頭を垂れた。
謝る事しか出来ない男が、そこに居た。




