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女神の懇願

「お願いだからやめて!」

太郎がミハドとの「調達」を決意した、まさにその夜。

太郎の夢枕に、あの転生の間で会った女神が、半泣きの形相で再び現れた。

「雑草なら! 雑草なら、これから貴方のペースで好きなだけ抜ける様に、神の力で無限に生やしてあげるわ!

それに、庭で作物を育ててみたらどうかしら? 未知の作物を育てるのは楽しいし!

なんなら貴方の付き人に、獣の子供でも生け捕りにしてもらって、飼育するのもいいと思うわ!

とにかくお願い! あなたは庭で大人しくしていてちょうだい! 頼んだわよ!」

女神は、必死な様子で太郎に懇願した。

「……」

太郎は、夢の中ですら、ただ黙っていた。

「悪いけど!」

女神は、太郎の沈黙に焦れたように叫んだ。

「貴方の家には、今後、強力な結界を施しておくから! 貴方はもう、外に出ない様に!

何か困ったら、あの付き人に何でも言えばいいから!」

女神は、言いたいことだけを一方的に言うと、嵐のように消え去った。


同時刻、ミハドの夢。

「転生前に説明したんだから、分かってると思うけど、貴方の主はとんでもないの!」

女神は、ミハドの前で、怒りに肩を震わせ、ヒステリックに叫んでいた。

「私達『神』よりも神性を宿しちゃって、彼の願いは、そのまま世界を変容させる程の力を持ってるの!

だから、彼には雑草を抜く事に集中させてと、あれほどお願いしたわよね!」

「そう言われましても、私は主の思うがままに従うだけですので……その」

神のあまりの剣幕に、あのミハドが、しどろもどろになっていた。

「とにかく! 明日から貴方の主が退屈しない様に、私達神の力で、あの庭に絶えず、もっとしぶとい雑草を生やし続けるから!

貴方は、彼が生活に不満を抱かない様に、全力で支えてあげてちょうだい!」

「……」

はい、とはもちろん言えない。ミハドは黙るしかなかった。

「いいこと!? やがて彼は、正式に神になるわ。でも、神になる前に、この世界でも神になられちゃ……!」

ミハドの夢は、そこでブツリと途切れた。

「……」

ミハドは、寝床から勢いよく身を起こした。

外は、既に朝を迎えていた。

彼は、縁側へと向かい、庭を見て、目を見開いた。

昨日、太郎が抜き尽くしたはずの庭には、見たこともない、黒々とした、明らかに尋常ではない雑草が、びっしりと生い茂っていた。

庭が、明らかにレベルアップしていた。

そして、そこに、太郎は既に居た。

寝巻きのまま、しかし、かつてないほどの集中力で、その「神の雑草」と格闘し、一心不乱に抜き続けていた。

その姿を見たミハドは、しばし呆然としていたが、やがて、腹の底から笑いが込み上げてきた。

「ハッハッハッハッ!」

主は、新たな「戦場」を見つけたようだ。

ミハドは、晴れやかな顔で笑うと、巨大な斧を肩に担いだ。

調達には、一人で行くことにした。

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