SNSの片思い ~また君に会うため~
「桜子って文章の書き方に癖があるよね~でもまあ桜子って感じで好きだけどさ」
「え?私ってそんなに分かりやすい癖があるかな?自分じゃよく分からないよ」
「いいよ!私だけが分かっておきたいから!なんかね、その書き方を見ると桜の散り際って感じがしていいのよ」
「何それ!美玲ってホント変人だね~」
春の風が桜を散らしていく。
桜子は東京で就職、美玲は地元名古屋で就職する。
ずっと仲良しと思っていたが、SNSがきっかけで二人は疎遠になっていく。
SNSで繰り広げられる友情ストーリー。
スマホを片手にゴロゴロとしていると、ついつい開いてしまうSNSのXT。
XTはリアルタイムの呟きを見られるが、プロフィールの掲載ができず、また返信機能もないためユーザー間の交流が生まれないという「呟き」に特化したサービスだ。
画像の添付もできず、できることは50文字以内の投稿だけ。
そんなXTはSNSのキラキラとした投稿に疲れた人たちの新たな拠り所になっていた。
私、大嶺桜子は元々画像投稿を主としたSNSのフォトアップを利用していたが、次々とあげられる映えを狙った投稿に精神的に疲れてしまっていた。自分がどんなに頑張って投稿してもいいね数は全く伸びず、同じような内容で投稿している幼稚園からの親友の春野美玲は偶然起こった一度のバズりからフォロワーを獲得して以降、毎回コメントやいいねが多く付いていた。
そんな親友をうらやましく思うだけならまだしも、大切な親友に対して妬みの感情が出てきてしまっており、そんな自分へ嫌気がさすとともに、どう頑張っても世の中に認知されない私はいらない子なのかと自己肯定感が下がってしまって日常生活にも支障をきたし始めていた、
ただ何度もフォトアップから離れようとしても、社会人1年目の上京したてで友達がいない私は、世間と繋がっていないことへの孤独に耐えることができずに、仕事終わりで疲れた後はベッドに寝転がりながらついついフォトアップを見てしまっていた。
そんな私に転機が訪れたのは会社の同期と話している時だった。
まだ出会って3ヶ月の同期の青山沙希と二人でお昼ご飯を食べていた最中、会話に詰まった沙希はふとスマホを取り出し何かを打ち込んでいた。
机の上に出して私にも見える角度で打ち込み、投稿している様子を見て、私はつい「SNSって疲れない?」と心の声が漏れてしまっていた。
沙希はそんな私の声色を察してか、顔を上げて少し心配そうな顔をしたかと思うとフッと表情を和らげた。
「もしかして桜子ちゃんってフォトアップで疲れている人だったりする?」
「え…そうだけど…なんで分かったの?」
「ん~っとね~、実は私もフォトアップに疲れて辞めちゃった人なんだよね」
沙希は下を向いて頬をかきながら笑った。
「フォトアップでみんなの投稿を見るのがだんだんときつくなったんだよね。だから私も一時期悩んだの。でもSNSで何かを発信して気持ちを落ち着かせたいときってあるじゃん?」
見事に私と当てはまっていた。沙希は大人しい反面、小柄でかわいくて、同期の中でもおしゃれで、入社した時にフォトアップのアカウントをフォローし合った時もフォロワーの多さに驚愕したのを覚えていた。また、広報という立場からSNSを使うことが得意と思っていただけに、この発言は正直びっくりだった。
豆鉄砲を食らったかのようにびっくりしながらも、深くうなずきながら沙希の話を聞いた。
「そんな時に見つけたのがXTなの。文字だけを投稿するし、フォロー、フォロワーっていう制度もない珍しいSNSなんだよね。ただタイムラインにはAIが似ていると判断した内容が現れるようになっているし、ちゃんとそれぞれのアカウントはHNを付けてるから『あ、またこの方にであったな~』って親近感が湧くんだよね。今の桜子ちゃんにはおすすめだと思うよ!」
スマホの画面を見せながら丁寧に明るく説明してくれた沙希の表情を見て、何となくXTをやってみたいと思った私はその場でアプリをダウンロードしてアカウントを開設した。
XTは使ってみると想像以上に面白かった。
50文字で伝えられることは限られているので、気づけば日常で起こった他愛もないことや休日に見た動画や漫画の感想を呟いていた。
「今日のスーパーの卵は200円を切ってて熱かった…!」「今日はお惣菜とビールで乾杯だ…!」「本屋で見つけたこの漫画すごい…!でも助かってなさそうな展開だから続きが気になる…!」
こんなおしゃれとは無縁の、でも外に向かって発散したい気持ちを呟けることが嬉しかった。
そして、タイムラインには見ず知らずの人の同じような投稿が溢れていた。
「焼き鳥1本50円セールやってた!禁酒中だけど今日だけはいいよね」
「この配信者かわいい、尊い」
「走ろうと思ったけど今日は会社で疲れたからや~めた!」
そんなフォトアップでは考えられないようなリアルな生活を見られて、みんな同じように生きているんだとすごく安心した。タイムラインにはランダムで投稿が表示されるため自分を飾る必要もない、ただ似たような投稿を行っている人が現れるシステム上何度も同じ人が現れる事もあるため、始めて2ヶ月も経っていると次第に「この方はこの間も焼き鳥に負けて禁酒を破った人だったような」と言うようにHNとアカウントのアイコンだけを見て判断できるようになっていた。
XTにどっぷりとハマってからと言うもの、フォトアップの投稿は一切行わず、親友の美玲とも連絡を取らなくなっていた。社会人になるまでは同じ地元の名古屋の大学で過ごしていたので毎日話しており、2ヶ月も連絡を取っていないのは初めてだった。親友と言うよりもはや家族とも思える美玲のことを遠ざけている感覚もあり寂しさや罪悪感もありつつも、一方で美玲の事を妬ましく思ってしまう事が怖かったため意図的に連絡を取ることから逃げていた。
「今はXTで心を浄化させるんだ!しっかり美玲と向き合えるようになったらまた連絡しよう」
そう自分に言い聞かせて連絡を取らない事への自己嫌悪をどうにか和らげていた。
XTを始めて4ヶ月ほど経った時、とあることに気づいた。
それは、HNが全く同じ人が頻繁にタイムラインに表れるようになったのだ。
私は自分の名前の「桜」と、桜は春に咲く花だからという事で「春」を組み合わせて「はるさくら」というHNにしていたのだが、同じような考えの方がいたのか…。
HNが同じだとやっぱり親近感が湧いてくるのは仕方のないことだろう。
タイムラインに「はるさくら」さんが現れる度に心が躍るようになっていた。
2025年10月5日
「今日はフォトアップがしんどいからXTに。そろそろフォトアップやめようかな」
2025年10月8日
「今日は料理したくない~!お弁当とビールで一杯やろう♪コップに注ぐし女子力高いよね!」
2025年10月10日
「今日は目の日らしいね~どこかに目の保養をしてくれるイケメンいないの~!」
2025年10月16日
「会社でフォトアップのアカウントばれちゃった~面倒くさいなあ」
2025年10月24日
「フォトアップのアカウント削除!XTに切替えます!」
10月の投稿を見るだけではるさくらさんの現状が分かって面白かった。私と同じような悩みを抱えており、それでいて私と近いリアルな生活を感じられて、HNだけでなく人としてもすごく気になっていた。
ただ、XTは繋がりが作れないSNS。そんなXTだからこそフォトアップの疲れを感じずにのめり込むことができたので仲良くなりたいという歯がゆさを感じながらも、またタイムラインで会えたらいいなという思いを持っていた。
「…今日は電車がとまるかもなぁ」
ハーっと白くなる息で手を温めながら駅までの道を歩く。
今日は12月24日のクリスマスイブ。街はイルミネーションで一杯となり、所々でサンタの格好をした販売員が寒空の下でケーキやプレゼントを売っている。
賑やかな街はすごく綺麗で独り身である私でもすごくワクワクする。
駅に着いた私は早速XTを開いた。
この日ばかりは、いつもの、包み隠さず言えばしょうもない投稿しか流れないXTもおしゃれな話題になっていた。
「今日はクリスマスイブ!チキンを買って家でクリスマスパーティーだ!(ひとり)」
「子ども達のために今日は残業。もちろんサンタとしてのね」
「イルミネーションを見てるとおしゃれだな~って思うけど電気代も気になるよね」
…ごめん、客観的に見たら全然お洒落な話題じゃなかった。
これをおしゃれと感じるほど普段のXTはあまりにも日常過ぎたのだ。
ハハハとスマホを見て笑いながら、ふとはるさくらさんは何をされるんだろうと思った。
「はるさくらさん、タイムラインに出てきてくれないかな~」
サンタの正体に気づきながらもサンタにプレゼントをお願いするかのような淡い気持ちでタイムラインを凝視していたが、はるさくらさんが現れる事はなかった。
クリスマスイブって何だっけ?
そう言いたくなるほど今日の業務は忙しかった。
世間が「Last Christmas」の音楽でしんみりとしているだろう夜の7時を過ぎても業務は終わりを見せてくれずに、気づけば9時になっていた。
帰りにケーキ屋さんで目を付けていたケーキを買って家で一人パーティーをする予定も全部崩れてしまい意気消沈。
上司からはごめんごめんと謝られ、代わりにとスカイハイツリーの近くのケーキ屋さんの引換券をもらった。何やら上司一家はケーキ好きでよくそのお店に行っており仲良くしているとの事だった。
「係長、そんなケーキで私のご機嫌をとろうだなんて甘い考えは通用しませんよ~」
そう言いながら裏面を見ると私が上京する前から行ってみたかったケーキ屋さんの名前が記されていた。
なんたる偶然。
「ま、まあ、今回はこれに免じて許してあげます!係長も早く帰って奥様とお子さんに怒られないようにした方がいいですよ!じゃあお疲れ様です!」
嬉しさを隠しながら上機嫌で会社を後にする。
クリスマスのスカイハイツリーは思っていたとおりカップルで一杯だった。
右を見ても左を見ても手を繋いだ男女ばかり…今すぐXTで嘆きたい気持ちだったが、「私にはケーキが待っている!」と思ってお店に向かう。
もう9時半を回っているし流石に並ばずにいけるだろうと思っていた私の読みは甘かった。
店の前にはまだ10名ほど並んでおり、店員さんも手際よく準備を行ってる。
「まだまだかかりそうだな」
そう思ってスマホを手に取りXTを開いた。
とりあえずという事で「今日は残業大変だった…今からおしゃれにスカイハイツリー…!(ひとり)」と自虐を投稿して最新のタイムラインを覗いた。
最新の投稿に来た瞬間目を丸くした。
タイムラインの30秒前にはるさくらさんがいたのだ。
「今日は一人でスカイハイツリー展望台からの眺めがきれいだけど、カップルだらけでさみしい!」
その呟きを見た時「会いたい」という気持ちと「会ってはいけない」という気持ちが同時に出てきた。
相手は見ず知らずの赤の他人、SNSだけの繋がり、直接絡んだこともないし私が一方的に知っているだけかも知れない。そんな相手にどうやって話しかければいいのか…ただの不審者になっちゃうんじゃ…。
ぐるぐると駆け巡る思考。でもどうしても会ってみたい。
そんなことを考えていると「次のお客様どうぞ」と呼ばれた。
「ケーキを買っている場合じゃないんだけどな…」そう思いつつもショーケースを眺める。
私は大好きなイチゴのショートケーキを選ぼうとしたが、ふと横を見るとガトーショコラがあった。
それは美玲の一番好きなケーキであり、クリスマスを迎える度に二人で食べていたセットだった。
「いや、今東京に美玲はいないし、買っても私が食べるだけだし…」
少しさみしい気持ちを感じながらも、何となくいつも通りガトーショコラまで購入した。
係長からいただいていた1枚の引換券だけだとお店に対し後ろめたさもあったので、感謝の意味も込めて。
ケーキを受け取った私は急いでスカイハイツリーへ登った。
「展望台だったよね。まだはるさくらさんはいてくれるかな?」
エレベーターの待ち時間もドキドキが止まらない。届くはずもないと思いつつもXTで呟く。
「スカイハイツリーの展望台で夜景を眺めるぞ…!(ひとり)」
タイムラインをじっと見つめる。
「お、私と同じくスカイハイツリーの展望台で夜景を一人で眺める人がいるのか!うれしいな」
ドキッとした。まるで私の呟きがはるさくらさんにも届いているような…そんな気がした。
エレベーターに乗り込み展望台を目指す。
それは人生の中でも最も長い50秒間だった。期待とともに怖さもあり、感じているドキドキがどんなものなのか自分でも分からなかった。
「チンッ」
扉が開く向こうには東京の夜景が広がっていた。
いつもはガヤガヤと家族連れで賑わっている展望台も今日はしっとりとした雰囲気が漂っていた。
そして、一つ考えていなかったことがあった。
展望台は広いのだ。
この広い展望台で一人の女性をみつけるのは流石に骨が折れる…もっと具体的な場所を呟けば良かったかなと思い、これまたダメ元で呟こうとした。
ただ、これも読まれていたかのように「展望台のサンカクカフェでの窓際から見る夜景っておしゃれ」と呟きがきた。
「サンカクカフェ…斜め向かいにあるカフェがそれだよね…」
宙に浮きそうなふわふわとした足取りでカフェに向かった。
落ち着いた静かな空間ということもあり、自分の鼓動が感じられて余計に緊張してくる。
どうやって話しかければいいか、うわの空で注文したせいで紅茶とまたショートケーキを頼んでしまった。
席までお運びしますと言われ立て札が渡された。
よかった、今の私にトレーを渡されたらひっくり返して雰囲気を台無しにするところだったかも知れない。
カフェを見渡すと2人用のテーブルが広がる中で窓際にカウンターテーブルがあった。
そしてカウンターテーブルには一人しかいない。
ゴクリと喉を鳴らした。
かつてない緊張が私を襲う。
今ならまだ引き返せる、本当に話しかけていいのか、後悔することにならないか…。
ネガティブ思考が駆け巡ったが「会いたい」という気持ちが全てを上回り、気づけば足が窓際に進んでいた。
「あの、突然すみません…もし違ってたらごめんなさい…もしかしてはるさくらさんですか?」
震える声で小さく尋ねた。
やっちゃった…もう後に引き返せない…。
話しかけた瞬間ネガティブな思考で一杯になり、逃げ出したい気持ちになったがなんとかその場で踏みとどまった。
長い髪がサラッと動き、振り返った女性は見覚えのある顔だった。
「桜子、やっと会えたね」
振り向いて笑っている顔には一筋の光が灯っていた。
「なんで…え?美玲…え?なんで…??」
訳が分からなかった。美玲がココにたまたまいたのか、それともはるさくらさんが美玲だったのか、頭がパンクして何も考えることができなくなった。
目を丸くして驚いている私を包み込むように、美玲はすっと立ち上がり抱きしめた。
「私がね…はるさくらだよ。こんばんは、はるさくらさん、ずっと会いたかったんだよ」
聞き慣れた美玲の声が耳元に響く。
ただ、その声は私と同じく震えており、か細い声だった。
抱きしめられている首筋に水滴を感じる…その声と濡れる首元の感覚で、私もいつの間にか目から涙がこぼれていた。
3分間くらいだっただろう、抱きしめ合っていた時間が永遠のように感じた。
ゆっくりと離れてお互いに見つめ合っている最中、店員さんが申し訳なさそうに、
「ご注文の品をお届けしに参りました…」
と声をかけてきたことで現実に戻り私たちは慌ててカウンターテーブルに座った。
ただ、直接お互いを見ることはなかった、ガラスに反射したお互いの顔を見つめ合い、これまでの経緯を語った。
「美玲は…いつから私がはるさくらだと思っていたの?XTじゃ個人の事なんてわからないじゃない?そもそも私がXTを始めたことを美玲に話してなかったし」
「そうだね、私は桜子から教えてもらってないよ。でもね、桜子がフォトアップからいなくなってからしばらくして、私の会社の人も同じようにフォトアップから消えたの。どうしたの?って聞いたらXTを始めたって言うから…」
「でも、その子と私じゃフォトアップをやめた理由は違うかも知れないじゃん。なんでXTに行ったと思ったの?」
「…似てたの、桜子と。友達がフォトアップでバズっている横でその子は置いて行かれているような気持ちになって寂しかったんだって。私もそれを聞いてハッとしたの。もしかして桜子がフォトアップからいなくなったのも、私に連絡をくれなくなったのもそれが原因じゃないかって」
「でも、でも…XTに私がいるからって、XTのHNを美玲に教えていないし、そもそも分かってもはるさくらはいっぱいいるかも知れないよ!私じゃないかも知れないじゃん!」
「もちろん、わたしも最初は分からなかったよ。そもそもユーザーを検索できないしね。でもね、時々流れてくるHNと文章を見たらもしかしたらって思ったの。桜子のHNの由来はわからないけどね、私のはるさくらは『桜子』と『春野』からとってるの。春と桜ってきれいだし、親友って感じがしていいじゃない?」
「あとね、学生時代に『桜子って文章の書き方に癖がある』って話をしたのを覚えてる?その書き方をする人って桜子しか見たことがなかったの。だから桜子かなと思ってずっとタイムラインに流れてくるのを待っていたの」
「…よく分からないよ…確かに私も春と桜を掛け合わせてはるさくらにしたけど…文章の癖ってなに?それだけで分かるものなの?」
「桜子はね、文章を打つときに必ずと言っていいほど終わりに『…!』を付けるの。私はね、この書き方が桜が散って地面に落ちたときの様子に見えてずっと好きだったんだ。だからだよ」
びっくりした。私は美玲の事をそこまで見れていなかった。
でも美玲は私の事をちゃんと見てくれていた。
嬉しい、でも、まだ納得できない気持ちが収まらない。
「でも、そんな遠回しじゃなくても直接連絡してくれたらよかったじゃん!LIMOでメッセージを送ってくれれば…」
「そうしようと思ったよ。でも、桜子と直接連絡を取るのがなんだか怖くて…だからXTで自然と会えるように頑張ったの!こうみえても私、桜子がフォトアップに現れなくなってからの6ヶ月間はずっと桜子のことしか考えてなかったんだから!」
美玲はそう言いながらフンッと鼻をならす。
「いや、美玲…それってもはやストーカーだよ…怖いよ…」
「だって仕方ないじゃん!親友の桜子を失いたくなかったの!こんなこと桜子じゃなきゃしないって」
「…通報しようかな」
「ちょっとまって、ごめん、謝るって!お詫びにケーキでも…ってもう頼んでるか…えーっと…」
慌てる様子の美玲を見ておかしくなった。
ああ、こうやって私たちはずっと仲良くやってきたし、こんな友達思いの美玲だから好きだったんだ。
SNSで振り回されるなんてどうかしてた…!
「じゃあ、美玲に命令!今からうちに来ること!どうせ泊まる場所も用意せずに突発的に来たんでしょ?」
「う…それは…そうだけど…なら、帰りになんか買って帰ろうよ!一緒にクリスマスパーティーをしよう!」
「…わかった。でもケーキは買わないでね、もう買ってあるんだから」
包まれたケーキの箱を開く。中にはショートケーキとガトーショコラが仲良くくっついていた。
「桜子…なんで…ガトーショコラまで…」
「なんかね、お店で目に入って買いたくなったの。私は美玲と違ってストーカーじゃないから美玲がこっちに来てることなんて知らなかったし、たまたまだよ!」
「…桜子…愛してるぞ!!」
「はいはい…さ、早く帰ろ!クリスマスチキン買えなくなっちゃう」
「桜子は相変わらずつれないな~よし!じゃあチキンもお酒も今日は私のおごりだ!」
「やった~じゃあ高いお酒買おうね!」
「…はい…よろこんで…」
二人で歩く帰り道は暖かかった。
美玲が親友でよかった、美玲が諦めの悪い性格でよかった、ありがとう美玲。
年が明ければ直ぐに春が訪れる。今年の春はいつもよりも桜が満開になりそうだ。
「ところで、なんで美玲はスカイハイツリーにいたのよ。これだけ広い東京でピンポイントに私がスカイハイツリーに来るなんて思わないでしょ、ふつう」
「え…だって桜子、名古屋にいるときから『東京に行ったらスカイハイツリーで素敵なクリスマスを過ごすんだー』って息巻いてたじゃん!だからいるかな~って」
「…私そんなこと言ってたっけ?全く覚えてないよ…それいつの話よ…」
「え~っとね~スカイハイツリーが出来た時くらいだから13年前…小学5年生の時かな?」
「流石にそんな前のこと覚えてるわけないよ!そんな昔の情報でよく東京まで来たね!ほんと美玲って大胆なんだから!」
笑いながら美玲にツッコミを入れるが、すごく嬉しかった。
そんな昔のことまで覚えてくれているなんて…いや、でもちょっと怖いかも…。




