じたばたあんずちゃん
ピーアと出会い、鍵を見つけたことを伝えた。
「あら、見つかったのね!おめでとう」
「あたしたちも調律工具探すよ」
「まあ、まだ手伝ってくれるの?ありがとう」
ピーアは笑ってまたあんずの頭を撫でる。
あんずはちらっとナルシの方を見ると、明らかに不機嫌そうな表情をしていた。
(……分かりやすすぎるよ、ナルシ……)
ピーアと別れ、今度は楽器倉庫に行くことにした。
「楽器倉庫があることは知ってたけど入ったこと無かった……。すげぇな、ここ……」
「すごい、いっぱい楽器ある……!これ……ケースの形的にホルンかな?こっちのでっかいのはチューバ」
「凄いな!?分かるんだ……」
「んふふ!!」
褒められ、嬉しそうに胸を張るあんず。
ナルシは反射であんずを撫でようと手を伸ばすが、数秒固まったあと手を下ろす。
「どしたの? ナルシ」
「ううん、なんでも。それより調律工具はあった?」
「……茶色い箱、だよね? なさそー……」
「困ったな。他に……あれ?」
「?」
あんずはナルシの声につられ振り向く。
ナルシの視線の先には、水道があった。
「えっ!なんでこんな所に……?」
「……楽器洗うのに使ってたのかな? まあでもラッキーだったね、あんず!」
「うん!」
「じゃあ回すよ。……あれ?」
片手で回そうとしたが失敗するナルシ。
両手で力いっぱい捻ろうとしているが、全然回らない。
「……ナルシ、非力」
「いや!!?? 俺はマッチョだしイケメンだから力有り余ってる!! し!!??」
「イケメン関係ある?」
「いや、うおわっ!?」
あんずに気を取られ手元を見ていなかったため、蛇口を捻った途端力の行き先が無くなってしまい、その場でずっこけるナルシ。
「……ナルシ……」
「……なんもいわないで……」
埃まみれになりながら手で顔を覆うナルシをみて、あんずは可哀想だと思った。
「……てか、蛇口は回ったけど……」
「そ、そうだよ! あんず手洗い……な……」
あんずは水道から出る物を見つめるだけで、動く気配は無い。
ナルシはそんなあんずを不思議に思いながら起き上がり、硬直する。
「……な、なにこれ……」
「めっっっちゃ緑」
明らかに水では無い。
コケやカビを連想させる色の液体が絶えず流れている。
「……気持ち悪……」
「試しに一口」
「馬鹿――――!!!!!!!」
ナルシは緑色の液体を飲もうと口を開けて近づくあんずを全力で止める。
「まじでさ、おい、ちょやめ、力強いな!!」
「この経験は人生に役立つ」
「んなわけねェだろ!!!」
腕の中でバタバタ暴れるあんずを引きずりながら楽器倉庫から出る。
「あー!せめてコップ一杯!ジョッキジョッキ!」
(早く帰ってくれ!!)
ナルシはもう涙目だった。というか泣いてた。