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探索


「とりあえず……職員室から調べちゃおうか。それでも無かったらあっちの教室俺見てくるからさ」


「うん……」


 ナルシは大丈夫だよ、と笑いながら職員室のドアを開ける。


 予想どうり電気はついておらず埃臭い。あんずはけほけほと小さく咳をする。


「大丈夫? ハンカチ……はさっき使っちゃったんだった……。スカーフはあるけど……」


「いや、大丈夫……それより電気つけて」


「あ、うん」


 慌てて電気をつけるナルシ。


 職員室なので当たり前だが、職員用の白い机がびっしりと並んでいた。


 それぞれの机に教科書や参考書があり、謎の置物が置かれている机もある。


「机の上って性格出るよね〜」


「あはは、そうだね」


 それにしても、とナルシは室内を見渡す。


「……どこから調べようか。これ、全部の引き出し開けるの結構大変だよね……」


「うーん……あ、出口開かなくなったのって最近?」


「え? そうだ……と思う。少なくとも俺はさっき初めて知ったよ」


「じゃあホコリがついてない引き出し調べたらいいんじゃない? もし鍵を入れてるなら、引き出しを開けたってことでしょ? そんときに手で埃取れると思う」


 鏡をなぞった時のことを思い出しながらナルシに一生懸命伝える。


 ナルシは口を押えながらよろめき、「て、天才……?」とかなんだか呟いているが無視して室内を歩き回る。


「こことかどう? 他のところより取っ手に埃ついてない気がする!」


「もう見つけたの!? やっぱり天才、最強、宇宙一」


「あたしどういう立ち位置にいるの? まあいいや、オープン」


「え、ちょ……!」


 引き出しを思いっきり開ける。


 埃の溜まりようから見て、いくらか劣化していそうだと思っていたが、案外スルッと開いた。


 テスト用紙のようなものが沢山入っている。


 あんずは引き出しの奥を覗き込む。


「あれ、なんか挟まってるよ」


「ちょっと手突っ込んじゃ駄目! ばっちいから!」


 ナルシの忠告を無視し、奥に詰まっている物を取り出す。


 それは……


「うお」


「ギャーーー腐ったパン!」


 あんずがその物体を認識した時にはもうナルシが叩き落としていた。


 ボトッという鈍い音をたてて墜落するパン。


「ほあーなんか生えてるよ」


「まじまじ見ないのグロいなぁ!  後で手洗うんだよ!?」


「はあい」


 お母さんか、と心の中で突っ込んどく。


 少し不貞腐れていたあんずだが、今度はかわいいシールが貼られている引き出しを見つけ、駆け寄る。


「あんず! せめて俺に開けさせて!」


「いやだよーん、open」


「流暢!!」


 引き出しの中には先程の通り書類しか入っていなかった。


 それでも何かないかと漁っていると、一枚の紙に目がついた。


「……これ……」


 ほとんど掠れていてよく読めないが、生徒の個人情報のようだ。


 自然と名前に目がいく。


 漢字は全て掠れてしまっているが、ふりがなだけはギリギリ読むことが出来た。


「……きょ、う、や……?」


「うべびぼッッッ個人情報」


 頑張ればもっと読めそうだったが、目にも止まらぬ早さで奪われてしまった。


 取り返すか悩んだが、それよりも気になることがあったのでやめた。


「……ねえ、普通、廃校になるのにこんなに個人情報残すかな……?」


 そう。廃校、と言うには色々な物が残りすぎているのだ。


(よくよく考えてみたら電気つくのもおかしいし……)


 考え込むあんずを見て何か言わなければと思ったのか、ナルシが口を開く。


「……夜逃げとかじゃない?」


「え学校が? 伝説すぎる」


「まあ、伝説と書いて桃太郎小学校と読むから」


「適当に喋ってる?」


 うぇ……としょぼくれるナルシに構わず歩き出すあんず。


 ナルシはそれに気づき小走りで着いてくる。


「というか、俺の後ろから出ないでって言ったよね?」


「思ったより老朽化してなかったからつい」


「つい、じゃないよ……」


「てへ。あ、掃除ロッカー。おーぷん」


「迷いなく開けないで!?」


 慌てて掃除ロッカーからあんずを引き離すナルシ。


「……ちょっとやりすぎじゃない?  ロッカー開けただけで怪我しないよ」


「いや……ここ、結構ありえないこと起こるから……」


 どこか遠い目のナルシを不思議に思いながら、掃除ロッカーを覗き込む。

 案の定、掃除用具しか入っていなかった。


「つまんない」


「何入ってると思ったの……」


「生き別れの母」


「おっも」


「てか鍵いっぱいあるとこ見ればいんじゃね」


「盲点」


 あんずは多分こっちだろ、と走り出そうとしたが、ナルシに阻まれてしまった。


「……睨まないでよ。あ、あった。あそこ、鍵いっぱいぶら下がってるよ」


「何っ!」


「疾風!!」


 ナルシの横を通り抜け、指し示された方向へ駆け寄る。


「おー、めっちゃある」


 ジャラジャラと色んな鍵が掛かっている。


 第一教室、放送室、倉庫……


 ひとつひとつ確認しようと思ったが、量が多すぎて面倒くさい。


 あんずはどうしたものかと迷っていると、ナルシが横から手を伸ばしてきた。

 そのまま鍵の上を指差す。


「これ、よく見えないけど……鍵かかってるフックの上にタグついてない? 教室の名前っぽいし、こっちから探そうよ」


 たしかに、目を凝らしてよく見ると、音楽室や化学室と名前が書かれていた。


「ナルシ、天才。こっから出口って書かれてるやつ探せばいいんだね」


「昇降口とかじゃない?」


「なるほど、昇降口……昇降口……」


 無い。

 いや、昇降口と書かれたタグはあるのだが、肝心の鍵が無い。


「ナルシ、鍵無いよ?」


「え……」


「……あれ、音楽室と化学室……調理室も無い。なんで……?」


「調理室……」


 調理室という言葉を聞いた途端、ナルシは苦虫を噛み潰したような顔になった。

 急に不機嫌になったナルシに驚き思わず二度見する。


「ど、どうしたの……そんな嫌そうな顔して」


「いや……ごめん、なんでもないよ。大丈夫」


「そう?」


 それにしては笑顔が固いが。


 しかし自ら墓穴を掘りに行くつもりもないため、スルーすることにした。


「それにしてもさ、なんで鍵無いんだろうね?  撤去した……にしてはなんか、他に色々残しすぎだし……」


「それは……」


言いづらそうに視線を泳がせるナルシ。


「何か知ってるの?」


「……いるんだ」


「え?」


「いるんだ。他にも人……」


「え??」


 何を言っているんだ。

 あんずの脳内がはてなマークで埋め尽くされる。


 こんな廃校に人なんているはずない、と言いかけて止まる。


「……てかナルシ、なんでこんな廃校なんかにいるの?」


「え」


「……ふほうしんにゅう?」


「……肝試ししに」


「犯罪?」


「……」



 じっとナルシを見つめる。

 本当にこの人について行って大丈夫か……?


 だんだん涙目になっていくので仕方なく目を逸らす。


「他の人も?」


「え……う、ん。そう……そうだよ」


 妙に歯切れの悪い返事だなと不審に思ったが、今は確かめようがない。


 肝試しするような性格では無さそうだが、人は見かけによらないという事だろうか。


「……まあ、帰れたらなんでもいいか」


「! そ、そうだね!」


 急にニッコニコになるナルシ。


 あんずは不法侵入を許容した訳ではないのだが、と苦笑する。


「……というかさ、他に人がいるならその人たちが持ってるんじゃない?  鍵」


「え、あ、確かに……」


 あいつらならやりかねない、と呟くナルシを見て、あんずは「じゃあさ」と身を乗り出す。


「聞きに行こーよ! 鍵もってませんかって!」


「えっ」


 ナルシが少し嫌そうな表情を見せたことに驚く。


 一緒に肝試しに来るぐらいだから、仲はいいはずだが。


「やだ?」


「やだっていうか……アイツらにあんずを会わせるのが嫌だ……」


「ええ……どんな人たちなの……」


「えっと」


 ジャーーン!!!!


 上の階から急にピアノの音が聞こえて飛び上がってしまう。


 ジャーーン、ジャジャーン、ジャーーン!!!


 調律の狂った気持ちの悪い音に思わず顔をしかめる。


 しかも、演奏者は故意に不協和音を奏でているようだ。


 ジャーーンジャーーン、ジャジャジャジャーン!!!


 メロディなんて気にしない、狂気的な……個性的な演奏に耐えられず耳を塞いでしまう。


「な、ナルシ、これもお友達!?」


「うぐ、う、うん……」


 どんな友達だよ!!! と叫びそうになるが、これ以上うるさくしては本当に耳が壊れてしまうのでグッとこらえる。


 ナルシも耳を塞いで蹲っている。


 こちらの声を聞こうとなんとか顔をあげようとするが、ピアノの追撃にやられふらつく姿を見て、あんずは叫ぶ。


「あたし止めてって言ってくるね!!」


「え!?  なんて!?」


「ここで待ってて!!」


「え、ちょ、どこいくのあんず!!」


 あんずはナルシの制止の声を無視し、耳を塞ぎながら職員室から飛び出す。


 ナルシはそれを止めようと手を伸ばすが、不運なことにまたもやピアノの追撃がくる。


 耳から手を離していたため、モロに当たってしまいのたうち回るナルシ。


 やっと演奏が止まった頃には、もうあんずはいなかった。


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