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親切で怪しい男が仲間に加わった!


「その、えっと……ごめん。怖がらせるつもりは……いや、本当に……ごめん」


 項垂れながらあんずに謝罪をする男。


 しゅんとした表情に罪悪感を覚えるが、まだ不審者ではないという確証は無い。


 警戒しながら話しかける。


「……なんであたしの名前知ってたの?」


「……なんとなくで、その……」


「は? なんとなく?」


 コイツまじか、とあんずは思わず顔を顰める。


 今の言葉だと目の前の少女の名前がなんとなくあんずだと思ったのでそう呼びました、と言っているのと同じだが……


「それでいけると思ってんの……?」


「うぐ……」


 またもや項垂れる男。ボロ出まくりだ。


「……もういいよ。別に、危害を加えようとする訳じゃなさそうだし……」


「……ごめん、あんず……ちゃん」


 言いにくそうにモゴモゴと口を動かす男にあんずは少し笑ってしまう。


「あんずでいいよ。……それにしてもさ、距離詰めるのめちゃくちゃ早いね。さっきは桜田さんって言ってたのに。」


 そう言うと、男は不思議そうな顔をして首を傾げる。


「俺、あんずのこと桜田さんって呼んだことないよ?」


「え? でもあたしその声で起きたよ?」


「……夢だったんじゃない?」


「そうかなあ……」


「きっとそうだよ。ここにいる人で、あんずを桜田さんって呼ぶ人はいないよ」


「……そう?」


(……ここにいる人って……この人しかいないじゃん。変な言い方するな……)


 いや、何かを見落としている気がする。

 あんずは首を傾げ、考え込もうとするが────


「あんず?」


「えっ」


 男の呼び掛けで、考えていたことが全てぐちゃぐちゃになってしまった。


「え、ごめん、どうかした? 頭痛い? 大丈夫……?」


「……まぁいいや。大丈夫。ねえお兄さん、ここどこ?」


「えっ」


 突然の質問に驚いたのか、ものすごくショックを受けたような表情をする男。


「あ、ごめん、びっくりした?」


「……いや、なんでもないよ。大丈夫、ごめん」


「そう……?」


 大丈夫には見えない顔をしているが。


 慰めようにも、何で傷ついたのか分からない。ここがどこか聞いたのが悪かったのか?


 ……わからない。とりあえず見ないふりをしよう。


 全てに反応することだけが優しさとは限らない。


 あんずはそう考え、やっぱりいいやと言おうとした瞬間。


「ここは廃校だよ」


……普通に答えてきた。


「なんなん」


「え、なんなんって何……」


「何の廃校?」


「……小学校」


「へー。なんて名前なの?」


「桃太郎小学校」


「え?」


「桃太郎小学校」


「ガチ?」


 小学校か。もしかしたら自分が通っているところと近いのかもしれない。


 そんな思いから尋ねただけだったが、名前が思いのほか奇怪というか昔話風すぎて一瞬脳が理解を拒んでしまった。


「ガチ。生徒は略して『太郎学校』って呼んでた」


「ネーミングセンス」


「そんな名前だから学校内で反乱が起きちゃって廃校になったんだよ」


「世紀末?」


「俺もこの学校に通ってたから、廃校になるって聞いた時は悲しかったなぁ……」


「何を聞かせれてるのあたし」


「まぁ、そんなに不安がらなくていいってことだよ。化け物とかは出ないから」


「それでまとめられると思わないで」


(……なんか頭痛くなってきた)


 あんずは先程の情報をどう解釈するべきか悩んだ。


「……てか、帰んなきゃでしょ、あんず。俺が出口まで案内してあげる。」


「えっ……あたし、帰るの?」


「えっ、帰んないの?」


 男は心底仰天したような表情でこちらを見る。

 その表情を見て、あんずは我に返った。


(……帰る。あたしは帰るべきだ。そうだよ……なんでさっき下駄箱行った時ドアを確認しなかったんだろう。鏡なんて、どうでもいいはずなのに……)


 見逃してはいけないバグがあるような気分になる。が、何故なのか分からない。


 考え込んでしまったあんずに、男は優しく笑いかける。


「ここ、気に入った?」


「いや、そういう訳じゃ……」


「最近はジメジメ系がトレンドなの?」


「きっしょいトレンド」


「えっ」


 男が少し涙目になっていることに気付き、ネタじゃなかったんだ……と引くあんず。


 はあ、と溜息をつきナルシを見上げる。


「……そうだね。案内してよ。」


 その言葉を聞いた瞬間、ぱっと花が咲いたように笑顔になった男を見て、あんずは少し後ろめたく思ってしまった。



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