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反抗期は健やかに



「……は?」


 ロドの上擦った声。

 ナルシは無表情でロドを見つめる。


「……はああああああ!!?? なんで!? お前、今、はあ!?」


「ハーハーうるさい」


「黙れボケ! いや、なんで!? 絶対かけて終わりだったじゃん今!」


 怒り喚くロドに溜息をつき、拘束の為のリボンを解く。


「……何。なんで解いたの。これが謝罪のつもり? もう1回戦いたいの……!??」


「そー凄まれても……骸骨の手とか使えないじゃん、もう」


 今のロドは警戒するほどの相手ではないということを暗に示す言葉だった。


 ナルシの言葉にロドは一瞬怯み、力なくその場にしゃがみこむ。


「……あー……。そう上手くはいかないか」


「諦めたか?」


 悪者を退治したヒーロー、というより、わんぱくな子供を諌める先生のような声色だった。


 そんな優しさが嫌で、ロドは俯いてしまう。


「……お前こそ、どうしてそうもスッパリ諦められるのさ」


 自分が思っているよりずっと細い声が出たことに驚き、ロドはますます俯いてしまう。


 彼の髪が彼の視界を囲み、バリアを貼る。


(……聞きたくない……)


 自分から質問しておいて、答えを聞きたくないなんて酷いことだとは分かっているが、ロドはもう、それどころじゃなかった。


(この人のは聞きたくない。……この人に綺麗な理由を言われたら、僕にはもう何も……)


「……諦めたわけじゃないよ」


 少し、困ったような声。

 予想していなかった反応に、ロドは顔を上げる。


「……じゃ、なんで……」


 ロドの瞳にナルシが映る。


 痛みを我慢しているような表情。


 でも、と続け、諦めたような笑顔を浮かべる。


「でも、俺の勝手な願望で、あんずの人生を壊したくはないから……。まだ、いいよ」


 これ以上は聞かない。

 そう言うように目を閉じるナルシを見て、ロドは今までで一番大きな溜息をつく。


「……期待して損した。もう覚えてないでしょ、そんなに時間が経っちゃったら……」


「それでいいんだよ」


 事実を伝えるような、淡々とした声色。


「でも、」


「いいんだよ」


 目を伏せて笑うナルシを見て、ロドは口を噤む。


 そして大きく息を吸い……


「……あーあ!!!マジでキモい!!!! そうだったなアンタそーゆーやつだったわガチでキモい……!!」


 思いつく限りの暴言を浴びせる。


 キモ、馬鹿、アホ、と幼稚な言葉が理科室内に響く。


 ナルシはきょとんとした表情でロドの罵詈雑言を聞く。


「ゴミ! まじで、……さあ……!!」


 一通り言い終わったのか、ロドはぜえぜえと肩で息をしながら呼吸を整えている。


ナルシはそんなロドを少し笑って見つめる。


「癪?」


しゃく、癪。

……疑問形ってことは、今めちゃくちゃ煽られてる?


ロドは数秒かけてその事実を理解し、怒りでクラクラする頭を抑える。


「なんだよその聞き方癪に決まってんだろ!! ……ああもう、ムカつくなぁ……!」


毒気の抜かれた……というより戦意喪失させられたロドの言葉に棘は無い。

ナルシは嬉しそうに笑って舌を出す。


「あはは、ざまあみろ」


「ウザ!!」


 やっぱりお前、そっちの方がいいよ。

 そう言って笑うナルシに、ロドはせめてもの抵抗として、白衣を投げつけた。



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