無自覚なタントラム
ロドが片手を上にあげると同時に激しい地鳴りが起こる。
「っあ……ぶないな!」
姿勢を低くして揺れに耐えるナルシ。
ガチャガチャと、床のタイルが壊れる音に思わず目を瞑る。
数秒経って、音が鳴り止む。
「もーいーよ」
あは、かくれんぼしてるみたい。
静寂の中、馬鹿にしたような声が響く。
ナルシは恐る恐る目を開き───────
「……は」
ロドの背後に巨大な骸骨の手が生えているのを見た。
「うっっわ何それキモ!!」
「お前ほどじゃない」
「さっきのそんなにキモかった!?」
ナルシは少し涙目になりながらも、自分の身長の倍はありそうな程大きい骸骨の手に攻撃を試みる。
素通りされたことに驚くロド。
「僕には攻撃しないの?」
「しても意味ないじゃん」
「そうだけどさ……」
もっとこう、恨みとか……とブツブツ呟くロド。
その間もナルシは骸骨の手にリボンを伸ばすが、全て弾かれてしまう。
(……どうしようか)
ロドの言葉に耳を貸さず、骸骨の巨大な手の対処法を考えるナルシ。
バチンッ
「っえ?」
体が宙を舞う。
急いで振り返るといつのまにか骸骨の手が真後ろにあった。
祈るような手のポーズ。
手と手の間になにか紫色のものが挟まっている。
あれは───────
「あ゛っ……ぎ、…………!!」
言葉にならない悲鳴。
ナルシはすぐさま足を再生する。
紫色のものはリボンとなり消えてしまった。
ロドは手を合わせたまま無言でナルシを見ている。
(……さっきのは拍手か)
ピーアの時と似ている。
じゃあ攻略法は?
(手を切り落とす、とか?)
一瞬そんな恐ろしい考えが浮かんだが、いや、と考え直す。
(どうせ再生する。それに……)
それに、あまり攻撃したくない。
「…………」
ロドはナルシの考えを見透かしたように目を細め、次の攻撃の合図を出す。
(……指切り?)
嫌な予感。
ナルシは咄嗟にその場を離れる。
「あ。逃げられちゃった」
ロドの残念そうな声と共に爆音が鳴り響く。
金属と金属がぶつかるような音だった。
ナルシはついさっき自分がいた場所を振り返る。
「……う、わ……えぐー……」
地面から無数の針が飛び出していた。
あのままあそこに居たら間違いなく串刺しになっていただろう。
呆気にとられているとまた真下から針が飛び出してくる。
「……!」
避けても避けても地面から針が生えてくる。
こちらの攻撃は届かず、ロドとの物理的な距離も開くばかりだ。
ナルシは少し考え、手首からリボンを出し蛍光灯に巻き付ける。
「よ、い、しょ!」
地面を強く蹴り、ジャンプ。
天井につま先が向いたタイミングで、ナルシは足元から何かを引っ張るような動作をする。
それに連動して、天井からリボンが生える。
リボンはナルシの足元に巻き付き───────
「……コウモリかよ」
リボンによって足が固定されたナルシは、天井に立っているようだった。
ロドは呆れたように呟き、ナルシに攻撃しようと骸骨の手を操る。
間一髪のところで避けたナルシは勢い余って体制を崩してしまう。
(よし、そのまま落ちてこい)
ロドは内心ほくそ笑みながらナルシの落下地点に針を生やす。
あと数センチで刺さるというところで、リボンがナルシの落下を止めた。
「あぶなーい」
「…………」
またロドの骸骨の手攻撃。
ナルシは器用にリボンを操って天井を駆け回る。
戦闘能力が高いのか、適応能力が高いのか……ナルシは難なく天井を走れるようになっていた。
ロドは頬を引き攣らせながらナルシに笑いかける。
「……逃げないでよ。ちょっと動けなくするだけだって」
おねがーい、と手を合わせて上目遣いのロド。
絵にはなるが絵面は最悪だ。
「それが嫌なんだけ、ど!!?」
突然、ナルシの足場───────天井が揺れた。
ナルシは思わず仰け反り天井から落ちる。
間髪入れず生える針をなんとか避けながら、先程の揺れの正体を確かめようと視線をあげる。
「……?」
柱のようなものが刺さっていた。
漢字の十、みたいな柱。
(……いや、あれは……)
……十字架?
元は白色だったのだろうが、今は泥などで薄汚れている。おびただしい量の蔦が絡まっていて、少し不気味だ。
ロドは渾身の一撃がナルシに当たらなかったことに苛立ち眉を顰める。
また、胸の前で両手を合わせておねがいポーズ。
無表情なので可愛さより怖さの方が勝つ。
(……おねがい、というよりもっと……)
十字架と関係があるのなら、祈りだろうか。
とにかく、あの動作が十字架のようなものを生やす原因になっているなら。
ナルシは考える─────フリをして、ただ立ち尽くす。
案の定、ロドは繋いでいた両手を骸骨を操るために解く。
あと少しで骸骨の手がナルシに届くという時。
「ばーーーか!」
「っえ、」
ナルシの急な挙手。
そして罵倒。
ロドは驚き、何のための動きだ!? と混乱する。
その一瞬の隙に、ナルシは天井から物凄い勢いで伸びてきたリボンを掴む。
そのリボンはスピードを落とすことなくナルシを上へと引っ張りあげ───────
「ナルシストキック!」
「技名ッ……」
ナルシの振り下ろした足がロドの手に当たる。
鈍い音。
「…………!!」
後ろに倒れ込むロドの胸元から、何かが飛び出る。
ナルシは素早くそれを拾い、リボンでロドを拘束する。
「これ……さっき俺にかけたやつ?」
「……そうだよ。何、だったらなんなの」
緑色の液体。ナルシはなんとなく蛍光灯に透かしてみる。
「きれい」
「……あのさぁ、そんなことするために奪ったわけじゃないでしょ」
「……んー……」
これを、ロドにかける。
拘束しているから回復も出来ないはずだ。ただ蓋を開けて、中身の液体をかけるだけ。
そんな簡単なことが、何故か出来ない。
そこまで考えて、ふと思う。
(……出来ないんじゃなくて……)
やる必要がないんだ。
ナルシは試験管を手放す。
子気味のいい音を立てて、試験管は割れた。




