人外変身!
「ナルシ……だっけ。随分な名前を付けてもらったじゃん。よかったね?」
ニヤニヤと挑発的な笑みを浮かべるロド。
ナルシはボロボロになった腕をおさえながら睨む。
「……あんずをかえせよ」
「家に? ……それとも、君のところに?」
「家に決まってんだろ……」
ナルシはどこか試すような表情のロドに呆れながらも答える。
俺と一緒にいて、あんずになんの得がある。
そんな自嘲が含まれた声色だった。
「……君は偉いね」
ロドの声。
お世辞の賞賛ではなかった。
「偉いって、何が」
空気を読まず追求するナルシにやば、と口を抑えるロド。
それでも静かに待つナルシを見て、仕方なく続ける。
「……僕らの中で一番あの子を大切に思ってるのにさぁ」
ロドは拗ねたように、羨ましがるように言い放つ。
それを聞いたナルシは一瞬驚いたような表情になる。
「だからこそだろ」
「……あはは……そう……」
手をかざすロド。
骸骨と人体模型がまたガチャガチャと動き出すのを見て、ナルシはしかめっ面になる。
「それ怖いからやめて欲しいんだけど」
「はぁ?」
ナルシの率直すぎる要望にロドは呆れる。
「……じゃあやめるって言うわけなくない?」
「お前ならワンチャンあるかなって」
「ないよ。苦手そうだからこれ出してんの」
「最悪!」
ナルシは悪態をつきながら腕に力を入れる。
「いっ……」
あまりの痛みに小さく悲鳴をあげるナルシ。
ロドは苦笑する。
「ほら、手そんなんなんだからもうやめなよ。目ももうほとんど見えてないでしょ」
宥めるような優しい声。
ナルシは内頬を噛む。
(イライラする。いつもはこんなのじゃないから、特に……)
そういえば、とナルシの動きが止まる。
ピーアもどこかおかしかった。
ナルシはじっとロドを見つめる。
「……? 諦める気になった?」
相変わらずのいやな笑顔。
(……こんな顔、してたっけ。前はもっと……)
考えようとして、止める。
もうどうしようもないとこまで来ちゃったし、考えても意味が無い。
ナルシは溜息をつき、もう一度腕に力を入れる。
「……そうだね」
「え」
手で目を覆うナルシ。
訝しげにその動作を見ていたロドは、数秒置いてナルシのしようとしていることに気づき青ざめる。
「待て! そんなことしなくても」
バシュッという鈍い音。
後頭部から赤いリボンが覗く。
「うわ……」
ドン引きのロドの声。
ナルシは目からゆっくり手を離す。
ズルズルと赤くて黒すぎるリボンが瞳から引き抜かれていく。
そのまま両腕を胸の前で伸ばし、自らの手と手を繋ぐ。
ダン! と足で地面を蹴ると物凄いスピードでリボンが現れる。
速度を落とすことなくナルシの頭上まで来て急降下。
ドシャ、と重くてかたいなにかが落ちた音。
「ぅえっ……グロ……」
口元をおさえて後ずさるロドに、ナルシは呆れる。
「似たようなことやっただろ」
「限度があるだろ!」
ナルシは答えない。
床に落ちた腕はリボンとなり消えてしまった。
瞳と腕をカバーするようにリボンが巻き付く。
リボンはだんだんと腕の形になっていく。
パチン、と拍手。
リボンが解ける。
そこにはなんの傷もない腕があった。
ナルシは治ったばかりの腕で目のリボンを取る。
いつも通りの赤色の瞳が煌めく。
「変身完了! ……なんちゃって」
ピースをしてみせるナルシ。
ロドは青ざめた表情のままだ。
「……僕、君が一番マシだと思ってたけど……違ったようだね」
「一番正しい選択をしてるだけ。お前らがおかしいの。……さ、やろ」
ロドの言葉にナルシは淡々と言い返す。
もう話し合いはしない、という態度にロドは俯く。
「そう……」
数秒経って顔を上げるロド。
殺意のこもった瞳だった。
「……うん。そうだね。どうせ、話しても無駄だ」




