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爆走爆走!


「んぬ……何するのピーアちゃん……」


 あんずはいてて、と頭を抑えながら起き上がる。


 そして辺りを見渡し驚く。


「え、廃墟?」


 先程まで廃校にいたはずなのに、今は薄汚れた家の中にいる。


 床はボロボロで、全体的に灰色だ。


「なん……おわっ!!??」


 一歩踏み出しただけなのに床が抜けた。


 反射で後ろに倒れたおかげで落ちずに済んだが……


(びっくりした……。いや、ナルシじゃないんだから……)


 本人がその場にいたら「ナルシじゃないんだからって何!?」とツッコミを入れるだろう。


 しかし、今はあんず一人しかいない。


「……これ以上動くのは危険そうだな……ナルシ待つか」


 あんずは辺りを見渡しその場に座る。


 が、数秒経ってまた立ち上がる。


「待つのめんどい!! 探索しよ」


 あんずはクラウチングスタートのポーズをとる。


「おんゆあまーく! せっと! ごーー!!」


 あんずは自らの掛け声で走り出す。


 途中床が崩れたり謎の板落ちてきたりするが、持ち前の反射神経でギリギリ避け切る。


「走り出したはいいけどどこ行くか決まってなかった!! どわーーー!!」


 手当り次第にドアを開けて走り抜ける。


 天井が徐々に崩れ始める。


「やばいやばいなんであたしが動いただけで崩壊するんだよ」


 あんずも流石に焦り出す。


 逆になんで今までは大丈夫だったんだよ! とも思うが、本格的に崩れだしたので無言で走る。


 ドアを開け、走り、またドアを開け、走り────


(……なんかドア多くね!!?? 部屋って感じでもないし、廊下!? この家全部廊下で出来てる!!??)


 そんなことを考えているうちに、とうとう行き止まりを引き当ててしまった。


(……うー、ここまでか)


 あんずは目を瞑る。


 謎の潔さで死を受け入れようとした、その時


「こっちよ」


 声が聞こえた。


 思わず顔を上げると、目の前にドアがあった。


 こんな廃墟には似つかわしくない、かわいいカフェラテ色のドア。


(……このドア、さっきは無かったんだけど……)


 怪しさ満点だと分かっているのに、ドアの先がものすごく魅力的に思える。


 あんずは一歩、また一歩と吸い込まれるようにドアに近づいていく。


 ノックを三回。


 返事は無い。


 一瞬躊躇うが、あんずは意を決してドアを開く。


「……おじゃましまーす……」


 室内に入った途端、甘い香りがあんずを包む。


「……これ、何の匂いだ……?」


 花の香りでも、香水の香りでもない。


 食べ物系の匂いでもないし……。


 あんずはこの、どこか懐かしい気分になる甘い香りの発生源を探す。


(……まさか違法的なやつ!!??)


 慌てて鼻と口を手で覆う。


 そんなわけないと思うが、違法的なものを嗅いだことが無いので断言は出来ない。


 あんずは火災訓練を思い出し、しゃがみながら移動する。


(……これ意味あるのかな?)


 思わず吹き出してしまいそうになった瞬間、思いっきり何かに頭をぶつける。


「ぐわっ!?」


 あんずは尻もちをつき頭を抱えて悶絶する。


 めちゃくちゃ痛い。たんこぶになってたらやだな……。


 そんなことを思いながら頭をさすり、顔を上げる。


「……ピアノ」


 今まで見た中で、一番立派なピアノがあった。


 グランドピアノだろうか。先程まで使われていたかのように綺麗だ。


 いや、毎日使われていようと、こまめに掃除をしなければ埃は積もる。


 しかしこのピアノは入念に手入れされているのか、埃ひとつなかった。


「きれい……」


 あんずは鍵盤に触れようとピアノに一歩近づく。


 カサ、と何かが足元に触れた。


「……これ、さっきの楽譜……?」


 ナルシが持ってたんじゃなかったっけ、と疑問に思いながら拾い上げる。


 あんずは数秒楽譜を眺め、気まぐれに片手でメロディラインを弾いてみる。


 長調。短調。転調、戻ってオクターブ。


(……なんというか、変わってるというか……忙しないな)


 あんずは小さく笑い、次のフレーズを弾く。


 スタッカート。おわ、急にリズム変わった。なんか、優雅さの欠けらも無いな。


 あんずはふと息をつき、でも、と呟く。


「……でも、ずっと楽しい……」


 目を閉じる。不思議と次の音が浮かび、鍵盤を見なくても演奏することが出来る。


 どんどんのめり込んでいく。


(もっと速く、強く……!)


 クラクラする。指が痛い。楽しい。楽しい!


 自然と口角があがる。


(追いかけて、スタッカート、トリル、トリル、盛り上げて盛り上げて、最後の音……!)


 全体重を最後の音に乗せようと前のめりになるが、次の音が鳴ることはなかった。


 目を開く。


「……最後、まだ、ない……」


 呆然と呟き、楽譜を手に取る。


 そこには確かに、不自然な空白があった。


「……てかあたし、なんでこれ弾けたんだろ……?」


 まだこれを弾けるような技術は無いのに。


 漠然と、そんなことを思う。


(……なんだか凄く、ナルシに会いたい)


 ちょっと不可解なことが多すぎる。


 はああ、と大きなため息をついて扉へ向かうあんず。


 彼も不可解な人間(?)であることは間違いないのだが、マイナスとマイナスを掛ければプラスになるように、ぐだぐだになりながらもどうにかしてくれるだろう。


 あんずは根拠もなくそんなことを思う。


「……ナルシのとこ帰るか。なんか、疲れちゃった」


 椅子から降りて、出口へと向かう。


 その時、真後ろからゴトンッという鈍い音が聞こえた。


「……え?」


 振り返ると、先程まで座っていた椅子の上に小さな箱のようなものがある。


 鍵穴付きのオルゴールのようだ。


「あれ? さっきまでは無かったのに……」


 気になってオルゴールに手を伸ばす。


 その時、ガコンッ!! という大きな音と共に一瞬室内が激しく揺れ、あんずは思わず椅子にしがみつく。


 弾みでオルゴールが落ちた瞬間、揺れは収まった。


「……何、今の……。地震?」


 あんずはきょろきょろと辺りを見渡しながら立ち上がる。


(……地震にしては、ショキビドウ……が少なかった気がするけど。それにピタッと収まったし……)


 じゃあ何、と言われても困るけど。


 そんなことを考えながらふと視線を横に移すと先程落ちてしまったオルゴールが目に入った。


「……ん? あれ!?」


 何かが違う。そう思い、慌ててオルゴールを拾う。


 嫌な予感は的中してしまった。


「うわ……上蓋外れちゃってる……」


 どうしよう。


 ダメ元でもう一度オルゴールを閉じてみるが、手を離した瞬間にまた取れてしまう。


「うあーどうしよう……。ピーアちゃんに怒られる……」


 無意識にそう呟き、ふと我に返る。


(なんであたし、このオルゴールはピーアちゃんのだって思ったんだろ……)


 ピアノの傍にあったからかな。いや、もっとなんかあった気がする。


 あんずはオルゴールを睨みつけながら考える。


「……あたしは、ピーアちゃんと……」


 何か思い出せそう。


 そう思った瞬間、足場が崩れる。


「……え!? え!? おわーーーーーー!!!!」


 考え事に気を取られていたために受身を取ることもできず、あんずは頭から真っ逆さまに落ちてしまった。



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