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悠星、迷宮三十階の攻防2

「ふう。ここまでくれば一息つけるか」


 孤島から十kmほど離れた地点まで僕達は後退した。

 ビニールボートの中で僕達は話し合った。


「ジーク、どうすんだよ。ありゃ、永遠に討伐できんぞ。弱ったら回復なんて打つ手がない」


『だにゃ。攻撃力も凄いが、継戦能力も化け物にゃ』


「ちょっと整理してみよう。当初はヤツの攻撃は二種類だった。まあ、単調だったよね。僕達もいつもの通り、僕が攻撃担当、ジークと従魔が補助魔法と結界防御担当ということで、最初は順調だった。ところが」


『(近接攻撃として尻尾のぶんまわしと遠距離攻撃のウォータボール。威力が半端なかったにゃ。一撃で結界防御が吹っ飛ぶ威力にゃ。無防備なところを重ねて攻撃されると、ボクたちの命も危ないにゃ)』


「近接攻撃っていうか、尻尾攻撃は半径五十mはあったし」


『(ああ。ちょっとでも間合いに入るととんでもない速さで尻尾が飛んできたにゃ)』


「あまりに速すぎて尻尾の先端は音速をこえてたよね。ショックウェーブが発生して、最初は驚いて思いっきり吹っ飛んだよ」


『(ウォータボールだって並の威力じゃないにゃ)』


「半径1mほどの水球がマシンガンのように連続して飛んでくるんだ。しかも一つ一つが岩を砕くほどの威力。まともに食らうとさすがの従魔結界も弾け飛ぶから僕も必死になって逃げてたよ」


『(レンジが数百mはあるにゃ)』


「僕の魔法攻撃はせいぜい百m強ってところだからな」


『(やつには補助魔法もかかりにくかったにゃ)』


「さらにやっかいなのはある程度攻撃すると海に入って回復してしまう。それも全回復に見える。それまでに地味に重ねてきた攻撃の蓄積がいっぺんにパア」


『(どこかにスキはあったかにゃ?)』


「現状ではお手上げとしか」


『(うーん、そうだにゃ。ちょっと威力偵察してみるかにゃ?)』


「よし、それでいこうか。何度か交戦してみて弱点を探そう」


 …………


「ダメだ、攻略の手がかりがつかめない」


『(悠星、もう夕方にゃ。時間切れにゃ)』


「仕方がない。撤退しようか」


 朝の八時に戦闘を開始した。

  

『(結局、十時間にゃ)』


 現在は夕方の六時。

 延々と大海蛇の攻撃を受け続けたのだ。


「うげ、脚に来てる」


 撤退するにはこのフロアの入口に戻る必要がある。

 孤島の転移陣を使用するにはボスを討伐する必要があるからだ。


『(とにかく、緊急事態にゃ。ボクの転移魔法と従魔たちとで入口に戻るにゃ)』


 ジークの転移魔法はさほどの距離を稼げない。

 しかも回数を稼げない。

 それでも数kmは転移できるので、何度か転移をしつつ、その間を従魔の本気姿での物理移動で入口に戻ってきた。



「ジークも従魔たちもご苦労さま。さあ、1階に戻ろうか」


 ここまでくればもう一息だ。

 僕達は迷宮庁の建物に戻り、急いでバスに乗って家に戻った。

 なお、自転車はそのまま駐輪場においておいた。

 疲れて足腰がガタガタだったのだ。


 ちなみに、僕の自転車を盗もうとすると雷魔法が発動する。

 死なない程度に弱めてあるが、ムリに盗もうとすると本気発動する。

 そうなった場合、盗人がどうなるのかはわからない。


 ◇


「あれは酷かった。半日近くずっと押しまくられてほとんど攻略手口も掴めず、這々の体で撤退したんだよな」


 僕たちは家に戻ってきてからずっと検討会を続けていた。


『(いや、よく戦ったにゃ。激戦なんてもんじゃなかったにゃ)』


「激戦かー。ほとんど一方的にやられてて、僕達逃げるのがメインだったよな。合間に攻撃してただけで。正直、へこんだよ」


『(だから、第二戦と第三戦は様子見に徹したんだにゃ。弱点探しのために)』


「それぞれ1時間ぐらいで撤退したけど、仮説をたててみたんだ」


『(ほう)』


「唯一の隙らしいのはダイダルウェーブの発動後。数秒なんだけど、蛇はフリーズするよね?」


『(にゃ。そのあと、たいてい海に逃走して全回復を図るにゃ)』


「その一瞬動きを止めた瞬間が最大の弱点じゃないかと」


『(にゃるほど。確かに、その時点ではヤツの魔力も体力も底になっているにゃ。だが、ボクたちもヘロヘロだにゃ)』


「そこだよ。ダイダルウェーブを出させるまでは僕達は待ちに徹して魔力を温存する」


『(ふむふむ)』


「ただ、それでも数秒の間に強大な攻撃を叩き込む必要がある。今の僕の持ち手ではそれは3ムリだ」


『(もっと、土属性の強い魔道具ということかにゃ。ふむ、わかった。開発してみる。数日かかるからにゃ、検証は来週だにゃ)』


「もう一つは、ダイダルウェーブの出るタイミングだな」


『(魔力が切れそうになる直前ぐらいなんだけどにゃ)』


「ダイダルウェーブなしで海に逃走するパターンもあったよね」


『(にゃ。よし、明日の日曜日はそこを中心に検証するかにゃ)』


「了解にゃ!」


『(真似するにゃ)』


 ◇


「ふう。今日は検証中心だったから余裕があったね」


『(にゃ。昨日はへとへとだったからにゃ。今日は余裕だったにゃ)』


「でも、なんとかダイダルウェーブを出す手順がわかったね」


『(うにゃ。おそらく、尻尾攻撃を出させないことにゃ。延々と水魔法攻撃をさせていくと段々と魔力が枯渇していって、最後のあがきのような形でダイダルウェーブ発動→海に逃走、回復の流れになるにゃ)』


「少なくとも数百発は水球を発動させる必要があるからね」


『(うん。もう一つはその頃にはみんな魔力が枯渇しかかっているんだにゃ。だから、いかに魔力を維持し続けるか。魔力回復薬はあるけど、即効性じゃないにゃ。あと、たくさん飲んでも効果が薄いにゃ。ある程度間をあけて摂取する必要があるにゃ。もってる回復薬にも限度はあるにゃ」


「その発動→海に逃走の間に3秒ほどの硬直時間がある。その時間帯だと大海蛇の魔法防御力が低下するみたいで、状態異常攻撃が効く。それで数秒間足止めを延長できる」


『(つまり、十秒足らずの時間に一気に連続して魔法を叩き込むことになるにゃ。やはり、現状の悠星の使用する魔法では威力不足になるにゃ)』


「残念ながら。ジークの新しい魔道具に期待するしかないね」


『(まかせるにゃ)』


 ◇


 さて翌週の土曜日。

 僕達は三十階に来ていた。


『(新しい土魔法攻撃魔道具、ソイルランサーの出陣式にゃ)』


「ソイルランサー、対象の足元に土の槍を作り出し、体を貫く。他の階での試射では魔力消費が少なく連射が効き、威力は高かった。いけそうな感じだな」


『(ただし、対象者に近づく必要があるにゃ。遠距離攻撃というよりは中距離攻撃。そこがポイントにゃ)』


「ダイダルウェーブを発射したら、大海蛇は海に逃げていくだけだから、そういう意味では危険性はないんだけど、瞬時に距離を詰めて攻撃を叩き込めるか、だな」


『(それもまかせろにゃ。五十m程度の転移ならば問題ないにゃ)』



 さて、三十階の孤島。

 ここに来るのは三回目。

 流石に手慣れてきた。

 基本は従魔たちに乗っけてもらう。

 彼らも途中で疲れてくるからチェンジしつつ孤島に向かった。


「親の顔より見た大海蛇。今日はビシッと決めたい」


『(そうにゃ。きっちり回復して試合開始にゃ)』


 約二時間後。

 百%回復したので討伐開始。

 まあ、ひたすら避難に専念するんだけど。


 …………


「うげ。もう二時間は経ってるぞ。まだかい」


『(もう数百発は水魔法水球を交わしてるはずにゃ。そろそろにゃ。気を緩めてはいかんにゃ)』


「あ、鎌首を持ち上げた! 口を開けたぞ! みんな、来るぞ! モモ、頼んだぞ!」


 最も魔力を使わずに避難する方法。

 地龍が空中に防御ボードを創出。

 そこを伝ってダッシュで上空に退避。

 直後に、僕達の下を数十mもの高さに及ぶ大波が襲う。


「来た! ジーク、従魔たち、頼んだぞ!」


『(まかせるにゃ! 転移!)』


 瞬時に僕は大海蛇の至近に移転した。

 他の従魔たちは僕への土魔法強化、大海蛇への各種妨害魔法を発動した。


「ソイルランサー、連発!」

 

 僕は魔力の続く限り、ソイルランサーを大海蛇に打ち込んだ。

 時間はおそらく八秒前後だ。

 その短い間、蛇は硬直が解けない。

 僕は十発以上、おそらく二十発もの魔法を叩き込んだ。


『グォォォ!』


 大海蛇の体が槍によってズタズタに裂かれていく。

 一瞬、蛇の体が停止したかと思うと体内から光を発し、サラサラと黒い粉となって消滅した。


「やった!」

『(やったにゃ!)』


 ◇


 僕達は孤島の岩の上にごろりと横たわった。


「肉体的にも疲れたけど、魔力を放出しすぎて動けん……」


『(丘の上に宝箱が現れたから、ボクが回収するにゃ)』


「頼む……何が入ってたの?」


『(グレートにゃ。これは上級ヒールだにゃ』


「上級ヒール? ジークの持っているヒールとどう違うの?」


『(普通のヒールは簡単な怪我を治したり疲れを癒やしたりするだけにゃ。上級ヒールは体の様々な不具合を治すことができるにゃ。おそらく、体の欠損までいけると思うにゃ。他にも応用が効きそうにゃ。千年以上生きているボクも初めて見た魔法だにゃ)』


 ジークの使う魔法は、魔道具を必要とするものと不要なものがある。

 ヒールは必要としない魔法だ。


「じゃあ、さっそく僕の疲れを治してよ」


『(いいにゃ。ヒール!)』


「おお、体から力が湧いてきたぞ……というか、レベルアップしたぞ」


『(ほう。じゃあ、五十六レベルになったかにゃ?)』


「うん」


『元気になったのなら、ちょっと三十一階を覗いて戻るかにゃ?』


「だね」



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