表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/45

家族団らん、親孝行

家族団らん、親孝行】 未完


「お母さん、これパリのお土産」


「まあ、素敵なコーヒーカップセット! きれいな水色ね」


「セーブル焼だよ。本物の。アガサ・ブルーっていうらしい。鑑定書もついてる」


「うそ。そんな高価なものを」


「蚤の市でガラクタと一緒に売られていたんだ。偽物のセーブルを本物だと偽って。だから、馬鹿にするな日本は陶磁器の本場だ、これは偽物だろって買い叩いたんだ」


「どういうこと?」


「売り主は偽物だと思っていたんだよ。セーブルは偽物が多いらしいから。僕も偽物だって思ってた。けど、鑑定してみたら本当は本物だったというわけ」


「ふふふ。お馬鹿な売り主ね」



 実は、このカップセットは粉々になって箱にまとめられていたのだ。

 それをジークが修理した。

 六脚のセットだった。

 その時に使ったのが、上級ヒールだった。

 上級ヒールは物の修復にも使えたのだ。


 鑑定した人も五十万円出すから売ってくれ、と申し出のあったものである。

 


「お父さんにはこちら」


「ほお。ロレックス?」


「ロレックス・デイトジャストだって」


「これも蚤の市で買ったのか? でも高かったんだろ?」


「これはね、サビサビだったんだ。素人が見てもはっきりわかるくらい。店主は直せば直るって言い張ってたけど、そんなわけあるかい、って問い詰めて値切った。値段はタダみたいなもんだった」


「ほお」


「でね、時計修理の店にもっていったら、なんと直っちゃたんだよ。日本の時計屋さんは優秀だよ。あ、鑑定書もあるよ」


 時計屋さんに見てもらったけど、やっぱり直せるような代物じゃなかった。

 ジークの上級ヒール一発で新品のようになったんだけどね。


「いやいや、修理代だってバカにならんだろ」


「そんなに高くないって。それに申告してる通り、けっこう迷宮で儲けてるから問題ないよ」


 まあ、本当に修理したら新品より高くなったかもしれないが。


 申告している通りというのは、僕は十五歳でカードを発行してもらってから、迷宮活動をそれなりに親に報告している。

 税金とかにも関わってくるから、それなりの額を毎月稼いでいることにしている。


 両親は当初、学業に差し障りがあったら、などと心配していた。

 けど、成績がますます上昇していくのを見て、世間に言われている迷宮活動の効果に驚いてからは、前向きに迷宮活動を応援してくれている。


 学費もかかってないし、最近では食費も入れているぐらいだ。

 僕は大食いだからね。

 普通の三倍は摂取する必要があるんだ。


 まあ、お母さんは貯金してるみたいだけど。



「そうか。悠星は目利きもできるようになったんだな。ていうか、交渉は誰がしたんだ? 優秀な通訳がいたんか?」


「あー、僕が」


「悠星が? おまえ、英検1級とってるよな、中二のときに。凄いな、語学の才能、ありまくりじゃないか」


「いや、それほどでも」


「うーん、おまえは語学だけじゃない。神楽家に代々伝わるオスの三毛猫が彷徨い込んだと思ったら、とんでもない人材をもたらしたのかもな」


「はは」



「そういや、悠星。パリ行く前に貸してくれた孫の手なんだけど。これでポンポンすると気持ちいいわね」


 実は、この孫の手、魔道具である。

 本当に微妙なヒール魔法が組み込んである。

 ポンポンすると、血行が良くなるんだ。


 僕の母親は昔から肩凝りがひどい。

 うつ伏せになって僕に背中を踏ませていた。

 小さい頃からそうだった。

 流石に、中学生ぐらいになると重すぎると文句言われて憤慨したけど。



「お母さん、久しぶりに背中にのってあげようか」


「心遣いは嬉しいけどね、悠星は重すぎるでしょ」


「じゃあさ、肩もんであげるよ。クラスの子で肩凝りのひどいのがいてね。時々揉まされるんだ。結構、好評だよ」


「そう? じゃあお願い」


 僕は母さんの肩をもみ始めた。

 と同時にジークに合図してゆっくりとヒールをかけてみた。


 このヒールは初級ヒールだ。

 傷を瞬時に治すほどの威力はない。

 でも、孫の手魔道具よりは回復を早める効果がある。



「あれ、本当に上手ね。肩がじんわりと暖かくなってきたわ。とっても気持ちがいい」


「俺は眼精疲労だな。細かい事務作業の連続で目が痛いんだ」


 こっちは父親だ。

 お父さんは区役所の職員だ。

 膨大な書類と毎日格闘している。


「眼精疲労はね、こめかみから側頭部の筋肉をほぐすのが第一なんだよ。後でやってみるね」


「お願いな」


 

 父親にもマッサージをしてみた。

 マッサージ単体でも効果はある。

 そこにヒールをかけると倍以上の効果がある。


 肩こりも眼精疲労もたいていは血の巡りが悪くて老廃物が貯まることから発生する。


 つまり、血の巡りを良くして老廃物を流しだせば簡単に治る。

 一番いいのは、運動だ。


 マッサージも悪くないが、やり過ぎはいけない。

 長時間揉むとか強く揉むとかは逆効果になりやすい。

 筋肉を傷つけるからだ。

 その瞬間は筋肉が暖かくなって老廃物が流されるかもしれない。

 しかし、筋肉が傷つくから固くなってしまう。

 老廃物が流れない。

 ますます肩が凝る

 という悪循環になりやすい。

 これを揉み返しという。


 僕のヒールは筋肉を傷つけずに血流を良くし、合わせて簡単な肉体の補修効果がある。 



「おお、凄いな。俺の眼精疲労は慢性的なもので薬とかで誤魔化していたんだが」


「肩こりも眼精疲労も病気じゃないんなら単なる運動不足からくるのが大半だよ。筋肉を柔らかく動かして血流を良くする。これがコツ」


「運動不足か。それ言われると耳が痛いな」


「なんなら、僕の考えた軽い体操をしてみる? ラジオ体操第1をアレンジしたんだけど」


「ほう。ちょっとやってみるか」


「そうね」


 ……


「ホントだ。目だけじゃない。全身がほんわりと暖かくなって体が軽くなった」


「私、こんなにすっきりしたの何年ぶりかって感じね」


「緩いのがいいんだよ。運動しないのもいけないけど、ハードすぎる運動とかも逆効果なんだ」


「「これ、毎日やってみるか」」


「なんなら、毎朝庭でやってみようか。アレンジ・ラジオ体操第1をスマホに取り込んで流せばいい」


 ◇


 翌日の朝からの体操は神楽家恒例となった。

 五分ほどの体操なんだけど、爽やかな朝の外気と合わさって健康効果が倍増となった。

 

「神楽さん、毎朝、なんだか楽しそうね。私も参加させてもらっていいかしら」


 これはお隣さんの佐藤おばあちゃんだ。

 すでに七十歳を越えている。

 戦前から神楽家とは隣同士の仲である。

 

「どうぞ、どうぞ」


 佐藤おばあちゃんに体操を教えて一緒にやってみた。


「まあ。普通のラジオ体操よりずっといいわね。なんだか、体がすごく軽くなるわ」


 まあ、体操の効果もあるけど、ジークがいるからね。



 そんなことが何日か続くと近所の人たちも参加し始めてきた。

 そうなると、我が家の庭ではちょっと狭くなった。


「私の家の空き地でやったらどうかしら」


 ご近所の山本さんが場所を提供してくれた。

 この辺りは大昔から住んでいる人ばかりだ。

 顔馴染ばかりなのだ。

 空き地というのは、山本さんは息子さん用に隣の土地を購入した。

 当の息子さんが海外勤務になってそのままになっている。



 この辺りは、今でこそ発展して家がぎっしりと建てられるようになったけど、百年前はまだまだただの山というか丘陵地で、僕のお爺さんが生まれた頃にようやく発展しだした土地なんだ。

 

 で、僕の周囲に住んでいる人たちはその発展しだしたタイミングで越してきた人が多い。

 神楽家はそれ以前は山の地権者の一人だったけど。


 どっちにしろ、古い街ではないが、新興住宅地というには歴史のある街だ。

 住民に顔なじみが多く、街全体がこなれた感じがする。

 いい意味でちょっと村っぽいんだ。


 だから、今までもそんなに近所付き合いが悪かったわけじゃない。

 でも、体操をし始めて年寄り中心に毎朝集まり始めて、ずっと付き合いが良くなったといって喜んでいる。


 いくら住民に穏やかな人が多いとはいえ、やっぱりわだかまりも生まれるからね。



 会場にはジークを始め猫もこっそり集まっている。

 猫たちは実体はよそにおいて、精神だけの参加だ。

 これでジークのヒールパワーが強くなる。

 ジークのヒールは広範囲を癒やすものじゃない。

 各猫が波動を送ってくれるから、たくさん人が集まっても一気に対応できている。


 実は、癒やしているのは人間たちだけじゃない。

 猫もいろいろと不具合を抱えている。

 猫たちもラジオ体操をこっそりとやりつつ、このヒールで具合の悪い箇所を治している。

 まあ、そのことを人間たちは誰も知らない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ