鉄壁のワン・ツーはオタクだった3
「大西、沢井。おまえら、少しキショくないか?」
「悠星、おまえ本当にわかってない。俺達だけじゃないんだ。彼女たちを崇拝するのは」
「そうだぞ。俺達は多少は成績がいいかもしれんが、地味さも結構なもんだろ?」
「悠星、オレなんかな、小学校のとき、あまりにも地味だったから、ジミー大西ってあだ名つけられたんだぞ。卒業するまでジミーって呼ばれ続けたんだ。それもオレが学院に来る遠因だったな」
「俺だって、本名が正一だぞ。ジジ臭くて親の正気を疑うレベルだ。で、ついたあだ名が横井正一なんだ。ちょうど社会の授業で横井氏のビデオが流されてな。不敬にも大爆笑さ。その日から『恥ずかしながら』って敬礼しながら俺に告げるのが大流行りしてな。まあ、俺もヤケになって合わせてたがな」
「自分を貶めるつもりはないが、俺達が学院にあってないのは理解してる」
「ここは偏差値と奨学金で選んだんだ。あと、内部進学で医学部いけるってのも魅力的」
「そこそこ家から近いしね。俺は二子玉川だし、大西はセンター北なんだ」
「ああ、電車が止まっても、最悪歩いて行けるな」
「でも、入ってから驚いたよ。小学校時代とはまるで人種が違う。キラキラしすぎてる」
「頭がいいやつが多いのはもちろん、超富裕層、一流の経営者、政治家、スポーツ選手、芸能人、そんなクラスの親を持った子供が多いんだ。本人が芸能人とかモデルとかも多いしな」
「夏休み明けなんて、つらいぜ。海外旅行をさも隣町に遊びに行きましたぐらいのノリで会話に華をさかせるわけ。クラス中が」
「で、俺達二人はフィギュアとかゲームとかの話をコソコソ隅っこで」
「運動も目立たない。むしろ不得意。外面も地味。座学成績だけは優秀」
「典型的なナードだよな。アメリカの高校だったら、クラスヒエラルキーの最底辺だよ。毎日いじめられる存在だよ」
こいつら、生徒たちから崇められていると思っていたのが、そんなコンプレックスを抱えていたとは。
「大人しく県立とか都立・国立とかにいっときゃよかったけどな」
「そういう意味でもあの二人は眩しすぎるのよ。最底辺は最上位の人間に口聞いちゃだめなわけ。いや、世が世なら、地べたに土下座しなくちゃいけないわけ」
「お、おお。なんだよ、卑屈すぎんだろ。レベルが追いついたら、彼女たちと合同攻略しようかと思ってたのに」
「い、い、一緒にめ、め、迷宮に?」
「あああ、や、やつがれにはと、と、とてもとても畏れ多くて……」
「なんだよ、やつがれって」
「自分を卑下する一人称」
「おお、さすがは学院1年のトップ1・2だな。無駄に知識があるぞ」
「俺も生まれて初めて口に出した」
「それでは、合同攻略はなしか」
「い、いや、底辺の俺にも人権はある! 必ずや這い上がってか、か、彼女たちとと、と、ともにできることをも、も、目標にするぞ!」
「よし、大西。よく言った。オレもこのイメージの低さをどうにかしたいと思ってたんだ。じゃあな、悠星。火曜日から金曜日まで、放課後の活動ってことでどうだ? なに、ずっととはいわん。俺達が独り立ちできるまでだ」
「かまわんよ。家、二子玉川とセンター北だったな」
「「ああ」」
「自転車買えよ。迷宮行くなら川沿いの道を利用するとめっちゃ速いぞ。僕なんて家がM駅のそばなんだけど、海ほたるまで片道1時間かかんないぞ。早朝なんかだと四十分ぐらい。まあ、アクアラインは高速バスになるけど」
「え、そんなに速いんか」
「おまえらだって、自転車なら学院から1時間ぐらいじゃないか? 慣れてくれば、1時間以内だろ」
「ふむ。運動にもなるしな。通学に利用したっていいしな。自転車なら家から学院まで三十分程度だろ。親も喜ぶってもんだ。うちの親は普通の共稼ぎサラリーマンだからな」
「ああ、運動は大事だぞ。レベルがあがってもその基準になるのは自分の基礎体力だからな」
「なるほど。オレたちがレベル二十になっても、全盛期のL1室伏○治とかL1ヒョー○ルには瞬殺されるということか」
「そゆこと」
「小さい頃から運動は避けてきたが、溜まってたものを返すときが来たな」
「おお!」
「最初の数日が辛いだけさ。すぐに慣れるし、レベルも上がってくるからね」
「で、女神のお二人は今どの位?」
「彼女たちは十階で体力を磨いているよ」
「おお、先は遠いか?」
「いやいや、頑張り次第さ」
「沢井、じゃあ来週の火曜日からだな。日曜日は自転車買わなきゃ」
「自転車は最低でも五・六万円以上のにしろよ。改造がしやすいし、改造しなくても性能が高いぞ」
「俺の二万円で買ったのじゃダメか」
「ダメじゃないけど、乗り比べると差が歴然としてるぞ。僕の自転車に乗ってみればわかるよ。お金はすぐに稼ぐことができるし」
「そうか。てか、買うのつきあえよ」
「じゃあさ、明日十時にH駅の改札付近でどう? 学院のそばに大きな自転車屋あるからそこいこう」
「「ラジャー」」
◇
「悠星、おまえ、自転車屋の回し者だろ」
「ああ、ついつい乗せられて十万円近い自転車買ってしまったぞ」
「おかげでフィギュアのお金が……黛冬○子たん、さようなら……」
「大丈夫だって。数日で取り返すことができるから」
「だけどな、悠星が言ってたのわかるわ。家の自転車と比べると本当に差が歴然」
「軽さが数キロは違うよな。ペダルも変速もすごく滑らかだし。おれんちマンションなんだけど、部屋に自転車もってくのは昔なら考えたことなかったけど、今のはかなり楽に行けそうな気がする」
「これベースに改造も簡単だからね。僕のなんて、元は車重が十三キロ以上あったんだけど、今じゃ七キロ台だよ」
「それも凄いよな。約半分じゃないか」
「てか、元の部品を探すほうが難しいんだけど(笑) 一応、親に買ってもらったから改造云々は言い出しにくくて」
「そっか? 普通にできるだろ」
「沢井、僕の自転車の部品がいくらするか知ってるのか?」
「わからんが、数万円とかの話だろ?」
「例えば、ホイール。前後合わせて○十万円」
「「は?」」
「ボディ、ギヤ周り、あと細かい部品とかを変えていくと軽く○十万円」
「ウソだろ。つまり、それだけの稼ぎがあるってことか」
「そこらへん走ってる自転車な、高額なのになると百万円越えるぞ」
「なんだよ。軽自動車に手が届きそうじゃん」
「二百万円超えもある」
「誰が買うんだよ」
「だから、盗難が多いわけ」
「ああ、わかるわ。こんなの店先に置いておいたらちょっと借りてこか、って奴が普通に湧いてくるわ」
「ホイールも対策をしないと簡単に取り外しできるからね。すっとはずしてどこかで売れば簡単に小遣い稼ぎさ」
「悠星、大丈夫なんか」
「へへへ、この自転車にはジーク開発の盗難予防魔道具がつけてあるんだ。盗もうとすると雷魔法。さらに盗もうとするとさらに強力な雷魔法。家庭用電化製品で感電したぐらいにはなる」
「うえー、見つかったらおまえ逮捕されるかもな」
「過剰反応してひっくり返った場合はやばいかもね。一応、電流値を管理してる。人体に深刻な影響の出ない程度の威力に留めてあるが、そもそも盗もうなんて輩に忖度する必要はないだろ?」
「悠星、おまえ案外黒いんだな。まあ、わからんでもない」
「お金もかけてるけど、整備、改造とこの自転車にはかなりの労力もかけてるからね」
「そうだな。俺達も大事にしよう」
「ああ。心配するな。おまえらの自転車にも盗難予防魔道具はつけるから。まあ、最初は慣らし運転だな」
「そうそう。ゆっくりと慣れていこう」
「ああ。自転車の乗り方もコツを教えていくから」
「「おお! ラジャー!」」
「じゃあ、火曜日に」
「「また!」」




