鉄壁のワン・ツーはオタクだった1
さて、話は五月の連休すぎに戻る。
さすがに連休は迷宮も激混みである。
だから、僕の迷宮活動はお休みとなった。
そのかわり、インドアを堪能した。
漫画、アニメ、ゲームなどである。
僕はオタク趣味もあるのだ。
僕的には充実した連休を過ごし、久しぶりに学校に来てみると、数学クラスの隅で学年1・2位の秀才の二人がこそこそと話をしていた。
数学は成績順クラス編成をしている。
むろん、ここはAクラス、トップクラスのものが揃っている。
この二人、流石に目はいわゆる秀才の目をしている。
切れ者の目。
でも、それ以外は地味。
どこかの地方の化学研究員って感じ
で、二人は案外仲が良い。
何を話しているのかはわからないが、いつも楽しそうだ。
彼らと接点のない僕としては何気に横を通り過ぎたのだが。
「……」
二人のぼそぼそと話す言葉を僕の耳が捉えた。
僕の五感は常人よりもかなり鋭い。
そのために、普段は感度を思いっきり下げている。
それでも、僕の耳にある単語が飛び込んできたのだ。
「……あ○あ……錦木……」
僕はピンときた。
思わず、
「それって、あ○あみ大賞の話?」
ぎくりとしてこちらを見る二人。
「(ちょっと、声のトーンを落として!)」
「(ごめん、聞くつもりはなかったんだけど、耳に言葉が飛び込んできて)」
「(極力小さな声で話していたのに、君は耳がいいんだね。確かに君の言うとおりだよ。ということは、君はボク達の同志か?)」
「(僕は十年来の初○ミクファンだ)」
初○ミクはバーチャルシンガーソフトウェア及びそのキャラクター。
「(ほう。フィギュアファンか?)」
「(全般的だね)」
ちなみに、あ○あみは日本最大級のホビー通販サイト。
フィギュアの取り扱いで有名だ。
あ、フィギュアとは漫画やアニメ、ゲーム等のキャラクターをかたどった立体的な人形のこと。
錦木とは、リコ○ス・リコイルというアニメの登場キャラ。錦木○束。
あ○あみフィギュア大賞202Xでスケール美少女フィギュア部門1位を取ったのだ。
残念ながら、授業が始まってしまったので、会話はここまで。
ただ、昼食時間に会話の続きが行われた。
趣味を同じくするもの同士、一瞬にして距離を縮めたのだ。
「(フィギュアは大西が大好きなんだ。俺も好きだけど)」
大西というのは大西慶次。
俺というのは沢井正一。
学院中等部からずっと学年のトップ1・2を競り合って来た秀才である。
まとめて鉄壁の1・2と周りから呼ばれている。
「(僕も初○ミクのフィギュアは何体か持ってるよ。ただ、高いからね。バカスカは揃えられないけど)」
「(職人の手作りだから仕方がないとはいえ、一体1万円以上することが多いからね。プレミアムがついたりすると高校生のボクではもう購入できないし)」
「(数十万とか下手すると百万円超えもあるもんね)」
「(ああ。人形全体を見てみればオークションだと億越えもあるよね)」
「(二十年近く前だけど、村○隆氏の等身大フィギュアが十六億円で落札されたなんてこともあった」)」
「(それにはフィギュア大好きのボクも引くよ)」
「(あ○あみなんだけどさ、今の僕の注目はアイドルマスター シャイニーカラーズ 黛冬○子 オ・フ・レ・コVer. 1/8 完成品フィギュア)」
「(ああ、あれはいい。セクシーさと清潔さが同居してる。再発売されるんだろ。でもさ、値段が問題)」
「(二万円越えるもんな。高校生にはきついって)」
「(ボクはちょっと無理して買おうと思ってる)」
「(ほお。大西、さすがはフィギュア好きを自認するだけはあるな。かなり羨ましいが、俺の予算は限られてるからな。一点重視というわけにはいかん)」
「(ところで、悠星は初音ミクは全般的にと言ってたけど、やっぱり本命はボカロか?)」
「(うん。下手クソ過ぎて赤面するレベルだけど)」
ボカロっていうのは、ボーカロイド。
メロディーと歌詞を入力することでサンプリングされた人の声を元にした歌声を合成することができる。
初○ミクで有名になった。
通常はボカロにDTMをあわせる。
DTMはDeskTopMusicの略。
パソコンで音楽制作ができるソフト。
今では多くのプロもDTMソフトを使っている。
「(ほら、AIで自動作曲できる時代じゃん。びっくりするような秀曲が多くてさ。今はAIを凌駕することを目標としている)」
AIの進歩は驚異的で、歌詞を入力、どうのような楽曲にするのかを選択するだけで、高水準の楽曲をPCが制作してくれるのだ。
例えば、『弥○やないかい』。
とあるゲームがいろいろと炎上したのだが、批判するためにAI楽曲を制作したのだ。
これに触発されて一連の楽曲が世に登場した。
個人的に気に入ってるのはエンディングテーマ『褐○の白雪姫』。
歴史的な失敗映画を風刺したAI楽曲。
これが声も曲も素晴らしい。
詩は風刺にあふれていて、クスリと笑える。
「(いや、悠星。作曲は個性だぞ。いくら耳触りが良くても、AIはしょせん何かのコピーだぞ)」
「(ほう、沢井、言うじゃないか。ひょっとして君もなにかやってるんか?)」
「(おまえじゃないけど、恥ずかしながら(笑))」
「(ちょっと聞かせろよ)」
「(いやいや、お耳を汚すわけには。そういう悠星は?)」
「(あー、僕も右に同じ(笑) 沢井、楽器もやってる?)」
「(いくらPCが活躍しようと、やっぱ、楽器は基本でしょ。俺はピアノ、キーボード、ベース。悠星、おまえは?)」
「(やっぱり、僕もピアノ、キーボード、ギターだな)」
「(おいおい、ちょっと待て。ボクだけおいてけぼりかよ)」
「(大西だって、ピアノぐらいやってただろ?)」
「(ああ。流石に学院に来るような生徒は幼少のころピアノをやってたの多いよな。ボクも小五まで。でも、作曲界がそんなことになってたんか)」
「(ああ。AIで作曲していっちょ前に作曲家ヅラしてるやつもいる)」
「(それって、イラストレータとかでも問題になってるよな)」
「(大西だって素養はあるだろ。昔、ピアノやってたんなら)」
「いやいや、学院にくるぐらいだから学業はそれなりだったんだけど、音楽はダメだった。運動もね。ちょっとボクのトラウマなんだ」
『(悠星、この二人に迷宮を案内したらどうだにゃ?)』
突然、こっそりとジークが僕に念話を送ってきた。
「(ポム・メーラに続いてか)」
『(ああ。こいつら魔法適正力が赤(A)だ。それに、性格も良さそうじゃにゃいか)』
「(可愛い女子じゃないけどいいのか?)」
『(あれは戯言にゃ。いいか、悠星。ボクがやっているのはおまえの仲間選定なんだにゃ)』
「(ああ、前に言ってたな。『クラン』だろ?)」
『(そうそう。信用・信頼できる仲間作りにゃ。ようやく二組目の人材を見つけたにゃ)』
『クラン』についてジークが言及したのは、1年ほど前だった。
僕も設定を忘れかけていた。




