F学院高等部入学1
「新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます。ご家族をはじめ、ご関係の皆様にも、心よりお慶びを申し上げます。
この街の桜が満開です。これから始まる皆さんの高校生活を祝福しているようです……」
本日はF学院高等部の入学式である。
F学院高等部は総生徒数が一学年約六百十人、全校生徒数は一千九百八十人にも及ぶ大規模校だ。
神奈川有数のマンモス私立高校として知られている。
一学年の内訳は、系列中学校からの内部進学生が三百五十二人。
一般入試による外部進学生が二百五十八人。
合計六百十人で、一クラス約四十人の十五クラス編成となっている。
創立は明示三十五年。旧制中学時代から数えて約百二十年の歴史を持つ。
校舎は正和十二年竣工の本館を中心に、戦前建築の建物が現存している。
白亜の瀟洒な外観は、関東の私学を代表する建造物として建築学会からも高い評価を受けている。
広大な敷地には樹齢八十年を超える樹木が林立し、四季折々の景観を楽しめる。
最寄りのH駅から校門までの二百メートル間には樹高二十メートルのイチョウ並木が続く。
並木道奥の左側には系列大学キャンパスが広がり、右側には中等部と高等部の校舎群が建ち並ぶ。
校風は伝統的に自由を重んじている。
入学式や卒業式などの公式行事、また通学時には紺のブレザーに濃紺のスラックスまたはスカートの指定制服着用が義務付けられている。
しかし授業中は私服着用が認められており、髪型や染色も派手でなければ黙認される方針だ。
実際、女子生徒の約五割が茶色に染髪している。
ただし、化粧品の使用及びピアスなどの装飾品の着用は厳禁とされている。
進路状況は、例年約七割が系列のF学院大学へ進学する。
F学院大学は、偏差値六十五以上の学部を複数持つ私学の名門である。
内部推薦制度により確実な進学が約束されているため、学院希望者の多い理由の一つになっている。
特に注目されているのが医学部への推薦枠だ。
F学院大学医学部は、私立医学部の中でも最難関として知られる。
学院からであれば、独特の入試制度を持つ一般入試と異なり、内申点重視の推薦入試で合格できる点が大きな魅力となっている。
内申点さえ維持すれば進路が保証されているため、学内の雰囲気はのびやかだ。
裕福な家庭の子女が多く、最新のファッションや電子機器が飛び交う華やかな校風である。
「悠星くん、入学した感想はどう?」
「立派というか、教育環境が素晴らしい学校だね。正直、圧倒されている」
「そうでしょう? 明示時代からの校舎は重要文化財級の価値があるし、キャンパス内の緑地はこの当たりが山だった面影を十分残しているわ。それに、駅からずっと続く樹高二十メートルのイチョウ並木なんて、まるで映画のワンシーンみたいだもんね」
「でも、同じクラスになれなかったのは本当に残念だわ」
「まあ、十五クラスもあるからね。確率的に厳しかったよ」
「でもね、数学と英語は習熟度別クラス編成になるのよ」
「そうね。もしかしたら、上位クラスで一緒になれるかもね。悠星くんは学費全額免除の特別奨学制度に合格したんだもの。間違いなく、学院でも上位よ」
「いやいや、付いていけるか正直不安だよ。みんな中高一貫で三年間エリート教育を受けてきているわけだし」
「謙遜が過ぎるわよ。全県模試で常時十番前後だった秀才が何を言ってるの」
「そうよ。それに、うちの生徒たちってそんなに勉強一辺倒じゃないわ」
「ほら、内申さえキープしていれば系列のF学院大学に確実に進学できるでしょう? 一般入試なら偏差値六十五以上必要な学部でも、内部推薦なら余裕があるから。だから、順位争いとかそういうのはあまり重要視されないのよね」
「医学部志望の子とかは別だけど」
「そう。むしろ、適度に勉強をこなしながら、どれだけ課外活動で実績を残せるかが重要視されるの」
「君たちみたいにってこと?」
「自分で言うのも気が引けるけど、私たちは典型的な学院生ね。文武両道を目指すタイプというか」
「芸能活動やモデル活動をしている子たちは特にリスペクトよ。雑誌の専属モデルだって三人もいるのよ」
「あとはネット界隈で活躍している子たち。登録者十万人超えのYチューバーが二人いるし、フォロワー五万人以上のインスタグラマーも何人かいるわ」
「へえ、すごいね」
「逆に、勉強だけに没頭するタイプは少し肩身が狭いかも。私たちの学年には『鉄壁のワン・ツー』って呼ばれている二人がいるんだけど」
「鉄壁のワン・ツー? どういう意味?」
「中学一年生の一学期から三年間ずっと、学年順位の一位と二位を独占している二人よ。テスト平均点が常に九十五点以上なの」
「そんな秀才がいるんだ」
「でもね、二人とも内向的で、授業と図書館以外での姿をほとんど見かけないの。部活動にも所属していないし、クラスでも他の子とほとんど交流がないみたい。まあ、あの二人同士は割と話をしてるみたいだけど」
「学院には似合わない感じがする。なんとなく僕の仲間か?」
「何言ってるのよ。でも、悪く言うつもりはないんだけど、貴方の言う通り、日本有数の進学校であるK成高校や県立S高校のような純粋な進学校のほうが性格的に合っているんじゃないかって、クラスのみんなで話してるの。まあ、二人とも系列の医学部を目指しているんだろうけど」
入学から一週間が経ち、授業が本格的に始まった。
習熟度テストの結果、数学と英語は三人とも最上位のSクラスに配属された。
参考までに、彼女たちは中学三年の学年末テストで、皐月さんが八番、音羽さんが十一番という好成績を収めていた。
僕は特待生試験で全科目九十八点以上を記録し、授業料全額免除の特待生として合格していた。
そして、四月二十二日に実施された実力テストの結果が発表された。
僕は総合得点率九十五・八%で学年三位。
皐月さんは八十九・二%で九位。
音羽さんは八十七・五%で十一位という結果だった。
「さすがの悠星くんでも鉄壁の1・2の牙城は崩せなかったか」
「いやいや、僕のはたまたまだって」
「謙遜するのはかえって嫌味よ」
「うげ」
「でも、数学と英語だけなら悠星くん、二人に勝てるかも。特に悠星くん、英語力凄いよね」




