ポム・メーラお嬢様パーティ、迷宮地下五階チャレンジ
さて、三人は中学卒業式を終えた。
春休みで長期間の休暇となる。
その間も皐月・音羽ペアは順調に四階にて討伐を重ねた。
レベルが十になったので、五階にチャレンジすることとなったのだ。
十階ぐらいまでの場合、階数の倍のレベルになれば大丈夫、とされる。
無論、人によって大きく基本的なレベルが違う。
ただ、ステータスの低い人に合わせた見方なので、彼女たちにもあてはまるのだ。
「こうして1階の入口からワープしてこられるけど、ホント、便利よね」
「まともに1階から来てたら普通は1日以上かかりそうだもんね」
すでに、五階の入口、セーフティゾーンには到達している。
迷宮の入口から直接五階入口にワープできるのだ。
二~四階は迷宮フロア。
面積も数平方km以上はある。
そんな広いフロアが迷宮になっている。
攻略するだけで陽が暮れる。
おまけに魔物との交戦もあるわけだ。
ワープ機能がなければ、確実に五階で野宿する必要が出てくる。
「それにしても五階のセーフティゾーンって凄い広いね。百m四方はあるんじゃない?」
「ありそうね。ここでキャンプ張ってるシーカーも結構いるし」
海ホタルの1階にはシーカー用の宿泊施設がある。
簡易的な施設だが、それでも1泊五千円はする。
それならば、とキャンプする人が多い。
トイレ・食事・お風呂は1階ですませて寝るのはキャンプという形が多い。
「五階に降りる前に従魔くんたちの本当の姿を見せてもらったけど、凄かったね」
「うん。ドラゴンなんだもの。どうかしら、本体は象とかサイなみ? それに同じ長さの尻尾がついているって感じ」
「従魔たちが本気を出すのはもっと下の階だからね。今のかわいいサイズでもこの階あたりなら凶悪だから安心して」
「うん、防御は従魔くん達に百%頼りっきりだから! 頼むわよ、シマくんとモモちゃん、オコくん」
地面から顔だけ出してうなずく三匹。
とジーク。
まあ、目は物欲しそうにしているので、チュ○ルをあげることにする。
◇
「じゃあ、前にもしたけどこのフロアの説明をするね」
「「はい!」」
「このフロアは見たらすぐわかる通り、草原・森林ダンジョン。大型獣のエリアだ。狼、猪、熊の魔物版だね」
「色が黒かったっけ」
「そうそう。だから黒狼、ブラックボア、ブラックベアとか呼称されている」
「そのまんま(笑)」
「ここは迷路になっていない。1階同様、ただの草原・森林。そのかわり、広さは百平方kmだと言われている」
「かなり広いのね」
「それだけ広くても、例えば北海道のヒグマとかの縄張りは百平方km強って話だ。つまり、ヒグマ一家族の縄張りの広さしかない。でも、ここではそこら中に獣がいる」
「餌の問題がないからでしょ?」
「そうそう。ヒグマはそれだけの縄張りがないと自分たちの食い分を確保できない。でも、迷宮の魔物はそもそも餌が不要だ」
「だったら、人間を襲わなくてもいいのに」
「はは、それだと話が始まらないでしょ。それに温厚な魔物には情が湧くかもしれないし」
「それ、言えるかも。攻撃性マックスで目と牙を向いて向かってくるから、私達も討伐できる。でも、すり寄ってこられたら、攻撃できないよね」
「間違いないわ。頭なでなでして、魔物保護活動をしてもおかしくない」
「魔物の討伐方法だけど、今までと違ったことはない。気配探察知スキルで魔物の位置を把握、有利なポジション取りをして攻撃態勢。二の矢か逃走経路を確保しつつ、攻撃。攻撃は極力一撃必殺で」
「うんうん、okよ」
「でね、くどいぐらいに強調したいのは、絶対に超近距離戦闘になるなってこと」
「強いってわけね」
「三・四階はせいぜいウサギ程度の大きさだった。でも五階は最低が狼なんだ。大きい個体だと八十kgほどある」
「超大型犬の大きさね」
「それに伴い、攻撃力・防御力も段違いに強くなる」
ここでチンパンジーの強さを見てみよう。
チンパンジーは平均体重五十kgで人間よりも小柄かもしれない。
しかし、力はダンチの違いがある。
握力は約三百kg
チンパンジーは軽く人間の腕をもぎ取れる
脚力は約三百五十kg
垂直跳びは四mほどに達する
体重四十五kgのチンパンジーが両手で簡単に二百七十kgのものを持ち上げた。
八十kgの鉄板を軽々と放り投げた。
素手で車のフロントガラスを簡単に叩き割った。
そんな実例がある。
攻撃も力の強さだけではない。
その強靭な犬歯や爪も脅威だ。
人間はまずチンパンジーに力で叶わない。
数字的にはレベルが五十程度に向上すると同程度にはなれるけども。
では、もしも人間がチンパンジーと同程度の力を持ったら。
それでもチンパンジーに軍配があがる。
チンパンジーは幼いうちは人間に懐く。
ところが大人になるととたんに凶暴になる。
マイケル・ジャクソンは愛猿バブルスをそのために泣く泣く手放したと言われている。
何しろ、同族でさえも食べてしまうと言うほどの残忍な性格の持ち主なのだ。
人間ごときなど簡単に肉を剥ぎ取ってしまう。
その凶暴な野生むき出しで向かってこられたら普通の人間は恐怖で体が縮こまってしまう。
また、人間は攻撃に弱い。
少々の傷や出血で簡単に心が折れる。
心が折れなくても、腕が折れた程度で継戦能力が著しく下がる。
ところが動物は少々のことではへこたれない。
非常に我慢強い。
さらに、瀕死になると死にものぐるいになることも多い。
すると、攻撃力がアップするのだ。
生への執着が人間とは比べ物にならない。
これがゴリラだと握力が五百kgある。
ゴリラは温厚なので力云々は関係ないかもしれない。
それならば、そのゴリラよりも強いとされているヒグマ・北極熊。
瞬殺レベル。
北極熊は平均体重が五百kg、最大八百kg
ヒグマは平均体重が二百kg前後で最大五百kg
ゴリラは最大でも二百kg。
ちなみに、人間は猫相手でも素手ではかなわないかもしれない。
家猫は家畜化されて非常におとなしい。
だから、小型犬程度の大きさの山猫と比べてみよう。
猫の反射神経は半端ない。
マングースとコブラの動画あるが、猫もあの程度の反射神経がある。
目と鼻の先からのヘビの攻撃を避けることができる。
人間のトロいパンチ・キックなどあたるはずがない。
攻撃力はさほど強くないかもしれないが、地味に体が切り刻まれていく。
爪や牙で。
そして、人間は殺気溢れる攻撃を受け続け、継戦意欲が削られていく。
山猫だと的確に目や首をかき切るかもしれない。
※ちなみに筆者は半野良猫に噛まれたことがある。牙が手を貫通した。
ここで出会う肉食系大型獣。
黒狼、ブラックボア、ブラックベアなど。
地上の狼、猪、熊よりもステータスが五割増になっている。
こうなると、普通の人間がいくらレベルをあげようと、勝てない。
だからこそ、遠距離探索、遠距離攻撃を徹底させるのだ。
絶対に超短距離でがっぷり四つになってはいけない。
瞬殺される。
がっぷり四つで勝機があるとすれば、優秀な魔道具で身を固めた場合だ。
レベルを上げ、それにふさわしい攻撃魔道具と防御魔道具で身を固める。
そして、それなりの武道の経験を積む。
これで勝てるかもしれない。
しかし、同時に怪我をするリスクも跳ね上がる。
一度怪我をしたら、その後の展開が危うくなる。
仮にその場をなんとかしても、次の戦いがあるのだ。




