H駅前スター◯ックスにて
【神楽悠星目線】
さて、本日は夏休みあけの初めての土曜日、朝八時。
僕達は週休二日制だから、土曜日は休みなんだ。
F学院最寄りの駅前にあるスター◯ックスで二人と待ち合わせをした。
「ああ、待った?」
いつもと違い、彼女たちのほうが先に来てた。
場所取りをしてくれていた。
この店は土日はかなり混む。
ただ、午前中早くだと席を確保しやすいらしい。
じゃあ、平日はというと、
「この店ね、平日はF学院生でごった返すのよ。特に放課後は」
さすが、F学院生だな。
僕の通っている中学の生徒が放課後スターバックスへ行くか、というと、中には行く子もいると思う。
でも、校則で親同伴が必要とされるし、そもそもお金がない。
一杯五百円以上するような飲み物にケーキとかドーナッツとかつけると千円ぐらいする。
僕ならコンビニで何か買って店先で屯するか、新発売の話題のゲームソフトの購買資金に回す。
「私達はいつも通り。ダーク モカ チップ フラペチーノ(皐月さん)とキャラメル フラペチーノ(音羽さん)」
「それから、シマくんにはエスプレッソ アフォガート フラペチーノとストロベリータルト」
「モモちゃんにはチラックス ソーダ ストロベリーとストロベリータルト」
こいつら、椅子に隠れてバクバク食べてやがる。
お菓子とかよりも体のほうが全然小さいのに、どこに入っていくんだ?
というか、どうやって食べてるんだ?
「私達ももっと欲しいんだけど、カロリー高すぎて……」
「で、あなたたちのも頼んでおいたわ。言われた通り、マンゴー パッション ティー フラペチーノとジークと従魔オコくんにはフレッシュ バナナ&チョコレート クリーム フラペチーノ」
ここでオコがひょっこりテーブルの上に顔だけ出して、僕を恨めしそうに睨んでやがる。
あのさ。
貧乏人の僕を恨むなよ。
ちゃんとドリンクあげたでしょ?
食べ物も欲しいってか?
どうやら、シマとモモはかなり優遇されているようだ。
そういえば、なんとなく丸みを帯びたような。
「仕方ないな。オコも好きなの追加注文しなよ」
そしたら、チキンアラビアータ 石窯フィローネを指さしやがった。
こいつ、この料理が何かわかってるんかね?
彼女たち、オコの名前を考えてくるとか言ってたけど、オコは結局オコのままになった。
いい名前が思いつかなかったようだ。
オコなんて怒ってるみたいだ。
実際、オコはよく見ると怒り顔をしている。
まあ、本来のオコジョは獰猛らしいけどね。
「それから、これお土産」
そう言われて二人からそれぞれ大きな袋を渡された。
二人はついこないだまでカナダとフランスにいたのだ。
音羽さんはカナダのカルガリー。
カナディアンロッキーをみてきたそうな。
皐月さんは南フランスのコート・ダジュール、カンヌ。
カンヌ映画祭で有名なところだ。
「ごめんね、私だけ日本に残るとか短期で帰国するとかできなくて」
ということで一ヶ月以上を海外で過ごしたらしい。
「その代わり、毎日の訓練はしっかりやってたわ」
うーむ。
僕の夏休みは相変わらず海ホタル迷宮。
それとゲーム、アニメ、漫画。
たまに勉強。
それと本当にたまに友達と市民プール。
格差社会だよなー。
ひがんでばかりいても仕方がない。
「おみやげどうもありがとう」
中身はRogers’Chocolates
Dark Chocolate Empress Squares
と
maiffret chocolatier
なんて名前?
メフレかな?
両方ともチョコレートの詰め合わせだった。
「あれ、被っちゃったね」
「でも、両方とも有名店なんでしょ? 違いを味わおうよ」
「うふふ。私、チョコレート大好き」
「私も。ワクワクするね」
「でも、残念ながら、一粒しか食べられないけど」
「ホント。シマくんたちもいかが?」
従魔とジークは隠蔽魔法で見えない。
でも、一つずつチョコレートが空に消えた。
『(ありがとにゃ。とってもおいしいにゃ)』
これはジーク。
『……』
従魔の三体はしゃべることができない。
でも、感謝してるようだった。
僕も一粒。
「確かに美味しいね。それぞれカナダとフランス直だと思うと、感慨深いや。あっちの空気に触れてる感じ」
僕は海外行ったことがないし。
「じゃあ、さっそく、教科書見せて」
これが本日の目的。
F学院の中三の教科書を見せてもらうためだ。
学院がどれだけの進度と難易度をもって教えられているのか心配なのだ。
「どう?」
「数Ⅰと少しだけ数Ⅱが混ざってる感じ?」
「わかる?」
「うん、僕は数Ⅱまで青チャートやったから」
青チャートってのは有名な高校数学の問題集だ。
「え、そうなんだ。ひょっとして、私達のほうが遅れてる?」
「きっとそうよ。だって、私達、多分数Ⅰの前半よ」
「うわ。逆に教えてもらう必要があるかも」
「F学院は英語も大変なのよね。中三で英検
二級とれとか言われているし」
「神楽くん、英語も進んでいるんじゃないの?」
「え? 英語はまあまあ」
「そういえば、夏休みの終わりごろに全県模試ってやらなかった?」
「ああ、やったよ」
「順位どれくらいだったの?」
「うん、まあまあ」
「隠さなくってもいいじゃない。県立S高校が第一志望だったんでしょ? F学院も同じ程度の偏差値。それなりの順位だよね? 数学も高校数学やってるみたいだし」
「えと、九番だった」
「え、意外と低い?」
「受験生は何人いたわけ?」
「確か、三万五千人ぐらい?」
「ちょっと待って、貴方の通ってる◯中学で九番じゃなくて、まさか県全体で九番ってこと?」
「うん」
「驚いた。メチャクチャできるじゃない。どこか有名な塾に行ってるとか」
「いや、塾は行ってない」
「塾行ってないって。S高校だろうとF学院だろうと余裕でしょ?」
「いや、そんなことないって。でもね、これはやっぱり迷宮のおかげだと思うんだ」
「ああ、レベルがあがると頭脳も明晰になるっていってたよね。実は、私達の成績も僅かだけど上がってるのよね」
「そうそう。私達ってだいたい三十~五十番ぐらいだったんだけど、夏休み前の期末テストで二十番前後になったんだよ」
「私達には系列の大学があるでしょ? 有名な医学部もあるんだけど、ひょっとしたらそこに推薦でいけるかも、ってレベルになってる」
「でも、悠星くん凄いよね。数学だけじゃないでしょ? 英語は?」
「英検は小六のときに二級を取った。一級は中二のとき」
「「わあ!」」
「じゃあさ、原書読んでるとか」
「うん、それは中一の段階で始めたよ。そばの公立図書館で読める本はあらかた。全ページ読んだってわけじゃないけど。専門書とかは困るからね」
「うわ」
「今はさ、英語だけじゃなくて、フランス語とかドイツ語とかも少しずつ勉強してる」
「すっごい。二カ国後も」
「あと、スペイン語とインドネシア語も」
「ええ。なんで、インドネシア語?」
「ジャワ・ガムラン音楽ってのに興味が湧いて。瞑想するのにちょうどいいんだ」
「ガムラン? 私、バリに行ったことある」
「あれはバリ・ガムランで騒々しかったでしょ? ジャワのほうは楽器は似てるんだけど、もっと静謐で繊細な音楽。瞑想にちょうどいいんだ」
「へー。私も聴いてみよ。じゃあ、英語以外で得意なのはどれなの?」
「フランス語とインドネシア語。今さ、『失われた時を求めて』っていう本を読んでて。これが難しいんだけど、ちょっとはまってる」
「ああ、それ題名だけは聞いたことがある。なんだっけ、紅茶の香りからいろいろな記憶が呼び覚まされる、みたいな物語よね」
「うん。でね、原書と並行して読み進めているんだよ。でもね、翻訳も難しいんだけど原書は超難しくて。ようやく二ページ目に突入したところ」
「なにそれ。本格的すぐる」
「高校卒業までには読破したいな、って思ってる」
「私達じゃとても無理って感じ。でも、うちの系列の大学、フランス文学で有名な先生がいるから、話が合うかも。高校のサークルでフランス文学研究部ってのがあって、そこの特別顧問もされているのよね。私達も入部するかも」
「ああ、それは楽しみ」




