シーカー専用ショップ
皐月さんたちに頼まれて一緒に動くことになった僕。
極力、毎週月曜日は迷宮行きをすることとなった。
ちょうど、放課後に適度な時間が開くんだよね。
二人は平日は十四時五十分に授業が終わる。
僕は、月曜日は五時限授業で十五時に授業・清掃が終わる。
土日でもいいんだけど、二人は仕事が入ることが多いから。
それと、土日の混み具合は半端ないんだ。
平日の十倍以上に膨れ上がる。
例えば、迷宮登録の受付。
今日だったら一人しかいない。
それでも数人しか並んでいない。
これが土日になると、受付は五人に増強。
それでも待ちの人が数十人に膨れ上がる。
整理券で効率を良くしてるんだけど。
。
特に夏休みの土日なんかは激混み。
親同伴ってのも多いしね。
さて、次の土曜日。
僕達は渋谷のシーカーショップを訪れることになった。
彼女たちの僕へのお礼も兼ねて、とのことだった。
お礼なんていいのに。
でも、彼女たちと行動するのは大変ウェルカムなのだ。
渋谷駅から歩いて十分弱、結構目立つ場所に店舗を構えていた。
ここは、迷宮庁のメインオフィスのあるところだ。
迷宮庁の本庁は霞が関にある。
が、シーカー的には、渋谷オフィスは実質的な本部になる。
迷宮に関するいろいろな事務手続きとか訓練のできる、かなり充実した建物だ。
「待った?」
待ち合わせ場所はショップの入口。
結構、流行っていて多くの人が出入りしている。
凄いね。
彼女たちが来たら、一瞬で入口が光り輝いた。
周りのみんな、目線が釘付けだ。
出ていく人も振り返ってみていく。
素が超可愛い上に、薄く化粧して、衣装やモデルとしての立ち姿の洗練さが加わるんだ。
本当に華やか。
「いや、いま来たところ」
もちろん、一時間前に来てました。
彼女たちをみた瞬間に顔が緩む。
ああ、女の子と待ち合わせするなんて。
我が生涯初めてのできごとだ。
うーむ。
確かに、みんな彼氏彼女を作るはずだわ。
彼女たちは僕の彼女じゃないけど、それでも実に気持ちが弾む。
現実ではなかなかお目にかかれないような超美少女。
しかも二人。
もうね、オーラが眩しい。
少女漫画なんかでよく背景に花、ていう描写がある。
リアル少女漫画だよ。
顔が緩んで地面につきそうになったとしても仕方がない。
僕はこの瞬間に強く決心した。
F学院の奨学金に応募する。
絶対に合格する。
奨学金がダメでも、授業料はなんとかなるだろう。
迷宮活動で、僕の隠し財産は結構なものだし。
さて、僕は店で特別買うものとかない。
彼女たちは服を中心にいろいろ見て回った。
迷宮服ばかりで、機能性重視のばかりだ。
「ワ○クマンだって女性向けのがあるのに、ここはちょっと地味ね」
「うん。まあ、実質的ってのが前面に出てるわね。まあ、シーカー女子って数が少ないし」
彼女たちの戦闘服はゴスロリ系にしてあつらえてもらうらしいから、服というよりも細々としたものを中心に購入していく。
僕はただ後をついて行って、感想を述べるだけ。
まあ、可愛いか似合ってるぐらいしか語彙がないんだけど。
やたら、時間がかかった。
「支払いはこれで」
え、迷宮カードを出したぞ。
「悠星くん、知らないの? 迷宮カードって銀行カードとかスイカとかと連動できるのよ」
銀行カードはデビットカードというカードらしい。
「悠星くん、パンフレットをちゃんと読んだ?」
「ああ、全然読んでないかも」
もう五年以上もやってるから、何でも知っているつもりになってた。
「スライムの魔石だって、一個買い取り金額が千円なのよ。百個で十万円。税金と手数料引かれて八万円。悠星くん、今まで手渡しでもらってたの?」
うん、その通り。
そういや、僕以外はカードでやりとりする人ばかりだったような。
でも、カードって大人にならないと取得できないと思ってたから。
「銀行カードの系統はね十八歳以上じゃないと難しいけど、デビットカードだと十五歳以上なら大丈夫よ。口座のある銀行で聞いてみたら? 私達は月曜日に申し込んだら金曜日にカードが送られてきたわ」
「そうなんだ。僕も銀行行ってみる」
てか、自分の銀行口座がない。
ジーク口座だけだ。
「その前に、ネットでデビットカードについて調べたほうがいいかも」
おっしゃるとおりです。
僕にはデイビッドさんのカードに聞こえてた。
DavidCardじゃなくてDebitCardなんだね。
このあと、美容室に連れて行かれた。
「え、なんで」
「悠星くんってさ、全くファッションに気を使わないでしょ? でも、スタイルは抜群だし、顔だって悪くないんだし、ちょっと髪の毛いじるだけですっごく素敵になると思うの」
ということで、無理やりつれていかれた。
両側から二人に腕組まれて連行されると、断る選択肢は(以下略)
きっとだらしない顔をしてるんだろう。
クラスの連中に合わないことを願う。
「はあ」
渋谷のなんだかえらく洗練された店だった。
場違い感が甚だしい。
後で聞いたら、有名な店らしい。
そこに三人分の予約が入れてあった。
「じゃあ、お願いしますね。髪型はおまかせで」
「かしこまりました。では、お客様、こちらへ」
あとは、されるがまま。
頭洗ってもらったり、マッサージしてもらったり。
美容院さんが話しかけてくるのでキョドったり。
気持ちが良くてうつらうつらしていたら、
「お客様、いかがですか」
眼の前の大きな鏡に知らない人がいた。
「神楽くん! やっぱり思った通り!」
「ホント、メチャクチャかっこよくなったよ!」
自分で言うのもなんだけど、確かに生まれ変わったかのようだった。
ああ、これは家に帰るのが恥ずかしい。
払おうと言うと、いいっていう。
「この子、お家が病院なのよ、おっきな」
「皐月だって、お祖父様が一部上場オーナー会社の社長だし」
うわ。
上級国民どころの騒ぎじゃない。
僕もオジサンが大きな本屋さんを経営しているけど、僕の父親は普通の公務員だし。
「F学院って周りそんな子多いわね」
らしい。
ああ。
やっぱり、受けるのよそうかな。
早くもさっきの決心が揺らぎ始めてるぞ。
だって、世界が違いすぎる。
夏休みあけなんか、スイスで過ごしたとかフィンランドの湖畔の別荘で涼しかったとか、そういう会話で教室がキラキラしてそうだ。
「私は去年の夏休みはアイスランドだった」
こちらは音羽さん。
「私は、ニースだった」
こちらは皐月さん。
会話だけ聞くと、自慢大会みたいだ。
でも、気負うことなく、「私はディズニーランド行ってきた」ぐらいの感じで話している。
そうですか。
僕なんか、夏休み中は迷宮に入場します、以外の会話が思いつかない。
あ、あとはゲームか。
漫画も読むし。
アニメも。
けっこう、バリエーションあるじゃないか。
ああ、ちょっと虚しい。
第一志望としていた県立S高校。
庶民が多いと思う。
少なくとも、夏休み終わってからクラス中が海外旅行話で盛り上がるってないんじゃないか?
あくまでイメージだけど。
でもさ、ちょっと遠い。
十五km程度だから、チャリでも電車でも一時間位だけど。
F学院だと三kmないんだよ。
裏道通れば信号もほとんどないし。
チャリで十分かからないかもしれない。
この差は大きいよね。
忘れ物したーってことあると思う。
でも、お昼休みに家に戻っても往復三十分かかんない。
昼飯食べても余裕。
うーむ。
ぼっちの学院生活を送るか。
多少の不便を考えても庶民の県立を選ぶか。
「えー、ボッチなんて絶対にならないわよ」
「そうよ。そりゃ、お金持ちは多いけど、いろんな生徒がいるのよ? 一芸入試みたいなものもあって、個性的な生徒も入れてるから、どこかにあてはまるって。私達もいるし。まあ、県立S高校に行こうとしてるんだから、偏差値的には似たようなものよね」
そのあとは、渋谷のなんとかというファッションビルに連れて行かれた。
そこで彼女たちの買い物+僕の服を選んでもらった。
何点も。
正直に言う。
修行だった。
確かにかっこよくなった。
だけど、家的にまずい。
僕は帰りに速攻で着替えて、彼女たちに買ってもらった服は全てマジックバッグに。
髪の毛は野球帽でカバー。
坊主頭にするかどっちにするか、と聞かれたら迷うレベル。
いや、感謝してるよ?
でもね、かなりの部分で恥ずかしいんだ。
まあ、髪の毛は速攻で母親にバレたけど、好評だった。
多分、そのへんの床屋にでも行ってきたと思ってる。
あれ、ネットで調べたんだけど、カットだけなのに○万円だった。




