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天空猫ジーク2

『(ボクは魔道具を作れるにゃ)』


「え?」


 ジークがさらにとんでもないことを言い出した。


 魔導具師は世界的にみても数が不足している。

 魔導具師になるには。

 迷宮である程度の攻略を進めると、偶発的に魔導具師のスキルが授かる。

 それ以外のルートは現状では見つかっていない。

 

 更に質の良い魔導具師だと圧倒的に不足している。

 魔道具の製造には、高度な技術と豊富な知識、そして何より特殊な才能が必要とされる。


 日本だと魔導具師は百人強いる。

 しかし、そのうちほとんどが初級的な魔導具しか作れない。

 ライトレベルの照明魔道具や、簡単な回復魔道具程度だ。

 ちょっと程度のいい魔道具は非常に高価で数が少ない。

 一つの魔道具が数百万円することも珍しくない。

 ましてやマスターと呼ばれる高級魔導具師となると数名しかいない。

 彼らの作る魔道具は、億単位の値がつくこともある。



『(使ってみたくないかにゃ?)』


 ああ、ジークは僕の琴線をついてきた。

 魔道具? 使いたいに決まっている。

 どの子供だって、一度は本物の魔道具を使ってみたいと思うはずだ。


「でも、話がいろいろ急すぎる」


 つい1時間前までは、ただの猫だと思っていたジーク。

 突然念話とやらを駆使し、こんな話を持ち出してくるなんて。


『(一度にゃ、迷宮で試してみようにゃ)』


「え」


『(なんだか、歯切れが悪いにゃ)』


「だって、おっかないって」


 僕は正直に答える。

 テレビで見る迷宮での事故や遭難のニュースが頭をよぎる。


『(迷宮へ行けばそんな気持ちはなくなるにゃ。レベルが上がるとだんだんと気持ちが軽快になってきて楽しくなってくるんだにゃ)』


「そうなの?」


『(ああ。かけっこ、今よりも速くなるにゃ)』


「ああ、それは大事」


 小学生男子にとって、足が速いというのはもっとも大切なことなのである。

 休み時間の鬼ごっこや体育の時間、誰よりも速く走れることはクラスでの地位に直結する。


『(魔法も使えるようになるにゃ)』


「ああ、それはかけっこより大事」


 小学生の男女を問わず、目を輝かせる事柄だ。

 魔法少女に憧れる女子も、魔法戦士に憧れる男子も、みんな魔法を使えることを夢見ている。

 僕はその言葉にぐぐっと惹きつけられた。


『(頭も良くなるにゃ)』


「それはちょっとうれしい」


 迷宮ではレベルというものがある。

 これが身体的向上に役立つのだ。

 レベルが上がると、筋力や敏捷性だけでなく、知力や精神力も向上するという。


『(女子にもてるにゃ)』


「女は敵」


 僕は即座に答える。

 小学生男子にとっては。

 これが大人になると。


『(とにかく、行ってみようにゃ)』


「でも、迷宮ってけっこう遠いじゃん」


『(一番近いところは海ほたるで三十km近くあるにゃ、まずはアクアラインの手前までチャリで十五kmぐらいだから、一時間弱ってところかにゃ?。そこからは高速バス。十五分ぐらいにゃ)』


「えー、十五kmをチャリで? だるいし、だいたいお金がないよ。バス代がけっこうかかるぞ」


 片道五百八十円もする高速バス代が気になった。


『(ボクが誰だと思ってるにゃ。ほら、この通りにゃ)』


 ジークは空中からスルリと一万円札の束を取り出した。

 札束は新品同様で、きっちりと揃えられている。


「え? どういうこと? 突然お金が現れた!」


 目の前で起きた超常現象に驚いた。


『(ああ、これはマジックバッグだにゃ)』


「は? ゲームでよくでてくるやつ?」


 空間収納アイテムの代表格だ。


『(そうさ。容量には限度があるけど、それでも個人で使う分には十分な大きさがあるにゃ。それと、ボクは基本的に猫だから、お金の使うあてがほとんどないから貯まる一方なんだにゃ。時々、施設に寄附したりしてるにゃ)』


 施設とは動物保護施設とか弱者用の施設とかだ。

 捨て猫や野良猫のための保護施設や、孤児院などにお金を寄付しているらしい。


「へえ、偉いじゃん。てか、どこで稼いでくるんだよ」


『(いろいろにゃ。今だと、たまに迷宮に行ってるにゃ。魔石をNNNで売ってるにゃ)』


 NNNはネコネコネットワークの略で、天界的組織らしい。

 猫たちが運営する秘密の取引ネットワークだという。

 

「迷宮へか? あんなに遠いのに」


『ボクを誰だと思ってるにゃ』


「それに、そんなお金の束、初めて見た」


 テレビでしか見たことがない大金だ。


『(まだ、たくさんあるにゃ。ていうか、悠星も迷宮に慣れたらたくさん稼げるにゃ)』


「うーん、考えてみたらそんなお金の束見せられても買えるものが限られてるし、親にバレたら困るし」


 ゲーム機とかゲームソフトぐらいしか欲しいものがない。

 ソフトはともかく、ゲーム機だとすぐお母さんにみつかる。


『(まあ、そうだにゃ。一応ね、これ渡しておくにゃ)』


「これ、何?」


 手のひらサイズの黒い布袋だ。


『(マジックバッグ小。だいたい1辺二メートル程度の立方体の空間が入ってる。そのボタンを押してみるにゃ)』


「え? こう? わわわ」


 ボタンを押すと、目の前に青白い光の文字が浮かび上がった。


『(空中に名前を記載する欄が出てきたにゃ? そこに自分の名前を強く念じるにゃ)』


「わかった……あ、登録されましたって出てきた」


 光の文字が緑色に変わり、登録完了のメッセージが表示された。

 と同時にバッグが消えてしまった。


『(それでバッグは悠星専用になったにゃ。人にバレないように使えにゃ)』


「消えちゃったぞ。どう使うんだよ」


『(バッグのことを強く念じてみるにゃ)』


「こう? あ、ホントだ。空間に切れ目ができた」


『(いろいろ試して慣れておくにゃ)』


「いやいや、慣れるも何も、迷宮は十五歳以上じゃないと入れないでしょ?」


『(まあにゃ。迷宮に入るときは隠蔽魔法でこっそりとにゃ)』


「隠蔽魔法? ジーク、魔法が使えるのか?」


 僕は驚いて聞き返す。


『(何を今更。マジックバッグも魔法だにゃ。隠蔽魔法はボクらにとっては基本の魔法にゃ。隠蔽魔法見てみるかにゃ?)』


「うん、見たい」


『(それ)』


 ジークが前足を軽く上げると、

 その体が徐々に透明になっていく。


「うわ、本当にジークが消えた」


 目の前で起きた現象に、僕は息を呑む。


『(悠星にもかけるにゃ。それ)』


「あああ、ちょっとま……あ、僕の体が消えた」


 自分の手が見えなくなっていく様子に、僕は驚きの声を上げる。


『(分かったかにゃ?)』


「うーん、凄すぎる。でも、法律違反じゃん」


『(特殊迷宮管理法はにゃ、有名なザル法にゃ)』


「ザル法? そんなバカな」


 小学生の僕でも知っている重要な法律だ。


『(絶対、バレないにゃ。かけっこ速くなるにゃ。魔法バンバン撃てるにゃ)』


「それ言われると……」


『(中に入ったら、隠蔽魔法に防御結界もはるから物凄く安全にゃ。というか、地下1・2階は地上より安全にゃ。行くと素晴らしい景色に驚くにゃ)』


「うーん、ちょっとだけ見てみるか」


 僕は正直、魔法を使える>法律、だったのだ。

 魔法を使えることに抗えなかった。

 それに、会話をする猫、魔法を使える猫、といろいろな不可思議な現象を前に現実味がなくなっていた。


『よし、決まったにゃ。じゃあ、何か質問があるかにゃ?』


「ジークは語尾に『にゃ』をつけるのは口癖かにゃ?」


『(ほっとけにゃ。じゃあ明日、迷宮に行くにゃ。じゃあ、チュ○ルくれ)』


「なんだよ、じゃあって。ジーク、おまえ何かというとチュ○ルに群がるな」


 僕は呆れながらも、台所に向かう。

 ジークはチュ○ルのおいてある棚をうろつきがちだ。

 我が家に保護された日にチュ○ルをあげたせいが、チュ○ルが大好きなのだ。



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