音羽&皐月7 地下三階へ~
「はい、ここが地下三階。説明するからよく聞いてね」
「「はーい」」
「森の中みたいにみえるけど、この階も迷宮フロアだよ。茂みの中には入っていけない。敵はほとんど前からしか襲ってこない。でも、たまに後ろでポップすることがあるから要注意」
「じゃあ、一人は前、一人は後ろも警戒って感じ?」
「ああ、どうしてもそうなるよね。バックアタックはヤバいから。入口付近でしばらく活動するのもありなんだけど。そこなら、後ろから攻撃されるってことはまずないし。でも、他のシーカーもやってくるから、移動せざるをえないね」
「どんどんとやってくるのかしら?」
「三階に降りてくるのはほぼ新人さんばかりさ。たいていはダイレクトに五階以降に向かうから。だから、数は少ないはず」
シーカーは到達したフロアまで直で行き帰りができるようになる。
「二階の迷宮だって、あんまり人がいなかったよね」
「うん。分散してるしね。迷宮は広いから。でね、階段付近はセーフゾーンになっていて、魔物は襲ってこない。でも、一歩でも出たらすぐ襲ってくることも多い。それを防ぐのが第一歩」
「「わかった」」
「あとね、外出たら極力音を立てないように。あいつら、五感がかなり発達している。特に視覚と聴覚。しかも、普通の獣なら人間を見ると逃げることが多いんだけど、こいつらときたらやたら攻撃的だからね」
「「うん」」
「でね、これからは会話は念話を使う」
「念話?」
「従魔がね、トランシーバーみたいになってるんだよ。(こんな感じ)」
「私達もジークくんみたいに話すことができるのね」
「そう。念話するって強く思ってみて。頭の中にボタンみたなのが浮かんでくるでしょ?」
「「あ、ホントだ」」
「それをイメージで押してみると、念話できるようになるんだ」
「(もしもーし)」
「(テスッ、テスッ)」
「(念話できてるよ)」
「(わあ、すっごい便利!)」
「(特定の個人と会話したいのなら、その人を強くイメージしてみて)」
「(皐月?)」
「(ああ、聞こえるよ)(悠星くん、今の会話聞こえた?)」
「(うん、僕には聞こえなかった)」
「「(準備万端!)」」
「行くのはちょっと待って。さっき、降りてきたパーティがいるでしょ? 彼らが通り過ぎてから十分ぐらいしてから行くよ。彼らがこのフロアを掃除していくことになるから、リポップを待たなくちゃ」
「ああ、普通なら敵がいなくてラッキーだけど、今は経験値がほしいもんね」
「(じゃあ、行くよ。盾とヘルメットを装備して。僕はあとからついていくから)」
彼女たちには記念すべき地下三階への第一歩。
「ドガッ!」「「え? ええ?」」
「今の音、何? すっごい衝撃だったんだけど」
「(それと、悠星くん、いつのまに私達の前に? 手に持ってるのは?)」
「これが角ウサギ」
「ええ、思ったたよりも小っちゃい」
「体長二十cmぐらいかな。大きなネズミサイズ。まあ、齧歯であること、それと耳が長くて毛が白いからウサギって命名されただけで、顔を見てご覧よ。全然可愛くないでしょ?」
「ホントだ。こっち、睨んでる。すっごい攻撃的な目ね。しかも知性がない感じ。生物のぬくもりが感じられないわ」
「ウサギの可愛らしさは微塵もないわね。ウサギって聞いたから少し可哀想って思ってたけど、そんな気持ちふっとんだ」
「これ、かわいいどころじゃないんだよ。人を見ると即襲ってくるからね。まあ、それは魔物全体がそうなんだけど、角ウサギはそれが極端。二十m先から1秒ぐらいでつっこんでくるからね」
「ああ、頭の角を突き刺すわけね」
「この十cm足らずの角が初心者には危険なんだよ。しっかりガードしてないと、体に突き刺さるからね。当たりどころが悪ければ、失明とか最悪死んじゃうからね」
「「ゴクリ」」
「でも、ビデオとかでも散々言われてきたけど、対処は難しくない。しっかりした防具を着て盾を構えていれば盾に突っ込んでくるから。そういう習性なんだよ」
「ああ、じゃあ従魔くんたちがいなかったら防具は必須なのね」
「だね。まあ、ゴスロリだっけ? あれを防御魔道具にするから」
「「悠星くん、ありがと~!」」
「でも、結界の強さは実感できたよね?」
「ああ、あの衝撃音はウサギが結界に衝突した音なんでしょ? 小さいウサギサイズとはいえ、結構な衝撃だったわよね」
「結界なし、防具なし、ってことになると、大変なことになるね」
「「こわすぎる」」
「(結界の強さを君たちに見せるためにわざと角ウサギを衝突させたんだ。そのあと、僕がウサギの角を掴んだわけ)」
「(でも、未だに信じられない。ウサギも見えなかったし、悠星くんも全く動きが見えなかった……)」
「(はあ、確かにウサギによる事故が多いはずね。お気楽に三階に降りてきたら、下手したら死んでたわ)」
「(それと、悠星くんの実力の一端を見せてもらった、ていうか、見れなかったけど)」
「(普通は盾でウサギの突進を防ぐんだよ。すると、ウサギは脳震盪起こすからその瞬間に攻撃するんだ)」
「(でも、ウサギが突進してくるのをどうやって把握するの?)」
「(最初のうちは把握できないね。まず、死角を作らないこと。特に後方に。本当の初期は後方をセーフゾーンにして、前方を盾で囲んでいくんだ。それだけでウサギとかが突っ込んでくる。そこを仕留めるだけ)」
「(ええ、そうやって聞くと簡単そう)」
「(だから、パーティで討伐することが奨励されるんだよね。ソロとか二人組とかはかなりハードルが高い)」
「(えええ。私達、あと一人か二人いるってこと?)」
「(そのための従魔さ。しばらくは防御に気を使う必要はないよ)」
「(しばらくは?)」
「(君たちさ、ステータスみてご覧よ)」
「「(うん……え? 気配察知?)」」
「(角ウサギと戦闘すると、高確率で気配察知が発現するんだよ。周りに何かいるのかを察知するスキル。敵・味方の判別はできないけど、とにかく、何かがいることはわかるようになる。だいたい、初期だと半径十mぐらいだね、察知範囲は)」
「(なるほど。気配察知で周囲を探索していくわけか。でも十mしかないってことはせいぜい一秒ぐらいだよね、待ち時間って)」
「(そう。ビンビンにアンテナを張って、攻撃を察知したらすぐに態勢を整えるわけだよね)」
「(うわ、緊張感半端なさそう)」
「(最初のうちはとっても疲れるよ。でもね、レベルが上がって慣れてくると、その一秒ってのは十分な時間になるんだ。余裕をもって敵を迎いいれることができるようになる。それに索敵距離も広がっていくしね。まあ、それまでは活動時間は一時間ぐらいで切り上げることになると思うけど)」
「(一時間も保たないかも)」
「(でもさ、角ウサギってウサギって言うけど、何度見ても可愛さとは程遠いよね)」
「(うん。じゃあさ、ウサギを逃がすから。そうすると、再び攻撃してくる。今度は君たちが攻撃して。僕は完全に手を出さないから慎重にね)」
「「(えええ、怖すぎる!)」」
「(心配ないって。防御結界はとっても頑丈だし)」
『(そうにゃ。従魔の結界はとっても頑丈なんだにゃ)』
「心配なら見せ盾で前をガードして。ウサギが衝突したら脳震盪起こしてちょっとの間フラフラになってるから、そこに土魔法でも風魔法でも好きなほうで攻撃する。落ち着いてやれば、全く問題なし。じゃあ、行くよ。それ)」
「(え、ウサギが吹っ飛んでいった……と思ったら、気配を察知した!)」
「ドガーン!」「「わ!」」
「ビシュビシュ」「ダンダンダン」
「(わあ、当たった! ああ、黒い霧になってウサギが消えてしまったわ。本当にゲームみたいな感じ。実感がわかない……)」
「(うんうん、その調子。今回は何発も発射してしまったから、もう少し冷静に攻撃してみようか。レバーが横についてるでしょ?)」
「「え、これ?」」
「そう。それさ、単発、三連発、自動の三段階の発射調整ができるから、三連発を選んでおくといいかも」
「「(わかった!)」」
ウサギはそれっきり出てこなかった。
あとは、ネズミ数匹とコウモリをやっつけて今回は終了した。
それだけでも、二人はレベル五になっていた。
「ウサギの経験値が大きいんだよ。その分、三階では強敵ってわけ」
「確かに。今でもドキドキしてる」
「まあ、今日はこのぐらいにして、少しずつ慣れていこうよ」
「「「はい!」」」




