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音羽&皐月3 迷宮は女性差別が蔓延っている

【神楽悠星目線】


「だからって女の子だけで来るのはどうかと思うけど」


「実は親と揉めて。迷宮なんかダメだって。それに普通は迷宮の一・二階なんて普通の公園みたいなものでしょ?」


 確かにそうだ。

 一・二階はカップルとか結構いる。


「そういわれれば。まあ、話戻すけど、タッチの差ってのはスポーツでよく見るよね。それを迷宮で逆転したいってわけか。しかも、君たちは学院の授業と並行してる。なんだか、凄そうなんだけど」


「うん、それは二人共同じ。でも、限界までは頑張るつもり。F学院っていろいろ緩いんだけど、赤点には厳しいのよ」


「ああ、落第しちゃうとか」


「そう。まあ、ガチガチに補習を受けさせられるんだけど。それでも落第点をとると放校ね。転校しなくちゃいけなくなる」


「わあ、大変だ」


「それに悠星くんも知っての通り、英数は進度がかなり早くて。中高一貫校にはよくあるんだけど、中三で高一の内容を勉強するのよ。しかも、基本的に偏差値の高い学校だから、学習内容も高度」


「確かに落ちこぼれが出るよね」


「でも、私達はなんとか期末とかで五十位に入ってる」


「凄いじゃん」


「親との約束で成績落ちたら事務所をやめなくちゃいけなくなるから」


「そうか、そりゃ応援したくなるね」


「そうそう。だからさ、お願い。本当によかったらだけど、悠星くんってさ、ソロ活動なんでしょ? もしそうなら、パーティ組んでくれない?」


「ああ、ソロなんだけど」


「やった! パーティメンバーゲット!」


「悠星くん、ありがとう! メンバー組んでくれるよね?」


 あああ、腕組まれてお願いされた。

 流石に社会に出てるだけあってか押しが強いな。

 微妙に柔らかいものがあたってくるし。

 ひっじょうに断りづらい。



「ああ、ちょっと待って。意地悪するわけじゃないんだけど、一緒に魔物狩りはできないんだよ」


「「え、なんで?」」


「実はさ、僕、意外とレベルが高くて」


「Fクラスなのに、レベルが高い?」



 レベルは迷宮自身が発行していると言われる不思議パラメータだ。

 迷宮で魔物を討伐すると経験値を獲得するらしく、それに応じて各自レベルを獲得する。

 さらに、迷宮カードに向かってステータスオープンと唱えると、眼の前に透明な板が表示される。

 そこにレベルとスキル、状態異常等が記載される。

 その情報は自分にしか見えない。


 クラス(級)は迷宮庁の認定するものだ。

 魔物の討伐数に応じて各自にクラス認定する。

 クラス認定されるとクラス表示されたカードを渡される。


「レベルとクラスは連動していないんだよ」


「関係がないの?」


「うん。極端な話、Gクラスでもレベルが日本一、ということもありうる」


「へえ、そうなんだ」


「逆に、討伐証明である魔石を他人から譲り受けてクラスを上げる場合もある。レベルが低いのにね」


「ああ、ありそう」


「防ぐ手段はないけど、そういうのって、結局先で苦労するだけなんだよね。迷宮は基本的に自己責任だから」


「「なるほど」」



「でね、パーティを組むって言う場合、二つの意味があってね」


 一つは迷宮庁に報告するパーティ。

 これは公式的なパーティだ。

 もっとも、パーティを組んでも報告義務はない。


 もう一つは個人的にパーティを組む場合。

 こちらはパーティ契約を口頭で結ぶ。

 これは実質的なパーティだ。


 パーティ契約を結ぶと、ステータスにパーティ表示がなされる。

 一種の魔法契約であり、口頭でありながら強い拘束力がある。

 

 また、そのとき経験値の割り振りをする必要がある。

 割り振りがなければ経験値は均等割となる。


「このときにさ、レベルが離れているとパーティ契約を結べないんだよ」


「厳しいのね」


「キャリーしちゃダメ、っていう迷宮の意思って言われている」


「キャリー?」


「キャリーとは、戦闘は上手い人にまかせてランクだけが上がること。姫プ、姫プレイとかも言われているやつ」


「ああ、そうか。低レベルなのに高レベルの人についていってレベル上げしてもらうやつね」


「そうそう。キャリーができないということは、迷宮ではちゃんとレベルをしっかり上げなさいと言っているに等しいわけ」


 ある意味、親切設計だ。

 キャリーされた場合、本人のレベルと実際のレベルに乖離があったりする。

 戦闘を経験するとそれに応じた経験を獲得する。

 経験値のことではない。

 経験は単純なパラメータでは表されない。

 そして、確実に実力には加算されていくものだ。


 その経験がキャリーでは得られない。

 迷宮が深いフロアになればなるほど、この乖離は問題となる。

 最終的に取り返しのつかないことになるかもしれない。

 つまり、『死』である。



「あー、そっか。それ、理解できる。だから、迷宮ではレベルが離れているとパーティ組めないのか」


「悠星くん、レベルいくつなの?」


「ごめん、それも内緒。決して意地悪してるんじゃないよ」


「そうよ、音羽。いきなり相手のレベルを聞くのは失礼よ。非常にパーソナルなものなんだから」


「ああ、そうだった。ごめんね」


「恋人にもレベルは教えるなって言われているよね」


「え?」


「喧嘩の元になったりするし。別れた後も面倒くさいし」


「ああ」


「でさ、あのピコピコハンマーって、ひょっとして魔道具でしょ?」


「うん」


「凄いよね。しかも、あんなの初めて聞いたわ」


「ああ。迷宮で拾ったんだよ」


「拾った? 魔道具ってそんなに簡単に手に入れられないでしょ?」


「さっきのナンパを追い払ったのも、なんだか凄かったわよね。睨んだだけでしょ? でもナンパたち、気絶しちゃうんだもん」


「彼ら、大学生ぐらいだったよね。睨むだけで大学生を気絶させる中学生。悠星くん、武術の達人とか?」


「い、いや、そんな大したもんじゃないって」


「ええ、まあいいか。深くつっこまないこと。迷宮ではそれって大事よね?」


「そうだね」


「ねえ、パーティは組めなくても、一緒に動くのは構わないでしょ? お願い。地下三階とかも指導してくれないかな。悠星くん、相当実力あるでしょ? もちろん、指導料とか払うし」


「いや、それは必要ないよ。同級生だしさ。それに、三階って君たちだけで動くのは危険すぎる」


「ええ、嬉しい! でも、無料はダメ。じゃあさ、終わったらどこかで夕食とかおごらせて?」


「ああ、それなら」


 何度も言うけど、こんな可愛い子たちにお願いされて断る(以下略)



『(悠星、この子らにゃ、ボクたちの秘密を開示してもいいにゃ)』


「(え、大丈夫?)」


『(僅かの間だけどにゃ、彼女たちの内面をチェックさせてもらったにゃ。こりゃ、当たりだにゃ。外見も内面も揃った本当の特級の女の子たちだ。彼女たちも悠星のこと、かなり信用してるみたいだし。自分から個人情報ペラペラ喋ってるぞ。NDA結べば問題ない。ただ、NDAランク1だな)』


 NDAとは、Non-Disclosure Agreementの略。

 守秘保持契約とか秘密保持契約とか訳される。


『(それとにゃ、そろそろ仲間が必要だと思うんだにゃ。どうせなら、男より可愛い女の子のほうがいいにゃ? ボクもむさいのやだしにゃ)』


 うーむ。

 彼女たちを前にして否定できない自分がいる。


『(あのにゃ、迷宮が男性偏重なことにボクは違和感があるわけにゃ)』


「(そうなの?)」


『(確かに女性は身体的には男性の後塵を拝しているにゃ。だけどにゃ、ボクの経験では魔法を扱うなら女子の方が平均して上手なんだ)』


「(ああ、そうなんだ)」


『(ボクは魔法総合力を判断できるって知ってるにゃ?)』


「(ああ。ジークは人のオーラの色で見分けられるって話だよね」


『(にゃ。紫、青、水、緑、黄、橙、赤の七色に加えて、最上級の白色。魔素への耐性、魔力の量と質、精神の集中力、精神的な強さ、器用さ、そして知的能力を総合的に示す色。ボクの見立てでは女性の方が魔法適正力の高い人が多いにゃ)』


「(そうなんだ)」


『(ちょっと前の会話で、『迷宮基準に関しては、例によって「女性差別だ!」なんてのが湧いてくる』とか話してたことあったにゃ?)』


「(ああ、あったね)」


『(まあ、そういう投稿は情緒的なもので論ずる価値はないんだけどにゃ、でも、確かに女性差別だとボクは思うんだにゃ。だって、女子を迷宮で育てたらかなり強力な魔導師になるにゃ)』


「(マジ?)」


『(普通に考えるにゃ。迷宮で使う最大の武器は魔道具にゃ。武器も防具も魔道具は使用者の魔法総合力とレベルに左右されるにゃ。つまり、男の身体的なアドバンテージはなくなるにゃ)』


「(おおお、なるほど!)」


『(とにかく、迷宮庁は偏見に満ち溢れているにゃ)』


 おお、ジークはフェミニストだった。


『(それににゃ、今、悠星は壁にぶつかってるにゃ? このところ全体的に進展がないにゃ)』


 ああ。

 迷宮活動を初めて五年。

 マンネリ化してるんだ。

 攻略は三十階で止まっているし、レベルも上がらない。

 

 敵が強くなっていくだけで、結局は同じことの繰り返しだからだ。

 環境を変える必要があるのかもしれない。


『(というかにゃ、悠星も十歳から飽きずに迷宮に挑んできたと思うんだにゃ)』


「(実際、面白かったし。なんといっても、魔法が使えるのは興奮するよ。しかも、レベルが上がると自分の強さにすぐに反映するしね)」


『(でも、ここにきてのマンネリ化。悠星には突破口が必要だと思うわけにゃ)』


 うーむ。

 とにかく、ジークのお墨付きが出たんなら。



「ねえ、相談なんだけど、君たち本当にやる気があるんなら、協力してもいいんだけど」


「え、なになに?」


「やる気ならありまくりよ!」


「あのさ、これからのことはとっても口外できない内容なんだ。秘密を守ってほしいわけ」


「「うわ、絶対守る!」」


「生まれて初めて人に言う内容だからね、しっかり聞いてよ」


「「ゴクリ」」


「まずは、最初にNDAを結んでもらう」


「「NDA?」」


「秘密保持契約。両者で合意すると、ステータスにNDAって表示される。そうすると、僕達の間の秘密は口外できなくなるんだ」


「まあ! なんだか、ロマンチックな感じしない?」


「するする! 迷宮で結ばれる約束なのね!」


 うーん、ロマンチックなのか?

 ロマンのかけらもないような。



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