音羽&皐月2 スライム狩り
【神楽悠星目線】
『(悠星、スライムの狩り場を作ってやれにゃ)』
僕の影に隠れているジークがそう忠告してくる。
「(いいの?)」
『(おまえにゃ、前をよく見てみろ。これだけの美形、そこら中にいるかにゃ?)』
確かに。
二人共、僕の中学校で一番人気と言われる女の子よりずっと可愛い。
というか、一日中繁華街を歩いていても出会えないレベル。
『(ボクがこの子達に悠星を誘導してきたんだにゃ。積極的にアピールするにゃ。あ、ただ能力はあんまりアピールしちゃいけないにゃ)』
「(どっちなんだよ。でも、せっかくジークがそういうのなら)」
『(いけいけにゃ)』
「あのさ、僕、いい狩り場を知ってるんだ」
「え? そうなの?」
「狩り場っていうかね、この草原にはスライム・ロードっていうスライムが湧きやすいルートがあるんだよ」
「「ええ、そんなのがあるんだ」」
嘘です。
魔物を呼び寄せるスキルを発動。
ある程度よびよせたところでこちらからスライムの場所へ歩いていく。
「結構歩くことになるけど、いけるかな?」
「わあ、嬉しい!」「是非、お願い!」
◇
「ホントだ! まだ五分もたっていないのに、スライム見つけた! しかも、たくさん!」
今日は土曜日で非常に混む。
時間はそろそろ十時を指し始めていた。
公園の周りの草原でも人がうろつきまわっている。
僕は人のいない場所を選んでスライムを集めた。
そこへ彼女たちを案内する。
だいたい、十体ほどの群れを作っている。
「で、どう? スライムをちゃんと狩れる?」
「ああ、それも問題なのよね。私達、スライム討伐初めてだし」
「だと思ったよ。スライムってさ、意外としぶといんだよね」
「そうそう。木の枝とかで直接スライムの核を狙うわけでしょ? 核ってちっぽけだし。結構、大変なのよね」
「君たちにはこういう武器を貸してあげるよ」
僕はバックパックから取り出すふりをして、マジックバッグから二つの武器を取り出した。
「スライム専用のピコピコハンマー」
「はは、悠星くん、冗談はやめて!」
「冗談じゃないって。ほらこの通り」
僕は近くのスライムにピコピコハンマーを振りかざした。
『ピコ』『バン!』
「「うそっ! 一発でスライムが」」
「わかったでしょ? じゃあ、二人でピコピコ」
『ピコ』『バン!』
「わ!」
『ピコ』『バン!』
「「楽しすぎる!」」
「あれ? これって……」
「これが噂のステータス?」
「ああ、それは魔物を討伐すると自然と表示されるやつだ。レベルアップごとにも表示される。それと、迷宮カードに向かって『ステータスオープン』って唱えても表示されるよ。自分にしか見えないから遠慮なくどうぞ」
「迷宮カード機能?」
「カードは一種の魔道具なんだ」
「ああ、本当にゲームみたいなのね」
「でも、感激ね。超人的な力を得たって感じ」
「魔石は拾っておいてね。討伐証明になるから。その調子でどんどん行こーか」
「「おー!」」
………………
スライムを探しつつ、うろうろして一時間後。
「すっごい! あっという間に百匹のスライムを狩っちゃった!」
「ホント! レベル四よ!」
「じゃあさ、窓口に行こっか。F級もらいに」
「「ありがとう!」」
◇
G級カードの窓口は混雑していた。
たくさんの人が立ったまま待っている。
圧倒的に中三が多い。
対して、F級の窓口は余裕がある。
十分ほどで彼女たちの番号が呼ばれた。
「きゃー! 夢にまで見たF級カード!」
「凄いわ! 女性でF級もってる人って、あんまりいないのよね!」
「でも、ちょっとドキドキした。あんな短時間で百体もスライム狩ったわけだから、チート疑われたらどうしようかって」
「私も」
「そんな場合はさ、どうどうと魔道具使いましたって言えばいいよ」
「え、いいの?」
「だって、それ以上追求できないでしょ? 魔道具見せてなんて」
「え、そう?」
「見せてって言われたら、商売道具をさらすアホがどこにいます? って言っときゃいいよ。別に見せてもいいけど。まあ、ピコピコハンマー見せたらバカにされたって怒るだろうね」
「ああ、絶対怒る」
「よくあるのは、魔石を誰かから譲り受けてクラスを上げる行為」
ちなみに、店で販売されている魔石は販売店の刻印が押されてある。
「そういう行為は良くないけど、違法じゃない。ここは自己責任の場所。チート使って下の階に降りたって、実力がなければ死ぬだけ。そのへんは迷宮庁も世間的な見方もいたって冷ややかなもんさ」
「はー」
「君たちも下に行けば行くほど理解するようになるよ。迷宮のリアルってやつを」
「なんだか、複雑。じゃあさ、改めて自己紹介するね。私は栗原音羽。F学院中等部の三年生」
「私は佐橋皐月。私もF学院中等部の三年生」
「へえ、頭いいんだね」
「とんでもない! もう、授業についていくのだけでも大変なのよ」
F学院は中高一貫の私立。
中三で高一の勉強をするらしい。
そりゃ、大変だろう。
「で、あなたは?」
「僕は公立の◯◯中学の三年生で神楽悠星っていうんだ」
「あれ、ひょっとしてご近所さん?」
「うん。そちらの学校は隣駅だね。僕さ、通学時間ってけっこう気にするんだよ。だから、F学院高等部って僕の家から近くていい感じなんだけどね」
「じゃあさ、受験してみない?」
「簡単に言うなよ。中三で高一の勉強してるって話なんでしょ? 僕、ただの公立中学なんだよ? F学院は偏差値だって高いし」
「あー、そうか。高校から入ってくる人もいるけど、みんな大変だっていうもんね」
「そうよ。外部生は高一の前半はひたすら課外授業に追われるらしいわ」
「内部生に追いつくために?」
「そう」
「あとさ、F学院って授業料が高いことで有名じゃん。僕んち、平民だもん」
「うーん、一応奨学金があるんだけど……」
「全額免除になるって話なんだけど……」
へえ。全額免除の奨学金があるのか。
僕の第一志望は県立S高校。
でも、ちょっと遠いんだ。
ちょっと調べてみようか。
F学院は偏差値的にはそんなに変わらないはず。
僕は高校の勉強も進めているから、学力的な問題はないと思うんだけど。
ちなみに、彼女たちの外見なんだけど。
栗原音羽さんは身長は百五十五cmぐらいでちょっと小柄。
髪型はショートカット。
後で教えてもらったんだけど、マッシュショートボブカットというんだと。
面長の顔に首の細長い感じがすごく繊細に感じる。
髪色は茶髪と言ったら怒られた。
ピンクブラウンらしい。
佐橋皐月さんは身長百七十cmぐらいはありそうだ。
髪型はおかっぱといったら怒られた。
前下がりボブというんだと。
髪色も茶髪って言ったらまたもや怒られた。
オレンジブラウンらしい。
勘弁して。
ただ、ポイントが高いのは、二人共ショートで髪の毛サラサラ系だっていうこと。
ここは例のコンビニのお姉さんの影響だな。
えりあし周りが本当に繊細。
女の子らしい清潔感がある。
ヘアダイって大丈夫?って思ったけど、校則は割とゆるゆるらしい。
服装は登下校時と指定日は制服着用。
でも、普段は私服でもいいらしい。
中等部は髪は肩にかかっちゃダメ。
でも、高等部になると自由。
ヘアダイは茶髪なら何も言われない。
金髪とか赤色とかだと流石にダメらしい。
あと、化粧とアクセサリーも校内ではダメらしい。
それにしても、二人共見事な小顔で手足が長くスリム。
顔もすっごく可愛いし。
これだと繁華街とか歩くと大変そうだ。
「あのね、実を言うと二人共同じ事務所に所属しているの」
「事務所? えっと」
「モデル事務所」
「えー、芸能人のわけ?」
「いえ、ちょっと違うんだけど、モデル事務所はモデル活動が主体で芸能事務所は芸能活動主体」
「まあ、文字通りなんだけど」
「ああ、だから男女交際禁止とか?」
「そうなのよ。厳し目の事務所で、中学生まではそういう制約がある。だから親の許しがもらえたってのもあるけど。まあ、恋人みたいなのが禁止ってことで、友達なら大丈夫よ。結構、アバウト」
「でね、私は小柄だし女優さんとかそういう方面に行きたいのよね」
これは音羽さんだ。
「私はファッションモデルとして海外に出るのが夢なんだけど、身長低いからもう少し伸びないかなって期待もあって迷宮にきたのよ」
こっちは皐月さん。
「けっこう身長高いじゃん」
「日本のモデルとしてだと平均かな? でも、海外は百八十ぐらいは欲しいわね。まあ、身長低い子も受け入れられてるらしいけど」
「ああ、多様性ってやつ?」
「うん。でも、あくまで例外よね」
「ま、それはともかく、私も皐月もまだ駆け出しのペーペーの段階なんだけど、マネージャーとかに動きにキレがないって言われるわけ」
「キレか」
「うん。でね、ちょっと迷宮行って鍛えてこいっていうのよ」
「今はさ、モデルだけじゃなくって芸能に関わる人たちとかスポーツ関係者とかみんな迷宮で鍛えるっていうじゃない?」
「ああ、身体的ステータスとか身長とかが上がるとかで」
「そうなのよ。聞けば、そんなにバク上がりはしないみたいだけど、その少しのアップでもほしいわけ」




