表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/45

音羽&皐月1 迷宮に入場する

【神楽悠星目線】


 迷宮カードを取得して一ヶ月がたった。

 この間に二ヶ月の休みでできたサビを完全に落とした。

 レベルは五十六に戻した。


 僕はDクラスにレベルアップしていた。

 あまりクラスを上げるのは好ましくない。

 目立つからだ。

 でも、Dクラスはいろいろ特典があるのだ。



 本日は六月の土曜日。

 僕の中学校は週休二日制だ。

 いつもの通り、朝六時すぎに家を出る。

 現地には七時少し前に到着する。

 迷宮の入退場自体は二十四時間営業だ。


 一気に三十階まで直行するとそこでしばらく活動し、再び地下1階に戻ってきた。

 公園で一休みするために。

 

 なお、ようやく両親に迷宮活動について報告することができている。

 当然、両親は僕が迷宮初心者だと思っている。

 低層でお小遣い稼ぎ程度の活動をしていると考えているんだろう。



『(なあ、悠星。三十階まで行ってみたけど)』


 僕は三十階を攻略したおかげで一階からダイレクトに三十階の奥、つまりあの孤島まで行くことができる。

 ちなみに、ダイレクトに行けるのは各階単位だ。

 しかも、入口と出口の両方に転移陣がある。

 帰りも直帰できる。

 

 そのかわり、下の階に行けば行くほど、各フロアが尋常じゃなく広くなる。

 例えば、二十九階など延々と続く草原で端から端まで軽く百km以上ある。

 三十階だと百km程度であるが、そのかわり荒れ狂うことの多い海だ。


 

「新鮮味がないよね」


『(いきなり大物の魔石を提出するわけにもいかないしにゃ)』


「うん。せいぜい、角ウサギとか黒狼程度だよね」


『(そういえば、悠星、ちょっと前にカップルのシーカーを羨ましそうに眺めてたにゃ?)』


「う、羨ましそうなんて、それ勘違いだよ」


『(いやいや、わかってるにゃ。でもさ、ボクとしてはにゃ、悠星はちょっと奥手だと思ってるにゃ)』


「奥手じゃないよ。女子とも話してるじゃないか」


『(女子ってか、お母さんと学校の先生がメインだろにゃ?)』


「あの人達は女子っていうか、女性じゃないか」


『(おまえ、結構モテるのに)』


「バ、バカいえよ。そんなことないよ」


『(まあ、いいにゃ。ボクとしてはいろいろ経験を積んでもらいたいわけにゃ。魔物に強いだけじゃなくてにゃ)』


「は?」


『(でね、今日はにゃ、新たな修行を行おうと思うにゃ)』


「新たな修行? なんだか強引だな。嫌な予感がするんだけど」


『(迷宮で彼女を作ろう修行にゃ)』


「か、か、彼女?」


『(そうにゃ)』


「け、け、け、けっこ(ガブ)」


『(何舌噛んでるんにゃ。結構なことって言いたいんだにゃ。それは肯定の返事だにゃ)』


「バカ、結構です、だよ。否定に決まってるだろ! 何詐欺師みたいなこと言ってるんだ」


『(急にこんな話をするのはにゃ、ボクはターゲットを見つけたからなんだにゃ)』


「ターゲット?」


『(どうせなら、特級品の女子がいいにゃ? その特級品の女子が二人。そこをぶらぶらしてるんだにゃ)』


「あ、あ、あ、」


『(しかもにゃ! 変な三人組の男に絡まれてるにゃ。彼女たちは明らかに嫌がってるにゃ。さあ、できすぎのシチュエーションがあるわけにゃ)』


「そんな、ナンパ中ってことだろ?」


『(うん)』


「できないよ」


『(悠星。強引に腕を掴まれたにゃ)』


「あ、悲鳴が聞こえる」


『(悠星、おまえの耳はよく聞こえるにゃ。ここから百mは離れているが、ダッシュしたらほんの十秒程度の距離にゃ)』


「う、ううう、見過ごすわけにはいかないか」


『(当たり前にゃ! さあ、ダッシュ!)』


「なんでこんな目に。心臓バクバクだよ」


 …………


「お、お、おい、君たち。か、彼女たち、い、嫌がってるだろ」


「はあ? ガキは引っ込んでろ」


「へへ、こいつ噛みまくってるぜ」


「正義のナイト様ってか? 顔面真っ青なのによ」


「俺達は彼女たちと大事な話をしてる最中なんだよ」


「ああ、お願い、助けて!」


「この人たち、強引に私達を」


「だ、だ、だから手をは、離せって」


「あ? 何、ガン飛ばし……あ、あ、あ……」


 僕は覇気スキルを発動した。

 まあ、殺気を浴びせかけるんだけど。

 僕の覇気はそれなりの魔物でもひるませる。

 覇気の範囲を狭く絞り込んでその男に使ってみた。


「あ? おい、健児、どうした」


「おい、急に倒れたぞ」


「おまえ、何かしたの……あ、あ、あ……」


「は? おい、くそったれ、おま……あ、あ、あ……」


 三人とも気絶してしまった。

 全員、漏らしたようだ。


「さあ、二人共、今のうちに」


「「あ、ありがとうございます!」」

 

 …………


「ここまでくれば大丈夫でしょう」


「ありがとう! 絡まれてて困ってたの」


「あいつら、ナンパか何かかな」


「そうそう! でも、何したの? 凄かったわ!」


「ああ、ははは、でもさ、女の子だけで来るのはあれだよね」


「うーん、ちょっと不用心だったかも」


「男友達とかさ、いなかったの?」


「それが、いないのよね。ていうか、禁止されてる」


「えー、どこのお嬢様?」


「いえ、違うわよ。家も学校も厳しくないんだけど。ちょっとね」


「? ま、いいか。気をつけてね」


「え、え、いっちゃうの? お願い。ちょっと一緒に回って」


「だって、男女交際禁止なんでしょ?」


「そう。だけど、お願い! 勇んで迷宮にきてみたんだけど、やっぱり怖いの!」


「うーん、いいけど」


 袖を掴まれては嫌だとはいえない。

 スライムは怖いとは思えないけど、あんな輩がいるからね。

 というか、こんな可愛い子たちに涙目でお願いされたら断るなんて選択肢は出てこない。


「ありがとう! じゃあ、簡単に自己紹介。私は音羽」


「本当に申し訳ないけど、ありがとう。私は皐月」


「僕は悠星だよ。でも、なんでここに来たの? 魔素浴? それともレベルを上げたい?」


「できれば、レベルをあげて地下三階を目指したい」


「ああ、そっちか。となると一生懸命にスライム狩りコース?」


「うん。知っての通り、女性にとっては三階ってハードルが高いのよね」


 地下三階に降りるにはFクラスになる必要がある。

 それには二つの方法がある。


 まずは、地道に地下一・二階に生息するスライムを百体退治して魔石を入手する。

 これは同時にステータスがレベル四になることを意味する。


 もう一つは体力測定してもらう。

 体力測定は学校でよく行われるのと一緒だ。

 五十m走とか千五百m走とか。


 これは学校の記録で代替できる。

 ただし、室内で簡単に確認できる握力とか反復横跳びとかはテストされる。

 偽りの記録を提出しているかもしれないからだ。

 ずるしたことが発覚したら、一年間はカードが発行されない。



「男子と女子の体力測定、基準が同じだもん。悔しいけど、女子にはムリ」


「地下三階以降は危険度が飛躍的に増すから、女性という忖度は得られないのよね。しちゃったら、女性が危険にさらされることになる」


 この数値はかなり高めを要求されている。

 五十m走ならば六秒台が必要だし、握力ならば五十五kg以上を要求される。

 中三男子でも、数%程度しかいない。

 

 僕は超健康優良児だ。

 どの数値も要求されたレベルを上回っている。

 確認されたのは、筋力・反復横跳び・幅跳びだった。

 即日、F級にステップアップした。


 女性はまず無理。

 男女に平等の基準を課さないと女性がいたずらに危険にさらされるのだ。

 忖度の余地がない。


 体力レベルは女性のトップレベルでようやく男子中学生の上レベルという現実がある。


 例えば、女子百m世界記録十秒四九。

 中学生男子日本記録十秒四六。

 日本代表女子サッカーチームが中学生日本代表チームに刃が立たないというのは有名な話だ。


 迷宮基準に関しては、例によって「女性差別だ!」なんてのが湧いてくる。

 男女平等にしたら差別になるようだ。

 彼らの言う男女平等は女性優遇ってことらしい。

 こういう意見は大抵はボコボコにされて逃亡するのがいつものパターン。



「だってさ、私、小六までは男子に負けたことなかったの、運動で」


「ああ」


 女子にはよくいる。


「でもね、中学生になったら、男子にどんどんと追い越されていって。ちょっと悔しいのよね。だから、迷宮で男子を見返してやりたいっていう気持ちはある。あとね、個人的にレベルをあげたいの」


 レベル上げを要望する人は非常に多い。

 容姿や能力を上げると言われているからだ。


「でもさ、スライム叩きは大変でしょ?」


「そうなのよ。一日一個見つけるだけでも大変」


 地下一・二階に出現する魔物はスライムだけ。

 でも、それなりに人がいて、スライムを狩りまくっている。

 スライムは自然に湧いてくるけれど、供給が需要に追いつかないのだ。


 そのうえ、スライムは案外討伐するのが難しい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ