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天空猫ジーク

※ここは私達の住んでいる日本によく似た世界ですが、別の世界です。


『(悠星、ちょっとこっちを見るにゃ)』


 僕は神楽悠星。

 まだ十歳、小学校四年生だ。

 自室でゲームをしようとすると僕を呼ぶ声がする。

 だが、周囲を見渡しても誰もいない。


『(悠星、ボクだ。ジークだにゃ)』


「え」

 

 厳密に言えば、飼い猫のジークがいた。

 そのジークが僕を見上げている。

 ジークと目があった瞬間、僕はフリーズしてしまった。

 まさか、ジークが言葉を発している?


『(そんなに驚くにゃ。今、ボクは念話を使って悠星に呼びかけているにゃ)』


「ね、ねんわ?」


『(テレパシーにゃ。悠星の脳に直接呼びかけてるにゃ)』


 そう言われると、確かに声は頭の中で鳴り響いている感じだ。

 まるで自分の心の声のように、でも明らかに違う声色で響いている。

 

「あ、あ、え、えと」


 僕は頭が真っ白だ。

 少しパニックを起こしたかもしれない。


『(落ち着くにゃ。それ)』


 ジークが右前足を軽く上げると、淡い青白い光が僕の周りを包んだ。

 その瞬間、不思議と心が落ち着いてきた。

 さっきまでの動揺が嘘のように消えていく。


「脳に直接? 僕は夢でも見ているのか?」


『(悠星、おまえはしっかり目が覚めているし正常だにゃ。説明してやるから気持ちを落ち着かせるにゃ)』


 ジークがいろいろと説明をする。

 一言で言えば、奇想天外。

 そもそも、ジークは天界の存在だという。

 つまり、神様みたいなもの?

 うーむ、信じられるわけがない。


 ただ、心のどこかでジークを特別な存在と崇めている。

 僕達神楽家はジークのことを普通の猫だなんて思っちゃいない。

 それには理由がある。


 ジークは突然、家の庭先に現れた。

 子猫だった。

 大騒動になった。

 僕の家では代々猫は守り神として尊重されてきた。

 それも、野良猫じゃなければならなかった。

 突然、縁のできる野良猫。

 しかも、それはオスの長毛三毛猫。

 ジークがまさにそうだった。


 それは古来よりの伝説なのだ。

 両親、祖父母、叔父さん、みんなからこの伝説を何度も聞いて育ってきた。

 「神楽家に現れる長毛三毛の野良猫は、必ず家族の守り神となる」と。


 神楽家は千年以上続く古い家系だ。

 不定期に不思議な力を持つ人が生まれるとされる。

 古来だと有名な陰陽師とか。

 大戦中に不死身と称された英雄もいた。

 そんな家系の我家にジークがやってきたのだ。


 しかも、その姿は伝説通りのオスの長毛三毛猫。

 毛並みは艶やかで、白地に黒と茶の斑点が美しく入っている。

 瞳の色は琥珀色で、時折金色に輝くことがある。



『(悠星、その不思議な力を持つ存在がおまえにゃ)』


「え、まさか。僕はただの小学生だよ」


 僕は自分の両手を見つめる。

 特に変わったところなんてない。

 むしろ、昨日の体育でこけて擦り傷ができたところだ。


『(今は力が眠っているだけにゃ。ボクは悠星を成長させるために来たにゃ)』


「はあ」


 どうやら、僕の頭はいかれたんだろう。

 そういや、このところゲーム三昧であんまり寝てないな。

 昨日なんて、夜中の二時まで新作RPGをやっていた。

 今日はぐっすり寝ることにしよう。



『(悠星、おまえにやってもらうことがあるにゃ)』


「やってもらうこと?」


『(迷宮修行だにゃ)』


「そんな無茶な。シーカーになれってこと? だいたい、十五歳以上じゃないと入れないでしょ?」


 確か特殊迷宮管理法とかいう法律で、迷宮への立ち入りは十五歳以上と定められているはずだ。

 ちなみに、シーカーとは迷宮探索者のことだ。

 アメリカではSEEKERと呼ばれることからそれが日本でも広まった。


『(問題ないにゃ。むしろ、十歳前後から迷宮活動をしたほうがいいのにゃ)』


 いやいや、問題ありまくりだろ。



 この世界には迷宮という存在がある。

 迷宮というよりはダンジョンと言ったほうが通りがいいだろうか。

 ただ、この世界のダンジョンには多くのフロアに迷宮がある。

 だから、世界的に迷宮と呼ぶのが一般的だ。


 複数の階層があり、モンスターが出現し、財宝が眠っている不思議な空間である。

 ちなみに迷宮のここ日本での正式名称は『特殊迷宮』だ。

 確認されている最大深度は二○十九年時点で十八階層。

 底が何階層なのか、そもそも底があるのかは不明だ。


 迷宮は大昔から存在したらしい。

 記録では紀元前から存在が確認されている。

 古代エジプトの壁画にも迷宮らしき描写があるという。


 ただ、単にスライムや危険な小動物が現れる不思議な場所程度の認識しかなかった。

 当時は探索が進んでいなかったためだ。

 むしろ、魔素酔いを起こすために忌むべき場所と捉えられていた。

 多くの犠牲者を出したことから、立ち入り禁止区域として扱われていたところもある。

 特に中世ヨーロッパでは、迷宮は『悪魔の住処』として恐れられていた。


 いずれにせよ、迷宮は好事家にしか知られていなかった。

 歴史の表舞台に出ることはなかったのだ。



 その知名度が一気に広まったのが十年前だ。

 世界同時多発地震がおき、気がつくと世界中に迷宮が出現したのだ。

 その数、確認されているものだけでも千以上。

 世界中が驚天動地の騒ぎとなった。


 何しろ、大都市のど真ん中でも迷宮が表れ出たのだ。

 すぐさま、軍や警察の出動する事態となった。

 東京(厳密には千葉)では、海ほたるの駐車場に。

 ロサンジェルスではドジャーススタジアムに。


 ところが、侵入禁止にする前に好奇心溢れる人々が迷宮に突入してしまった。

 迷宮の入口は半透明のスクリーンが降りたような状態であり、そして中を覗き込むとたいていは青空の広がるいかにも平和な場所であったのだ。

 まるでファンタジー世界への入り口のような魅力的な光景が広がっていた。

 気の緩んだ人々が迷宮に突入しても不思議ではなかった。


 結末は、多くの人がこちらに戻ってこられなかった。

 まず、その場所は『迷宮』だった。

 非常に入り組んだ迷路となっていた。

 一度迷うとなかなか出口が見つからなかった。

 迷宮内部は常に変化しており、来た道を戻ろうとしても、景色が全く違うものになっていることもある。


 そして迷宮に充満する『魔素』。

 目に見えない魔法のエネルギー。

 人体に有害で、長時間さらされると意識が朦朧とし、最悪の場合、死に至る。

 魔素酔と呼ばれている。


 また、迷宮には不思議な生物?がいた。

 討伐すると霧散する『魔物』。

 スライムやゴブリン、オークなど、ファンタジーでおなじみの魔物たち。

 極めて凶暴で危険な存在だ。


 この二つの存在が迷宮攻略を非常に困難なものにしていた。


 ただし、現在では迷宮の解明が進んだため、十五歳以上の者には迷宮入場の許可を与えるようになっている。



「迷宮って、すごく危険なところでしょ?」


 僕は不安そうに尋ねる。

 テレビでも、迷宮での事故や死亡事例がよく報道されている。


『(大丈夫にゃ。しっかりとガードするにゃ。というか、地下1階とか2階は安全にゃ)』


 ジークは自信満々に答える。


「中は迷宮で迷いやすいって言うけど」


 去年も、ベテランのシーカーが迷って遭難した事故があった。


『(迷宮の攻略の仕方を覚えれば簡単だにゃ)』


「魔素を吸うと酒に酔ったようなふうになるっていうじゃん」


『(完璧なシールドをはるから大丈夫)』


「凶悪な魔物がたくさんいるんでしょ?」


『(それ以上に強力な魔道具を使うから安泰)』


 ジークは得意げに言う。


「魔道具?」


『(知らないのかにゃ? 迷宮攻略にはなくてはならないものなんだけどにゃ)』


「いや、おもちゃにもあるよ。迷宮シリーズって。アニメとか戦隊ものなんかでもお馴染みだし。僕も幼稚園の頃とかは魔道具のおもちゃを振り回していた」


 特に人気なのは、光と音が出る剣型の魔道具おもちゃだ。


 迷宮内には巻物が落ちている。

 それには魔道具の製造方法が載っていることがある。

 古い羊皮紙や和紙に、金文字で記された神秘的な製法の数々。

 ジークは多くの製造方法を記録しているという。


 この魔道具。

 魔がつくだけあって、魔法を放つことができる。

 火魔法ファイアボールなんかは典型的だ。

 直径三十cmほどの炎の玉を放射し、魔物に大きなダメージを与える。

 CMにもよく登場するし、子供たちの定番の遊びにも使われる。

 『ファイアボール!』と叫びながら、赤い玉を投げる真似をする光景は、校庭でよく見られる。


 テレビ番組、漫画、アニメ、特撮物、いろいろなところで魔道具が活躍している。

 『魔法少女ミラクル☆ルナ』では、主人公が魔道具の杖を使って悪と戦う。

 『バトルファイターズV』では、五人の戦士が魔道具を駆使して戦う。

 少年少女たちのあこがれのまとなのである。



 この魔道具は迷宮攻略の要だ。

 迷宮では銃火器が一切使用できない。

 火薬は迷宮では使い物にならないのだ。

 銃を撃とうとしても、不発に終わるか、最悪の場合は逆火する。

 シーカーは物理的な武器に頼ることになる。

 剣、槍、弓矢、棒、または拳や蹴りなどだ。

 

 ところが、魔物との近接距離での交戦は人間には非常に不利である。

 刀を持っているからと行って、熊と戦えるだろうか?

 魔物は熊以上の存在も普通にいるのだ。

 人間の筋力では、巨大な魔物に太刀打ちできない。

 しかも、魔物には毒や酸を持っているものもいる。


 じゃあ、遠距離攻撃は。

 弓は案外難しい。

 弓を引くには相当な力が必要だし、的確に命中させるには長期の訓練が欠かせない。


 そこで登場するのが魔道具である。

 遠距離から魔法をぶっ放す。

 安全な距離で魔物を討伐する。

 魔道具の良し悪しが攻略を大きく左右する。

 上質な魔道具があれば、初心者でも魔物と戦える。



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