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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第三章

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第九〇話 知らぬ目的地


 ほとんど退路を潰される形ではあったが結果的に悠斗は咲と里紗の二人と共に行動することが決定し、こうなった以上は諦めて付き添いに徹する。

 いつまでもうだうだと未練を垂れ流すばかりでは意味など無いと悠斗はよく知っている。


 なのでここでもその意識の切り替えを遺憾なく発揮させ、なるべく人目にはつかないように注意だけはしておこうという点を念頭に置いて同行を開始した。


 ……したのだが、正直想定の範囲内であったとは言っても彼女達と行動を共にするという事実がどのような余波を生み出すのかを悠斗は鮮明にイメージしきれていなかった。


(…まぁ、そりゃ見られるだろうなとは思ってたけどこれは想像以上だな。……めちゃくちゃそこらから視線を感じるし、俺を見てあからさまに溜め息を吐くのは止めてほしいんだが)


 そう、悠斗は咲と里紗の存在に様々な意味でも慣れてしまったために当たり前のことだとしか認識していなかったが…本来二人は一般的な範囲など優に飛び越えるほどの美少女。

 普段からして周囲の目など独占するほどの魅力に溢れた彼女らが今日に限っては、非日常的な清純さすら兼ね備えた着物など着ればどうなるのか。


 …答えは言うまでもなく分かり切っている。


 全てはこの現状が何よりも雄弁に語ってくれているが、当然そこいらにいる人の目線は咲と里紗に集約されていると言っても過言ではない。

 その事実に二人が気が付いているかどうかは不明だが…少なくとも悠斗はそれを身をもって実感している。


 というよりも、先ほどから彼女らに目を惹かれて呆けていた者達がその次の瞬間には傍にいる悠斗へと視線を動かして懐疑の感情を浮かべているのを目の当たりにしているからだ。


 ……己がここにいる二人と到底釣り合っていないことなど百も承知なのだが、第三者からそのような反応をされると流石に悠斗といえどへこむ。


 原因がパッとせず地味な印象しか与えられない自分にあるというのは嫌でも理解していても、それでもあれほどまでに露骨だと思うことはあるのだ。

 あくまでも思うだけであって、何か言い返したりなどする勇気も度胸もない時点で反骨精神など程度はたかが知れていると誰よりも悠斗が自覚していることだが。


「…何よ悠斗。あんたさっきから周りをジロジロ見てばかりで、気になるものでもあったの?」

「いや違くてさ。この周りのリアクション…やっぱり二人ほどになると嫌でも注目はされるんだなって思ってただけだ」

「ふーん…? まぁ当然の話ね! 何しろここには他の誰であっても比較にならないくらい最高に可愛い咲がいるのよ? 見られない方がおかしいってことだわ!」

「…お前は変わらず堂々としてて羨ましいよ、ほんと」


 すると彼の少し前を咲と並びながら歩いていた里紗が何か異変に気が付いたのか、悠斗へとそれとなく声を掛けてくる。

 彼女が問いかけてきたのはさっきから悠斗が周囲を気にかけるような素振りを見せていたためにそれについて注意を引っ張られたらしく、何をしているのかと尋ねられてしまった。


 しかしこれについては隠すほどの事でもないので、素直に二人が注目されていることに気後れしていたと答えればやけに里紗は胸を張ってきた。


 ……どうやら、里紗にとっては周りから注目をされるイコール咲が可愛いことの証明になるという方程式が成立しているらしい。


「でもそれってお前的にはいいのか? こんなことが続けば二人目当てに近づいてきそうな男でも出てきそうなもんだが」

「まっ、そこは対応次第ね。変な奴ならまともに相手するだけ時間の無駄だし、全力で無視するだけよ。それ以外でも丁重にお断りして帰ってもらうけど」

「それもそうか。…あと仮の話なんだが、もし咲目当てでナンパとかしてくるやつとか来たらどうするんだ?」

「なに、あんた自殺志願者の行く末なんて気にするタイプだったの? 初耳だったわ」

「……今、聞いたことを若干後悔したよ」


 しかしそうした会話の流れでサラッと彼も聞いてしまったが、こうも嫌と言うほどに視線を一挙に集めてしまえばそれなりに赤の他人からの接触というのもあるだろう。

 今のところはそういった場面には出くわしていないものの、ここまで人が密集しているのだから中には新たな出会いを求めて訪れている者がいても何ら不思議ではない。


 ゆえに万が一の話ではあるが…もしここで咲へと言い寄るような輩が出現したら彼女はどうするつもりなのか。

 単純な好奇心からそう聞いてみれば、里紗はあっけらかんとした様子でそんな末恐ろしいことをさも当然のように口にしてきた。


 …まぁ、彼女が咲へと手を出すような相手に容赦をかける光景などそれこそ想像できないので納得ではあったが。

 願う事なら、今この場で余計な被害者が出てこないでくれという点だけだろう。


「…………?」


 それと、そんな彼らがある意味物騒な会話を繰り広げている最中でも内容は耳に届いていなかったのか…きょとんとした態度を顔に出す咲の姿が何とも印象的であった。




「そういえばさ、今俺たちってどこに向かってるんだ? てっきり拝殿のところに行くのかと思ってたんだが」

「あら、言ってなかったっけ?」


 やたらと物騒な会話を経てからも悠斗達は変わらず歩き続けていたが、ふと彼は内心で疑問を抱く。

 その内容は現在向かっている目的先に関してであり、そういえばここに至るまでどこに行こうとしているのかを彼は把握していなかった。


 何故だか咲と里紗が揃って堂々とした面持ちで歩みを進めているので自然とそこに付いていったが…よくよく考えればこの後の予定を何も知らないというのはいかがなものなのか。


 そう思ったために確認を取ってみると、まさか彼が知らなかったとは思っていなかったとでも言わんばかりに里紗が少しの驚きを露わにしていた。


「聞いてないぞ。あてもなく彷徨ってるのかと思ってたくらいだし」

「咲も言ってなかったの? …そう、悪いことしてたわね。まぁ大それたことでもないんだけど…」


 しかし聞き返されたところで悠斗が何も聞いていないという事実は変わらず、向こうも咲に確認をしていたが彼女は首を横に振るばかり。

 そこでようやく悠斗に何も教えていなかったということに思い至ったらしい里紗は申し訳なさそうにしながら言葉を続ける。


「この後は咲がおみくじを引きたいって言ってたから、そのために移動してる最中よ。この神社、参拝場所からくじ引きできる所まで少し遠いのよね……まぁそれだけよ」

「へぇ…咲ってそういうの好きな感じなのか?」

『おみくじは引いておきたい。毎年やってるから、ほとんど習慣みたいなものだけど』

「なるほど。それなら大人しく俺も付き合わせてもらうよ」

「………」


 けれども詳しい内容に踏み込んで事情を聞けば大した話が出てくるわけでも無く、当初は参拝の列から離れてどうするのかと思っていたがくじ引きが出来る場所を目指していたようだ。

 それなら悠斗も納得である。


 確かに考えてみればこういった神社でおみくじを引くというのはある種の定番であるし、彼女ならば運試し的なこのイベントを好んでいそうだとも思う。

 実際、それとなく尋ねるとワクワクとした面持ちと気合いの入った表情で鼻息を荒くしているので楽しみにしているのは一目で判別できる。


『…悠斗は、おみくじ引く? 無理にとは言わないけど』

「ん? そうだな…まぁここまで来たんだし、試しにやってみるのも良いかもな」

「………!」


 するとそんな会話の中にあって咲の方から悠斗はおみくじを引くのかと質問を返されるも、せっかくの機会なのでチャレンジをするのも悪くはない。

 こういった日でも無くてはくじを引こうとするタイミングなどなく、正月気分を味わうために来ているのだからどんな結果が出ようともそれほど痛くもない。


 であれば自分もやってみようと告げれば…隣にいた咲は輝くようなオーラを溢れさせて喜びを全身で表現している。


 まだまだ人の波で溢れかえった神社ではあるものの、それでもなお存在感を放つ彼女を横目にしながら…悠斗もこういったことは悪くないと思い始めていた。


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