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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第三章

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第八五話 新年初の誘い出し


 ──気持ちの良い朝日が昇り、雲一つない快晴が指し示してくるのは新たな一年の幕開け。


 昨夜は大晦日ゆえに咲も夜遅くまで彼の家で過ごし、結局年明けの瞬間まで二人で時間を共にしていた。

 もちろんその間で何かがあったわけでも無い。


 テレビで年明けを告げる除夜の鐘が鳴らされる光景を眺めながら互いに新年の挨拶を形式的に交わし、何となく新鮮な気持ちになりながら迎えた一年。

 ともかく記念すべき元旦となったわけだが、正直だからと言って何か特別なことがあるというわけでもない。


 世間的にはめでたい一日であっても悠斗からすれば冬休み中の一日という認識。

 何か予定でもあればまた違ったのかもしれないが、残念なことに正月の間は毎年一人ですることもなく怠惰に過ごすというのが恒例になっているのでそれも無し。


 今年は近くに咲がいるという差異こそあれど、それ以外は大して変わらず自宅でひたすらにのんびりと過ごすことになるだろう。


 あぁ、しかし一応正月ならではのイベントも無いではない。

 というのも一夜を明かしてから自身の携帯を確認してみれば両親から新年を祝うメッセージが届いており、そこに返信をしたという出来事があったためだ。


 加えて、これは少々予想外だったが…なんと悠斗の携帯には美幸からの連絡まで来ていた。

 以前に突発的な出会いから対面することとなった、他ならぬ咲の実の母である美幸。


 あれからちょくちょくとやり取りこそしていたものの、ここでも送られるとは思っていなかったので多少面食らった。

 無論、受け取ったからには返信をしないという選択肢もないので丁重に返事はしておいたが。


 それとこちらは想定の範囲内だったが…悠斗側の親の方。

 父親からはしばらく帰ることが出来ていない現状を申し訳なく謝られた後、おそらく真奈美から教えられたのだろうが咲と共に過ごしていることについて数点質問をされた。


 しかしその内容はあまり踏み込み過ぎたものではなく、あくまで悠斗があちら側に迷惑をかけていないかどうかの確認といった具合だったためさして気難しい類でもない。

 最終的に、『家は自由に使ってくれていいが、節度のある付き合いを心がけるように』とありがたい気遣いの籠った言葉を与えられたので一応父も彼女の存在は認めてくれたのだろう。



 ………ちなみに、完全なる余談であるし話す価値も無いとは思うが一応母である真奈美についても触れておくと、概要はこんなもの。


 まず最初にテンプレートじみた挨拶を一文送った後。

 その直後に悠斗の視界に入ってきた文言でもある『咲さんとお正月もイチャイチャして過ごしてるのよね?』という言葉を見た瞬間、彼はそれ以上読み進めることをやめた。


 とりあえず返信として『ふざけたことを言うな』とだけ送っておいて、あとは無視である。

 慈悲はない。完全に向こうの悪ふざけに満ちたメッセージが悪い。


 まぁ正月らしいイベントはそんなものだ。

 それ以外にわざわざ連絡を送り合うほど親密な仲にある友人もいない悠斗はやることも無く、傍から見れば退屈だと言われそうな予定で元旦を過ごしていた。


 ……だが、そんな予定もなく過ぎ去るかと思われた彼も今ばかりは()()()()と通話をしていた。


『──だから、これから咲を迎えにあんたの家に行きたいんだけど向かっても良いかって聞いてるのよ』

「…いや、どうして俺に聞くんだ? 咲に言えよ」


 元旦早々、のんびりとした時を満喫しつつ咲手製のおせちを味わっていた悠斗の携帯にかけてきたのは彼のもう一人の友人でもある()()

 冬休み期間へと突入してから会う機会も少なくなっていたので久しぶりの会話にも思えるが、唐突な電話から彼女が放った第一声は『咲を外出に誘ってもいいか』というものだった。


 ただしかし、それを言うならば悠斗ではなく咲本人に直接言えばよいだろうとも思ったため疑問も浮かぶ。

 そっちの方が明らかに効率も良いだろうにわざわざそんなことをしてきた理由が分からず聞き返すが、向こうの返答は至極あっさりとしたものだ。


『だって咲もどうせ悠斗の家に居るんでしょ? だったらあんたにまず伝えて、そっちに迎えに行った方が楽じゃない。連絡も二度手間にならないし。だから咲に予定を確認してみてくれる?』

「……分かったよ。でも断られても文句言うなよ?」

『言わないわよ。…あんたは私のことを何だと思ってるの』

「咲の追っかけ。あとは愛と思想の強い猪突猛進タイプ」

『よし、その喧嘩買ったわ。そこを動くんじゃないわよ? 今からあんたの生意気な口を閉じさせて──…!』


 何とも当たり前なことを告げるように、咲が悠斗の家にいることを前提にした上で電話を掛けてきたという里紗。

 もしこれで彼女がいなかったらどうしていたのかと思わなくもないが…まぁ、現に咲は彼のすぐ傍にいるので間違ってもいない。


 悠斗にしても何か雑用に走らされるのであればともかく伝言程度なら特に構わないので、会話の流れから剣呑な声色を漂わせ始めた里紗は一旦置いておき、近くの咲に問いかける。


「おーい、咲。今里紗から連絡があったんだが、あいつがこれから咲と一緒に出掛けたいんだとさ。どうする?」

「………?」


 こちらもこちらで正月特有ののんびりゆったりとした空気感を満喫していた咲は突如として悠斗に話しかけられたことに困惑した様子だが、それ以上に内容に面食らった感じだ。

 まぁそのリアクションも理解できる。


 曲がりなりにもどの家でも穏やかな時間を楽しむことが多いだろうこの日に遊びに誘われるなんて間違いなく稀だろうし、彼女だって予想していなかったに違いない。

 しかし現に誘われていることは事実なため考慮しないわけにもいかない。


 おそらくは咲の中でそんな思考が巡っていただろうことが窺える表情を見せながらも、彼女なりに気を遣った答えを出してくれたのだろう。


『…悠斗は、それでもいい? お正月なのに私がいなくて』

「うん? 別にいいんじゃないか? まぁ正月から里紗も誘ってくるとは思ってなかったが…俺に気を遣う必要は無いって。そこは咲の好きなようにしてくれたらいいさ」

『だったら…お出かけしたい。そう言ってもらっても良い?』

「ん、了解」


 最初は里紗からの誘いがあったことに目を丸くしていた咲も、次に気にしていたのはきっとここにいる悠斗のこと。

 元々正月の間はここで過ごすとほとんど暗黙の了解で決めていた予定を破ってしまう事で彼の機嫌を損ねてしまわないかと不安に思ったのだろうが、そこを気にする必要は皆無。


 確かに元旦早々里紗が誘いを持ち掛けてきたことは二人にとっても想定外ではあったが、別に悠斗は彼女の行動を縛りたいわけでもそうしたいわけでもない。

 むしろ自分の存在があるからと他の用事全てを断るようなことはしてほしくないし、あくまでお互いにやりたいことを自由にやれればそれが一番。


 ゆえにこそこちらの事情は気にせず、彼女自身がやりたいようにやってくれればいいと伝えて…もたらされた回答を仲介するために再び繋がっていたままの携帯へと声を向ける。


「あー…里紗? 咲からの返事だけどオッケーだとさ。うちまで来るんだろ?」

『よしっ! そうね。そんな時間もかからないだろうし…今から二十分もしたら着くと思うわ。悠斗もこういう時は役に立つわね!』

「…最後の一言は余計だ。まぁ焦らず来いよ」

『分かってるわよ。じゃ、そっちまで向かうわ』


 待たせている間に怒りも引いたらしい里紗へと了承の意思を伝えれば、通話の向こう側で喜びの感情を露わにしていた。

 …こんな日に誘ってきた意図は不明なものの、彼女らが楽しめるのであればそれもまた良いだろう。


 そんなことを考えながら、悠斗は用件を告げ終えると即座に切れた通話に苦笑しながら咲と共にその時を待つのであった。


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