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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第三章

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第七八話 快諾と頼み事


「…つーか母さん、そもそもどうして今日帰ってきたんだよ。何か用事でもあったのか?」

「あら、一応私もここの家の住人なんだけど用事が無いと帰って来ちゃ駄目なの? あんたも随分生意気言えるようになったもんね」

「そういうわけじゃないけどさ…普段から帰ってくることなんかほぼなかっただろ。なのにいきなりやってくるとか唐突にも程があるぞ」


 真奈美が咲の素直さに対して過剰なまでに反応した後。

 悠斗は悠斗で母の言葉に内心動揺はさせられながらも頷いたりなんかしていたが、それよりも確認しておかなければならない事項があったと思い出した。


 その確認内容というのは他でもなく、まずどうしてこのタイミングで真奈美がここに帰ってきたのかという点。

 言うまでもなくこの母は日常生活においても仕事の都合ゆえに帰宅することなどほぼなく、悠斗と顔を合わせる機会すら稀といった次第。


 流石に育児放棄まではいかず定期的な連絡は交わしているが…今回はそんな事前予告さえも無しにいきなり現れたので急な用事でもあったのかと考えたのだ。

 なのでそう問いただせば…真奈美からは何とも軽い調子で経緯を教えられた。


「あぁそれ? 別に深い事情も無いけど…ちょうどこの前仕事に区切りがついたのよね。ついでにもうすぐ大晦日だし、久しぶりに息子の顔を確認しておこうかと思って帰ってきてあげたのよ」

「……俺、何も聞かされてないんだけど。メッセージの一つも無かったよな?」

「そりゃ何も言ってないんだからあるわけないでしょ。せっかくだし()()()()()で行った方が面白いと思って秘密にしてたんだし」

「連絡くらいしろよ! 道理で唐突に帰ってきたわけだ…」


 その一言を聞いて、悠斗はこの突発的な対面が母親のいらぬサプライズ形式であったのだと知ると同時に…嫌な記憶が蘇ってきてしまった。


 …思えば、真奈美は昔からずっとこの調子だった。

 悠斗が幼少の頃から事あるごとに何かしらの悪戯めいたサプライズを実行してきた思い出。


 自由奔放な真奈美の生まれ持った性格ゆえか、それとも家族ゆえにある信頼感に基づいてやってくるのか。

 どちらにせよ行動力と決断力という意味合いでは抜きんでたものを誇るこの母は、頭の中で思いついた案はすぐに実行しないと気が済まないという何とも傍迷惑な性格をしている。


 加えてその被害者は主に悠斗であり、父親の方も時々ターゲットにはなるのだが真奈美は悠斗の父と夫婦仲が円満すぎるために最終的にいちゃつく結果に落ち着くのがほとんど。

 なので反応的にも面白く、血の繋がった家族だからこそ遠慮なく向かってくる悪戯の餌食にされてきたという過去があるのだ。


 まぁ…そんな真奈美のサプライズ気質ではあるが内容に関しては実害はほぼない。

 あくまで真奈美が思いつくのは()()であって、度を越えたようなものまでは流石に仕掛けてこないように配慮をしてくれる。


 …可能ならその配慮をもっと別の方面で使ってほしかったと切に思ったことも一度や二度ではないが、口にしたところで効果が無いのはかねてより実証済み。


 何にしても今回の鉢合わせもそんなサプライズの一環だったということだ。

 その結果引き起こされた現実は…咲と共に自宅へと上がり込もうとする現場に鉢合わせるという最悪なものであったが、一応真奈美も彼女のことは気に入ったようなので結果オーライか。


「………」

「うん? 咲さん、どうかしたの? 何か気になることでもあった?」

『いえ、その…一つだけ聞いてもいいですか?』

「…咲?」


 ただそんな家族特有騒がしくはありながらも賑やかな時間が流れる中、不意に恐る恐るといった様子で小さく手を挙げた咲に真奈美が声を掛ける。

 発言からして彼女は真奈美へと何か尋ねたいことがあったようだが…一体何を聞こうというのか。


 そんな彼の疑問は直後に放たれてきた咲の言葉によって解消される。


『…その、私はこれからもこの家に居て大丈夫ですか? 今までは真奈美さんにも黙っている形で居座ってしまったので…この機会に聞いておきたくて』

「あぁ! そんな話ね!」


 自分がその話題を尋ねることで何か不和でも起こしてしまうのではと思ったのか、咲は若干顔を強張らせながらも真奈美に…この家に自身が滞在していても良いのかと質問した。

 …言われてみれば、彼女の立場だったらそこを気にするのも当然だ。


 これまでは悠斗が意図的に伝えていなかったことが根本の原因とはいえ、咲のことは悠斗の親である真奈美には何一つとして伝達されていなかった。

 そうなれば彼女の存在は悠斗の母にしてみれば完全なる部外者であり、名前も姿も知らない相手が自宅にいるなど到底認められない………なんてことを考えていたのだろう。


 そこから派生して自分はこのまま悠斗の家に居ても良いのか。

 こうして真奈美とも対面してしまった以上、有耶無耶にすることは許されず…結果がどうあれ滞在許可の有無は明白にしておかなければならない。


 堅く締められた口元からはそんな咲の内心が読み取れ、思わず横で見ていた悠斗も釣られて緊張してしまいそうになるほど。


 ……だが、はっきり言ってそんな心配は杞憂でしかないと言わざるを得ない。


 今も尚向き合っている相手が他の誰かならばともかくとして、現在咲の目の前にいるのは…あの悠斗の母。

 真奈美その人なのだから。


「オッケーオッケー! 全然気にしなくて良いわよ! むしろガンガン使ってくれていいわ!」

「………!」


 強張ってしまった表情を浮かべる咲に対し、真奈美が出してきた答えはそれに反比例して何とも気楽な声色。

 しかしその内容は、まさしく彼女が期待していたことそのものと言っても差し支えない。


『い、良いんですか? ここでお料理なんかを続けても…』

「ぜんっぜん構わないわよ! というか、咲さんは悠斗の世話をしてくれてるんだからどっちかと言うとこっちの方が頼む立場なのよね…」

「……悪かったな。料理も出来ない息子で」


 快諾という表現がぴったりと当てはまるかのように良い笑顔となり、むしろこちらの方から頼みたいくらいだと言い切る真奈美の言葉。

 …それによって少し悠斗が傷を負ったような気がしないでもないが、横から口を挟んだところで無視されて終わりである。


「ま、そんなわけだから咲さん…本当に申し訳ないけど悠斗のこと、お任せしてもいいかしら? 家事なんて一切できない不器用なやつだし、言葉はぶっきらぼうでおまけに素直でもない捻くれた息子だけど……」

「流石にそれ以上酷評されたら泣くぞ? ていうか実の息子に対して酷すぎるだろ…」

「……まぁ、少なくとも悪い子ではないから。情けない話と思われるかもしれないけど、頼んでもいい?」

『…はい! 任せてください!』


 所々で悠斗への当たりが強すぎる発言が目に付きながらも、最終的には真奈美の方から咲へと頼まれる形で彼との共同生活を認められた。

 そう告げられた彼女はというと…何とも嬉しそうな。


 それでいて、花が咲くような満面の笑みをその顔に宿しながら…真奈美の頼みを快く了承してくれていた。


「……ヤバい。この子、超可愛いんですけど…咲さん。真面目にうちの子にならない? 私もあなたが義理の娘になってくれたら大歓迎するわよ!」

「……!?!?」

「母さん! いきなり何口走ってんだ!」

「え~……だってこんなに可愛くて良い子が目の前にいるのよ? 今のうちにこういうのは明言しておかないと、あっという間によそに持ってかれちゃうんだから! …あ、咲さん。連絡先交換しておかない? ……ここだけの話、悠斗の小さい頃の話題とか興味ない?」

「………………」

「…待て、咲。どうしてそこで悩まし気な顔をする」


 ……が、それまではしっかりとした母親というイメージを辛うじて保っていたというのに最後の最後でその印象を崩していくのが真奈美のクオリティである。

 何を思ったのか、脈絡もなく()()()()()()()などとのたまってきたことで場の雰囲気は一気に混沌へと変じる。


 当たり前だが、咲はこれまでの中でも最大級の爆弾を落とされたことで強烈な困惑を生じさせてしまった。

 見るからにうろたえ、それでいてアワアワと文字を打つ指すら震えさせている彼女の姿は…その顔を理由は分からずとも紅潮させていた。


 だが直後、真奈美がこっそりと持ち掛けていた提案…悠斗の幼少時にまつわるエピソードが流出しかけていた点は流石に彼も傍観にばかり徹するわけにはいかない。

 もちろん咲があんな誘いに乗ることなどあり得ないだろうし、即座に断るのは目に見えていたので呆れながらも母に苦言を呈そうとして───。



 ──意外にも、乗り気な姿勢を見せた咲に無意識レベルでツッコミを入れてしまった。


 むぅ…といった様子で真奈美の提案を受け入れるべきか断るべきかを悩む咲。そしてそんな彼女を楽し気に眺める真奈美。

 更にそこで何とか両者の連絡先交換だけは阻止しなければと画策する悠斗。


 三者三様の感情が入り乱れる家の中は…どう見てもカオスな状態が繰り広げられているのだった。


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