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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第三章

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第七七話 対応の落差


 …突如としてやってきた悠斗の母親。


 まさかこんなところで顔を合わせるなんて思ってもおらず、ましてや他の誰がいるわけでもないマンション内ということもあって気を抜きすぎたのが良くなかった。

 …だがこれを予想してみろという方が無茶な話だろう。


 日頃から仕事の都合で忙しなくしており、事実として咲と過ごし始めてから二か月弱が経過しようとしている今に至るまで帰ってくる気配すら見せていなかったのだ。

 そんな有様ではまたしばらくは戻ってこないと思うのが必然であり、警戒心を緩めるのは当たり前。


 …その結果としてこうした鉢合わせがなされてしまったわけだが。


「へーぇ…ほーん? なるほど、そういうわけね…つまり悠斗が大体悪いわけね」

「何でそうなる!? 今ちゃんと説明したよな!?」

「いや、だってそうでしょ。あんた…いくら仕方ないとは他所の娘さんを自宅に連れ込むとか、場合によっては怒られるじゃ済まないのよ?」

「うぐ…っ。…まぁ、それは否定できないけどさ」


 そうして邂逅することとなってしまった彼の母親と咲だが、現在の彼らは悠斗の家のリビングにて向き合いながら大まかな事情聴取を受けている真っ最中。

 初対面だった咲と母で軽い自己紹介だけ済ませてしまえば…向こうからあらゆることを質問される。

 具体的には何故咲のような少女がここに居るのか。それとどうして我が家に入ろうとしていたのかを聞き出された。


 …こうなってしまうと細かい経緯を語るほかない。


 以前から咲とのことは両親に話しておこうかどうか迷っていながらも結局は伝えないという選択肢を取った悠斗ではあるものの、対面までしてしまえば説明しないわけにもいかないのだから。

 よって悠斗はこれまでの経緯。


 先月に咲と偶然出会い、そこで彼女の抱えた問題を解決したこと。

 その流れで彼女を家に上げ、二人で同じ空間を共有していたことなどを隠すことなく語っていった。


 なお、その最中に咲は初めて向き合う悠斗の母に緊張していたのかガチガチになってしまっていた。

 …無理もない。誰であろうと不意打ち気味に友人の親と出会ってしまえば大なり小なり緊張はする。

 にしては彼女の反応は些か過剰にも思えるが…そこはいい。


「咲さんもごめんなさいね? うちの馬鹿息子が迷惑かけちゃったでしょう?」

『い、いえ! 無理を言ったのは私の方ですし、その…真奈美(まなみ)さんにも何も言っていなかったのは謝らないといけませんから!』

「いーのよ、そっちが謝る必要なんて無いんだから。問題無し!」

「…その言い方だと俺は謝る必要があるみたいじゃないか?」

「そりゃそうでしょ。だって悠斗だし」

「おいこら。どういうことだ」


 されど呆れたような雰囲気を漂わせた悠斗の母───水上(みなかみ)真奈美(まなみ)が咲へと話題を振れば彼女は見るからにあたふたとした様子で返答をする。

 相も変わらず緊張感は解けていないようで、焦りながらも彼女も悠斗の家に入り浸っていたことを謝罪するが…真奈美はその点を責めることは無い。


 向こう曰く、咲がこの家に居たこと自体は言及するつもりもないようだ。

 その意見には悠斗も賛同する。この一件はそもそもお互いの合意があって成り立っていた生活だったし、彼女が責められる筋合いはない。


 ……ただ、その後で飛んできた飛び火が全て悠斗に向かって来たのだけは解せない。

 理不尽である。


「…まっ、大まかな事情は掴めたわ。でもこれだけは確認しておきたいんだけど…咲さんは無理をしてここにいるわけじゃないのよね? だとしたらあなたがそんなことをする必要はないし、悠斗のことなんて放っておいていいのよ?」

『…いいえ。私は好きでここに居るので、無理なんてしてません。むしろ私の方が助けられてるくらいです』


 大体の説明もし終え、納得したかどうかはともかく二人がここにいる理由は理解したと言う真奈美。

 そんな彼女が次に問いかけてきたのは…咲の内心。


 ここまでの話を聞いて、咲がこの家の家事を一部担っていると耳にして…それを無理してやっているのではと問うてきた。

 それは悠斗の親という立場からすれば当たり前の言葉だ。


 何しろ自分の息子がやるわけでもなく、本来ならばしなくてもいい労働を別の家の娘である咲がこなしていると言うのだから多少なりとも申し訳なさだってあるだろう。

 ……けれども、彼女とてそこに対する答えに迷うことは無い。


 フルフルと首を横に振りながら、一度落ち着くようにして息を整えた彼女は真っすぐに真奈美の瞳に向き直し…微笑みながら返事をする。


『悠斗にもたくさんの物を貰って、ここは私にとっても落ち着く場所ですし過ごしたい場所になってます。だから心配されなくても大丈夫です』

「えっ……ちょっと悠斗。この子良い子過ぎない…?」

「…母さん。少しは空気を読んでくれ」


 真奈美の懸念点を解消するかのように美しい笑みを浮かべ、丁寧な物言いが心がけられた文面からは嘘一つないことが手に取るように伝わってくる。

 その言葉を聞いた真奈美はというと…先ほどまでの真剣な空気はどこへやら。


 感動したように掌で口を押さえ、咲が振りまく保護欲を刺激してくる愛らしさというものにすっかりやられたような態度を露わにする真奈美の様子はどこか…真剣さに欠ける。


「はぁー……今時こんなこと言ってくれる子がいるのね。しかも信じられないくらいに見た目も整ってるし、可愛いし…悠斗には不釣り合いすぎるわね」

「…自覚はしてるけど、母さんからそう言われると腹が立つな」

「純然たる事実でしょうが。あんたってば…ちゃんと整えれば多少は見れるのに、お洒落に全く関心ないんだからパッとしないのよ」


 咲の発言に感嘆したように深い息を吐く真奈美であるが、それと見比べられた悠斗の評価は相対的にボロカスである。

 実の息子だというのに酷評過ぎやしないかと思いそうになるが…そこは家族ゆえにこういったやり取りは慣れっこでもある。


 …嫌な慣れだというのは自覚している。

 しかし真奈美は昔からこういったサッパリとした性格をしており、事あるごとに悠斗には情け容赦ない評価を下してきたのだ。


 だがそれは決して彼のことを貶しているだとかそういったことではなく、身内ゆえの軽い弄りと言った方が近い。

 こうも遠慮のない言い方をしてくるのも二人が親子だからこそであり、少なくとも悠斗は真奈美が自分のことを大切にしてくれているのだと知っている。


 …まぁ、大切に思っているにしては帰ってくるスパンが長すぎるとも思うがそこもとっくの昔に適応したこと。


 自由奔放を体現したような母を前にすれば何を言おうと無駄だというのは分かり切った事実なのだから。


「咲さんもそう思わない? もう少し着飾れば光りそうなものがあると思うんだけど…」

「………?」

「おい、咲を困らせるな! …すまん、咲。母さんの言う事は無視して良いから…」


 けれど、それも度を過ぎれば無視しきるのは難しいというもので。

 自身の息子が地味な様相から変わらない現状を嘆いた真奈美が咲に情けなさを滲ませた声で尋ねていたが、そこに悠斗が横やりを入れようとする。


 ……が、そうするよりも早く不思議そうな表情を携えた咲が恥ずかしげもなく言葉を返した。


『…悠斗は、いつも格好いいです。普段から私のことを気遣ってくれて、それでいてちゃんと対等に見てくれてる。そういう優しさが悠斗の魅力ですから』

「……っ!」

「お、おぉー…こりゃまた想像以上の答えが返ってきたわね。…悠斗あんた、絶対こんな良い子を逃がしたら駄目よ? 愛想尽かされるような真似したら承知しないからね」

「…言われずとも、ちゃんと気を付けるって」


 口元に柔らかな微笑みを写し、ごくごく当たり前のように彼のことを高く評価してくる咲の言葉は悠斗も…そして真奈美でさえも若干気圧されたようにリアクションをしている。

 ただその直後に真奈美はというと、あまりにも素直な性格を曝け出す彼女のことを非常に気に入ったらしい。


 …無論、悠斗も彼女に呆れられるような真似をするつもりなど毛頭ない。

 強く忠告を促してくる母の言葉にも湧き上がる照れくささを誤魔化しつつそのようなことはしないと母の前で誓うのであった。


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