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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第三章

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第六九話 裏付けられた自負


 意外な形で決定したクリスマスの日程。


 …まさか悠斗も、自分が咲という校内でも屈指の人気者と聖夜を過ごすことになるとは夢にも思っていなかったので驚かされたものだ。

 しかしそれはそれとしても、特に過度な緊張なんかはしていない。


 確かに彼女とクリスマスを同じ家で過ごせることを嬉しく思う心に嘘はないが、言ってしまえばそれに似た日々を彼らは毎日のように経験しているのだ。

 イベント効果による特別感こそあれど、今更二人で時間を明かすことに妙な感情を抱くこともありはしない。


 …ただ、咲の方は意外にもこのイベントに乗り気だったようで、悠斗との予定が決定すると張り切ったような顔をしながら『腕によりをかけてご馳走を作る』と言ってくれていた。

 その言葉を聞いた悠斗が内心で期待感をグンと高めたのはここだけの秘密である。


 だが仕方ないだろう。

 ただでさえ日頃から最高の出来栄えを見せてくる咲の手料理なのだ。


 そんな彼女がわざわざ気合いを入れて料理を作ってくれると言うのだから、内心でどれだけの完成度を誇った献立になるのかと考えてしまうのは至極当然のこと。

 むしろ期待しない方が失礼と言えてしまう。


 …何だかすっかりと咲に胃袋を掴まれてしまった気がするが、そこは気にしてはいけない。

 とっくに手遅れな現実に今頃目を向けたところで意味がないことは悠斗自身が誰よりも理解している。



 ──とまぁ、そんなこんなもありつつ予定は着々と定められていった。


 ついこの間までは何とも思っていなかったというのに、咲が一緒にいてくれるというだけで楽しみに感じているのだから我ながら単純すぎると悠斗自身呆れたものだ。

 まぁ、どちらにしても待ち遠しい現実に変わりはない。


 去年なら何を思うわけでも無く単調に過ぎていたはずの日が訪れるまでの時間が、こうも長く思えるのは…それだけ期待しているという内心の裏返しでしかないのだから。


 ……しかし、その一方で。

 楽しみとなったクリスマスを待つこともそうなのだが、それと同時に彼らにはやらなければならないことがある。


 それが何かというと………。


「──咲、そろそろ()()()()()だけど準備とかしてるか?」

「…? ……!」


 ──今まさに勉強へと着手していた悠斗がサラッと告げた一言。


 その言葉を聞いた咲は『何も心配いらない』と言わんばかりに首を縦に振るが……そう。

 彼の言った通り、もうじき二人の通う学校では成績にも大きく関わってくる定期試験が行われる予定なのだ。


 学生にとっては大きな楽しみの一つとも数えられる冬休みを目前としたこの時期。

 そこに控えた試験は、ある意味長期休み前に自身の学力を把握しておくための良い機会とも捉えられるだろう。


 …そんなポジティブな捉え方が出来るのは悠斗のような勉強が嫌いではない限られた生徒に限られるが。


 大半の生徒にとっては試験など憂鬱なイベントとしか認識されず、嫌々でやっている者の方が大多数のはずだ。

 だが、ここにいるもう一人の少女は…その大多数に含まれない少数派である。


『心配いらない。対策はばっちり』

「流石だな。ま、咲なら問題も無いとは思ってたけどさ」

『そもそも普段から復習をしておけば焦る必要もない。それは悠斗も同じはず』

「…まぁそうだけど。だからと言って油断するわけにもいかないし、いつもよりは勉強量も増やすよ」

「………」


 ここにいる悠斗以外の人間。

 すなわち咲へと試験への心構えはどうかと尋ねてみれば、その返答は何とも自信に満ち溢れたもの。


 今も彼の目の前に座りながら教科書を読んでいた咲は大きく胸を張りながら不安など無いと断言してきたため、言葉通り懸念する必要もないのだろう。

 実際、咲の学力が抜きんでた優秀さを誇ることは悠斗も知っていることなためにわざわざ疑うことも無い。


 彼女がそう言うのならそれが事実なのだ。


 …それと、返答の中でさりげなく言及されてしまったが質問をした立場ではあるものの悠斗とて今回の試験に対して特に焦りは見せていない。

 日頃から暇な時間は勉強に費やしていること然り、咲と同じだが私生活の中でも授業の復習は欠かさず実施しているので今から騒ぐほど勉強面で困っているわけでも無いのだ。


 むしろ地道な努力によって積み重ねてきた実力へのある程度自負があるゆえ、彼もまた少数派な試験を嫌だとは思っていないタイプに属する。


『あんまり無理はしちゃ駄目。それで身体を壊したら意味がない』

「分かってるって。勉強量を増やすって言っても微々たるものだし、せいぜいが全体の見直しをするくらいだから問題もない」

『…なら、いい』


 すると咲は…悠斗の言葉を聞いて心配してくれたのだろうか。


 不安要素は少ないとはいえ、流石に試験も目前となれば悠斗も余裕の姿勢ばかりを貫くわけにはいかなくなる。

 自信があるとしてもそこにばかり胡坐をかいていれば痛い目を見るのは彼自身であり、そうならないためにも試験終了まで努力は怠らない。


 そう伝えたのだが…そこで彼女から言われたのは無理だけはしないようにの一言。


 …確かに咲の言う通りだ。

 ここで努力の成果を出すために力を入れるのは間違っていないが、それが度を越えてしまって体調でも崩せば元も子もないのは明白。

 なのでその指摘は正しい。


 もちろん、悠斗も過度な無理をするつもりは微塵もない。


 頑張ると言っても徹夜でやることはないし、睡眠時間を削ってしまえば却ってコンディションが落ちることは理解している。

 あくまで常識の範囲内で努力量を増やすというだけだ。


 その意思を言葉にすれば問題なく彼女にも伝わったのだろう。

 悠斗も無茶をしようとはしていないことを知った咲は微笑みながら頷き、確認を終えると、満足げに彼のことを見つめていた。


「…それにな。今回に限ってはテストだけじゃないというか…それ以外のところでもモチベーションは上がってるんだ」

「………?」

「ほら。テストが終わったら年内の授業はほとんど終わりだしすぐに冬休みに入るだろ? そしたら…()()()()()があるからな」

「……!」


 そうやって咲にはにかみながら見つめられる傍ら。

 悠斗がぽつりと漏らした言葉は…こうして勉強へと臨むことが出来ている理由の一つだ。


 彼が口にしたように、二人の高校では定期試験が終わるのとほぼ同時に学校は冬休み期間へと突入することになっている。

 そして、そうなれば…待つのは他でもない約束があるクリスマス真っ只中だ。


 …その一言だけで、咲には十分意図が伝わる。


 気恥ずかしいから言葉にするかどうかは躊躇ったのだが、ここで無駄に格好をつけたところで意味など無い。

 彼らだけのささやかな時間。

 そこを余計な心残りもなく過ごすためには、やはり試験で無様な結果を出すわけにもいかないのだから。


 ゆえに現在も悠斗は黙々と問題集と睨み合いながらノートにペンを走らせる。


 その光景を見た咲が浮かべた笑みと……そこから滲み出ていた()()()()()が何を意味していたのかは、今の悠斗に分かるものではなかったが。


「だからここはやれるところまで頑張っておこうって思っただけだよ。何をするにも、良い結果を残しておいて損はない」

『…だったら悠斗、今回の点数は期待できそう?』

「まあまあ……いや、流石に咲に追い付くのは無理だからそこまで期待するなよ?」

『分かった。…いっぱい期待しておく』

「何も分かってないとしか思えないんだが…いいか、別に」


 その後も他愛もない雑談は続いていき、何だか悠斗のテスト結果について過剰なプレッシャーがかけられてしまったようにも思えるがそこは一旦隅に置いておいた。

 心なしかニヨニヨとしながら口角を上げている咲の表情は…悪戯じみた子供のような雰囲気を感じさせてくるが。

 気にしたら終わりである。


 …いずれにせよ、彼らの胸中にて高まっている感情はきっと同一のものだ。


 そうして──無我夢中で日々を過ごしている内に月日はいつの間にかその日を迎える。


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