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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第二章

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第四六話 異なる姿で


『悠斗…どうかした?』


 唐突に固まってしまった悠斗を見て、咲もまた困惑したように打ち込まれた文字を見せてくる……が、それだけでこれまででも最大級の混乱の最中にある悠斗の意識は戻るものではない。

 …咲がやってくるのと同時に、どうしてか悠斗が石化でもしてしまったかのように身体も意識を停止させてしまったこの状況。


 しかしてその理由は…ひどく単純である。

 当然、咲がやってきたから驚いたからだとかそんな理由ではない。というより咲がここに来ること自体は分かり切っていることなのだから驚くにも値しない。


 では、何故悠斗がここまで派手な反応を見せているのか。

 答えは至極単純であり……単純に、ここで目にした咲の姿が()()()()()()()()()である。


 決してふざけているわけでも事実を誤魔化そうとしているわけでも無く、本当にそれだけが理由だ。

 何せ、現在も悠斗のリアクションに疑問を抱いているのかコテンと首を傾げながらも彼を見つめる咲の恰好は…今まで見てきた中でもトップクラスに咲の魅力を引き立てていると断言できるほど。


 そもそも普段の過ごし方で見かける咲の服装もよく似合っているし十二分以上に可愛らしいと言い切れるものなのだが、あれらはどちらかと言えばカジュアルさとラフさに重きを置いた格好だ。

 しかし今の彼女の服装は……それらとはまるで異なるもの。


 薄めのベージュで色合いがまとめられたニットはもこもことした生地によって温かさを増しているだろうし、その下に合わせられた縦ラインの入った青色のロングスカートもまた咲の清純さをより強調している。

 上から羽織っている所々フリルがあしらわれたピンクのコートとも相まって、咲という少女が持つ可愛らしさがこれでもかと前面に押し出された着こなしは…悠斗をもってしても、思わず見惚れてしまうくらいには完璧な装いであった。


『悠斗、悠斗。固まってどうしちゃった? …体調悪い?』

「…っ、あ、あぁ…すまん。別にそういうわけじゃないんだ」

『そう? …だったらどうして固まってた?』

「…えぇっと、それはだな…」


 話しかけども動く気配を見せない悠斗を見て、少し勘違いをされてしまったらしい。

 悠斗の服の裾をクイクイと引っ張りながら、不安そうな面持ちで体調不良か何かかと問われてしまったが…決してそんなことはない。


 むしろ体調面は万全そのものであり、この日に限って寝込むようなヘマはしていない。

 …ただ、張本人に向かって咲の格好に見惚れていたと伝えるのは……何となく気恥ずかしい。


 しかしこのままでは彼女に余計な誤解を与えたまま話が進んでしまうため、ここは羞恥心が刺激されようとも正直に伝えておくべき場面だろう。


「…今の咲の恰好が可愛すぎてな。少し見惚れてたんだよ」

「…? ………っ!?」

「あー、その…今日の服、よく似合ってると思うぞ。咲の可愛さが引き立てられてるし、着こなし方も完璧だからやっぱり美人は違うなって───」

『…待って! 悠斗、待って!』

「え?」


 自分が思ったことを素直に伝えるというのは中々に内心の気恥ずかしさが刺激されるために若干言い淀んでしまったが、逆に言えばそれさえ済んでしまえば後は勢いのままに続けられる。

 元々そういった相手がいなかったために普段は実行される機会も少ないが、悠斗は幼少の頃から心を許した相手を褒めることには特に躊躇もしないタイプだ。


 …だが前提として、悠斗の考えとしてはせっかく着飾ってきてくれた女子を見ておきながら何も言わずにそのまま流すということこそありえないというものである。

 自分が恥ずかしいからという理由だけで感想を言い淀むような真似をしていれば、本来なら伝えられていたはずの称賛すらも伝えられないまま終わってしまう。


 そんなのは選択肢としても無しだ。

 少なくとも悠斗は、そこを妥協することはない。


 自分が思ったことなら羞恥心よりも先に口にするべきだとこれまでの生活から染みついてしまった習慣があるし、それに従ってきた彼ならばこのくらいのことはぽんぽんと言えてしまう。

 無論、多少なりとも湧き上がるむず痒さはあるがそれだって無視はできる程度のもの。


 だからこそ、目にした瞬間に思わず硬直こそしてしまったものの悠斗は素直に今見た景色に映る咲の様相を褒めちぎろうとして……途中段階で止められることとなる。

 彼の止まらぬ褒め言葉の弾幕を中断させてきたのは、いつの間にやら顔を真っ赤にしながら頭上から煙まで噴いてしまっている咲が慌てて示した携帯画面。


 …やけに力強く、そしてグイグイと何かを誤魔化すように押し付けられた画面に悠斗の意識は向かうがそれを見つめる彼女の表情は…どう見ても羞恥にやられたものだ。

 まぁそれも当然だろう。


 こちらが焦っていたというのもあるが、悠斗の褒め言葉における語彙の大半はストレートかつ紛れもない本心から放たれた言葉なのだから。

 これが仮に彼女に気を遣って口にされた褒め言葉だったとしたら、咲もここまで大きくリアクションをすることはなかったはずだ。


 今まで散々可愛い可愛いと周囲から言われ続けてきた彼女が今更その程度の差異を見抜けないとも思えないし、相手の言葉の真偽を確かめるなど朝飯前に違いない。

 ……ゆえにこそ、誰よりも真っすぐに称賛してくる悠斗の言葉は何よりも深く咲の心に突き刺さったのだろう。


 言われ慣れているはずの言葉にすら動揺しているのが良い証拠である。


『…そ、そのくらいにしてほしい。それ以上は私の心臓が持たない』

「あぁ…? わ、分かった。……でも、これだとやっぱり気後れしそうになるな」

「…………?」


 もはや切羽詰まったという表現がこれ以上なく当てはまるほどに鬼気迫った表情で、それ以上はもうやめてくれと切望してくる咲。

 悠斗もどうして彼女がそんなことを言ってくるのかは正直分からなかったが、まぁ向こうが嫌がっているのなら無理にすることも無いので言われた通りそこで言葉は中断する。


 …別に咲は嫌がっていたわけでもなければ悠斗の言葉を止めたかったわけでもなく、単に彼の言葉に照れていただけなのだが…それは今言う事でもあるまい。


 それよりも、誤魔化しようもない羞恥心に襲われていた咲もふと疑問符を上げていたが今の注目点はどちらかと言うと悠斗がこぼした一言。

 気後れ、という何気なく漏らされた言葉が咲は気にかかったようだった。


『気後れって、何のこと?』

「いや、ほら。咲は当たり前だけど着飾ったらこうも目立つってのに…対する俺がパッとしない見た目だからさ。…こういうのもあれだけど、周りからしたら釣り合ってないって思われてそうだなって」

『……そんなことない。悠斗が釣り合ってない、なんてことは絶対にない』

「咲がそう言ってくれるのは嬉しいけどな。でも周りから客観的に見られたら…って話だ。…まぁ気にしないでくれ。俺の勝手な杞憂みたいなものだから」

「………」


 しかしその真意は聞いてみれば単純明快であり、込み入ったことは何もない。

 …やはりと言うべきか、こうして改めて並び立つと強く実感するが咲という少女は飛び抜けた魅力を持つ美少女である。


 パッと周囲を見渡してみても彼女に匹敵するほどの異性なんて悠斗には見つけられないし、それどころかその周囲そのものまでも今ここにいる咲に見惚れるかのように視線を向ける者が多くいるほどだ。

 そして同時に……隣に立つ悠斗への、嫉妬や疑念を含んだ視線も。


 彼らの気持ちは十分に理解できる。悠斗自身、明らかに自分が咲と釣り合っていない人間だというのは分かっているし身に染みていることなのだから。

 ただこうして…間接的にでもその意味を体感させられると、中々にキツイものがある。


 もちろん、咲本人はそのようなこと微塵も気にしないだろう。

 良い意味で周りの目を気にすることが少ない彼女は自分が関わる人間は信頼できる相手だけだと宣言しているし、幸運なことに悠斗もその枠に収まることができている。


 だからこれは、悠斗個人の勝手な自虐みたいなものだ。

 どうあろうとも人目を引き付ける咲と、地味な印象しか与えられない悠斗。


 こんな有様では周りが二人の関係を疑問視するのは致し方ないことだし、悠斗もそれには納得している。



 ──だが、それでも。


 この場にいるもう一人の少女がその事実に納得したかと問われれば…それはまた返答が変わってくる。


『悠斗、ちょっと()()()

「へ? 屈んでって…急にどうしたんだよ」

『いいから。少しでいいから屈んで目を瞑っておいて』

「…分かった。これでいいか?」

「…………」


 悠斗から冷静な声色で告げられた返事にも明らかに不服だという色をありありと映し出した咲からもたらされた返答は、一度聞いただけでは意図すらつかめない類のものである。

 いきなり屈んでと言われたので困惑は避けられなかったが…何故か有無を言わさない雰囲気と圧を放つ咲には逆らう気も起きず、悠斗はその場では従順に従っておいた。


 指示通り咲の目線に合うように屈みながら瞳を閉じた悠斗は、一体何をされるのかと内心戦々恐々とする。

 …がしかし、そうしていると彼の前髪が弄られるような感触が伝わってきた直後に…かなり早い段階で頬をペチペチと軽く叩かれる。


 おそらくもう目を開けてもいいという合図だと思われるので、恐る恐る瞼を持ち上げていけば…悠斗はやけに()()()()()視界を自覚させられた。


「…ん? 咲、これって…」

『…予想通り。悠斗もこうすれば良い』


 いつもよりもよく見える視界と真正面で満足そうに微笑む咲に驚きつつも、何気なく悠斗がそこに手を当ててみれば…そこにあったはずの前髪は何故か上げられている。

 それと共に違和感のある感触が掌へと伝わってきたが、実際は大したこともされていない。


 傍から見ればすぐに分かることだが、悠斗の前髪は現在咲が使ったと思われるヘアピンによってかき上げられた状態になっているというだけなのだから。

 しかし…文字にすればそれだけのことであっても、その効果は大きい。


 悠斗は髪を上にまとめただけだと認識しているが、鏡でも使ってみればそこには…端正な顔立ちをして、爽やかな雰囲気を持った好青年が立っているのだからそれもそのはずである。

 普段は前髪によって隠れているだけに分かりづらいが、元来悠斗の顔立ちは悪いものではない。


 はっきりとした目鼻や抜群とまではいかずとも、それなりに見れるレベルで整った彼の顔はしっかりと用意をすれば周囲にも引けを取らないくらいにはなれる。

 …まぁ、悠斗自身がそれを面倒くさがっているのとあまり注目されるのが嫌いだという性格をしているため、いつもはこれらの素質も発揮されることはないのだが。


 しかしながら、どちらにしても今はそれが功を奏した形である。


『悠斗は自分のことをちゃんと分かってない。だから私が言う事にするけど、こうしてれば…悠斗もちゃんと()()()()。だから自信を持って』

「……っ! …そうか。だったら今日はこのスタイルでいかせてもらうよ。格好いいかどうかは…正直分からないけどな」

「…………」

「…いや、そんな悩まし気な顔してどうした」

『………今は、とりあえずいい』

「絶対に何かあるよな、それ…ひとまずはいいか。ほら、とりあえず行こうぜ。早くしない映画も始まるぞ?」


 周囲のリアクションに気後れしていた悠斗も、それまでは沈みかけていた気分は…他ならぬ咲から感想を一言述べられただけで反転してしまう。

 …我ながら単純すぎると理解はしていながらも、こればかりは仕方がない。


 短い期間ではありながらも、誰よりも近い距離で悠斗のことを見てきてくれた少女からこのようなことを言われてしまえば…誰だって似たような反応になるに違いないのだから。


 だが、まぁ。

 周りの目など気にせず、今日くらいは彼女の言葉に自信を持ってみてもいいかもしれない、なんてことを思いながら…悠斗は咲と共にモールの中へと足を進めていった。



 ……その一方で、どうしてか咲は周囲の反応を確認した後に悩まし気な顔を浮かべていたが…そこの真意だけは正直分からなかったが。


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