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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第二章

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第四五話 整えた待ち合わせ


 ──咲と休日に出かけることが決まり、後はそれを待つだけとなった。


 だが…こういうのは待っているだけの時間というのが長く感じられるものである。

 普段なら何気なく過ごしていればいつの間にか過ぎ去っている時間さえも、たった一つ予定が待っていると考えるだけでどうしてかやけに長く実感してしまう。


 ある意味、それは咲も同様だったようで…最初はいつも通り過ごしていたはずの彼女ですら、約束の土曜日が近づくにつれてそわそわとした落ち着きのない仕草をよく見かけるようになった。

 それでも、時間というのは平等である。


 落ち着きのなさを見せる彼らに対して普段と何ら変わらないペースで流れていった日々は振り返ればあっという間であり、気が付けば既に土曜日。

 つまり、約束の外出の日となったわけだ。


 そうなれば当然、色々とやることがあるわけで……現在の悠斗は自宅の鏡前にて唸り声を上げている。


「うーむ……これで良い、よな…? 違和感が凄まじいけど…」


 他に誰がいるわけでもない部屋の中心で鏡越しに自らを見つめる彼の視界には、日頃と比較すれば遥かに雰囲気をまともにした青年が立っている。

 というのも、彼が身に纏っている衣服…その着こなしが大いに関係しているからだ。


 現在の悠斗が着ている服は、上はシンプルな白のシャツに下はこれまた簡素なデニムのジーンズ。それと一応外出するため防寒着として紺のカーディガンを羽織っている。

 極力シンプルな装いかつ、清潔感を重視していこうと選んだ組み合わせなので派手というわけではないが、私生活の服装と比べてしまえば間違いなくマシな見た目となっている。


 というのも、普段は悠斗もファッションに関しては着こなしよりも楽さを重視するスタイルであるため、適当なシャツとパンツというパターンでいることが多い。

 それらと比較すれば確実にランクアップはしているし、今日は…曲がりなりにも咲と外出するのだから、流石にいつもの着こなしはアウトだろうという判断からこの服で行くと決めたわけだ。


 …が、やはり見慣れないのも事実。

 そもそも日常生活では絶対にしないような様相になっているため、悠斗自身では似合っているかどうかの判断もしづらい。


 ここに咲がいれば見てもらえたかもしれないが…あいにく今日に限っては彼女もこの場にいないため、客観的な意見は皆無である。


 …そしてこれは自分で言うのも悲しくなってくるが、いくら服装を整えたところで肝心の顔が野暮ったさを拭いきれていないために雰囲気は暗いままである。

 目元までかかった前髪なんかはその印象を加速させていて、恰好が見れるものであってもこれでは大した効果を期待できそうにない。


「……ま、仕方ないな。とりあえず今日は時間もないし、これでいくとして…最低限注意するところだけ気を付けよう」


 しかし、後悔ばかりしていてもどうしようもない。

 どれだけ努力しても雰囲気を明るくできない己の不甲斐なさは情けなく思えるが、それだって悠斗が悪いだけなのだから手を打てる箇所ではない。


 何より、今日一日で留意するべき点はそこではないのだから。


 …今更言うまでもなきことだが、悠斗と咲の関係は外部の者には絶対に言えない秘密。

 これまで彼女が隣にいることが当たり前になってきているので失念しそうにもなるが、本来彼女が悠斗と時間を共にしているのはありえないことなのだ。


 ゆえに今日、彼女と隣を歩く中で偶然その場を通りがかったクラスメイトなどにその光景を目撃でもされれば…どうなるかは分かり切った事実。

 大騒ぎになることは確定するし、咲にもあらぬ噂や好奇の目線が向けられることは想像に難くない。


 だからそうならないためにも、本日の悠斗は彼女を楽しませつつ通行人にも意識を配るという中々にハードなことをこなさなければならない。

 大変ではあるが…やるしかない。


 元より自分で決めたことなのだから、文句は吐かないし彼女を誘ったことにも納得している。

 とにかく今から先の時間は、彼女と過ごす休日をしっかり満喫していこうと決意しながら…迫る待ち合わせ時間に遅れないためにも、悠斗は自宅を後にしていくのだった。



     ◆



(…少し早かったか。まだ来てないみたいだな)


 人通りも多い雑踏の中。

 悠斗は彼らの自宅から見ても近所にありながら、それなりの敷地と規模の大きさを誇るショッピングモールにて一人佇んでいた。


 彼が今いるのはこの近所の中でも大型の施設であり、映画館やゲームセンターといった娯楽施設から始まってアパレル関係でも充実した品揃えを取り揃えている。

 更に付け加えるとすれば、モールの一角には巨大な食料品店まであるのでちょっとした買い物をするためだけでも便利な場所だ。


 そうした事情もあって、休日には家族連れで訪れたり学生が遊びに来たりする者で溢れかえることが多い。

 ただ、そんな混雑具合といったデメリットがあったとしてもそれを覆すほどの見所があるために多くの者が集まるのだ。


 当然、悠斗と咲もそのうちの一人。


 当初の目的として据えられていた、咲の要望でもある映画館もこの施設の中にあるので場所選びとしては最適である。


 ……しかし、だ。

 そうやって二人で決めた目的地であるが、待ち合わせ場所として定めていたはずの入り口近辺。

 大勢の人で溢れかえっている様子が見られる広場で悠斗が立ち尽くしていても、咲がいるような気配はなかった。


 一応待ち合わせの時間は十一時としていた上、まだその時間を過ぎたわけでも無いので遅刻というわけでも無いが少し緊張していた身としては拍子抜けを食らった気分である。


(咲も…もう少し待ってれば来るだろ。…というか誘った時は意識してなかったけど…やっぱりこれって、完全に…()()()だよな)


 待ちぼうけながらも外の寒気が身に染みる空気の中、悠斗は近くにあった柱にもたれかかりながらのんびりと目的の少女が訪れるのを待つ。

 …ただ、そこでふと意識してしまったこと。


 あの時、咲へと誘いを持ち掛けた瞬間には悠斗も無我夢中だったために気が付きもしなかったが…よくよく考えればこの状況。

 同級生の、それもクラスメイトの女子と二人で遊びに行くというのはデートと捉えても何らおかしくはない有様である。


 もちろん、咲はそんな風に思ってもみないだろう。

 向こうはあくまで今日という記念日の寂しさを埋めるためにも、そしてせっかくなのだからと誘ってくれた悠斗の厚意を受け取る形でこの場に来るに過ぎない。


 だがしかし、それはそれとしても一度()()()()()()だと認識してしまうと…どうしても緊張感が高まるのが人の常というものである。

 ただでさえ女子との絡みなど慣れていない悠斗が咲と出かけるシチュエーションという、難度の高すぎるミッションをこなせるかと問われれば返答に時間を要するくらいには微妙なところだ。


(いや…落ち着こう。こういうのは焦ったところで良い結果にならないし、今はとにかく咲が来るのを待つだけだ。一旦冷静に───?)


 それでも、いつまでも混乱してばかりいたって無駄なのも事実。

 こういう時こそ思考を冷静でいるように集中させ、余計な焦りに頭を支配されないようにするのが重要なのだ。


 だからこそ、悠斗も一度目を閉じて思考をクールダウンさせようとして……不意に、背中から何か妙な感覚が伝わってきた。

 別に大したものじゃない。まるで服越しに、何か小さな()のようなものでつつかれているような……少しくすぐったさがある程度の感触。


 ただ、ここでそんな感触をいきなり実感するというのが何よりも大きなポイントである。

 今悠斗がいるのは人で溢れかえるショッピングモールであり、彼にはこんな場所で居合わせるような知人友人もいない。


 では、こんな真似をしてくるような相手が誰なのかと聞かれれば…答えは一つだけだ。


「……咲、いきなり何してきて──?」

『悠斗、こんにちは。もしかして待たせちゃった?』

「……っ!?」

『…悠斗? 固まって、どうかした?』


 予想通り、そこにいたのは今日彼と約束をしていた少女である咲本人。

 相も変わらずのほほんとした雰囲気を携えながらもはにかむような微笑を浮かべ、その表情からは隠しようもない今日一日への期待感が垣間見える。


 手にした携帯からもその感情は窺えるため、やはり張り切ってきたのだろうと考えた、わけだが………。


 …そこにやってきた、咲の様相を目にした瞬間。


 悠斗の思考は…一瞬にして空白に包まれる結果となった。


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