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小柄で寡黙な同級生はやけに懐いてくる  作者: 進道 拓真
第二章

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第四四話 誘い方を考えて


 里紗から聞いた話をもとに大まかな咲の事情も汲み取れたため、何が出来るかなどこれっぽっちも検討が付かないがとにかくやるだけのことはやってみようと決めた。

 仮にこれが余計なお節介に成り下がることだったとしても、里紗からも頼まれてしまったわけだし何もしないというのは無しだろう。


 なので今現在、咲が用意してくれた料理をつまみながらではあるが…悠斗は彼女へと話題を切り出しに行く。


「咲。少し聞きたいんだけどさ…最近欲しい物とかあったりするか?」

「………?」


 流石にいきなり核心を突くわけにもいかない手前、まずはプレゼントか何かでも渡すという方向で彼女の欲しいものを探ってみた。

 ……が、いくら何でも質問が唐突過ぎたのと直球過ぎたためか咲には訝し気な目を向けられてしまう。


『…急にどうしたの? そんなこと聞くなんて悠斗らしくない』

「何ってわけでもないんだがな…ほら、咲って普段からあまり物を買ってる印象が無いからさ。欲しい物とかあるのかなって」


 咲の言う通り、口にしてしまった後で悠斗もやってしまったとは思ったが引き返すことも出来ないのでそのまま続行。

 それにあながち、彼の言っていることも的外れというわけではないので話題を逸らすという意味でも今の発言は中々のナイスチョイスであった。


 というのも、悠斗が言っていたように咲は日頃から何かを欲しがるような素振りを見せることが極端に少ない。

 テレビで美味しそうなスイーツの紹介がやっていても食べたそうになどしないし、世の中で人気なキャラクターのグッズなんかが出ていてもあまり興味を示すことは無い。


 唯一、以前に悠斗が深く考えずに譲ったぬいぐるみなんかは喜んで受け取ってもらえたが…あれだって単にぬいぐるみを貰えたことを喜んでくれたというよりは()()()()()()()という事実を噛み締めているような状態だった。

 これは単なる推測だが、おそらく咲は物自体にそこまで執着をするタイプではない。


 どちらかと言えばその物をどのようにして手に入れたか、誰から貰ったかという過程を重んじる性格であり…そういった者は総じて贈り物をする際にも頭を悩まされたりする。

 そして今回も、その例には漏れないようだった。


『欲しいものは特にない。今の生活でも困ってることは無いから』

「…本当にないのか?」

『ない。…今日の悠斗、やっぱり変。何か変なことでも聞いた?』

「い、いや……そういうわけじゃなくてさ…」


 欲しいものなど無いという咲の態度は質問を重ねるたびに疑惑の念を深めていき、まだ話し始めたばかりだというのに悠斗は徐々に追い詰められている。

 だからこそ……焦ったからか、ふと口を滑らせてこんなことを漏らしてしまう。


「じゃ、じゃあさ。今出かけてみたい場所とかあったりしないのか? 今度の土曜日とかに行けそうなところとか………あっ」

「……? …!」


 …それは、本当に深く考えずにこぼした一言。

 向こうの欲しがっている物を探るのが駄目なら今度は外出をしてみたい場を聞いてみようとしたところで不意に口から出てしまった言葉だったわけだが…今ばかりは致命的なワードだ。


 ただ単に行ってみたい場所を尋ねるだけならばまだ良かった。だが、その後でわざわざ日時指定までした質問などしてしまえば聡い彼女には真意を悟られかねない。

 無論、それを見逃すような咲では……ない。


『………悠斗、何で土曜日なんて言ってきた? …もしかして、里紗から何か聞いた?』

「え、えぇと………あぁ。その、悪いとは思ってるけど…大体のことは聞いたよ」

『やっぱり…ずっと変だと思ってた』

「…すまん」


 普段はそんなことに関心など寄せても見せない悠斗が突然欲しいものだの行きたい場所だのを聞いてきた上に、彼女にとって重要な日だろう土曜日にまで言及してきた。

 それまで何かがおかしいと疑ってかかっていた咲からすれば、それだけでも答えに辿り着くには十分すぎたようだ。


 流石の察しの良さというべきだろう。彼の反応だけで里紗から何かしらの事情を聞いたのだろうと当たりをつけてきた彼女の予想はほぼ全てが的中している。

 …そして、ここまで追い詰められてしまえば悠斗も素直に白状せざるを得ない。


 今に至るまでさりげなく探りを入れていた悠斗だったが、結局最後には向こうから真意を見破られて終わってしまったので…大まかな事情は話そうと降参宣言をするのであった。




「…とまぁ、そんなわけで。里紗から咲のことを託された…って感じだな」

『……里紗は、心配しすぎ。気遣ってくれるのは嬉しいけど、そこまでしてもらうほどのことじゃない』

「……返す言葉もない」


 最終的には全てがあっさりとバレてしまったため、ここに至るまでの経緯を報告してきたわけだが…それを聞いた咲は呆れるように肩をすくめるばかりである。

 事実、咲の言葉も……ほんの少しだけ別の感情を滲ませたようには思えるが、そこに気負った様子はほとんど見られないので嘘ではないのだろう。


「…でもさ、咲も残念じゃないのか? 仕方ないとはいえ…その。こうやって親が遠方に行ってるわけだろ。それで予定が潰れるっていうのは……」

『……確かに、寂しくないって言ったら嘘になる。でも、こういうのは()()()()から大丈夫』

「慣れてる…?」


 気負った様子はなく、どこまでいっても咲は自然体だ。

 こうして目の前で語る姿を見てもそれは実感でき、何一つとしておかしなところなどない。



 ……では、どうして。

 こんなにも…彼女の言葉に引っ掛かりを覚えてしまうのだろうか。


『昔から、お父さんもお母さんもお仕事でいないことは偶にあった。二人ともお仕事で忙しそうにしていたし…今年みたいに長くいなくなるのは初めてだけど、それは二人が頑張ってくれてる証拠だから』

「……咲は、それで良いって思ってるのか?」

『…二人とも、お仕事で忙しくしてるのは私のためでもある。だから…ここで私ばかり我儘を言うわけにはいかない。私だけ()()すれば済む話』

「…っ!」


 …それはきっと、紛れもない本心で。

 咲本人にとっても心からそう思っているから、彼女は自分が我慢することを厭わない。


 だって、両親は自分のために頑張ってくれている。咲に不自由なく過ごしてもらうために仕事をこなしてくれている。

 ゆえに自分ばかりが我儘を言うなんて許されることではなく、この局面は仕方のないものだと咲は受け入れようとしているのだ。


 …ただ、しかし。

 頭ではそう理解していたとしても…身体の方はどこまでいっても正直だ。


 そう口では伝えている咲の表情は、何よりも如実に……隠し切れない寂寥感を滲ませた痛々しさを思わせる笑みになっていて。

 傍から見ていても、彼女がこの事実を前にどんな心境を抱いているかなんて一目瞭然だった。


 …そしてそれを見ていた悠斗は、半ば無意識的に……こんな()()を持ち掛けていた。


「──咲。やっぱり今度の土曜日、俺と一緒に出掛けないか?」

「………?」


 それはある意味、先刻の誘い文句と何ら変わらない文言。

 ただしかし、そこに込められた意味は…まるで異なるもの。


『悠斗も気なんて遣わなくていい。心配しなくても、私はいつも通りで問題ない』

「…そんなんじゃない。別に咲に気を遣ったってわけじゃないさ」

「………?」

「単に、俺が()()()()()()()()()誘ってるってだけだ。あとはまぁ…日頃世話になってる礼も兼ねて、その日はお前の言う事を聞く役割に徹するよ。もちろん、咲さえ良ければだけどな」

「…………!」


 自分で言っていて恥ずかしくもなってくるが、こればかりは悠斗も嘘偽りない本音なのだから仕方がない。

 さっきまでのような里紗に言われたからだとか、記念日に一人置いていかれた咲が可哀そうだなんて同情から出た言葉でもない。


 たった一つ……痛々しい感情を浮かべる咲を見て、悠斗自身が彼女に出来ることをしてやりたいと思った。ただそれだけなのだ。

 だから、これも単なる自己満足と言われてしまえばそれまで。


 …けれど、そこに対する返答は────。


『……なら、映画を見に行きたい。近くのショッピングモールで洋服を見たりして、お買い物をしに行きたい』

「…分かった。じゃあ俺はそこに付き合うよ。土曜日は外出だな」

「………!」


 ──おずおずと若干の遠慮を含みながらではありつつも、向こうも悠斗と出かけることを受け入れてくれていた。


 突発的に決まった予定ではあったが、咲も何だかんだで悠斗から誘ってくれたこのスケジュールを楽しみに思ってくれているのだろう。

 瞳を輝かせ、自分のやりたいことを素直に伝えてくれる咲の姿は…打って変わって歓喜に包まれていて。


 悠斗も、ここまで大きく反応を示してくれたのなら…多少なりとも勇気を振り絞った甲斐はあっただろうと内心で安堵の息を吐くのであった。



 …何はともあれ、こうして定まった休日の予定だ。

 どんなことが起こるかなど分かったものではないが…精一杯付き添いくらいはしてみせようと、彼も胸の内で覚悟を固めていた。


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